源氏物語 第46帖 椎本(19)
墨染の袖の歌
大君のお心にも、そうは言っても、だんだん心が静まって万事が分かるようになったので、昔のよしみからとしても、これほど遠い野辺を分け入ってくれた志なども思い知るのだろう。少し膝行して近寄った。薫は、大君の思っているであろう有様や、また宮と約束したことなどを、たいそうこまやかに親しみやすく話して、嫌に雄々しい雰囲気などは見えない人なので、気味悪くそわそわするようなことはないが、知らない人にこのように声を聞かせ申し上げ、何となく頼りにしている様子になるのも、この日頃のことを思い続けるとさすがに苦しくて気が引けるが、ほのかに一言などお答えする様子が、本当に万事に呆然としている気配なので、薫はたいそう哀れと聞く。黒い几帳の透けて見える影がたいそう痛々しそうなので、まして中にいる様子や、ほのかに見た明け方のことなどが思い出されて、色の変わる浅茅を見ても、墨染めにやつれる袖を思いやることですと独り言のように言うと、大君は、色の変わる袖を露の宿りとして、我が身こそいっそう置き所がありません、ほつれる糸は、と末は言い消して、たいそうひどく堪えがたい様子で奥に入ってしまったようだ。引き止めることなどできるような間柄でもないので、名残惜しくしみじみと思う。
- 1御御おん心地心地ここちにににもももさささこそこそこそいへいへいえ、、、やうやうやうやうようよう心心こころしづまりしづまりしずまりてててよろづよろづよろず思思おもひひい知知しららられれれたまへたまへたまえばばば、、、昔昔むかしざまざまざまにてにてにてもももかうかうこうまでまでまで遙遙はるけきけきけき野野の邊邊べををを分分わけけけ入入いりりり給給たまへへえるるる志志こころざしなどなどなどももも思思おもひひい知知しりりり給給たまふふうべしべしべし。。。少少すこしししゐざりゐざりいざりよりよりより給給たまへへえりりり。。。おぼすおぼすおぼすらむらむらんさまさまさま、、、又又またのたまひのたまひのたまい契契ちぎりりりしししことことことなどなどなど、、、いといといとこまやかこまやかこまやかににになつかしうなつかしうなつかしゅういひいひいいててて、、、うだてうだてうだて雄雄お々々おしきしきしきけはひけはひけはいなどなどなどははは見見みえええ給給たまははわぬぬぬ人人ひとなれなれなればばば、、、けうとくけうとくきょうとくすゞろはしくすゞろはしくすずろわしくなどなどなどはははあらあらあらねねねどどど、、、知知しらららぬぬぬ人人ひとにににかくかくかく聲聲こえををを聞聞きかせかせかせ奉奉たてまつりりり、、、すゞろすゞろすずろにににたのみたのみたのみ顏顏がおなるなるなることことことなどなどなどももも、、、ありありありつるつるつる日日ひ比比ごろををを思思おもひひい續續つづくるくるくるもももさすがさすがさすがににに苦苦くるしうしうしゅうてててつゝましけれつゝましけれつつましけれどどど、、、ほのかほのかほのかにににひとひとひとことことことなどなどなどいらへいらへいらえ聞聞きこえええ給給たまふふうさまさまさまののの、、、げにげにげによろづよろづよろず思思おもひひいほれほれほれ給給たまへへえるるるけはひけはひけはいなれなれなればばば、、、いといといと哀哀あわれととと聞聞きききき奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。黑黑くろききき几几き帳帳ちょうのののすきすきすきかげかげかげのののいといといと心苦心苦こころぐるしげしげしげなるなるなるににに、、、ましてましてましておはすおはすおわすらむらむらんさまさまさま、、、ほのほのほの見見みししし明明あけけけぐれぐれぐれなどなどなど思思おもひひい出出いでででられられられててて、、、「「「色色いろかはるかはるかわるあさぢあさぢあさじををを見見みてててももも墨墨すみ染染ぞめにににやつるゝやつるゝやつるる袖袖そでをををおもひおもひおもいこそこそこそやれやれやれ」」」とととひとりひとりひとりごとごとごとのののやうやうようにににのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「色色いろかはるかはるかわる袖袖そでをををばばばつゆつゆつゆのののやどりやどりやどりにてにてにて我我わががが身身みぞぞぞさらにさらにさらにおきおきおきどころどころどころなきなきなき。。。はつるゝはつるゝはつるるいといといとははは」」」ととと末末すえはははいひいひいいけちけちけちててて、、、いといといといみじくいみじくいみじく忍忍しのびびび難難がたきききけはひけはひけはいにてにてにて入入いりりり給給たまひひいぬぬぬなりなりなり。。。ひきひきひきとゞめとゞめとどめなどなどなどすすすべきべきべき程程ほどにににもももあらあらあらねねねばばば飽飽あかかかずずずあはれあはれあわれにににおぼゆおぼゆおぼゆ。。。
現代語訳
大君のお心地にも、そうは言っても、だんだん心が静まって、万事がお分かりになるようになったので、昔のよしみからとしても、これほどまで遠い野辺を分け入っていらっしゃった志なども、思い知りなさるのだろう。少し膝行して近寄りなさった。薫は、大君がお思いになっているだろう様子や、また宮とお約束したことなどを、たいそうこまやかに親しみやすく話して、嫌に雄々しい雰囲気などはお見えにならない人なので、気味悪くそわそわするようなことはないけれど、知らない人にこのように声を聞かせ申し上げ、何となく頼りにしている顔をすることなども、この日頃のことを思い続けると、さすがに苦しくて気が引けるけれど、ほのかに一言などお答え申し上げなさる様子が、本当に万事に呆然としていらっしゃる気配なので、薫はたいそう哀れとお聞き申し上げなさる。黒い几帳の透けて見える影がたいそう痛々しそうなので、まして中にいらっしゃるだろう様子や、ほのかに見た明け方のことなどが思い出されて、「色の変わる浅茅を見ても、墨染めにやつれていらっしゃる袖を思いやることです」と独り言のようにおっしゃると、大君は「色の変わる袖を露の宿りとして、我が身こそ、いっそう置き所がありません。ほつれる糸は」と末は言い消して、たいそうひどく堪えがたい様子で、奥にお入りになってしまったようだ。引き止めることなどできるような間柄でもないので、名残惜しく、しみじみと思われる。
意訳
心が少し静まった大君は、薫の志を思い知り、少し近寄る。薫は宮との約束などを親しく語り、大君もほのかに答える。薫は墨染の袖を思いやる歌を詠み、大君は我が身の置き所がないと返して、悲しみに耐えられず奥へ入る。
語釈・文法注
文法
- 「あさぢ」(色かはるあさぢを見ても)
- 浅茅。秋に色が変わる。喪の悲しみの象徴。
- 「つゆのやどり」(色かはる袖をばつゆのやどりにて)
- 露の宿り。涙に濡れた喪服の袖。
- 「はつるゝいとは」(はつるゝいとは)
- ほつれる糸は。「藤衣はつるる糸はわび人の涙の玉の緒とぞなりける」(古今集)による。
解説
大君は初めて薫に少し心を開き、自ら近寄る。しかし悲しみが込み上げ、歌の末を言い消して奥へ入ってしまう。大君の心は、父を失った悲しみでいっぱいである。
薫の歌は大君の喪服の袖を思いやり、大君は涙の宿る袖に置き所のない我が身を詠む。この贈答は、二人の心が少しずつ通い始めたことを示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、920–923頁(コマ171–172)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日