源氏物語 第48帖 早蕨(7)
移る前日の薫の訪れ
薫自身は、中の君がお移りになるのが明日という日の早朝に宇治へいらした。いつもの客人の座にいらっしゃるにつけても、今はだんだん物慣れて、自分こそ人より先にこのように思い始めたのにと、大君の生前の様子やおっしゃった心ばえを思い出しながら、さすがに遠ざけたり、もってのほかにきまり悪い思いをさせたりはなさらなかったのに、自分の心から妙にも隔たってしまったことよと、胸が痛く思い続けられる。垣間見した障子の穴も思い出されるので、寄って見るが、内側は下ろし籠めてあるのでかいがない。内でも女房たちが大君を思い出し申し上げては泣き顔になっている。中の君はまして、催される涙の川に明日の渡りも分からず、ぼんやりと物思いにふけって臥せっていると、薫が「この何か月の積もる思いも、何ということもないのですが気が晴れずにおりますので、その一端でも晴らし申し上げて慰めたいのです。いつものようにきまり悪く突き放さないでください。ますます別世界の心地がいたします」と申し上げるので、中の君は「きまり悪いと思われ申し上げようとも思いませんが、さあ、気分もいつものようでもなく、心が乱れて、ますます訳の分からないことを言いはしないかと気が引けまして」と心苦しそうに思っているが、女房たちが「お気の毒です」などと申し上げて、中の障子の口で対面した。
- 1みづからみづからみずからははは渡渡わたりりり給給たまははわむむんことことこと、、、明日明日あすとてとてとてのののまだまだまだつとめてつとめてつとめておはしおはしおわしたりたりたり。。。例例れいのののまらうどまらうどまろうどゐゐいののの方方かたにににおはするおはするおわするにににつけつけつけてててももも、、、今今いまはははやうやうやうやうようよう物物もの馴馴なれれれててて、、、我我わこそこそこそははは人人ひとよりよりよりさきさきさきにににかうやうかうやうこうようにににももも思思おもひひいそめそめそめしかしかしかなどなどなど、、、ありありありしししさまさまさまのたまひのたまひのたまいししし心心こころばへばへばえををを思思おもひひい出出いでででつゝつゝつつ、、、さすがさすがさすがにににかけかけかけはなれはなれはなれ、、、殊殊ことののの外外ほかににになどなどなどははははしたなめはしたなめはしたなめ給給たまははわざりざりざりしししををを、、、我我わががが心心こころもてもてもてあやしうあやしうあやしゅうももも隔隔へだたりたりたりにににしかしかしかなななととと胸胸むねいたくいたくいたく思思おもひひいつゞけつゞけつづけられられられ給給たまふふう。。。かいまみかいまみかいまみせせせしししさうじさうじそうじののの穴穴あなももも思思おもひひい出出いでででらるれらるれらるればばばよりよりよりててて見見み給給たまへへえどどど、、、このこのこのうちうちうちをををばばばおろしおろしおろし籠籠こめめめたれたれたればばばいといといとかひかひかいなしなしなし。。。うちうちうちにににももも人々人々ひとびと思思おもひひい出出いででで聞聞きこえええつゝつゝつつうちうちうちひそみひそみひそみあへあへあえりりり。。。中中なかののの君君きみはははましてましてまして催催もよおさささるゝるゝるる御御おん淚淚なみだののの川川かわにににあすあすあすのののわたりわたりわたりもももおぼえおぼえおぼえ給給たまははわずずず、、、ほれぼれしげほれぼれしげほれぼれしげにてにてにて眺眺ながめめめ臥臥ふししし給給たまへへえるるるににに「「「月月つき頃頃ごろのののつもりつもりつもりもももそこはかとそこはかとそこはかとなけれなけれなけれどどどいぶせくいぶせくいぶせく思思おもひひい給給たまへへえらるゝらるゝらるるををを、、、かたかたかた端端はしもももあきらめあきらめあきらめ聞聞きこえええさせさせさせててて慰慰なぐさめめめ侍侍はべらららばやばやばや。。。例例れいのののはしたなくはしたなくはしたなく、、、なななさしさしさし放放はなたたたせせせ給給たまひひいそそそ。。。