源氏物語 第46帖 椎本(30)
夏の宇治への訪問
その年はいつもより暑さを人々がつらがるので、薫は川辺は涼しかろうと思い出して、急に宇治へ参った。朝の涼しいうちに出たが、あいにく差してくる日差しもまぶしくて、宮のいらした西の廂に宿直人を呼び出して座っている。そちらの母屋の仏の御前に姫君たちがいたが、近くにいてはいけないと、自分たちの部屋に移る。気配は忍んでいるが、自然と身動きする音が近く聞こえるので、薫はじっとしていられず、こちらに通じる障子の端の方の掛け金をしてある所に、穴が少し開いているのを前から見ておいたので、外に立ててある屏風を引きのけて見る。すぐそこに几帳を添えて立ててあるので、ああ残念と思って引き返そうとした折しも、風が簾をひどく吹き上げそうなので、「丸見えになるといけない。その几帳を押し出して」と言う人がいるようだ。愚かしいもののうれしくて見ると、背の高いのも低いのも几帳を二間の簾に押し寄せて、この障子に向かって、開いた障子からあちらへ通ろうとするのだった。
- 1そのそのその年年とし常常つねよりよりよりももも暑暑あつさささををを人々人々ひとびとわぶるわぶるわぶるににに、、、河河かわづらづらずら凉凉すずしからしからしからむむんはははやややととと思思おもひひい出出いでででゝゝて、、、俄俄にわかにににまうでまうでもうで給給たまへへえりりり。。。朝朝あさすゞみすゞみすずみののの程程ほどににに出出いででで給給たまひひいけれけれければばば、、、あやにくあやにくあやにくにににさしさしさしくるくるくる日日ひ影影かげもももまばゆくまばゆくまばゆくててて宮宮みやのののおはせおはせおわせししし西西にしののの廂廂ひさしににに殿殿との居居い人人びと召召めししし出出いでででゝゝておはすおはすおわす。。。そなたそなたそなたのののもやもやもやののの佛佛ほとけののの御御おんまへまへまえににに、、、君君きん達達だちものしものしものし給給たまひひいけるけるけるををを、、、けけけぢかゝらぢかゝらぢかからじじじとてとてとて、、、我我わががが御御おん方方かたにににわたりわたりわたり給給たまふふう。。。御御おんけはひけはひけはい忍忍しのびびびたれたれたれどどどおのづからおのづからおのずからうちうちうちみじろきみじろきみじろき給給たまふふう程程ほど近近ちかくくく聞聞きこえええけれけれければばば、、、猶猶なおあらあらあらじじじにににこなたこなたこなたににに通通かよふふうさうじさうじそうじのののはしはしはしののの方方かたにににかけかけかけがねがねがねしししたるたるたる所所ところににに、、、穴穴あなののの少少すこしししあきあきあきたるたるたるををを見見み置置おききき給給たまへへえりりりけれけれければばば、、、とととににに立立たてててたるたるたる屏屏びょう風風ぶをををひきひきひきやりやりやりててて見見み給給たまふふう。。。こゝこゝここもともともとににに几几き帳帳ちょうをををそへそへそえ立立たてててたるたるたる、、、あなあなあな口口くちをしをしおしととと思思おもひひいてててひきひきひきかへるかへるかえるをりをりおりしもしもしも、、、風風かぜののの簾簾す垂垂だれをををいたういたういとう吹吹ふきききあぐあぐあぐべかべかべかめれめれめればばば、、、「「「あらはあらはあらわにににもももこそこそこそあれあれあれそのそのその御御おん几几き帳帳ちょうおしおしおし出出いでででゝゝてこそこそこそ」」」ととといふいふいう人人ひとあああなりなりなり。。。をこがましきをこがましきおこがましきものものものゝゝの嬉嬉うれしうしうしゅうててて見見み給給たまへへえばばば、、、高高たかきききももも短短みじかきききももも、、、几几き帳帳ちょうをををふたふたふたまままのののすすすににに押押おししし寄寄よせせせててて、、、このこのこのさうじさうじそうじににに向向むかひひいててて、、、あきあきあきたるたるたるさうじさうじそうじよりよりよりあなたあなたあなたにににとほらとほらとおらむむんとととなりなりなりけりけりけり。。。
現代語訳
その年は、いつもより暑さを人々がつらがるので、川辺は涼しかろうと思い出して、薫は急に宇治へ参上なさった。朝の涼しいうちにお出になったので、あいにく差してくる日差しもまぶしくて、宮のいらっしゃった西の廂に宿直人を呼び出していらっしゃる。そちらの母屋の仏の御前に姫君たちがいらっしゃったのを、近くにいてはいけないということで、ご自分たちのお部屋にお移りになる。ご気配は忍んでいらっしゃるが、自然と身動きなさる音が近く聞こえたので、薫はやはりじっとしていられず、こちらに通じる障子の端の方の掛け金をしてある所に、穴が少し開いているのを前から見ておかれたので、外に立ててある屏風を引きのけてご覧になる。すぐそこに几帳を添えて立ててあるので、ああ残念と思って引き返そうとした折しも、風が簾をひどく吹き上げそうなので、「丸見えになるといけないわ。その御几帳を押し出して」と言う人がいるようだ。愚かしいもののうれしくてご覧になると、背の高いのも低いのも、几帳を二間の簾に押し寄せて、この障子に向かって、開いている障子からあちらへ通ろうとするのであった。
意訳
暑い夏、薫は涼を求めて宇治を訪れ、八の宮のいた西の廂に通される。姉妹は仏前から自室に移る。薫は前から見つけておいた障子の穴からのぞく。風が簾を吹き上げそうになり、女房たちが几帳を簾の方へ移したので、姉妹の姿が見えるようになる。
語釈・文法注
文法
- 「けぢかゝらじ」(けぢかゝらじとて)
- 近くにいてはいけない。
- 「かけがね」(かけがねしたる所に)
- 掛け金。戸締まりの金具。
- 「ふたまのす」(几帳をふたまのすに押し寄せて)
- 二間の簾。柱と柱の間二つ分の簾。
解説
薫は前から障子の穴を見つけておいたという。道心の人を自任する薫が、のぞき見のために準備をしていたのである。語り手は「をこがましきものゝ嬉しうて」と、薫の滑稽さを描いている。
夏の宇治で、薫は再び姉妹を垣間見る。橋姫の巻の秋の月夜の垣間見とは対照的な、夏の昼の垣間見である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、930–931頁(コマ176)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日