古典ライブラリー

源氏物語 第46帖 椎本(4)

薫たちの宇治訪問

登場人物:薫・八の宮

中将(薫)は八の宮のもとに参る。音楽に心を入れている君達を誘って、舟を漕ぎ出す間、「酣酔楽」を奏でて、水に臨んだ廊に造り下ろした階段の趣向など、それなりにたいそう風情があり由緒ある宮の邸なので、人々は心して舟から降りる。ここはまた趣が変わって、山里びた網代屏風など、ことさら簡素で見どころのある設えを、客を迎える心づもりで掃き清め、たいそう念入りに整えてある。昔の音色など、またとない名器を、わざわざ用意したというふうでなく次々と取り出して、壱越調で「桜人」を奏でる。主の宮の琴を、こうした機会にと人々は思ったが、宮は箏の琴を、気乗りしない様子で時々合わせるだけである。耳慣れないからだろうか、奥深く趣があると若い人々は感じ入った。土地柄のもてなしをたいそう趣深くして、よそで思っていたよりは、何となく孫王めいた卑しからぬ人々が大勢、王で四位の年配者などが、このように人目を見るべき折だと、前から宮を気の毒に思っていたのだろうか、然るべき者は皆参り集まって、瓶子を取る人も見苦しくなく、それなりに古風で由緒ありげにもてなした。客人たちは、姫君たちが住んでいる様子を思いやって、心を尽くす人もいるだろう。

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引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

中将は八の宮のもとに参上なさる。音楽に心を入れている君達を誘って、舟を漕ぎ出しなさる間、「酣酔楽」を奏でて、水に臨んだ廊に造り下ろした階段の趣向など、それなりにたいそう風情があり由緒ある宮の邸なので、人々は心して舟からお降りになる。ここはまた趣が変わって、山里びた網代屏風などの、ことさら簡素にして見どころのあるお設えを、客を迎える心づもりで掃き清めて、たいそう念入りにしつらえていらっしゃった。昔の音色など、たいそうまたとない名器を、わざわざ用意したというふうではなく、次々と取り出しなさって、壱越調の調子で「桜人」を奏でなさる。主の宮の御琴を、このような機会にと人々は思いなさったが、宮は箏の琴を、気乗りしない様子で時々合わせなさるだけである。耳慣れないせいだろうか、奥深く趣があると若い人々は深く感じ入った。土地柄にふさわしいもてなしをたいそう趣深くなさって、よそで想像していたよりは、何となく孫王めいた卑しからぬ人々が大勢、王で四位の年配者などが、このように人目を見るべき折だと、前々から宮をお気の毒に思い申し上げていたのだろうか、然るべき者は皆参り集まって、瓶子を取る人も見苦しくなく、それなりに古風で由緒ありげにおもてなしなさった。客人たちは、御娘たちが住んでいらっしゃるらしいご様子を思いやりながら、心を尽くす人もいるだろう。

意訳

薫は若い君達を誘い、舟で八の宮を訪れる。八の宮の山荘は簡素ながら趣があり、皆で「桜人」を合奏する。八の宮は箏を少し合わせるだけだが、その音色は奥深い。王族の老人たちも集まってもてなし、客人たちは姫君たちに心を寄せる。

語釈・文法注

文法

「酣醉樂」(酣醉樂遊びて)
雅楽の曲名。
「壹越調」(壹越調のこゝろに櫻人遊び給ふ)
雅楽の調子の一つ。「桜人」は催馬楽の曲名。
「孫王」(なま孫王めく賤しからぬ人あまた)
天皇の孫で王の身分の者。
「瓶子」(瓶子とる人もきたなげならず)
酒を入れる器。酒を注ぐ役。

解説

寂しい八の宮の山荘が、この日ばかりは客人で賑わう。日頃は宮を見捨てていた王族の人々も、この機会に集まってくる。人目を気にする世の人々の姿が、皮肉に描かれている。

八の宮は琴ではなく箏を、気乗りしない様子で弾く。世を捨てた宮の控えめな態度が、かえって奥深い音色を生んでいる。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、908–911頁(コマ165–166)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日