いとゞいとゞいとどあらあらあらぬぬぬ世世よののの心地心地ここちししし侍侍はべりりり」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえれれればばば、、、「「「はしたなしはしたなしはしたなしととと思思おもははわれれれ奉奉たてまつらららむむんとととしもしもしも思思おもははわねねねどどど、、、いさいさいさややや心心こころちちちももも例例れいのののやうやうようにににもももおぼえおぼえおぼえずずず、、、かきかきかき亂亂みだりりりつゝつゝつついとゞいとゞいとどはかばかしからはかばかしからはかばかしからぬぬぬひがひがひがごとごとごともももやややとととつゝましうつゝましうつつましゅうてててなむなむなん」」」ととと心心こころ苦苦ぐるしげしげしげにににおぼいおぼいおぼいたれたれたれどどど、、、「「「いとほしいとほしいとおし」」」などなどなどこれこれこれかれかれかれ聞聞きこえええててて、、、中中なかのののさうじさうじそうじののの口口くちにてにてにて對對たい面面めんししし給給たまへへえりりり。。。
現代語訳
薫ご自身は、中の君がお移りになるのが明日という日の、まだ早朝にいらっしゃった。いつもの客人の座にいらっしゃるにつけても、今はだんだん物慣れて、自分こそ人より先に、このように思い始めたのになどと、大君の生前のご様子やおっしゃった心ばえを思い出しながら、さすがに遠ざけたり、もってのほかになどと、きまり悪い思いをさせたりはなさらなかったのに、自分の心から、妙にも隔たってしまったことよと、胸が痛く思い続けられなさる。垣間見した障子の穴も思い出されるので、寄ってご覧になるが、内側は下ろし籠めてあるので、たいそうかいがない。内でも女房たちが大君を思い出し申し上げては、泣き顔になり合っている。中の君はまして、催されるお涙の川に、明日の渡りも分からず、ぼんやりとした様子で物思いにふけって臥せっていらっしゃると、薫が「この何か月の積もる思いも、何ということもないのですが、気が晴れずに存じられますので、その一端でも晴らし申し上げて、慰めとしたいのです。いつものように、きまり悪く突き放しなさいますな。ますます別世界の心地がいたします」と申し上げなさるので、中の君は「きまり悪いと思われ申し上げようとも思いませんが、さあ、気分もいつものようにも思われず、心が乱れて、ますます訳の分からない間違ったことを言いはしないかと気が引けまして」と心苦しそうにお思いになっているが、女房たちが「お気の毒です」などとあれこれ申し上げて、中の障子の口で対面なさった。
意訳
移転の前日、薫は早朝に宇治を訪れる。客人の座に通された薫は、大君が自分を遠ざけはしなかったのに、自分の心から隔たってしまったと悔やむ。かつて垣間見した障子の穴をのぞくが、内は閉ざされている。薫は泣き沈む中の君に対面を求め、女房たちの勧めで中の君は障子口で薫と対面する。
語釈・文法注
文法
- 「まらうどゐ」(例のまらうどゐの方におはするにつけても)
- 客人の座。薫は最後まで客人として扱われた。
- 「かいまみせしさうじの穴」(かいまみせしさうじの穴も思ひ出でらるれば)
- 椎本の帖で、薫が喪服姿の姉妹を垣間見た障子の穴。
- 「あすのわたり」(御淚の川にあすのわたりも)
- 明日の移転。「涙の川」の縁で「渡り」という。
解説
薫は、大君の生前の様子を思い出して、大君が自分を拒み通したわけではなかったと気づく。隔てを作ったのは自分の方だったという悔いが、薫を苦しめる。
垣間見の障子の穴は、薫と宇治の姉妹の物語の出発点であった。その穴が閉ざされていることが、一つの時代の終わりを象徴している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、994–997頁(コマ208–209)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日