源氏物語 第46帖 椎本(7)
薫の昇進と秋の訪問
三の宮(匂宮)だけは、やはり会わずには終わらせまいと思う心が深かった。そうなるべき宿縁だったのだろうか。宰相の中将(薫)はその秋、中納言になった。ますます輝きが増す。世の務めにつけても思うことが多い。どういうことかと気がかりに思い続けていた年月よりも、真相を知った今はかえって心苦しく、亡くなった父(柏木)の昔の有様が思いやられるので、その罪が軽くなるほどの勤行もしたいと思い、あの老女房(弁)を哀れな者と思って、目立たないようにあれこれ紛らわしながら、心を寄せて見舞う。宇治に参ってから久しくなったのを思い出して参上した。七月ばかりになっていた。都にはまだ訪れない秋の気配を、音羽山に近く、風の音もたいそう冷ややかで、槙の山辺もわずかに色づいていて、やはり訪ねてくると趣深く珍しく思われるが、宮はまして普段よりも待ち喜んで、この度は心細げな話をたいそう多くする。「私がいなくなった後、この姫君たちを然るべきついでにも見舞い、見捨てない者として数えてください」などと仕向けるように申し上げると、薫は「一言でも承っておりましたので、決して怠るつもりはございません。世の中に心をとどめまいと身辺を省いております身で、何事も頼もしくない残り少ない将来ではございますが、そのような者でも生き長らえております限りは、変わらぬ志をご覧に入れたいと存じます」などと申し上げるので、宮はたいそううれしいと思う。
- 1三三さん宮宮のみやぞぞぞなほなほなお見見みでででははは止止やまままじじじとととおぼすおぼすおぼす御心御心みこころ深深ふかかりかりかりけるけるける。。。さるべきさるべきさるべきにににやややおはしおはしおわしけむけむけん。。。宰宰さい相相しょうののの中中ちゅう將將じょうそのそのその秋秋あき中中ちゅう納納な言言ごんににになりなりなり給給たまひひいぬぬぬ。。。いとゞいとゞいとどにほひにほひにおいまさりまさりまさり給給たまふふう。。。世世よのののいとなみいとなみいとなみににに添添そへへえてててもももおぼすおぼすおぼすことことこと多多おおかりかりかり。。。いかなるいかなるいかなることことことととといぶせくいぶせくいぶせく思思おもひひい渡渡わたりりりししし年年とし比比ごろよりよりよりももも心苦心苦こころぐるしうしうしゅうててて、、、過過すぎぎぎ給給たまひひいにににけむけむけんいにしへいにしへいにしえざまざまざまののの思思おもひひいやらやらやらるゝるゝるるににに、、、罪罪つみ輕輕かるくくくなりなりなり給給たまふふうばかりばかりばかり、、、おこなひおこなひおこないもももせせせまほしくまほしくまほしくなむなむなん、、、かのかのかのおいおいおい人人びとをををばばば哀哀あわれなるなるなるものものものににに思思おもひひいおきおきおきててて、、、いちじるきいちじるきいちじるきさまさまさまならならならずずず、、、とかくとかくとかくまぎらはしまぎらはしまぎらわしつゝつゝつつ心心こころよせよせよせとぶらひとぶらひとぶらい給給たまふふう。。。宇宇う治治じにににまうでまうでもうでゝゝて久久ひさしうしうしゅうなりなりなりにににけるけるけるををを思思おもひひい出出いでででゝゝて參參まいりりり給給たまへへえりりり。。。七七ふみ月月ずきばかりばかりばかりににになりなりなりにににけりけりけり。。。都都みやこにににはははまだまだまだ入入いりりりたゝたゝたたぬぬぬ秋秋あきののの氣色氣色けしきををを音音おと羽羽はののの山山やま近近ちかくくく風風かぜののの音音おともももいといといとひやゝかひやゝかひややかににに槇槇まきののの山山やま邊邊べももも僅僅わずかににに色色いろづきづきずきててて、、、猶猶なお尋尋たずねねね來來きたるたるたるにににをかしうをかしうおかしゅう珍珍めずらしうしうしゅうおぼゆるおぼゆるおぼゆるををを、、、
