源氏物語 第46帖 椎本(28)
新春の芹と蕨
年が改まると、空の様子もうららかで、水際の氷が解けていくにつけても、姉妹はよくもこれまで生き長らえたものだと物思いにふける。聖の僧坊から「雪解けに摘んだものです」と言って、沢の芹や峰の蕨などを贈ってきた。精進の御膳に差し上げる。「土地柄で、このような草木の様子に従って、行き交う月日のしるしも見えるのが趣深いことです」などと女房たちが言うのを、何が趣深いのだろうと聞く。大君は、父君が折ってくださる峰の蕨と思えたなら、春の訪れのしるしも知られたでしょうにと詠み、中の君は、雪深い水際の小芹を、誰のために摘んで喜ぼうか、親もない身でと詠むなど、たわいないことを語り合いながら明け暮れ過ごす。中納言殿からも匂宮からも、折を逃さず見舞いがある。煩わしく何ということもないことが多いようなので、例によって書き漏らしたのだろう。花盛りの頃、匂宮は去年の挿頭を思い出して、その時見聞きした君達なども、「たいそう由緒ある親王のお住まいを、二度と見ずに終わってしまったこと」などと世間一般の哀れを口々に申し上げるので、たいそう宇治を見たく思う。人づてに見た宿の桜を、この春は霞を隔てずに折って挿頭にしたいと、思いのままに詠んだ。姫君たちはとんでもないことだと見ながら、たいそう所在ない頃なので、見どころのある手紙の表面だけでも無にすまいと思って、
- 1年年としかはりかはりかわりぬれぬれぬればばば空空そらののの氣色氣色けしきうらゝかうらゝかうららかなるなるなるににに、、、みぎはみぎはみぎわののの氷氷こおり解解とけけけわたるわたるわたるにににつけつけつけてててももも、、、かうかうこうまでまでまでながらへながらへながらへけるけるけるもももありがたくありがたくありがたくもももととと眺眺ながめめめ給給たまふふう。。。ひじりひじりひじりののの坊坊ぼうよりよりより、、、「「「雪雪ゆき消消ぎえええににに摘摘つみみみててて侍侍はべるるるなりなりなり」」」とてとてとて澤澤さわののの芹芹せり峯峯みねののの蕨蕨わらびなどなどなど奉奉たてまつりりりたりたりたり。。。いもひいもひいもいののの御御おん臺臺だいににに參參まいれれれるるる。。。「「「所所ところにににつけつけつけてててははは、、、かゝるかゝるかかる草草くさ木木きのののけしきけしきけしきににに從從したがひひいててて、、、行行ゆきききかふかふかう月月つき日日ひのののしるししるししるしももも見見みゆるゆるゆるこそこそこそをかしけれをかしけれおかしけれ」」」などなどなど人々人々ひとびとのののいふいふいうををを、、、何何なにのののをかしきをかしきおかしきならならならむむんととと聞聞きききき給給たまふふう。。。「「「君君きみがががをるをるおる峯峯みねのののわらびわらびわらびととと見見みましかましかましかばばば知知しららられれれやややせせせましましまし春春はるのののしるししるししるしももも」」」。。。「「「雪雪ゆき深深ふかきききみぎはみぎはみぎわのののこここぜりぜりぜり誰誰たがががためためためにににつみつみつみかはやさかはやさかわやさむむん親親おやなしなしなしにににしししててて」」」などなどなどはかなきはかなきはかなきことことことをををうちうちうち語語かたらひらひらいつゝつゝつつ明明あけけけくらしくらしくらし給給たまふふう。。。中中ちゅう納納な言言ごん殿殿どのよりよりよりももも、、、宮宮みやよりよりよりももも折折おりすぐさすぐさすぐさずずず訪訪とぶらひらひらい聞聞きこえええ給給たまふふう。。。うるさくうるさくうるさく何何なにとととなきなきなき事事こと多多おおかるかるかるやうやうようなれなれなればばば例例れいののの書書かきききもらしもらしもらしたるたるたるなめりなめりなめり、、、花花はなざかりざかりざかりののの頃頃ころ、、、宮宮みやかざしかざしかざしをををおぼしおぼしおぼし出出いでででゝゝて、、、そのそのそのをりをりおり見見み聞聞きききき給給たまひひいししし君君きん達達だちなどなどなどももも、、、「「「いといといとゆゑゆゑゆえありありありしししみこみこみこののの御御おん住住すまひひいををを、、、またまたまたももも見見みずずずなりなりなりにににしししことことこと」」」などなどなど大大おお方方かたのののあはれあはれあわれををを口口くち々々ぐち聞聞きこゆるゆるゆるににに、、、いといといとゆかしうゆかしうゆかしゅうおぼさおぼさおぼされれれたりたりたり。。。