源氏物語 第46帖 椎本(18)
喪明けの薫の訪問
中納言殿(薫)への返事だけは、あちらからも真面目な様子で申し上げてくるので、こちらからもそれほど疎々しくなく便りを交わしている。忌明け後にも薫は自ら参った。姫君たちが東の廂の一段低い方に喪の姿でいるところに、近く立ち寄って、老女房を呼び出した。闇に惑っている姫君たちのあたりに、たいそうまばゆいほど香りが満ちて入ってきたので、姫君たちはきまりが悪くて返事などさえできないので、薫は「このようにはお扱いにならず、亡き宮のお気持ちに従ってくださるような様子であってこそ、申し上げたりお聞きしたりするかいもあるでしょう。なよなよと色めいた振る舞いは慣れておりませんので、人づてに申し上げるのは言葉も続きません」と言うと、大君は「あきれるほど今まで生き長らえているようですが、覚めようもない夢に惑っておりまして、思いがけず空の光を見ますのも気が引けて、端近くにも身動きできないのでございます」と申し上げる。薫は「何かといえば、限りないお心の深さですね。月日の光をご自分の心から晴れ晴れしく出てお見になるなら罪もございましょう。行き場もなく晴れない思いがいたします。またお思いになっていることの端々をも晴らして差し上げたいのです」と申し上げると、「本当に、比べるものもないようなご様子を、お慰めくださるお心の浅からぬこと」などと女房たちが姫君に申し上げる。
- 1中中ちゅう納納な言言ごん殿殿どのののの御御おん返返かえりりりばかりばかりばかりははは、、、かれかれかれよりよりよりもももまめやかまめやかまめやかなるなるなるさまさまさまににに聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、これこれこれよりよりよりもももいといといとけうとげけうとげきょうとげにににはははあらあらあらずずず聞聞きこえええ通通かよひひい給給たまふふう。。。御御おんいみいみいみはてはてはてゝゝてもももみづからみづからみずからまうでまうでもうで給給たまへへえりりり。。。東東ひんがしののの廂廂ひさしのののくだりくだりくだりたるたるたる方方かたにににやつれやつれやつれててておはするおはするおわするににに、、、近近ちこうううたちたちたち寄寄よりりり給給たまひひいててて、、、ふるふるふる人人びと召召めししし出出いでででたりたりたり。。。闇闇やみににに惑惑まどひひい給給たまへへえるるる御御おんあたりあたりあたりにににいといといとまばゆくまばゆくまばゆく匂匂におひひい滿滿みちちちててて入入いりりりおはしおはしおわしたれたれたればばば、、、かたはらいたうかたはらいたうかたわらいとうててて御御おんいらへいらへいらえなどなどなどをををだにだにだにえええししし給給たまははわねねねばばば、、、「「「かやうかやうかようにににはははもてもてもてないないない給給たまははわででで昔昔むかしののの御心御心みこころむけむけむけににに從從したがひひい聞聞きこえええ給給たまははわむむんさまさまさまならならならむむんこそこそこそ、、、聞聞きこえええうけたまはるうけたまはるうけたまわるかひかひかいあるあるあるべけれべけれべけれ。。。なよびなよびなよび氣色氣色けしきばみばみばみたるたるたるふるまひふるまひふるまいをををならひならひならい侍侍はべらららねねねばばば、、、人人ひとづてづてずてににに聞聞きこえええ侍侍はべるるるははは言言ことののの葉葉はももも續續つづききき侍侍はべらららずずず」」」とととあれあれあればばば、、、「「「あさましうあさましうあさましゅう今今いままでまでまでながらへながらへながらへ侍侍はべるるるやうやうようなれなれなれどどど、、、思思おもひひいさまささまささまさむむん方方かたなきなきなき夢夢ゆめににに惑惑まどははわれれれ侍侍はべりりりてててなむなむなん、、、心心こころよりよりより外外ほかににに空空そらのののひかりひかりひかり見見み侍侍はべらららむむんもももつゝましうつゝましうつつましゅうててて、、、端端はし近近ちかうううもももえええみじろきみじろきみじろき侍侍はべらららぬぬぬ」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえれれればばば「「「ことことことゝゝといへいへいえばばば限限かぎりなきなきなき御心御心みこころののの深深ふかさささににになむなむなん。。。