源氏物語 第46帖 椎本(5)
匂宮の山桜の歌
匂宮はまして気軽でない身分を窮屈に思っているので、このような折にだけでもと我慢しきれず、趣深い花の枝を折らせて、お供の上童の愛らしい者に持たせて姫君たちに贈る。山桜の匂うあたりに訪ねて来て、同じ挿頭を折ったことよ、野を親しく思って、とあったろうか。返事はどうしたものかと、姫君たちは申し上げにくく思い悩む。「このような折のことは、わざとらしく扱って、時間が経つのもかえって憎らしいことだと、昔はしておりました」などと老女房たちが申し上げるので、八の宮は中の君に書かせる。挿頭を折る花のついでに、山人の垣根を素通りなさった春の旅人よ、野を分けて特にお訪ねでもなく、とたいそう美しく洗練された筆跡で書いた。本当に川風も分け隔てなく吹き通う楽の音は趣深く、合奏をする。帝の仰せで藤大納言が迎えに参った。人々が大勢集まり、騒がしく競うように帰っていく。若い人々は名残惜しく振り返ってばかりいた。匂宮はまた然るべき機会にと思う。花盛りで、四方の霞も眺めやるほどの見どころがあるので、漢詩も和歌も多く作られたが、煩わしいので尋ねても聞かないのである。騒がしくて思うままにも言い寄れずに終わったのを、匂宮は物足りなく思って、手引きがなくても手紙はいつも届いた。八の宮も「やはりお返事を差し上げなさい。わざと懸想めいた扱いはしまい。かえって心ときめかせることにもなろう。たいそう色好みの親王なので、こうした人がいるとお聞きになって、そのまま放っておけない慰みなのだろう」と勧める。時々中の君が返事を申し上げる。大君はこうしたことには、冗談にも関わろうとしない思慮深さである。
- 1かのかのかの宮宮みやはははまいてまいてまいてかやすきかやすきかやすきほどほどほどならならならぬぬぬ御御おん身身みをををさへさへさへ處處ところせくせくせくおぼさおぼさおぼさるゝるゝるるををを、、、かゝるかゝるかかる折折おりにににだにだにだにととと忍忍しのびびびかねかねかね給給たまひひいててて、、、おもしろきおもしろきおもしろき花花はなののの枝枝えだををを折折おらららせせせ給給たまひひいててて、、、御御おん供供ともにににさぶらふさぶらふさぶらう上上うえわらはわらはわらわのののをかしきをかしきおかしきしししててて奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。「「「山山やま櫻櫻ざくらにほふにほふにおうあたりあたりあたりににに尋尋たずねねねきききててておなじおなじおなじかざしかざしかざしををを折折おりりりてててけるけるけるかなかなかな。。。野野のをををむつましみむつましみむつましみ」」」とととやややありありありけむけむけん。。。御御おんかへりかへりかえりはははいかでいかでいかでかかかはははなどなどなど、、、聞聞きこえええにくゝにくゝにくくおぼしおぼしおぼしわづらふわづらふわずらう。。。「「「かゝるかゝるかかるをりをりおりのののことことこと、、、わざとわざとわざとがましくがましくがましくもてもてもてなしなしなし、、、程程ほどののの經經ふるるるもももなかなかなかなかなかなかにくきにくきにくきことことことににになむなむなんししし侍侍はべりりりししし」」」などなどなどふるふるふる人人びとどもどもども聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、中中なかののの君君きみにににぞぞぞ書書かかかかせせせ奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。「「「かざしかざしかざしをるをるおる花花はなのののたよりたよりたよりににに山山やまがつがつがつののの垣垣かき根根ねををを過過すぎぎぎぬぬぬ春春はるのののたびたびたび人人びと。。。野野のをををわきわきわきてててしもしもしも」」」ととといといといとをかしげをかしげおかしげにににらうらうしくらうらうしくろうろうしく書書かききき給給たまへへえりりり。。。げにげにげに河河かわ風風かぜももも心心こころわかわかわかぬぬぬさまさまさまににに吹吹ふききき通通かよふふう物物ものののの音音ねどもどもどもおもしろくおもしろくおもしろく遊遊あそびびび給給たまふふう。。。御御おん迎迎むかえににに藤藤とう大大だい納納な言言ごん、、、仰仰おおせ言言ごとにてにてにて參參まいりりり給給たまへへえりりり。。。人々人々ひとびとあまたあまたあまた參參まいりりり集集つどひひい、、、物物ものさわがしくさわがしくさわがしくてててきほひきほひきおい歸歸かえりりり給給たまふふう。。。若若わかききき人々人々ひとびと飽飽あかかかずずずかへりみかへりみかえりみのみのみのみせせせられられられけるけるける。。。宮宮みやははは又又またさるべきさるべきさるべきついでついでついでしししてててとととおぼすおぼすおぼす。。。
