源氏物語 第46帖 椎本(29)
匂宮の桜の歌と三条宮の焼失
中の君は、どこを訪ねて折ろうというのでしょう、墨染めの霞に閉ざされた我が家の桜を、と返す。匂宮は、やはりこのように突き放してつれない様子が見えるので、本当に情けないと思い続ける。思いが余ると、ただ中納言(薫)をあれこれと責め恨むので、薫は面白いと思いながら、たいそう我が物顔の後見人のような顔で返事をして、匂宮の浮気な心を見つける時々は、「どうしてこのような心では」などと申し上げるので、匂宮も心づかいをするのだろう。「心にかなう相手をまだ見つけていないからだよ」と言う。右大臣(夕霧)の六の君を心に入れないことを、大臣も何となく恨めしげに思っていた。しかし匂宮は、目新しくもない近い間柄の上に、大臣が大げさで煩わしく、何かの浮気の紛れも見咎められるだろうのが厄介だと、内々には言って辞退している。その年、三条の宮が焼けて、入道の宮(女三の宮)も六条院に移り、何やかやと騒がしいのに紛れて、薫は宇治のあたりを久しく訪れない。真面目な人の心はまた格別なので、たいそうのどかに、大君を自分のものと頼みにしながら、女の心が打ち解けない限りは、戯れかかって情けないように見られまいと思いつつ、亡き宮のお心を忘れない方面を深く見知ってほしいと思う。
- 1「「「いづくいづくいずくとととかかか尋尋たずねねねててて折折おらららむむん墨墨すみ染染ぞめににに霞霞かすみこめこめこめたるたるたるやどやどやどのののさくらさくらさくらををを」」」。。。猶猶なおかくかくかくさしさしさしはなちはなちはなちてててつれなきつれなきつれなき御御おん氣色氣色けしきののの見見みゆれゆれゆればばば、、、誠誠まことににに心心こころうしうしうしとととおぼしおぼしおぼしわたるわたるわたる。。。御心御心みこころににに餘餘あまりりり給給たまひひいてててははは、、、唯唯ただ中中ちゅう納納な言言ごんををを、、、とととざまざまざまかうかうこうざまざまざまににに責責せめめめ恨恨うらみみみ聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、をかしをかしおかしととと思思おもひひいながらながらながら、、、いといといとうけばりうけばりうけばりたるたるたる後後うしろ見見み顏顏がおにににうちうちうちいらへいらへいらえ聞聞きこえええててて、、、あだめいあだめいあだめいたるたるたる御心御心みこころざまざまざまをををももも見見み顯顯あらわすすす時々時々ときどきははは、、、「「「いかでいかでいかでかかかかゝらかゝらかからむむんにににははは」」」などなどなど申申もうししし給給たまへへえばばば宮宮みやももも御御おん心心こころづかひづかひずかいししし給給たまふふうべしべしべし。。。「「「心心こころにににかなふかなふかなうあたりあたりあたりをををまだまだまだ見見みつけつけつけぬぬぬ程程ほどぞぞぞややや」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。おほいおほいおおい殿殿とのののの六六ろくののの君君きみをををおぼしおぼしおぼし入入いれれれぬぬぬことことこと、、、なまなまなまうらめしげうらめしげうらめしげにににおとゞおとゞおとどもももおぼしおぼしおぼしたりたりたりけりけりけり。。。されどされどされどゆかしげゆかしげゆかしげなきなきなきなからひなからひなからいなるなるなるうちうちうちにににももも、、、おとゞおとゞおとどのののことごとしくことごとしくことごとしく煩煩わずらわしくしくしくててて何何なに事事ごとのののまぎれまぎれまぎれをををももも見見み咎咎とがめめめられられられむむんがががむつかしきむつかしきむつかしきととと、、、したしたしたにににはははのたまひのたまひのたまいてててすまひすまひすまい給給たまふふう。。。