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源氏物語 第46帖 椎本(17)

木幡山を越える使い

登場人物:匂宮・大君

使いは、木幡山の辺りも雨模様でたいそう恐ろしげだったが、そのようなことを恐れない者を選び出したのだろう、薄気味悪い笹の茂みを、馬を止める間もなく急がせて、あっという間に到着した。御前に召しても、ひどく濡れて参ったので禄を与える。以前ご覧になったのとは違う筆跡で、もう少し大人びて趣のある書きぶりなどを、どちらがどちらだろうと、手から離さずご覧になりながら、すぐにも寝所に入らないので、「待っているといって起きていらして、またご覧になる時間の長いのは、どれほどお心にしみることなのでしょう」と、御前の女房たちはささやき合って憎らしがる。眠いからだろう。匂宮はまだ朝霧の深い朝に急いで起きて、返事を差し上げる。朝霧に友を見失った鹿の声を、並一通りに哀れと聞きましょうか、声を合わせて鳴くことでは劣りませんよ、とあるが、大君は、あまり情けを見せるのも煩わしい、父宮お一人の御蔭に隠れていたのを頼りとしてこそ何事も気楽に過ごしてきたが、思いがけず生き長らえて、心外なことの紛れが少しでもあったら、心配そうにばかり思い置いていらしたらしい亡き御霊にまで傷をつけ申し上げることになろうと、何事もたいそう気が引けて恐ろしくて、返事を申し上げない。この匂宮などを、軽々しく並一通りの方とも思っていない。ちょっとした走り書きの筆づかいや言葉も、趣深く優美な様子を、多くは見知らないが、これこそはすばらしいのだろうと見ながら、その由緒あり情け深い方に、言葉を交わし申し上げるのも似つかわしくない身の有様なので、何の、ただこのような山伏めいた暮らしで過ごしてしまおうと思う。

  1. 1御おん御おんおん使つかひ使つかひつかいははは、、、木こ木ここ幡はた幡はたはた山やま山やまやまのののほどほどほどももも雨あめ雨あめあめもももよよよにににいといといと恐おそろ恐おそろおそろしげしげしげなれなれなれどどど、、、さやうさやうさようののの物もの物ものものおぢおぢおじすすすまじきまじきまじきをををえりえりえり出い出いいででで給たま給たまたまひひいけむけむけん、、、むつかしげむつかしげむつかしげなるなるなるさゝさゝささのののくまくまくまをををこまこまこまひきひきひきとゞむるとゞむるとどむる程ほど程ほどほどもももなくなくなくうちうちうちはやめはやめはやめててて片かた片かたかた時とき時ときときににに參まゐ參まゐまいりりりつきつきつきぬぬぬ。。。おおおまへまへまえににに召め召めめしししてててももも、、、いたくいたくいたくぬれぬれぬれててて參まゐ參まゐまいりりりたれたれたればばば祿ろく祿ろくろくたまふたまふたまう。。。さきざきさきざきさきざき御ご御ごご覽らん覽らんらんぜぜぜしししにににはははあらあらあらぬぬぬ手て手ててののの、、、今いま今いまいま少すこ少すこすこしししおとなびおとなびおとなびまさりまさりまさりてててよしよしよしづきづきずきたるたるたる書か書かかきききざまざまざまなどなどなどををを、、、いづれいづれいずれかかかいづれいづれいずれならならならむむんとととうちうちうちももも置お置おおかかかずずず御ご御ごご覽らん覽らんらんじじじつゝつゝつつ、、、とみとみとみにににもももおほとのごもらおほとのごもらおおとのごもらねねねばばば、、、「「「待ま待ままつつつとてとてとて起お起おおきききおはしましおはしましおわしまし、、、又また又またまた御ご御ごご覽らん覽らんらんずるずるずるほどほどほどののの久ひさ久ひさひさしきしきしきははは、、、いかいかいかばかりばかりばかり御心みこころ御心みこころみこころにににしむしむしむことことことならならならむむん」」」ととと、、、御お御おお前まへ前まへまえなるなるなる人々ひとびと人々ひとびとひとびとさゝめひさゝめひささめいきこえきこえきこえててて、、、にくみにくみにくみ聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。ねぶたけれねぶたけれねぶたければばばなめりなめりなめり。。。まだまだまだ朝あさ朝あさあさ霧ぎり霧ぎりぎり深ふか深ふかふかきききあしたあしたあしたにににいそぎいそぎいそぎ起お起おおきききててて奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまふふう。。。「「「朝あさ朝あさあさ霧ぎり霧ぎりぎりににに友とも友ともともまどはせまどはせまどわせるるる鹿しか鹿しかしかののの音ね音ねねををを大おほ大おほおおかたかたかたにににやややはははあはれあはれあわれとととももも聞き聞ききくくく。。。もろもろもろごゑごゑごえははは劣おと劣おとおとるるるまじくまじくまじくこそこそこそ」」」とととあれあれあれどどど、、、あまりあまりあまりなさけなさけなさけだゝだゝだたむむんもももうるさしうるさしうるさし。。。
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引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