「「「つてつてつてににに見見みししし宿宿やどののの櫻櫻さくらをををこのこのこの春春はるはははかすみかすみかすみへだてへだてへだてずずず折折おりりりてててかざゝかざゝかざさむむん」」」ととと心心こころをををやりやりやりてててのたまへのたまへのたまえりりりけりけりけり。。。あるあるあるまじきまじきまじきことことことかなかなかなととと見見み給給たまひひいながらながらながらいといといとつれづれつれづれつれずれなるなるなる程程ほどににに、、、見見み所所どころあるあるある御御おん文文ふみののの、、、うはべうはべうわべばかりばかりばかりをををもてもてもてけたけたけたじじじとてとてとて、、、
現代語訳
年が改まると、空の様子もうららかで、水際の氷が一面に解けていくにつけても、よくもこれまで生き長らえたものだと、物思いにふけっていらっしゃる。聖の僧坊から、「雪解けに摘んだものでございます」と言って、沢の芹や峰の蕨などを差し上げてきた。精進の御膳に差し上げる。「土地柄で、このような草木の様子に従って、行き交う月日のしるしも見えるのが趣深いことです」などと女房たちが言うのを、何が趣深いのだろうとお聞きになる。大君は「父君が折ってくださる峰の蕨と思えたならば、春の訪れのしるしも知られたでしょうに」。中の君は「雪深い水際の小芹を、誰のために摘んで喜びましょうか。親もない身で」などと、たわいないことを語り合いながら明け暮らしなさる。中納言殿からも、匂宮からも、折を逃さずお見舞い申し上げなさる。煩わしく、何ということもないことが多いようなので、例によって書き漏らしたのだろう。花盛りの頃、匂宮は去年の挿頭を思い出しなさって、その時見聞きなさった君達なども、「たいそう由緒のあった親王のお住まいを、二度と見ずに終わってしまったこと」などと、世間一般の哀れを口々に申し上げるので、たいそう宇治を見たくお思いになった。「人づてに見た宿の桜を、この春は霞を隔てずに折って、挿頭にしたいものだ」と、思いのままにお詠みになった。姫君たちは、とんでもないことだとご覧になりながら、たいそう所在ない頃なので、見どころのあるお手紙の、表面だけでも無にすまいということで、
意訳
新年、宇治の氷が解け、聖の僧坊から芹と蕨が届く。姉妹は、父がいたらと春のしるしを詠み合う。薫と匂宮からは折々に見舞いがある。花盛り、匂宮は去年の宇治の桜を思い出し、今年こそ霞を隔てずに桜を折りたいと歌を贈る。姉妹はとんでもないと思いながらも、所在なさに返事をしようとする。
語釈・文法注
文法
- 「いもひの御臺」(いもひの御臺に參れる)
- 精進の御膳。喪中の食事。
- 「君がをる峯のわらび」(君がをる峯のわらびと見ましかば)
- 父が折ってくれる蕨。父が生きていたら、という思い。
- 「かすみへだてず」(かすみへだてず折りてかざゝむ)
- 霞を隔てずに。去年は川を隔てていたが、今年は直接会いたいという意。
解説
新春の芹と蕨は、季節の巡りを告げる。しかし姉妹にとって、父のいない春は喜びのない春である。姉妹の歌は、季節が巡っても戻らない父への思いを詠んでいる。
匂宮は去年の初瀬詣での帰りを思い出し、今年こそ姫君に会いたいと詠む。匂宮の恋は、一年を経てなお衰えない。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、928–931頁(コマ175–176)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日