源氏物語 第46帖 椎本(27)
椎が本の歌
「すっかり暮れたら、雪でいっそう空も閉ざされてしまいそうです」とお供の人々が咳払いをして促すので、薫は帰ろうとして、「心苦しく物思いに暮らしていらっしゃるお住まいの様子ですね。ただ山里のようにたいそう静かな所で、人も行き交わない所が私にございますので、そちらへとお思いくだされば、どんなにうれしいでしょう」などと言うのも、たいそう結構なことだと片耳に聞いてほほえむ女房たちがいるのを、中の君は、たいそう見苦しい、どうしてそのようなことになろうかと見聞きしている。果物を趣ある様子で差し上げ、お供の人々にも肴などを見苦しくない程度に、杯を差し出させた。あの移り香で騒がれた宿直人は、鬘鬚とかいう顔つきで気に入らない者だが、薫は、頼りない頼もし人だなと見て、呼び出した。「どうだ、宮がいらっしゃらなくなって、心細かろう」などと尋ねる。宿直人は顔をしかめて心弱そうに泣く。「世の中に頼るよるべもございません身で、宮お一人の御蔭に隠れて三十年余りを過ごしてまいりましたので、今はまして野山に交じりましても、どんな木の下を頼りにいたしましょう」と申して、ますます見苦しい様子である。宮のいらした部屋を開けさせると、塵がひどく積もって、仏前だけが花の飾りも衰えず勤行していらしたと見える。寝床なども取り払って掃き清めてある。薫は、出家の本意を遂げたら教えを受けたいと約束申し上げたことを思い出して、立ち寄る陰と頼みにしていた椎の木のもとは、空しい床となってしまったことだと詠んで、柱に寄りかかっているのを、若い女房たちはのぞいて褒め申し上げる。日が暮れたので、近くの所々の荘園などに仕える人々に、馬の秣を取りにやった。薫も知らないうちに、田舎びた人々が大げさに引き連れて参ったのを、妙にきまりの悪いことだと思うが、老女房(弁)に紛らわせた。今後も大方このようにお仕えするようにと命じ置いて出発した。
- 1「「「暮暮くれれれはてはてはてなななばばば雪雪ゆきいとゞいとゞいとど空空そらもももとぢとぢとじぬぬぬべうべうびょう侍侍はべりりり」」」ととと御御おん供供ともののの人々人々ひとびとこわづくれこわづくれこわずくればばば、、、かへりかへりかえり給給たまひひいなななむむんとてとてとて「「「心苦心苦こころぐるしうしうしゅう眺眺ながめめめくらさくらさくらさるゝるゝるる御御おん住住すまひひいのののさまさまさまなりなりなりややや。。。唯唯ただ山山やま里里ざとのののやうやうようにににいといといと靜靜しずかなるなるなる所所ところののの、、、人人ひとももも行行ゆきききまじらまじらまじらぬぬぬ所所ところににに侍侍はべるるるををを、、、さもさもさもおぼしおぼしおぼしかけかけかけばばばいかにいかにいかに嬉嬉うれしくしくしく侍侍はべらららむむん」」」などなどなどのたまふのたまふのたまうももも、、、いといといとめでたかるめでたかるめでたかるべきべきべきことことことかなかなかなととと片片かた耳耳みみににに聞聞ききききてててうちうちうちゑむゑむえむ女女おんなばらばらばらのののあるあるあるををを、、、中中なかののの君君きみははは、、、いといといと見見み苦苦ぐるしうしうしゅういかにいかにいかにさやうさやうさようにににはははあるあるあるべきべきべきぞぞぞととと見見み聞聞きききき居居い給給たまへへえりりり。。。御御おんくだものくだものくだものよしよしよしあるあるあるさまさまさまにてにてにてまゐりまゐりまいり、、、御御おん供供ともののの人々人々ひとびとにににもももさかなさかなさかななどなどなどめやすきめやすきめやすき程程ほどにてにてにて、、、かはらけかはらけかわらけさしさしさし出出いださささせせせ給給たまひひいけりけりけり。。。かのかのかの御御おんうつりうつりうつりがががもてもてもてさわがさわがさわがれれれししし殿殿との居居い人人びとぞぞぞ、、、かづらかづらかずらひげひげひげとととかかかいふいふいうつらつらつらつきつきつき心心こころつきつきつきなくなくなくてててあるあるある、、、はかなはかなはかなののの御御おんたのもしたのもしたのもし人人びとやややととと見見み給給たまひひいててて、、、召召めししし出出いでででたりたりたり。。。「「「いかにいかにいかにぞぞぞ、、、おはしまさおはしまさおわしまさででで後後のち心心こころぼそからぼそからぼそからむむん」」」などなどなど問問とひひい給給たまふふう。。。うちうちうちひそみひそみひそみつゝつゝつつ心心こころよわげよわげよわげににになくなくなく。。。「「「世世よののの中中なかににに賴賴たのむむむよるべよるべよるべももも侍侍はべらららぬぬぬ身身みにてにてにて、、、一一ひと所所ところののの御御おんかげかげかげににに隱隱かくれれれててて三三さん十十じゅう餘餘よ年年ねんををを過過すぐししし侍侍はべりりりにににけれけれければばば、、、今今いまはははましてましてまして野野の山山やまにににまじりまじりまじり侍侍はべらららむむんももも、、、いかなるいかなるいかなる木木こののの本本もとをををかかかはははたのむたのむたのむべくべくべく侍侍はべらららむむん」」」ととと申申もうしししててて、、、いとゞいとゞいとど人人ひとわろげわろげわろげなりなりなり。。。
