源氏物語 第49帖 宿木(6)
懐妊と婚儀の噂
中の君は、亡き姉君がたいそうしどけなく頼りない様子でばかり何事も思いおっしゃっていたが、心の底のしっかりしたところはこの上なくていらしたことよ、中納言の君が今も忘れられる時もなく嘆き続けていらっしゃるようだが、もし世にいらしたら、また私のように思うことがあったかもしれない、それをたいそう深く、どうしてもそうはなるまいと思い込んで、あれこれと離れようとして姿を変えて出家しようとなさったのだ、きっとそうした尼姿でいらしたろう、今思うと何と重々しいお心構えだったろう、亡き父宮も姉君も私をどれほどこの上なく軽はずみだとご覧になっているだろうと恥ずかしく悲しく思うが、何になろう、かいのないことなのにこのような様子をお見せすることもあるまいとこらえ返しながら、聞き入れないふりで過ごしている。匂宮はいつもよりしみじみと親しく、起き臥し語り約束しながら、この世だけでなく来世までのことばかり頼みにさせる。実はこの五月頃から、中の君はいつもと違って気分が悪いこともあった。ひどく苦しがったりはしないが、いつもよりいっそう食事も取らず臥せってばかりいらっしゃるのを、匂宮はまだそうした人の様子をよくご存じないので、ただ暑い頃だからこうなのだろうと思っていた。さすがに妙だと思い当たることもあって「もしやどうしたのか。懐妊した人はそのように悩むそうだが」などとおっしゃる折もあるが、中の君はひどく恥ずかしがって何気なく振る舞っているので、出過ぎて申し上げる女房もなく、はっきりとはご存じない。八月になると、婚儀の日取りなどを中の君はよそから伝え聞く。匂宮は隠そうというのではないが、言い出すのが心苦しく気の毒に思われて、そうとはおっしゃらないのを、中の君はそれさえも情けなく思う。忍びごとでもなく世間で皆知っていることを、その日取りさえおっしゃらないとは、どうして恨めしくないことがあろう。
- 1故故こ姫姫ひめ君君ぎみのののいといといとしどけなくしどけなくしどけなくものものものはかなきはかなきはかなきさまさまさまにににのみのみのみ何何なに事事ことをををももも思思おぼしししのたまひのたまひのたまいしかしかしかどどど、、、心心こころののの底底そこのののつしやかつしやかつしやかなるなるなる所所ところはははこよなくこよなくこよなくもももおはしおはしおわしけるけるけるかなかなかな、、、中中ちゅう納納な言言ごんののの君君きみののの今今いまににに忘忘わすらららるるるべきべきべき世世よなくなくなく歎歎なげききき渡渡わたりりり給給たまふふうめれめれめれどどど、、、若若もししし世世よにににおはせおはせおわせましかましかましかばばば又又またかやうかやうかようにににおぼすおぼすおぼす事事ことはははありありありもももやややせせせましましまし、、、それそれそれをををいといといとふかうふかうふこういかでいかでいかでさささはははあらあらあらじじじととと思思おもひひい入入いりりり給給たまひひいてててとととざまざまざまかうかうこうざまざまざまにににもてもてもて離離はなれれれむむんことことことをををおぼしおぼしおぼしてててかたちかたちかたちをををもももかへかへかへてててむむんとととししし給給たまひひいしししぞぞぞかしかしかし、、、必必かならずずずさるさるさるさまさまさまにてにてにてぞぞぞおはせおはせおわせましましまし、、、今今いま思思おもふふうににに、、、いかにいかにいかにおもりかおもりかおもりかなるなるなる御心御心みこころおきておきておきてならならならましましまし、、、なきなきなき御御おんかげかげかげどもどもどもゝゝも我我わをををばばばいかにいかにいかにこよなきこよなきこよなきあはつけさあはつけさあわつけさととと見見み給給たまふふうらむらむらんととと恥恥はずかしうしうしゅう悲悲かなしくしくしくおぼせおぼせおぼせどどど、、、何何なにかかかはははかひかひかいなきなきなきものものものからからからかゝるかゝるかかるけしきけしきけしきをををももも見見みえええ奉奉たてまつらららむむんととと忍忍しのびびびかへしかへしかえしつゝつゝつつ聞聞ききききももも入入いれれれぬぬぬさまさまさまにてにてにてすぐしすぐしすぐし給給たまふふう。。。宮宮みやははは常常つねよりよりよりももも哀哀あわれににになつかしうなつかしうなつかしゅうおきおきおきふしふしふし語語かたらひらひらい契契ちぎりりりつゝつゝつつ、、、このこのこの世世よのみのみのみならならならずずず長長ながきききことことことをををのみのみのみぞぞぞたのめたのめたのめ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 2さるはさるはさるはこのこのこのさつきさつきさつきばかりばかりばかりよりよりより例例れいならならならぬぬぬさまさまさまににに惱惱なやましうしうしゅうししし給給たまふふうことことこともももありありありけりけりけり。。。こちたくこちたくこちたく苦苦くるしがりしがりしがりなどなどなどはははししし給給たまははわねねねどどど常常つねよりよりよりももも物物もの參參まいるるることことこといとゞいとゞいとどなくなくなくふしふしふしてててのみのみのみおはするおはするおわするををを、、、まだまだまださやうさやうさようなるなるなる人人ひとののの有有あり樣樣さまなどなどなどよくよくよくももも見見み知知しりりり給給たまははわねねねばばば、、、たゞたゞただあつきあつきあつき頃頃ころなれなれなればばばかくかくかくおはするおはするおわするなななめりめりめりとととぞぞぞおぼしおぼしおぼしけるけるける。。。