源氏物語 第48帖 早蕨(12)
二条院に着く
境遇が変わって、ついにどうなるのだろうとばかり危うく、将来が不安なので、これまでの年月は何を思い悩んでいたのだろうと取り返したいほどである。宵を少し過ぎた頃に二条院に到着した。見も知らない様子の、目もまばゆい心地のする御殿造りが三棟四棟と並ぶ中に車を引き入れて、匂宮は早くもと待っていらしたので、御車のもとに自ら寄って中の君を下ろした。室内の調度などあるべき限りを整え、女房たちの局まで気を配っていらしたことがはっきり見えて、たいそう申し分ない様子である。どの程度のことかと見えていた中の君のご様子が、急にこうして定まったので、並々ならず思っていらっしゃることなのだと、世の人も奥ゆかしく驚いた。中納言(薫)は、三条の宮にこの二十日余りの頃に移ろうとして、この頃は毎日行っては見ていたが、この院に近いので様子も聞こうと夜更けまでいたところ、差し向けた前駆の人々が帰参して様子などを語る。匂宮がたいそう心を入れてお扱いになっていると聞くにつけても、一方ではうれしいものの、さすがに我ながら愚かしく胸がつぶれて、「物にもがなや」と繰り返し独り言を言って、しなてるや鳰の湖に漕ぐ舟のように、まともではないが逢って一夜を共にしたのにと、けなしたい気持ちである。
- 1さまさまさまかはりかはりかわりてててつひつひついにににいかならいかならいかならむむんとととのみのみのみ危危あやうくくく行行ゆくくく末末すえうしろめたきうしろめたきうしろめたきににに、、、年年とし頃頃ごろ何何なに事事ことをををかかか思思おもひひいけむけむけんとととぞぞぞとりとりとりかへさかへさかえさまほしきまほしきまほしきややや。。。宵宵よいうちうちうち過過すぎぎぎてててぞぞぞおはしおはしおわしつきつきつきたるたるたる。。。みみみもももしらしらしらぬぬぬさまさまさまににに目目めももも輝輝かがやくくくこゝちこゝちここちするするする殿殿とのづくりづくりずくりののの、、、三三みつばつばつば四四よつばつばつばなるなるなる中中なかにににひきひきひき入入いれれれててて、、、みやみやみやいつしかいつしかいつしかととと待待まちちちおはしましおはしましおわしましけれけれければばば、、、御御おん車車くるまのののもともともとににに自自みずかららら寄寄よらららせせせ給給たまひひいててておろしおろしおろし奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。御御おんしつらひしつらひしつらいなどなどなどあるあるあるべきべきべきかぎりかぎりかぎりしししててて、、、女房女房にょうぼうのののつぼねつぼねつぼねつぼねつぼねつぼねまでまでまで御心御心みこころとゞめとゞめとどめさせさせさせ給給たまひひいけるけるけるほどほどほどしるくしるくしるく見見みえええててて、、、いといといとあらまほしげあらまほしげあらまほしげなりなりなり。。。いかばかりいかばかりいかばかりのののことことことにににかかかととと見見みえええ給給たまへへえるるる御御おん有有あり樣樣さまののの、、、俄俄にわかにににかくかくかく定定さだまりまりまり給給たまへへえばばば、、、おぼろげおぼろげおぼろげならならならずずずおぼさおぼさおぼさるゝるゝるることことことなななめりめりめりととと、、、世世よののの人人ひとももも心心こころにくゝにくゝにくく思思おもひひい驚驚おどろきききけりけりけり。。。中中ちゅう納納な言言ごんははは三三さん條條じょうののの宮宮みやににに、、、このこのこの廿廿はつかよよよ日日かのののほどほどほどににに渡渡わたりりり給給たまははわむむんとてとてとてこのこのこの頃頃ころははは日日ひ々々びにににおはしおはしおわしつゝつゝつつ見見み給給たまふふうににに、、、このこのこの院院いん近近ちかきききほどほどほどなれなれなればばば、、、けはひけはひけはいももも聞聞きかかかむむんとてとてとて夜夜よ更更ふくるくるくるまでまでまでおはしおはしおわしけるけるけるににに、、、奉奉たてまつりりり給給たまへへえるるるごごご前前ぜんののの人々人々ひとびとかへりかへりかえり參參まいりりりててて有有あり樣樣さまなどなどなど語語かたりりり聞聞きこゆゆゆ。。。