- 2花花はなざかりざかりざかりにてにてにて、、、四四よ方方もののの霞霞かすみもももながめながめながめやるやるやる程程ほどののの見見み所所どころあるあるあるににに、、、からからからのののもももやまとやまとやまとのののももも歌歌うたどもどもども多多おおかれかれかれどどど、、、うるさくうるさくうるさくててて尋尋たずねねねももも聞聞きかかかぬぬぬなりなりなり。。。物物ものさわがしくさわがしくさわがしくててて思思おもふふうまゝまゝままにににもももえええいひいひいいやらやらやらずずずなりなりなりにににしししををを飽飽あかかかずずず宮宮みやはははおぼしおぼしおぼしててて、、、しるべしるべしるべなくなくなくてててももも御御おん文文ふみははは常常つねにににありありありけるけるける。。。宮宮みやももも「「「猶猶なお聞聞きこえええたまへたまへたまえ。。。わざとわざとわざとけさうけさうけそうだちだちだちてててももももてもてもてなさなさなさじじじ。。。なかなかなかなかなかなか心心こころ時時ときめきめきめきにににもももなりなりなりぬぬぬべしべしべし。。。いといといとすきすきすき給給たまへへえるるるみこみこみこなれなれなればばばかゝるかゝるかかる人人ひとなどなどなど聞聞きききき給給たまふふうががが、、、猶猶なおもももあらあらあらぬぬぬすさびすさびすさびなめりなめりなめり」」」とととそゝのかしそゝのかしそそのかし給給たまふふう。。。時々時々ときどき中中なかののの君君きみぞぞぞ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。姫姫ひめ君君ぎみはははかやうかやうかようのののことことこと、、、たはぶれたはぶれたわぶれにににももももてもてもてはなれはなれはなれ給給たまへへえるるる御心御心みこころ深深ふかさささなりなりなり。。。
現代語訳
あの宮(匂宮)は、まして気軽でないご身分さえ窮屈にお思いになっているので、このような折にだけでもと我慢しきれずに、趣深い花の枝を折らせなさって、お供にお仕えする上童の愛らしい者に持たせて差し上げなさる。「山桜の匂うあたりに訪ねて来て、同じ挿頭を折ったことです。野を親しく思って」とあったろうか。御返事はどうしたものかなどと、姫君たちは申し上げにくく思い悩みなさる。「このような折のことは、わざとらしく扱って、時間が経つのも、かえって憎らしいことにいたしておりました」などと老女房たちが申し上げるので、宮は中の君にお書かせになる。「挿頭を折る花のついでに、山人の垣根を素通りなさった春の旅人ですこと。野を分けて特にお訪ねになったわけでもなく」と、たいそう美しく洗練されてお書きになった。本当に川風も分け隔てなく吹き通う楽の音など、趣深く合奏なさる。帝の仰せで、藤大納言がお迎えに参上なさった。人々が大勢参り集まり、騒がしく競うようにお帰りになる。若い人々は名残惜しく、振り返ってばかりいた。匂宮は、また然るべき機会にとお思いになる。
花盛りで、四方の霞も眺めやるほどの見どころがあるので、漢詩も和歌も多く作られたけれど、煩わしいので尋ねても聞かないのである。騒がしくて思うままにも言い寄れずに終わったのを、匂宮は物足りなくお思いになって、手引きがなくても、お手紙はいつも届いた。八の宮も「やはりお返事を差し上げなさい。わざと懸想めいた扱いはしないでおこう。かえって心ときめかせることにもなるだろう。たいそう色好みでいらっしゃる親王なので、このような人がいるとお聞きになって、そのまま放っておけない慰みなのだろう」とお勧めになる。時々中の君がお返事を申し上げなさる。姫君(大君)は、このようなことには、冗談にも関わろうとなさらないお心の深さである。
意訳
匂宮は山桜の枝に歌を添えて姫君たちに贈り、中の君が父の勧めで返歌する。匂宮は帰京後も手紙を送り続け、八の宮も軽い気持ちで返事をさせる。返事は中の君が書き、大君は関わろうとしない。
語釈・文法注
文法
- 「上わらは」(御供にさぶらふ上わらはのをかしき)
- 殿上童。宮中に出仕する貴族の子弟。
- 「野をむつましみ」(野をむつましみ)
- 「春の野にすみれ摘みにと来し我ぞ野をなつかしみ一夜寝にける」(万葉集)による。
- 「野をわきてしも」(野をわきてしも)
- 野を分けて特に訪ねたわけでもない、という皮肉を込める。
解説
匂宮と宇治の姫君たちとの文通が始まる。返事を書くのは中の君で、大君は関わらない。この役割分担が、後に匂宮と中の君、薫と大君という組み合わせを生む。
八の宮は、匂宮の手紙を色好みの親王の慰みと軽く見て、返事を許す。しかしこの軽い気持ちが、やがて娘たちの運命を大きく変えることになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、910–911頁(コマ166)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日