さすがさすがさすがににに怪怪あやしししとととおぼしおぼしおぼし咎咎とがむるむるむることことこともももありありありててて「「「もしもしもしいかなるいかなるいかなるぞぞぞ。。。さるさるさる人人ひとこそこそこそさやうさやうさようにににははは惱惱なやむむむなれなれなれ」」」などなどなどのたまふのたまふのたまう折折おりもももあれあれあれどどど、、、いといといと恥恥はずかしうしうしゅうししし給給たまひひいでででさりげなくさりげなくさりげなくのみのみのみもてもてもてなしなしなし給給たまへへえるるるををを、、、さしさしさし過過すぎぎぎ聞聞きこえええ出出いづるづるずる人人ひともももなけれなけれなければばばたしかたしかたしかにににももも得得え知知しりりり給給たまははわずずず。。。八八は月月ずきににになりなりなりぬれぬれぬればばばそのそのその日日ひなどなどなどほかほかほかよりよりよりぞぞぞ傳傳つたへへえ聞聞きききき給給たまふふう。。。宮宮みやははは隔隔へだてててむむんとととにににはははあらあらあらねねねどどどいひいひいい出出いでででむむん程程ほど心苦心苦こころぐるしうしうしゅういとほしくいとほしくいとおしくおぼさおぼさおぼされれれてててさささももものたまはのたまはのたまわぬぬぬををを女女おんな君君ぎみはははそれそれそれさへさへさへぞぞぞ心心こころ憂憂うくくく覺覺おぼえええ給給たまふふう。。。忍忍しのびびびたるたるたることことこともももあらあらあらずずず世世よののの中中なかなべてなべてなべて知知しりりりたるたるたることことことをををそのそのその程程ほどなどなどなどだにだにだにのたまはのたまはのたまわぬぬぬことことことゝゝと、、、いかゞいかゞいかがうらめしからうらめしからうらめしからざらざらざらむむん。。。
現代語訳
中の君は、亡き姉君がたいそうしどけなく頼りない様子でばかり、何事もお思いになりおっしゃっていたけれど、心の底のしっかりしたところは、この上なくていらっしゃったことよ、中納言の君が今も忘れられる時もなく嘆き続けていらっしゃるようだが、もし世にいらっしゃったならば、また私のようにお思いになることがあったかもしれない、それをたいそう深く、どうしてもそうはなるまいと思い込みなさって、あれこれと離れようとお思いになって、姿をも変えてしまおうとなさったのだ、きっとそうした尼姿でいらっしゃっただろう、今思うと、何と重々しいお心構えだったことだろう、亡き父宮も姉君も、私をどれほどこの上なく軽はずみだとご覧になっているだろうと、恥ずかしく悲しくお思いになるが、何になろう、かいのないことなのに、このような様子をお見せすることもあるまいと、こらえ返しながら、聞き入れないふりで過ごしていらっしゃる。匂宮はいつもよりしみじみと親しく、起き臥し語り約束しながら、この世だけでなく、長い来世までのことばかり頼みにさせ申し上げなさる。
実はこの五月頃から、中の君はいつもと違って気分が悪くていらっしゃることもあった。ひどく苦しがったりなどはなさらないが、いつもよりいっそう食事も取らず、臥せってばかりいらっしゃるのを、匂宮はまだそうした人の様子などをよくご存じないので、ただ暑い頃だから、こうしていらっしゃるのだろうとお思いになっていた。さすがに妙だとお思い当たりになることもあって、「もしやどうしたのか。そういう人こそ、そのように悩むそうだが」などとおっしゃる折もあるが、中の君はたいそう恥ずかしがりなさって、さりげなくばかり振る舞っていらっしゃるので、出過ぎて申し上げる女房もいないので、はっきりとはご存じでない。八月になったので、婚儀の日取りなどを、中の君はよそから伝え聞きなさる。匂宮は隠そうというのではないが、言い出すのが心苦しく気の毒にお思いになって、そうともおっしゃらないのを、女君はそれさえも情けなく思われなさる。忍びごとでもなく、世間で皆知っていることを、その日取りさえおっしゃらないとは、どうして恨めしくないことがあろうか。
意訳
中の君は、亡き姉が出家してでも結婚を避けようとした心の深さを思い、それに背いた自分を恥じるが、表には出さない。匂宮はいつも以上に優しく将来を誓う。中の君は五月頃から懐妊の兆しがあるが、恥ずかしがって匂宮に告げない。八月、六の君との婚儀の日取りを中の君は他人から聞き、匂宮が何も言わないことを恨めしく思う。
語釈・文法注
文法
- 「つしやかなる」(心の底のつしやかなる所は)
- 重々しい、しっかりした。
- 「あはつけさ」(我をばいかにこよなきあはつけさと見給ふらむ)
- 軽はずみなこと。
- 「さる人こそさやうには惱むなれ」(さる人こそさやうには惱むなれ)
- 懐妊した人がそのように苦しむという。匂宮が中の君の懐妊に気づき始める。
解説
中の君は、姉の生き方を振り返り、その重々しさに改めて気づく。結婚を拒んだ姉と、結婚して苦しむ自分。中の君は、姉の選択の意味を自分の苦しみを通して理解していく。
中の君の懐妊と、匂宮の新たな結婚が同時に進む。匂宮は中の君を気づかって婚儀のことを言わないが、その沈黙がかえって中の君を傷つける。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1008–1009頁(コマ215)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日