源氏物語 第46帖 椎本(26)
雪の懸け橋の歌
薫は「必ずしもご自身がお聞き届けになるべきこととは存じません。それは雪を踏み分けて参った私の志だけをお分かりくださればよい。姉君の心持ちとしてお聞き流しくださいませ。あの宮のお心寄せは、また別の方にあるようです。ほのかにおっしゃる様子もございましたが、さあ、それも人には分かりかねることです。お返事などはどちらがお書きになるのですか」とお尋ねするので、大君は、よくぞ冗談にもお返事しなかったことよ、何ということもないがこうおっしゃるにつけても、どんなに恥ずかしく胸がつぶれたことだろうと思うと、答えることもできない。雪深い山の懸け橋は、あなた以外にまた踏み通う跡を見ませんと書いて差し出すと、薫は「ご弁解こそ、かえって心が置かれてしまいそうです」と言って、氷に閉ざされ、馬が踏み砕く山川を、匂宮の道案内をしがてら、まず私が渡りましょうか、そうすれば、影さえ映るしるしも浅くはございますまい、と申し上げるので、大君は思いがけず不快になって、特に返事をしない。はっきりとひどく遠ざけ、取り澄ました様子には見えないが、今風の若い人たちのように艶めいた振る舞いもせず、たいそう感じのよい、のどかな気立てだろうと推し量られる人の様子である。薫は、こうであってほしいと思う理想に違わない心地がする。何かにつけて気を引くように近寄っても、知らない顔ばかりしているので、気が引けて、昔の話などを真面目に申し上げる。
- 1「「「必必かならずずず御御おん自自みずかららら聞聞きこしめししめししめしおふおふおうべきべきべき事事こととととももも思思おもひひい給給たまへへえずずず。。。それそれそれははは雪雪ゆきををを踏踏ふみみみ分分わけけけててて參參まいりりり來來きたるたるたる志志こころざしばかりばかりばかりををを御御ご覽覽らんじじじわかわかわかむむん。。。御御おんこのかみこのかみこのかみ心心こころにてにてにてももも過過すぐさぐさぐさせせせ給給たまひひいてててよかしよかしよかし。。。かのかのかの御心御心みこころよせよせよせははは又又またことことことにににぞぞぞはべはべはべかかかめるめるめる。。。ほのかほのかほのかにににのたまふのたまふのたまうさまさまさまもももはべはべはべめりめりめりしししををを、、、いさやいさやいさやそれそれそれももも人人ひとのののわきわきわき聞聞きこえええ難難がたきききことことことなりなりなり。。。御御おんかへりかへりかえりなどなどなどはははいづかたいづかたいずかたにににかかかははは聞聞きこえええ給給たまふふう」」」ととと問問とひひい申申もうししし給給たまふふうににに、、、ようようようぞぞぞたはぶれたはぶれたわぶれにににももも聞聞きこえええざりざりざりけるけるける、、、何何なにとととなけれなけれなけれどどどかうかうこうのたまふのたまふのたまうにににもももいかにいかにいかに恥恥はずかしうしうしゅう胸胸むねつぶれつぶれつぶれましましましととと思思おもふふうににに、、、えええ答答こたへへえやりやりやり給給たまははわずずず。。。「「「雪雪ゆきふかきふかきふかき山山やまのののかけかけかけはしはしはし君君きみならならならでででまたまたまたふみふみふみ通通かよふふうあとあとあとををを見見みぬぬぬかなかなかな」」」ととと書書かきききてててさしさしさし出出いだししし給給たまへへえれれればばば、、、「「「御御おんものものものあらがひあらがひあらがいこそこそこそなかなかなかなかなかなか心心こころおかおかおかれれれ侍侍はべりりりぬぬぬべけれべけれべけれ」」」とてとてとて、、、「「「つらゝつらゝつららとぢとぢとじこまこまこまふみふみふみしだくしだくしだく山山やま河河がわをををしるべしるべしるべしししがてらがてらがてらまづまづまずややや渡渡わたらららむむん。。。さらばさらばさらばしもしもしも、、、かげかげかげさへさへさへ見見みゆるゆるゆるしるししるししるしももも淺淺あそうううははは侍侍はべらららじじじ」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、思思おもははわずずずにににものしうものしうものしゅうなりなりなりててて殊殊ことにににいらへいらへいらえ給給たまははわずずず。。。
