源氏物語 第48帖 早蕨(3)
梅の夜の語らい
内宴など騒がしい頃が過ぎて、中納言の君は、心にあふれることをほかに誰に語れようかと思い悩んで、兵部卿宮(匂宮)の御方に参った。しめやかな夕暮れなので、匂宮は物思いにふけって端近くにいらした。箏の琴をかき鳴らしながら、いつものお好みの梅の香を愛でていらっしゃる。薫が下枝を押し折って参った匂いがたいそう優艶ですばらしいのを、折にかなって面白いと思って、匂宮は、折る人の心に通う花なのだろうか、色には出さず内に匂っていると詠むと、薫は、見る人に言いがかりをつけられる花の枝を、用心して折るべきでしたね、厄介なことと戯れ合う。たいそうよいお二人の間柄である。細やかなお話になると、匂宮はまずあの山里のことはどうかと尋ねる。中納言も、過ぎた日々の飽かず悲しいこと、あの頃から今日まで思いの絶えないことを、折々につけて、しみじみとも趣深くも、泣いたり笑ったりとか言うように語り出すと、まして、あれほど色好みで涙もろいご性分の匂宮は、他人の身の上でさえ袖も絞るほどになって、かいがいしく相槌を打っている。
- 1內內ない宴宴えんなどなどなど物物もの騷騷さわがしきしきしき頃頃ころすぐしすぐしすぐしててて、、、中中ちゅう納納な言言ごんののの君君きみ、、、心心こころににに餘餘あまるるることことことをををももも又又また誰誰たれにににかかかははは語語かたらはらはらわむむんとととおぼしおぼしおぼし侘侘わびびびててて兵兵ひょう部部ぶ卿卿きょうののの宮宮みやののの御御おん方方かたににに參參まいりりり給給たまへへえりりり。。。しめやかしめやかしめやかなるなるなる夕夕ゆう暮暮ぐれなれなれなればばば宮宮みやうちうちうちながめながめながめ給給たまひひいててて端端はし近近じかくくくぞぞぞおはしましおはしましおわしましけるけるける。。。箏箏そうののの御御おん琴琴こと掻掻かきききならしならしならしつゝつゝつつ例例れいののの御心御心みこころよせよせよせなるなるなる梅梅うめののの香香かをををめでめでめでおはするおはするおわする。。。しづえしづえしずえををを押押おししし折折おりりりててて參參まいりりり給給たまへへえるるるにほひにほひにおいのののいといといとえんえんえんにににめでたきめでたきめでたきををを、、、折折おりをかしうをかしうおかしゅうおぼしおぼしおぼしててて、、、「「「折折おるるる人人ひとののの心心こころにににかよふかよふかよう花花はななれなれなれやややいろいろいろにににははは出出いでででずずずまたまたまたににににほへにほへにおえるるる」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「見見みるるる人人ひとにににかごとかごとかごとよせよせよせけるけるける花花はなのののえええををを心心こころしししてててこそこそこそ折折おるるるべかりべかりべかりけれけれけれ。。。わづらはしくわづらはしくわずらわしく」」」ととと戯戯たわぶれぶれぶれ交交かわししし給給たまへへえりりり。。。いといといとよきよきよき御御おんあはひあはひあわいなりなりなり。。。こまやかこまやかこまやかなるなるなる御御おん物物もの語語がたりどもどもどもににになりなりなりてててははは、、、かのかのかの山山やま里里ざとののの御御おんことことことをををぞぞぞまづまづまずはははいかにいかにいかにととと宮宮みやははは聞聞きこえええ給給たまふふう。。。中中ちゅう納納な言言ごんももも過過すぎぎぎにににししし方方かたののの飽飽あかかかずずず悲悲かなしきしきしきことことこと、、、そのそのそのかみかみかみよりよりより今日今日きょうまでまでまで思思おもひひいののの絕絕たえええぬぬぬよしよしよし、、、折折おり々々おりにににつけつけつけてててあはれあはれあわれにににもももをかしうをかしうおかしゅうももも泣泣なきききみみみ笑笑わらひひいみみみとととかかかいふいふいうらむらむらんやうやうようににに聞聞きこえええ出出いででで給給たまふふうににに、、、ましてましてましてさばかりさばかりさばかり色色いろめかしうめかしうめかしゅう淚淚なみだもろもろもろなるなるなる御御おんくせくせくせははは、、、人人ひとののの御御おん上上うえにてにてにてさへさへさへ袖袖そでもももしぼるしぼるしぼるばかりばかりばかりににになりなりなりててて、、、かひがひしくかひがひしくかいがいしくぞぞぞあひしらひあひしらひあいしらい聞聞きこえええ給給たまふふうめるめるめる。。。
現代語訳
内宴など騒がしい頃を過ぎて、中納言の君は、心にあふれることを、ほかに誰に語れようかと思い悩みなさって、兵部卿宮の御方に参上なさった。しめやかな夕暮れなので、匂宮は物思いにふけりなさって、端近くにいらっしゃった。箏の御琴をかき鳴らしながら、いつものお好みの梅の香を愛でていらっしゃる。薫が下枝を押し折って参上なさった、その匂いがたいそう優艶ですばらしいのを、折にかなって面白いとお思いになって、匂宮は「折る人の心に通う花なのだろうか、色には出さずに内に匂っている」とおっしゃると、薫は「見る人に言いがかりをつけられる花の枝を、用心して折るべきでした。厄介なことです」と戯れ合いなさった。たいそうよいお二人の間柄である。細やかなお話どもになっては、あの山里のことを、まずはどうかと匂宮はお尋ねになる。中納言も、過ぎた日々の飽かず悲しいこと、あの頃から今日まで思いの絶えないことを、折々につけて、しみじみとも趣深くも、泣いたり笑ったりとか言うように語り出しなさると、まして、あれほど色好みで涙もろいご性分の匂宮は、他人の身の上でさえ袖も絞るほどになって、かいがいしく相槌を打っていらっしゃるようだ。
意訳
内宴の後、薫は悲しみを語れる相手として匂宮を訪ねる。夕暮れ、梅の香を愛でる匂宮に、薫は梅の下枝を折って参り、二人は戯れの歌を交わす。薫が大君との思い出を泣き笑いしながら語ると、涙もろい匂宮も袖を絞るほどに泣く。
語釈・文法注
文法
- 「內宴」(內宴など物騷しき頃すぐして)
- 正月二十日頃に宮中で行われる宴。
- 「しづえ」(しづえを押し折りて參り給へる)
- 下枝。下の方の枝。
- 「泣きみ笑ひみ」(泣きみ笑ひみとかいふらむやうに)
- 泣いたり笑ったり。
解説
梅の香をめぐる戯れの歌は、薫の体から発する香りと、匂宮が薫きしめる香を響かせる。二人の貴公子の名前の由来となった香りが、ここでも話題となる。
薫は大君を失った悲しみを、恋敵でもある匂宮に語る。匂宮は涙もろく、他人の悲しみにも共感する。二人の友情が、悲しみを通じて深まっていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、992–993頁(コマ207)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日