- 2宮宮みやはははまいてまいてまいて例例れいよりよりよりももも待待まちちち喜喜よろこびびび聞聞きこえええ給給たまひひいててて、、、このこのこの度度たびははは心心こころぼそげぼそげぼそげなるなるなる物物もの語語がたりいといといと多多おおくくく申申もうししし給給たまふふう。。。「「「なからなからなからむむん後後のちこのこのこの君君きん達達だちをををさるべきさるべきさるべきものものものゝゝのたよりたよりたよりにににもももとぶらひとぶらひとぶらい、、、思思おもひひい捨捨すてててぬぬぬものものものにににかずまへかずまへかずまえ給給たまへへえ」」」などなどなどおもむけおもむけおもむけつゝつゝつつ聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、「「「ひとひとひとことことことにてにてにてももも承承うけたまわりりりおきおきおきてててしかしかしかばばば更更さらににに思思おもううう給給たまへへえをこたるをこたるおこたるまじくまじくまじくなむなむなん。。。世世よののの中中なかににに心心こころをををとゞめとゞめとどめじじじとととはぶきはぶきはぶき侍侍はべるるる身身みにてにてにて、、、何何なに事事ごともももたのもしげたのもしげたのもしげなきなきなきおひおひおいさきさきさきのののずくなさずくなさずくなさににになむなむなん侍侍はべれれれどどど、、、さるさるさる方方かたにてにてにてもももめぐらひめぐらひめぐらい侍侍はべらららむむんかぎりかぎりかぎりははは變變かわらららぬぬぬ志志こころざしををを御御ご覽覽らんじじじ知知しらららせせせむむんとととなむなむなん思思おもううう給給たまふるふるうる」」」などなどなど聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、いといといとうれしうれしうれしとととおぼいおぼいおぼいたりたりたり。。。
現代語訳
三の宮だけは、やはり会わずには終わらせまいとお思いになるお心が深かった。そうなるべき宿縁でいらっしゃったのだろうか。宰相の中将は、その秋、中納言におなりになった。ますます輝きが増していらっしゃる。世の務めにつけても、お思いになることが多い。どういうことかと気がかりに思い続けていた年月よりも、かえって心苦しくて、お亡くなりになったという父の昔の有様が思いやられるので、その罪が軽くなりなさるほどの勤行もしたいと思い、あの老女房を哀れな者と思っておいて、目立たないように、あれこれと紛らわしながら、心を寄せてお見舞いなさる。宇治に参ってから久しくなったのを思い出して、参上なさった。七月ばかりになっていた。都にはまだ訪れない秋の気配を、音羽山に近く、風の音もたいそう冷ややかで、槙の山辺もわずかに色づいていて、やはり訪ねてくると趣深く珍しく思われるのに、
宮はまして普段よりも待ち喜び申し上げなさって、この度は心細げなお話をたいそう多く申し上げなさる。「私がいなくなった後、この姫君たちを然るべきついでにもお見舞いくださり、見捨てない者として数えてください」などと仕向けながら申し上げなさると、薫は「一言でも承っておきましたので、決して怠るつもりはございません。世の中に心をとどめまいと身辺を省いております身で、何事も頼もしくない、残り少ない将来ではございますが、そのような者としてでも生き長らえております限りは、変わらぬ志をご覧に入れたいと存じます」などと申し上げなさるので、宮はたいそううれしいとお思いになった。
意訳
匂宮は宇治の姫君への思いを深める。薫は秋に中納言となり、出生の秘密を知った今、実父柏木の罪を軽くする勤行をしたいと思い、弁を密かに世話する。七月、宇治を訪れた薫に、八の宮は娘たちの後見を改めて頼み、薫は変わらぬ志を誓う。
語釈・文法注
文法
- 「罪輕くなり給ふばかり」(罪輕くなり給ふばかり、おこなひもせまほしく)
- 柏木の罪が軽くなるほどの勤行。薫は実父の後世を弔いたいと願う。
- 「音羽の山」(音羽の山近く)
- 音羽山。京と宇治の間にある山。
- 「おもむけつゝ」(などおもむけつゝ聞え給へば)
- 仕向けながら、それとなく促しながら。
解説
薫は出生の秘密を知り、実父柏木の後世を弔う勤行を思い立つ。秘密を知ったことで、薫の道心はいっそう深まった。弁を密かに世話するのも、父への思いからである。
八の宮は、薫に娘たちを託す思いを「おもむけつゝ」伝える。宮は婿として託したいのだが、薫は後見人としての約束と受け取る。この微妙なずれが、後の物語の展開に影響する。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、912–913頁(コマ167)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日