源氏物語 第46帖 椎本(21)
雁の歌
今は旅寝もとりとめのない気持ちがして帰る時にも、薫は、宮が「これが最後か」などとおっしゃったのを、どうしてそんなことがと高をくくって、またお会いせずに終わってしまったのだろう、秋が変わったわけでもないのに、多くの日数も隔てないうちに、行方も知れず逝ってしまわれた、あっけないことよと思う。特に世間並みの設えもなく、たいそう簡素にしていらしたようだが、たいそう清らかに掃き清めて、あたりを趣深く整えていらした住まいも、僧たちが出入りし、あちこち隔てながら、念誦の道具などは変わらない様子だが、仏像は皆あの寺に移し申し上げようとしていると聞くにつけても、このような僧の人影さえ絶えてしまう頃に、残って思う姫君たちの心中を思いやると、たいそう胸が痛く思い続ける。「ひどく暮れてしまいました」と供の者が申し上げるので、物思いを中断して立つと、雁が鳴いて渡っていく。秋霧の晴れない空に、どうして雁はいっそうこの世を仮の世と言い知らせるのだろう、と詠む。兵部卿の宮(匂宮)に対面する時は、まずこの姫君たちのことを話題にする。今はそうはいっても気楽だろうと思って、匂宮は熱心に手紙を送る。ちょっとした返事も申し上げにくく、気が引ける方面だと姫君たちは思っている。世間でたいそう色好みでいらっしゃるという評判が広がって、好ましく艶なるものとお思いのようなのも、このようにひどく埋もれた葎の下から差し出すような筆跡も、どんなに不慣れで古めかしいだろうなどと思い沈んでいる。
- 1今今いまははは旅旅たび寢寢ねもももすゞろすゞろすずろなるなるなる心地心地ここちしししててて歸歸かえりりり給給たまふふうにににももも、、、これこれこれやややかぎりかぎりかぎりのののなどなどなどのたまひのたまひのたまいしししををを、、、などなどなどかかかさしもさしもさしもやややはははとととうちうちうちたのみたのみたのみててて又又また見見み奉奉たてまつらららずずずなりなりなりにににけむけむけん秋秋あきやややはははかはれかはれかわれるるる。。。あまたあまたあまたののの日日ひ數數かずももも隔隔へだてててぬぬぬ程程ほどにににおはしおはしおわしにににけむけむけん方方かたももも知知しらららずずず、、、あへなきあへなきあえなきわざわざわざなりなりなりややや。。。殊殊ことににに例例れいののの人人ひとめいめいめいたるたるたる御御おんしつらひしつらひしつらいなくなくなくいといといとことことことそぎそぎそぎ給給たまふふうめりめりめりしかしかしかどどど、、、いといといと物物もの淸淸きよげげげにににかきかきかき拂拂はらひひいあたりあたりあたりをかしくをかしくおかしくもてもてもてないないない給給たまへへえりりりししし御御おん住住すまひひいももも、、、大大だいとことことこたちたちたち出出いでででいりいりいり、、、こなたこなたこなたかなたかなたかなたひきひきひき隔隔へだてててつゝつゝつつ御御おん念念ねん誦誦ずののの具具ぐどもどもどもなどなどなどぞぞぞ變變かわらららぬぬぬさまさまさまなれなれなれどどど、、、佛佛ほとけははは皆皆みなかのかのかの寺寺てらににに移移うつりりり奉奉たてまつりりりてててむむんとととすすすととと聞聞きこゆるゆるゆるををを聞聞きききき給給たまふふうにににももも、、、かゝるかゝるかかるさまさまさまののの人人ひとかげかげかげなどなどなどさへさへさへ絕絕たえええはてはてはてむむん程程ほどとまりとまりとまりててて思思おもひひい給給たまははわむむん心地心地ここちどもどもどもをををくみくみくみ聞聞きこえええ給給たまふふうももも、、、いといといと胸胸むね痛痛いとうううおぼしおぼしおぼしつゞけつゞけつづけゝゝけるるる。。。「「「いたくいたくいたく暮暮くれれれ侍侍はべりりりぬぬぬ」」」ととと申申もうせせせばばば、、、ながめながめながめさしさしさしててて立立たちちち給給たまふふうににに、、、雁雁かりなきなきなきてててわたるわたるわたる。。。「「「秋秋あき霧霧ぎりのののはれはれはれぬぬぬ雲雲くもゐゐいにににいとゞしくいとゞしくいとどしくこのこのこの世世よをををかりかりかりととといひいひいいしらすしらすしらすらむらむらん」」」。。。
