源氏物語 第46帖 椎本(2)
宇治の楽の音
匂宮は慣れない遠出で気分がすぐれず、ここで休もうという気持ちも深いので、ひと休みして、夕方になって楽器を取り寄せて遊ぶ。例によってこのように世間離れした所は水の音も引き立てて、楽の音が澄みまさる心地がして、あの聖の宮(八の宮)の邸にもただ川を渡るほどの距離なので、追い風に吹き寄せられる響きを聞いて、八の宮は昔のことを思い出し、「笛をたいそう見事に吹き通したものだ。誰だろう。昔の六条院(源氏)の笛の音を聞いたのは、たいそう趣深く愛嬌のある音で吹いていらした。これは澄み昇って、大げさな感じが加わっているのは、致仕の大臣(頭中将)の一族の笛の音に似ているようだ」などと独り言を言う。「しみじみと久しくなったものだ。このような遊びもせず、生きているともなく過ごしてきた年月が、それでも多く数えられるのはかいのないことだ」などと言うついでにも、姫君たちの様子が惜しく、こんな山懐に閉じ込めて終わらせたくないと思い続ける。宰相の君(薫)を、同じことなら身近な縁者として婿にしたいと思うが、そうも思い寄らないだろう、まして今風の浅い心の人をどうして、などと思い乱れて、所在なく物思いにふける。
- 1宮宮みやはははならひならひならい給給たまははわぬぬぬ御御おんありきありきありきににに惱惱なやましくましくましくおぼさおぼさおぼされれれててて、、、こゝこゝここにににやすらはやすらはやすらわむむんののの御心御心みこころももも深深ふかけれけれければばば、、、うちうちうちやすみやすみやすみ給給たまひひいててて夕夕ゆうつつつ方方かたぞぞぞ御御おん琴琴ことなどなどなどめしめしめしててて遊遊あそびびび給給たまふふう。。。例例れいのののかうかうこう世世よばなればなればなれたるたるたる所所ところははは水水みずののの音音おとももももてもてもてはやしはやしはやしててて、、、物物ものののの音音ねすみすみすみまさるまさるまさる心地心地ここちしししててて、、、かのかのかのひじりひじりひじりののの宮宮みやにににももも唯唯たださしさしさしわたるわたるわたる程程ほどなれなれなればばば、、、追追おい風風かぜににに吹吹ふききき來來くるるるひゞきひゞきひびきををを聞聞きききき給給たまふふうににに、、、昔昔むかしののの事事ことおぼしおぼしおぼし出出いでででられられられててて、、、「「「笛笛ふえをををいといといとをかしくをかしくおかしくももも吹吹ふきききとほしとほしとおしたるたるたるかなかなかな。。。誰誰たれならならならむむん。。。昔昔むかしののの六六ろく條條じょう院院いんののの御御おん笛笛ふえののの音音ね聞聞ききききしししはははいといといとをかしげをかしげおかしげににに愛愛あい敬敬ぎょうづきづきずきたるたるたるねねねにににこそこそこそ吹吹ふききき給給たまひひいしかしかしか。。。これこれこれははは澄澄すみみみのぼりのぼりのぼりててて、、、ことごとしきことごとしきことごとしきけけけのののそひそひそいたるたるたるははは、、、致致ち仕仕じのののおとゞおとゞおとどののの御御おんぞうぞうぞうののの笛笛ふえののの音音ねにににこそこそこそ似似にたたたなれなれなれ」」」などなどなどひとりごちひとりごちひとりごちおはすおはすおわす。。。「「「哀哀あわれににに久久ひさしくしくしくなりなりなりにににけるけるけるややや。。。かやうかやうかようののの遊遊あそびなどなどなどもももせせせででで、、、あるあるあるにににもももあらあらあらででですぐしすぐしすぐし來來きにににけるけるける年年とし月月つきののの、、、さすがさすがさすがににに多多おおくくく算算かぞへへへらるゝらるゝらるるこそこそこそかひかひかいなけれなけれなけれ」」」などなどなどのたまふのたまふのたまうついでついでついでにににももも、、、姬姬ひめ君君ぎみたちたちたちののの御御おん有有あり樣樣さまあたらしくあたらしくあたらしく、、、かゝるかゝるかかる山山やまふところふところふところにににひきひきひき籠籠こめめめてててははは、、、止止やまままずずずもももがながながなとととおぼしおぼしおぼし續續つづけけけらるらるらる。。。宰宰さい相相しょうののの君君きみののの、、、同同おなじうじうじゅうははは近近ちかきききゆかりゆかりゆかりにてにてにて見見みまほしげまほしげまほしげなるなるなるををを、、、さしもさしもさしも思思おもひひいよるよるよるまじかまじかまじかめりめりめり、、、まいてまいてまいて今今いまやうやうようののの心心こころ淺淺あさからからからむむん人人ひとをををばばばいかでいかでいかでかかかはははなどなどなどおぼしおぼしおぼし亂亂みだれれれててて、、、つれづれつれづれつれずれとととながめながめながめたまふたまふたまう。。。
現代語訳
宮は慣れていらっしゃらない遠出に気分がすぐれずお思いになって、ここで休もうというお気持ちも深いので、ひと休みなさって、夕方になって楽器などを取り寄せて遊びなさる。例によって、このように世間離れした所は水の音も引き立てて、楽の音が澄みまさる心地がして、あの聖の宮にも、ただ川を渡るほどの距離なので、追い風に吹き寄せられる響きをお聞きになると、八の宮は昔のことが思い出されて、「笛をたいそう見事に吹き通したものだなあ。誰だろう。昔の六条院の御笛の音を聞いたのは、たいそう趣深く愛嬌のある音でお吹きになった。これは澄み昇って、大げさな感じが加わっているのは、致仕の大臣のご一族の笛の音に似ているようだ」などと独り言をおっしゃる。「しみじみと久しくなってしまったことよ。このような遊びなどもせずに、生きているともなく過ごしてきた年月が、それでもやはり多く数えられるのはかいのないことだ」などとおっしゃるついでにも、姫君たちのご様子が惜しく、このような山懐に閉じ込めては終わらせたくないものだとお思い続けになる。宰相の君を、同じことなら身近な縁者として婿にしたいようだが、そうも思い寄るまい、まして今風の浅い心の人をどうして、などと思い乱れなさって、所在なく物思いにふけっていらっしゃる。
意訳
匂宮一行の管絃の音が川を越えて八の宮の山荘に聞こえ、八の宮は笛の音から頭中将の一族を思い出す。姫君たちを山里に埋もれさせたくないと思い、薫を婿にしたいと願うが、望めないと思い乱れる。
語釈・文法注
文法
- 「致仕のおとゞの御ぞう」(致仕のおとゞの御ぞうの笛の音)
- 頭中将の一族。笛を吹いているのは、頭中将の孫にあたる者か。柏木も笛の名手であった。
- 「あたらしく」(姬君たちの御有樣あたらしく)
- 惜しい、もったいない。
- 「今やうの心淺からむ人」(まいて今やうの心淺からむ人を)
- 今風の、心の浅い人。匂宮のような色好みの貴公子を暗に指す。
解説
八の宮は笛の音から、源氏と頭中将の時代を思い出す。世を捨てたはずの八の宮の心に、華やかな昔の記憶がよみがえる。
八の宮は薫を婿にと願うが、薫は道心の人なので望めないと思う。一方で「今やうの心淺からむ人」は避けたいと思う。この思いが、後の遺言で姫君たちを縛ることになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、908–909頁(コマ165)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日