- 2けざやかけざやかけざやかにににいといといと物物もの遠遠どおくくくすゝみすゝみすすみたるたるたるさまさまさまにににははは見見みえええ給給たまははわねねねどどど今今いまやうやうようののの若若わか人人うど達達たちのののやうやうようにににえんえんえんげげげにににももももてもてもてなさなさなさででで、、、いといといとめやすくめやすくめやすくのどかのどかのどかなるなるなる心心こころばへばへばえならならならむむんとととぞぞぞ推推おししし量量はかららられれれ給給たまふふう人人ひとののの御御おんけはひけはひけはいなるなるなる。。。かうかうこうこそこそこそはははあらまほしけれあらまほしけれあらまほしけれととと思思おもふふうににに違違たがははわぬぬぬ心地心地ここちししし給給たまふふう。。。事事ことににに觸觸ふれれれててて氣色氣色けしきばみばみばみよるよるよるももも知知しらららずずずがほがほがおなるなるなるさまさまさまにににのみのみのみもてもてもてなしなしなし給給たまへへえばばば、、、心心こころ恥恥はずかしうしうしゅうててて昔昔むかし物物もの語語がたりなどなどなどをををぞぞぞ物物ものまめやかまめやかまめやかににに聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
現代語訳
薫は「必ずしもご自身がお聞き届けになるべきこととも存じません。それは、雪を踏み分けて参った私の志だけをお分かりくださればよいのです。姉君としてのお心持ちでお聞き過ごしくださいませ。あの宮のお心寄せは、また別の方にあるようでございます。ほのかにおっしゃる様子もございましたが、さあ、それも人には分かりかねることです。お返事などは、どちらがお書き申し上げなさるのですか」とお尋ね申し上げなさると、大君は、よくぞ冗談にもお返事申し上げなかったことよ、何ということもないけれど、こうおっしゃるにつけても、どんなに恥ずかしく胸がつぶれたことだろうと思うと、答えることもおできにならない。「雪深い山の懸け橋は、あなた以外に、また踏み通う人の跡を見ませんことよ」と書いて差し出しなさると、薫は「ご弁解こそ、かえって心が置かれてしまいそうです」と言って、「氷に閉ざされ、馬が踏み砕く山川を、匂宮の道案内をしがてら、まず私が渡りましょうか。そうすれば、影さえ映るしるしも浅くはございますまい」と申し上げなさると、大君は思いがけず不快になって、特にお返事もなさらない。
はっきりと、たいそう遠ざけ取り澄ました様子にはお見えにならないけれど、今風の若い人たちのように艶めいた振る舞いもせず、たいそう感じのよい、のどかな気立てなのだろうと推し量られなさる人のご様子である。薫は、こうであってほしいと思う理想に違わない心地がなさる。何かにつけて気を引くように近寄っても、知らない顔ばかりしてお扱いになるので、気が引けて、昔の話などを真面目に申し上げなさる。
意訳
薫は匂宮の思いは中の君にあるらしいと言い、手紙の返事はどちらが書くのかと尋ねる。大君は返事をしなかったことに安堵し、薫以外に訪れる人はないと歌を詠む。薫は匂宮の案内役をしがてら自分がまず渡ろうと、自分の思いをほのめかす歌を返すが、大君は不快に思って返事をしない。薫は大君の落ち着いた人柄を理想的だと思う。
語釈・文法注
文法
- 「御このかみ心」(御このかみ心にても過ぐさせ給ひてよかし)
- 姉としての心。妹のことと思ってお聞きください、という意。
- 「雪ふかき山のかけはし」(雪ふかき山のかけはし君ならで)
- 雪深い山の懸け橋。宇治への険しい道。薫以外に訪れる人はいないと詠む。
- 「つらゝとぢ」(つらゝとぢこまふみしだく山河を)
- 氷柱に閉ざされた山川。
- 「かげさへ見ゆる」(かげさへ見ゆるしるしも淺うは侍らじ)
- 影まで映る。「浅香山影さへ見ゆる山の井の浅き心を我が思はなくに」(古今集)による。
解説
薫は匂宮の思いが中の君にあると伝えながら、自分の大君への思いを歌にほのめかす。しかし大君は、薫の思いに不快を示して答えない。大君は薫を信頼しているが、恋の相手としては受け入れられない。
薫は大君を理想の女性と見る。今風の艶めいた女性たちと違い、落ち着いて慎み深い大君の人柄に、薫は心を奪われていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、926–929頁(コマ174–175)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日