源氏物語 第46帖 椎本(15)
薫の弔問
中納言殿(薫)は訃報を聞いて、たいそうあっけなく残念で、もう一度心のどかに申し上げるべきことが多く残っていた気がして、世の中全体の有様が思い続けられて、ひどく泣く。宮が「またお会いするのは難しいだろうか」などと言っていたのを、やはりいつもの心でも朝夕の区別もない世のはかなさを人より深く思っていたので、耳慣れて昨日今日のこととは思わなかったのを、返す返すも悔しく悲しく思う。阿闍梨のもとにも、姫君たちへの見舞いもこまやかに申し上げる。このような見舞いなどを寄せる人さえいない有様なので、姫君たちは物も分からない心地にも、薫の長年の心づかいがしみじみありがたかったことなどを思い知る。世間並みの別れでさえ、その時は比べるものがないように誰もが思い惑うもののようなのに、慰める方もなさそうな身で、どのような心地でいるだろうと思いやりながら、後の法事などの然るべきことを推し量って、阿闍梨にも見舞う。こちらにも、老女房たちにかこつけて誦経のことなども気を配る。
- 1中中ちゅう納納な言言ごん殿殿どのにににははは聞聞きききき給給たまひひいててて、、、いといといとあへなくあへなくあえなく口惜口惜くちおしくしくしく、、、今今いま一一ひと度度たび心心こころのどかのどかのどかにてにてにて聞聞きこゆゆゆべかりべかりべかりけるけるける事事こと多多おおううう殘殘のこりりりたるたるたる心地心地ここちしししててて、、、大大おお方方かた世世よののの有有あり樣樣さま思思おもひひいつゞけつゞけつづけられられられててていみじういみじういみじゅう泣泣ないいい給給たまふふう。。。またまたまたあひあひあい見見みむむんことことこと難難かたくくくやややなどなどなどのたまひのたまひのたまいしししををを、、、猶猶なお常常つねののの御心御心みこころにににももも朝朝あさ夕夕ゆうのののへだてへだてへだて知知しらららぬぬぬ世世よのののはかなさはかなさはかなさををを、、、人人ひとよりよりよりけにけにけに思思おもううう給給たまへへえりりりしかしかしかばばば、、、耳耳みみなれなれなれててて昨日昨日きのう今今け日日きょうととと思思おもははわざりざりざりけるけるけるををを、、、かへすがへすかへすがへすかえすがえす飽飽あかかかずずず悲悲かなしくしくしくおぼさおぼさおぼさるるる。。。阿阿あざざざ梨梨りのののもともともとにににももも、、、君君きん達達だちののの御御おんとぶらひとぶらひとぶらいもももこまやかこまやかこまやかににに聞聞きこえええ給給たまふふう。。。かゝるかゝるかかる御御おんとぶらひとぶらひとぶらいなどなどなどまたまたまた音音おとづれづれずれ聞聞きこゆるゆるゆる人人ひとだにだにだになきなきなき御御おん有有あり樣樣さまなれなれなればばば、、、物物ものおぼえおぼえおぼえぬぬぬ御御おん心地心地ここちどもどもどもにににももも、、、年年とし頃頃ごろののの御心御心みこころばへばへばへのののあはれあはれあわれなななめりめりめりしししなどなどなどをををももも思思おもひひい知知しりりり給給たまふふう。。。世世よののの常常つねののの程程ほどののの別別わかれれれだにだにだにさしさしさしあたりあたりあたりてててははは、、、又又また類類たぐひひいなきなきなきやうやうようにににのみのみのみ皆皆みな人人ひとののの思思おもひひい惑惑まどふふうものものものなななめるめるめるををを、、、慰慰なぐさむむむ方方かたなげなげなげなるなるなる御御おん身身みどもどもどもにてにてにていかやういかやういかようなるなるなる心地心地ここちどもどもどもししし給給たまふふうらむらむらんとととおぼしおぼしおぼしやりやりやりつゝつゝつつ、、、のちのちのちののの御御おんわざわざわざなどなどなどあるあるあるべきべきべき事事ことどもどもども推推おしししはかりはかりはかりててて阿阿あざざざ梨梨りにににもももとぶらひとぶらひとぶらい給給たまふふう。。。こゝこゝここにににもももおいおいおい人人びとどもどもどもにににことことことよせよせよせててて御御おん誦誦ず經經きょうなどなどなどののの事事ことももも思思おもひひいやりやりやり聞聞きこえええたまふたまふたまう。。。
現代語訳
中納言殿は訃報をお聞きになって、たいそうあっけなく残念で、もう一度心のどかに申し上げるべきことが多く残っていた心地がして、世の中全体の有様が思い続けられて、ひどくお泣きになる。宮が「またお会いするのは難しいだろうか」などとおっしゃったのを、やはり宮のいつものお心でも、朝夕の区別もない世のはかなさを、人より格別にお思いになっていたので、耳慣れて、昨日今日のこととは思わなかったのを、返す返すも悔しく悲しくお思いになる。阿闍梨のもとにも、姫君たちへのお見舞いも、こまやかに申し上げなさる。このようなお見舞いなどを寄せ申し上げる人さえいないご様子なので、物も分からないお心地にも、薫の長年のお心づかいがしみじみありがたかったことなどを思い知りなさる。世間並みの程度の別れでさえ、その時は、比べるものがないようにばかり誰もが思い惑うもののようなのに、慰める方もなさそうな御身で、どのような心地でいらっしゃるだろうとお思いやりになりながら、後の法事など、然るべきことを推し量って、阿闍梨にもお見舞いなさる。こちらにも、老女房たちにかこつけて、御誦経などのことも気を配り申し上げなさる。
意訳
薫は八の宮の訃報に、もう一度話したかったと悔やみ泣く。宮の「また会うのは難しいか」という言葉を聞き流したことを悔いる。薫は阿闍梨と姫君たちに手厚く見舞い、法事の手配をする。他に見舞う人もない姉妹は、薫の心づかいに感謝する。
語釈・文法注
文法
- 「泣い給ふ」(いみじう泣い給ふ)
- お泣きになる。「泣き」のイ音便。
- 「人よりけに」(人よりけに思う給へりしかば)
- 人よりも格別に。
- 「御誦經」(御誦經などの事も)
- 誦経。死者の冥福を祈って経を読むこと。
解説
薫は八の宮の死を深く悼む。法の友として、また心の父として慕った宮との別れは、薫にとっても大きな喪失であった。
誰も見舞う人のない姉妹にとって、薫の心づかいは唯一の支えである。この時から、薫は姉妹にとって欠かせない存在となっていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、918–919頁(コマ170)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日