源氏物語 第41帖 幻(14)
御仏名と年の暮れ
御仏名も今年限りと思うからか、いつもより特に錫杖の声々などがしみじみと聞こえる。行く末長いことを祈るのも、仏がお聞きになるのはきまりが悪い。雪がたいそう降って本格的に積もった。導師が退出するのを御前に召して、杯なども通常の作法より格別にして、特に禄などを与える。長年参上して朝廷にも仕え、源氏も見慣れた導師の頭がだんだん白くなって控えているのも哀れに思う。いつものように親王たちや上達部が大勢参上する。梅の花がわずかにほころび始めて雪に引き立てられているのが趣深く、管絃の遊びもあってよさそうだが、やはり今年までは楽の音も涙にむせびそうな気がするので、時節に合った詩歌を口ずさむくらいにする。導師の杯のついでに源氏は、春までの命も分からないので、雪の中で色づいた梅を今日挿頭にしようと詠む。導師は、千年の春を見るはずの花と祈っておいて、我が身は雪とともに古びてしまったと返す。人々も多く詠んだが書き漏らした。その日、源氏は初めて人前に姿を現した。その容貌は昔の輝きにもいっそう増して、比類なく見事に見えるのを、この年老いた僧はわけもなく涙をこぼす。年が暮れたと思うのも心細いのに、若宮(匂宮)が、追儺に音を高く鳴らすには何をさせようと走り回るのも、かわいらしい様子を見ないことになるのだと、何につけても耐えがたい。物思いをして過ぎる月日も知らぬ間に、年も我が世も今日で尽きてしまうのかと詠む。元日の行事は例年より格別にするよう指図し、親王たちや大臣への引出物、人々への禄なども、またとないほど用意したという。

- 1御御おん佛佛ぶつ名名みょうももも今今こ年年としばかりばかりばかりにににこそこそこそはははとととおぼせおぼせおぼせばばばにににややや、、、常常つねよりよりよりもももことことことにににさくぢやうさくぢやうしゃくじょうののの聲聲こえ々々ごえなどなどなどあはれあはれあわれにににおぼさおぼさおぼさるるる。。。行行ゆくくく末末すえながきながきながきことことことををを希希ねがふふうももも佛佛ほとけののの聞聞きききき給給たまははわむむんことことことかたはらいたしかたはらいたしかたわらいたし。。。雪雪ゆきいたういたういとうふりふりふりてててまめやかまめやかまめやかににに積積つもりりりにににけりけりけり。。。導導どう師師しのののまかづるまかづるまかずるををを御御お前前まえにににめしめしめしてててさかづきさかづきさかずきなどなどなど常常つねののの作作さ法法ほうよりよりよりもももさしさしさしわかわかわかせせせ給給たまひひいててて殊殊ことににに祿祿ろくなどなどなどたまはすたまはすたまわす。。。年年とし比比ごろ久久ひさしくしくしくまゐりまゐりまいり公公おおやけにににももも仕仕つこうううまつりまつりまつりててて院院いんにににももも御御ご覽覽らんじじじ馴馴なれれれたるたるたる御御おん導導どう師師しののの頭頭かしらはははやうやうやうやうようよう色色いろかはりかはりかわりててて侍侍さぶらふふうももも哀哀あわれにににおぼさおぼさおぼさるるる。。。例例れいののの宮宮みや達達たち上上かん達達だち部部めなどなどなどあまたあまたあまた參參まいりりり給給たまへへえりりり。。。梅梅うめののの花花はなのののわづかわづかわずかににに氣色氣色けしきばみばみばみはじめはじめはじめててて雪雪ゆきにににもてもてもてはやさはやさはやされれれたるたるたる程程ほどをかしきをかしきおかしきををを、、、御御おんあそびあそびあそびなどなどなどもももありありありぬぬぬべけれべけれべけれどどど猶猶なお今今こ年年としまでまでまでははは物物ものののの音音ねもももむせびむせびむせびぬぬぬべきべきべき心地心地ここちししし給給たまへへえばばば時時ときににによりよりよりたるたるたるものものものうちうちうち誦誦ずじじじなどなどなどばかりばかりばかりぞぞぞせせせさせさせさせ給給たまふふう。。。まことまことまことややや導導どう師師しののの盃盃さかずきのののついでついでついでににに、、、「「「春春はるまでまでまでののの命命いのちもももしらしらしらずずず雪雪ゆきのののうちうちうちにににいるづくいるづくいるずく梅梅うめをををけふけふきょうかざしかざしかざしてててむむん」」」。。。