月月つき日日ひのののかげかげかげははは御心御心みこころもてもてもて、、、はればれしくはればれしくはればれしくもももててていでいでいでさせさせさせ給給たまははわゞゞばこそこそこそ罪罪つみももも侍侍はべらららめめめ。。。行行ゆくくく方方かたもももなくなくなくいぶせういぶせういぶしょうおぼえおぼえおぼえ侍侍はべりりり。。。又又またおぼさおぼさおぼさるるるらむらむらんはしばしはしばしはしばしをををもももあきらめあきらめあきらめ聞聞きこえええまほしくまほしくまほしくなむなむなん」」」ととと申申もうししし給給たまへへえばばば、、、「「「げにげにげにこそこそこそいといといとたぐひたぐひたぐいなげなげなげなめるなめるなめる御御おん有有あり樣樣さまををを、、、慰慰なぐさめめめ聞聞きこえええ給給たまふふう御心御心みこころばへばへばへののの淺淺あさからからからぬぬぬ程程ほど」」」などなどなど人々人々ひとびと聞聞きこえええしらすしらすしらす。。。
現代語訳
中納言殿へのお返事だけは、あちらからも真面目な様子で申し上げてくださるので、こちらからもそれほど疎々しくなく、便りを交わしていらっしゃる。御忌みが明けてからも、薫はご自身で参上なさった。姫君たちが東の廂の一段低い方に喪の姿でいらっしゃるところに、近く立ち寄りなさって、老女房を呼び出した。闇に惑っていらっしゃる姫君たちのあたりに、たいそうまばゆいほど香りが満ちてお入りになったので、姫君たちはきまりが悪くて、お返事などさえおできにならないので、「このようにはお扱いにならないで、亡き宮のお気持ちに従い申し上げてくださるような様子であってこそ、申し上げたりお聞きしたりするかいもあるでしょう。なよなよと色めいた振る舞いは慣れておりませんので、人づてに申し上げますのは、言葉も続きません」とおっしゃると、大君は「あきれるほど今まで生き長らえておりますようですが、覚めようもない夢に惑っておりまして、思いがけず空の光を見ますのも気が引けて、端近くにも身動きできないのでございます」と申し上げなさったので、薫は「何かといえば、限りないお心の深さですね。月日の光は、ご自分のお心から晴れ晴れしくお出になってお見になるなら、罪もございましょう。行き場もなく、晴れない思いがいたします。またお思いになっていらっしゃるらしいことの端々をも、晴らして差し上げたいのです」と申し上げなさると、「本当に、比べるものもないようなご様子を、お慰めくださるお心の浅からぬこと」などと、女房たちが姫君に申し上げる。
意訳
姉妹は薫にだけは返事を交わす。忌明け後、薫が自ら訪れ、香りを漂わせて近づく。大君は喪の悲しみから端近くに出られないと言うが、薫は亡き宮の意向に従って心を開いてほしいと訴え、女房たちも薫の厚意を姫君に伝える。
語釈・文法注
文法
- 「くだりたる方」(東の廂のくだりたる方に)
- 一段低い所。喪中は一段低い所に控えるのが習わしだった。
- 「昔の御心むけ」(昔の御心むけに從ひ聞え給はむ)
- 亡き八の宮のご意向。薫に娘たちを託した意思。
- 「月日のかげ」(月日のかげは御心もて)
- 月日の光。喪中に明るい所に出るのを慎むことを、薫は気にしすぎだと言う。
解説
薫は八の宮の「御心むけ」を持ち出して、大君に心を開くよう求める。八の宮が薫に娘を託したことは事実だが、薫はそれを自分と大君の関係を深める根拠とする。
大君は喪の悲しみの中で、端近くに出ることさえ控える。大君の慎み深さと、薫の積極的な働きかけが対照的である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、920–921頁(コマ171)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日