御使いは、木幡山のあたりも雨模様でたいそう恐ろしげだったけれど、そのようなことに物怖じしない者を選び出しなさったのだろう、薄気味悪い笹の茂みを、馬を止める間もなく急がせて、あっという間に参着した。御前にお召しになっても、ひどく濡れて参ったので禄をお与えになる。以前ご覧になったのとは違う筆跡で、もう少し大人びて趣のある書きぶりなどを、どちらがどちらだろうと、手から離さずにご覧になりながら、すぐにもお休みにならないので、「待つといって起きていらして、またご覧になる時間の長いのは、どれほどお心にしみることなのでしょう」と、御前にいる女房たちはささやき申し上げて、憎らしがり申し上げる。眠いからなのだろう。匂宮は、まだ朝霧の深い朝に急いで起きて、返事を差し上げなさる。「朝霧に友を見失った鹿の声を、並一通りに哀れと聞きましょうか。声を合わせて鳴くことでは劣りませんよ」とあるけれど、大君は、あまり情けを見せるのも煩わしいと思う。

父宮お一人の御蔭に隠れていたのを頼りとしてこそ、何事も気楽に過ごしてきたのに、思いがけず生き長らえて、心外なことの紛れが少しでもあったら、心配そうにばかり思い置いていらしたらしい亡き御霊にまで傷をつけ申し上げることになろうかと、何事もたいそう気が引けて恐ろしくて、お返事を申し上げなさらない。この宮などを、軽々しく並一通りの方ともお思い申し上げていらっしゃらない。ちょっとした走り書きの御筆づかいや言葉も、趣深く優美でいらっしゃるご様子を、多くはご存じないけれど、これこそはすばらしいのだろうと見ながら、その由緒あり情け深い方に、言葉を交わし申し上げるのも似つかわしくない身の有様なので、何の、ただこのような山伏めいた暮らしで過ごしてしまおうとお思いになる。

意訳

使いは雨の木幡山を越えて急ぎ戻る。匂宮は大君の筆跡を何度も眺め、女房たちは呆れる。翌朝匂宮は返歌するが、大君は父の遺戒を思い、亡き父の名を汚すことを恐れて返事をしない。匂宮をすばらしいと思いながらも、自分たちは山里で過ごそうと決める。

語釈・文法注

文法

「木幡山」(木幡山のほども雨もよに)
京と宇治の間の山。山道が険しく、恐ろしい所とされた。
「雨もよに」(雨もよにいと恐しげなれど)
雨模様で。
「なき御たまにさへきづやつけ奉らむ」(なき御たまにさへきづやつけ奉らむ)
亡き父の霊にまで傷をつけるのではないか。父の遺戒に背くことを恐れる。

解説

大君は匂宮をすばらしい人と認めながらも、父の遺戒を守って距離を置く。父の言葉が、大君の心を強く縛っている。

匂宮は大君の筆跡に心を奪われる。それまで手紙を書いていた中の君とは違う、大人びた筆跡が、匂宮の好奇心をかき立てる。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、920–921頁(コマ171)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日