- 2兵兵ひょう部部ぶ卿卿きょうののの宮宮みやににに對對たい面面めんししし給給たまふふう時時ときははは、、、まづまづまずこのこのこの君君きん達達だちののの御御おん事事ことをををあつかひあつかひあつかいぐさぐさぐさにににししし給給たまふふう。。。今今いまはははさりともさりともさりとも心心こころやすきやすきやすきをををおぼしおぼしおぼしててて、、、宮宮みやはははねんごろねんごろねんごろににに聞聞きこえええ給給たまひひいけりけりけり。。。はかなきはかなきはかなき御御おん返返かえりりりももも聞聞きこえええにくゝにくゝにくくつゝましきつゝましきつつましき方方かたににに女女おんながたがたがたはははおぼいおぼいおぼいたりたりたり。。。世世よにににいといといといたういたういとうすきすきすき給給たまへへえるるる御御おん名名なのののひろごりひろごりひろごりててて好好このましくましくましく艶艶えんにににおぼさおぼさおぼさるるるべかべかべかめるめるめるももも、、、かうかうこういといといとうづもれうづもれうずもれたるたるたる葎葎むぐらののの下下したよりよりよりさしさしさし出出いでででたらたらたらむむんてててつきつきつきももも、、、いかにいかにいかにうひうひしくうひうひしくういういしくふるめきふるめきふるめきたらたらたらむむんなどなどなど、、、思思おもひひいくつしくつしくつし給給たまへへえりりり。。。
現代語訳
今は旅寝もとりとめのない心地がしてお帰りになる時にも、宮が「これが最後か」などとおっしゃったのを、どうしてそのようなことがあろうかと高をくくって、またお会い申し上げずに終わってしまったのだろう、秋が変わったわけではないのに、多くの日数も隔てないうちに、行方も知れず逝ってしまわれた、あっけないことよと思う。特に世間並みのお設えもなく、たいそう簡素にしていらっしゃったようだが、たいそう清らかに掃き清めて、あたりを趣深く整えていらっしゃったお住まいも、高僧たちが出入りし、あちらこちら隔てながら、御念誦の道具などは変わらない様子だけれど、仏像は皆あの寺に移し申し上げようとしていると申し上げるのをお聞きになるにつけても、このような僧の人影などさえ絶えてしまう頃に、残ってお思いになるだろう姫君たちのお心地を思いやり申し上げなさるのも、たいそう胸が痛くお思い続けになった。「ひどく暮れてしまいました」と申し上げるので、物思いを中断してお立ちになると、雁が鳴いて渡っていく。「秋霧の晴れない空に、どうして雁は、いっそうこの世を仮の世と言い知らせるのだろう」。
兵部卿の宮に対面なさる時は、まずこの姫君たちのことを話題になさる。今はそうはいっても気楽だろうとお思いになって、宮は熱心にお便り申し上げなさった。ちょっとしたお返事も申し上げにくく、気の引ける方面だと、姫君たちはお思いになっていた。世間でたいそうひどく色好みでいらっしゃるという評判が広がって、好ましく艶なものとお思いになっているらしいのも、このようにたいそう埋もれた葎の下から差し出すような筆跡も、どんなに不慣れで古めかしいだろうなどと、思い沈んでいらっしゃった。
意訳
薫は八の宮の「これが最後か」という言葉を聞き流したことを悔やむ。仏像も山寺に移され、人影が絶えていく宇治に残る姉妹を思い、雁に寄せて世の無常を詠む。匂宮は薫から姉妹の話を聞いて熱心に手紙を送るが、姉妹は色好みの匂宮に気後れして返事をためらう。
語釈・文法注
文法
- 「秋やはかはれる」(又見奉らずなりにけむ秋やはかはれる)
- 秋が変わったわけではないのに。前に会った秋と同じ秋のうちに亡くなったこと。
- 「この世をかり」(この世をかりといひしらすらむ)
- 「雁」と「仮」をかける。この世は仮の世だと雁が教える。
- 「思ひくつし」(思ひくつし給へり)
- 思い沈む、気が滅入る。
解説
薫は八の宮の最後の言葉を聞き流したことを深く悔やむ。人は別れの予感を受け止めきれず、後になって悔やむ。薫の悔恨は、人の世の普遍的な悲しみでもある。
姉妹は匂宮の色好みの評判に気後れする。山里に埋もれた自分たちの筆跡が、都の華やかな宮の目にどう映るかを恐れる。姉妹の慎み深さと自信のなさが描かれている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、922–925頁(コマ172–173)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日