古典ライブラリー

源氏物語 第48帖 早蕨(5)

京への移り支度

登場人物:薫・中の君・匂宮

薫は、それにしても中の君が京にいらっしゃるにつけても、本当に気にかけてお世話申し上げる方はほかに誰がいようかと思うので、お移りの準備をさせる。宇治でも、よい若女房や童などを探して、女房たちは満足げに急いで準備しているが、中の君は、今はとこの伏見の住まいを荒れ果てさせるのもひどく心細いので、嘆きが尽きない。かといってまた強いて強情に籠っていても気丈にはいられまい、浅からぬ仲の契りも絶えてしまいそうな住まいをどうお思いなのかと、匂宮がひたすら恨むのも少しはもっともなので、どうしたらよかろうと思い乱れる。二月の初め頃と決まったので、近くなるにつれて花の木々がつぼみを膨らませるのも見残すのが心残りで、峰の霞が立つのを見捨てていくのも、自分の常世でさえない旅寝のような所で、どんなにきまり悪く人に笑われることもあろうかなどと、万事に気が引けて、心一つに思い明かし暮らしている。

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引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

それにしても、中の君が京にいらっしゃるにつけても、本当に気にかけてお世話申し上げる方は、ほかに誰がいようかとお思いになるので、薫はお移りの準備をおさせになる。宇治でも、よい若女房や童などを探して、女房たちは満足げに急いで準備しているが、中の君は、今はとこの伏見の住まいを荒れ果てさせるのも、ひどく心細いので、嘆かれなさることが尽きないのを、かといってまた強いて強情に、籠っていても気丈ではいられまい、浅からぬ仲の契りも絶えてしまいそうなお住まいを、どうお思いになっているのかと、匂宮がひたすら恨み申し上げなさるのも、少しはもっともなので、どうしたらよかろうと思い乱れていらっしゃる。二月の初め頃とあるので、時が近くなるにつれて、花の木々がつぼみを膨らませるのも見残すのが心残りで、峰の霞が立つのを見捨てていくことも、自分の常世でさえない旅寝のような所で、どんなにきまり悪く人に笑われることもあろうかなどと、万事に気が引けて、心一つに思い明かし暮らしていらっしゃる。

意訳

薫は中の君の移転の準備を整える。女房たちは喜んで支度するが、中の君は父と姉の思い出の残る宇治を離れることを嘆く。しかし匂宮の恨み言ももっともなので、移ることを決める。二月初めの移転が近づくにつれ、中の君は宇治の春を見残すことと、都で笑いものになることを恐れて思い悩む。

語釈・文法注

文法

「ふしみ」(このふしみをあらしはてむも)
伏見。宇治の近くの地名で、「臥し見」(住み慣れた所)を掛ける。
「けしきばむ」(花の木どものけしきばむも)
兆しが見える。花のつぼみが膨らむ。
「おのがとこよ」(おのがとこよにてだにあらぬ旅寢にて)
自分の常世(本来の住まい)。雁が常世の国から来るという歌語を踏まえる。

解説

中の君は、宇治の住まいを離れることをためらう。父と姉の思い出が残る山荘は、中の君にとって唯一の拠り所であった。

都は中の君にとって「とこよ」ではない。華やかな二条院に移っても、そこは旅の宿のような所でしかない。中の君の不安は、のちに現実となる。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、994–995頁(コマ208)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日