- 2おはしましおはしましおわしましゝゝし方方かたあけあけあけさせさせさせ給給たまへへえれれればばば、、、塵塵ちりいたういたういとう積積つもりりりててて佛佛ほとけのみのみのみぞぞぞ花花はなのののかざりかざりかざり衰衰おとろへへえずずず行行おこなひひい給給たまひひいけりけりけりととと見見みゆるゆるゆる。。。御御おん床床とこなどなどなど取取とりりりやりやりやりてててかきかきかき拂拂はらひひいたりたりたりほいほいほいをををももも遂遂とげげげばばばととと契契ちぎりりり聞聞きこえええしししことことこと思思おもひひい出出いでででゝゝて「「「立立たちちちよらよらよらむむんかげかげかげととと賴賴たのみみみししし椎椎しいがががもともともと空空むなしきしきしき床床とこににになりなりなりにににけるけるけるかなかなかな」」」とてとてとて柱柱はしらににによりよりより居居い給給たまへへえるるるをををももも、、、若若わかききき人々人々ひとびとはははのぞきのぞきのぞきてててめでめでめで奉奉たてまつるるる。。。日日ひ暮暮くれれれぬれぬれぬればばば近近ちかききき所所ところ々々どころにににみさうみさうみそうなどなどなど仕仕つこうううまつるまつるまつる人々人々ひとびとににに、、、みまくさみまくさみまくさとりとりとりににに遣遣やりりりけるけるける。。。君君きみももも知知しりりり給給たまははわぬぬぬににに田田い舍舍なかびびびたるたるたる人々人々ひとびと、、、おどろおどろしくおどろおどろしくおどろおどろしくひきひきひき連連つれれれ參參まいりりりたるたるたるををを、、、あやしうあやしうあやしゅうはしたなきはしたなきはしたなきわざわざわざかなかなかなととと御御ご覽覽らんずれずれずれどどど、、、おいおいおい人人びとにににまぎらはしまぎらはしまぎらわし給給たまひひいつつつ。。。大大おお方方かたかやうかやうかようににに仕仕つこうううまつるまつるまつるべくべくべく、、、仰仰おおせせせ置置おきききててて出出いででで給給たまひひいぬぬぬ。。。
現代語訳
「すっかり暮れてしまったら、雪でいっそう空も閉ざされてしまいそうでございます」とお供の人々が咳払いをして促すので、薫はお帰りになろうとして、「心苦しく物思いに暮らしていらっしゃるお住まいの様子ですね。ただ山里のようにたいそう静かな所で、人も行き交わない所が私にございますので、そちらへとお思いくだされば、どんなにうれしいことでございましょう」などとおっしゃるのも、たいそう結構なことだろうと片耳に聞いてほほえむ女房たちがいるのを、中の君は、たいそう見苦しい、どうしてそのようなことになろうかと見聞きしていらっしゃった。果物を趣ある様子で差し上げ、お供の人々にも肴などを見苦しくない程度に、杯を差し出させなさった。あの移り香で騒がれた宿直人は、鬘鬚とかいう顔つきで気に入らない者だが、薫は、頼りない頼もし人だなとご覧になって、呼び出した。「どうだ、宮がいらっしゃらなくなってから、心細かろう」などとお尋ねになる。宿直人は顔をしかめながら、心弱そうに泣く。「世の中に頼るよるべもございません身で、宮お一方の御蔭に隠れて三十年余りを過ごしてまいりましたので、今はまして野山に交じりましても、どんな木の下を頼りにいたしましょう」と申して、ますます見苦しい様子である。
宮のいらっしゃった部屋を開けさせなさると、塵がひどく積もって、仏前だけが花の飾りも衰えず、勤行していらっしゃったのだと見える。御寝床なども取り払って、掃き清めてある。薫は、出家の本意を遂げたなら教えを受けたいと約束申し上げたことを思い出して、「立ち寄る陰と頼みにしていた椎の木のもとは、空しい床となってしまったことだ」と詠んで、柱に寄りかかっていらっしゃるのを、若い女房たちはのぞいて褒め申し上げる。日が暮れたので、近くの所々の荘園などにお仕えする人々に、馬の秣を取りにやった。薫もご存じないうちに、田舎びた人々が大げさに引き連れて参ったのを、妙にきまりの悪いことだとご覧になるが、老女房に紛らわせなさった。今後も大方このようにお仕えするように、命じ置いてお出になった。
意訳
薫は帰り際、静かな京の邸に姉妹を迎えたいと言い、女房たちは喜ぶが、中の君は見苦しく思う。薫は宿直人を呼んで慰める。八の宮の部屋は塵が積もり、仏前の花だけが変わらない。薫は柱に寄りかかり、頼みにしていた椎の木の陰が空しい床となったと詠む。荘園の人々が大勢参ったので、弁に紛らわせ、今後も姉妹に仕えるよう命じて帰る。
語釈・文法注
文法
- 「かづらひげ」(かづらひげとかいふつらつき)
- 鬘鬚。頬から顎にかけての濃いひげ。
- 「椎がもと」(立ちよらむかげと賴みし椎がもと)
- 椎の木のもと。八の宮を、頼りにする木陰にたとえる。巻名の由来。
- 「みさう」(近き所々にみさうなど仕うまつる人々)
- 御荘。薫の荘園。
- 「みまくさ」(みまくさとりに遣りける)
- 御秣。馬の飼い葉。
解説
巻名「椎本」の由来となる歌である。薫は八の宮を、頼りにする椎の木の陰にたとえ、その陰が失われた悲しみを詠む。八の宮は薫にとって、仏道の師であり、心の拠り所であった。
薫が姉妹を京に迎えたいと言うと、女房たちは喜ぶが、中の君は見苦しく思う。父の遺戒を守ろうとする姉妹と、現実的な幸せを望む女房たちとの間の溝が、ここに表れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、928–929頁(コマ175)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日