いみじういみじういみじゅう御心御心みこころににに入入いりりりてててもてもてもてなしなしなし給給たまふふうなるなるなるををを聞聞きききき給給たまふふうにににももも、、、かつかつかつははは嬉嬉うれしきしきしきものものものからからから、、、さすがさすがさすがににに我我わががが心心こころながらながらながらをこがましくをこがましくおこがましく胸胸むねうちうちうち潰潰つぶれれれててて「「「物物ものにににもももがながながなややや」」」ととと返返かえすすす返返がえすすすひとりひとりひとりごたごたごたれれれててて、、、「「「しなてるしなてるしなてるやややにほにほにおのののみづうみみづうみみずうみににに漕漕こぐぐぐ船船ふねのののまほまほまほならならならねねねどもどもどもあひあひあい見見みしししものものものををを」」」とととぞぞぞいひいひいいくたくたくたさささまほしきまほしきまほしき。。。
現代語訳
境遇が変わって、ついにどうなるのだろうとばかり危うく、行く末が不安なので、長年何を思い悩んでいたのだろうと、取り返したいほどであるよ。宵を少し過ぎた頃にお着きになった。見も知らない様子で、目もまばゆい心地のする御殿造りが、三棟四棟と並ぶ中に車を引き入れて、匂宮は早くもと待っていらっしゃったので、御車のもとに自らお寄りになって、中の君をお下ろし申し上げなさる。お部屋の調度などをあるべき限り整えて、女房たちの局々にまでお心をお留めになったことが、はっきりと見えて、たいそう申し分なさそうである。どの程度のことかと見えていらっしゃったご様子が、急にこのように定まりなさったので、並々ならずお思いになっていることなのだろうと、世の人も奥ゆかしく思い驚いた。中納言は、三条の宮に、この二十日余りの頃にお移りになろうとして、この頃は毎日いらっしゃってはご覧になっていたが、この院に近いので、様子も聞こうと夜更けまでいらっしゃったところ、差し向けなさった前駆の人々が帰参して、様子などを語り申し上げる。匂宮がたいそうお心を入れてお扱いになっているとお聞きになるにつけても、一方ではうれしいものの、さすがに我ながら愚かしく胸がつぶれて、「物にもがなや」と繰り返し独り言を言われて、「しなてるや鳰の湖に漕ぐ舟のように、まともではないけれども逢って一夜を共にしたのに」と、けなしたいのである。
意訳
中の君は不安を抱えながら宵過ぎに二条院に着き、匂宮自ら車のもとで迎える。二条院は女房の局まで行き届いた準備がされ、世の人も匂宮の熱意に驚く。新居の三条の宮で知らせを聞いた薫は、喜びつつも胸がつぶれ、中の君と一夜を過ごしたことを思って独り言を言う。
語釈・文法注
文法
- 「三つば四つば」(三つば四つばなる中に)
- 三棟四棟と並ぶ立派な建物。催馬楽「この殿は」を踏まえる。
- 「物にもがなや」(「物にもがなや」と返す返すひとりごたれて)
- 何か物にでもなりたい。取り返しのつかない後悔を表す古歌の一節。
- 「しなてるやにほのみづうみ」(しなてるやにほのみづうみに漕ぐ船の)
- 「しなてるや」は「にほの湖」(琵琶湖)の枕詞。「まほ」(真帆)に「まとも」を掛ける。
解説
匂宮が自ら車のもとに寄って中の君を迎える姿は、中の君への愛情の深さを示す。華やかな二条院は、宇治の山荘とはまったく別の世界である。
薫は、中の君が匂宮に大切にされることを喜びながら、一夜を共にした過去を思い出して胸を痛める。「まほならねどもあひ見しものを」という歌に、薫の未練がにじむ。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1000–1001頁(コマ211)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日