そのそのその年年とし三三さん條條じょうののの宮宮みや燒燒やけけけててて、、、入入にゅう道道どう宮宮のみやももも六六ろく條條じょう院院いんにににうつろひうつろひうつろい給給たまひひい、、、何何なにくれくれくれととと物物もの騷騷さわがしきしきしきにににまぎれまぎれまぎれててて、、、宇宇う治治じのののわたりわたりわたりををを久久ひさしうしうしゅう音音おとづれづれずれ聞聞きこえええ給給たまははわずずず。。。まめやかまめやかまめやかなるなるなる人人ひとののの御心御心みこころははは又又またいといといとことことことなりなりなりけれけれければばば、、、いといといとのどかのどかのどかにににおのおのおのがががものものものとととはははうちうちうち賴賴たのみみみながらながらながら、、、女女おんなののの心心こころゆるびゆるびゆるび給給たまははわざらざらざらむむんかぎりかぎりかぎりはははあさればみあさればみあさればみなさけなさけなさけなきなきなきさまさまさまににに見見みえええじじじととと思思おもひひいつゝつゝつつ、、、昔昔むかしののの御心御心みこころ忘忘わすれれれぬぬぬ方方かたををを深深ふかくくく見見み知知しりりり給給たまへへえとととおぼすおぼすおぼす。。。
現代語訳
中の君は「どこを訪ねて折ろうというのでしょう。墨染めの霞に閉ざされた、我が家の桜を」。匂宮は、やはりこのように突き放してつれないご様子が見えるので、本当に情けないとお思い続けになる。お心に余りなさっては、ただ中納言を、あれこれと責め恨み申し上げなさるので、薫は面白いと思いながら、たいそう我が物顔の後見人のような顔でお答え申し上げて、浮気めいたお心をお見つけになる時々は、「どうしてこのようなお心では」などと申し上げなさるので、宮もお心づかいをなさるのだろう。「心にかなう相手をまだ見つけていないからだよ」とおっしゃる。右大臣の六の君をお心にお入れにならないことを、何となく恨めしげに大臣もお思いになっていた。しかし匂宮は、目新しくもない間柄である上に、大臣が大げさで煩わしくて、何事の浮気の紛れも見咎められるだろうのが厄介だと、内々にはおっしゃって辞退していらっしゃる。その年、三条の宮が焼けて、入道の宮も六条院にお移りになり、何やかやと騒がしいのに紛れて、薫は宇治のあたりを久しくお訪ね申し上げない。真面目な人のお心はまた格別なので、たいそうのどかに、自分のものとは頼みにしながら、女の心がお打ち解けにならない限りは、戯れかかって情けない様子には見られまいと思いながら、亡き宮のお心を忘れない方面を深く見知っていただきたいとお思いになる。
意訳
中の君の返歌はつれなく、匂宮は薫を責め恨む。薫は後見人顔で匂宮の浮気心をたしなめる。匂宮は夕霧の六の君との縁談を、煩わしいと辞退している。三条宮が焼け、薫はしばらく宇治を訪れないが、大君を自分のものと頼みにして、心が打ち解けるまでは焦らずに待とうと思う。
語釈・文法注
文法
- 「墨染に霞こめたる」(墨染に霞こめたるやどのさくらを)
- 墨染めの霞に閉ざされた。喪中の家であることを示す。
- 「うけばりたる」(いとうけばりたる後見顏に)
- 我が物顔の、一人で引き受けたような。
- 「三條の宮燒けて」(その年三條の宮燒けて)
- 女三の宮の住む三条宮が焼失した。
- 「あさればみ」(あさればみなさけなきさまに見えじ)
- 戯れかかって。
解説
匂宮は夕霧の六の君との縁談を辞退する。夕霧の大げささを嫌う匂宮の気持ちは、後に六の君との結婚を余儀なくされた時の葛藤の伏線となる。
薫は大君を「おのがもの」と頼みにしながら、急がない。女の心が打ち解けるまで待とうとする薫の誠実さは、同時に優柔不断でもある。この待つ姿勢が、後の悲劇を招く一因となる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、930–931頁(コマ176)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日