御御おんかへしかへしかへし、、、「「「千千ち世世よののの春春はる見見みるるるべきべきべき花花はなととといのりいのりいのりおきおきおきててて我我わががが身身みぞぞぞ雪雪ゆきとととともともともにににふりふりふりぬるぬるぬる」」」。。。人々人々ひとびとおほくおほくおおくよみよみよみおきおきおきたれたれたれどどど、、、もらしもらしもらしつつつ。。。そのそのその日日ひぞぞぞ出出いででで給給たまへへえるるる。。。御御おんかたちかたちかたち昔昔むかしののの御御おん光光ひかりにににももも又又またおほくおほくおおくそひそひそいてててありがたくありがたくありがたくめでたくめでたくめでたく見見みえええ給給たまふふうををを、、、このこのこのふりふりふりぬるぬるぬるよはひよはひよわいののの僧僧そうはははあいなうあいなうあいのう淚淚なみだもももとゞめとゞめとどめざりざりざりけりけりけり。。。年年とし暮暮くれれれぬぬぬとととおぼすおぼすおぼすももも心心こころぼそきぼそきぼそきににに若若わか宮宮みやのののなやらはなやらはなやらわむむんににに音音おとたかゝるたかゝるたかかるべきべきべきことことことなになになにわざわざわざをををせせせさせさせさせむむんととと走走はしりりりありきありきありき給給たまふふうもももをかしきをかしきおかしき御御おんありさまありさまありさまををを見見みざらざらざらむむんことことことゝゝと、、、よろづよろづよろずににに忍忍しのびびびがたしがたしがたし。。。「「「物物もの思思おもふふうととと過過すぐるぐるぐる月月つき日日ひもももしらしらしらぬぬぬまにまにまに年年としももも我我わががが世世よもももけふけふきょうやややつきつきつきぬるぬるぬる」」」。。。朔朔ついたちのののほどほどほどのののことことこと常常つねよりよりよりことなることなることなるべくべくべくとととおきておきておきてさせさせさせたまふたまふたまう。。。みこみこみこたちたちたち大大おとど臣臣どののの御御おん引引ひき出出で物物もの品品しな々々じなののの祿祿ろくどもどもどもなどなどなど二二になうなうのうおぼしおぼしおぼしまうけまうけもうけてててとととぞぞぞ。。。
現代語訳
御仏名も、今年限りのことだとお思いになるからだろうか、いつもよりも特に、錫杖の声々などがしみじみとお思いになる。行く末長いことを祈るのも、仏がお聞きになるのはきまりが悪い。雪がたいそう降って、本格的に積もった。導師が退出するのを御前にお召しになって、杯なども通常の作法よりも格別になさって、特に禄などをお与えになる。長年久しく参上して朝廷にもお仕え申し上げ、院(源氏)もご覧になり馴れていらっしゃる御導師の頭が、だんだん色が変わって白くなってお控えしているのも、哀れにお思いになる。いつものように親王たちや上達部などが大勢参上なさった。梅の花がわずかにほころび始めて、雪に引き立てられている様子が趣深いので、管絃の遊びなどもあってよさそうだけれど、やはり今年までは、楽の音も涙にむせびそうな気がなさるので、時節に合った詩歌を口ずさみなどすることぐらいをおさせになる。そういえば、導師に杯を賜るついでに、「春までの命も分からないので、雪の中で色づき始めた梅を、今日挿頭にしよう」。導師のお返し、「千年の春を見るはずの花と祈っておいて、我が身は雪とともに古びてしまいました」。人々も多く詠み置いたけれど、書き漏らした。その日、源氏は初めて人前にお出になった。御容貌は、昔の御光にもいっそう多く増して、比類なく見事にお見えになるのを、この年老いた僧は、わけもなく涙もとめられなかった。年が暮れてしまったとお思いになるのも心細いのに、若宮(匂宮)が「追儺をするのに、音を高く立てるには、何をさせようか」と走り回っていらっしゃるのも、このかわいらしいご様子を見ないことになるのだと、何事につけても耐えがたい。「物思いをして過ぎてゆく月日も知らないうちに、年も我が世も、今日で尽きてしまうのだろうか」。元日の頃の行事は、例年よりも格別にするようにとお指図なさる。親王たちや大臣への御引出物、人々への品々の禄なども、またとないほどご用意なさったということである。
意訳
年の暮れ、御仏名で源氏は久しぶりに人前に姿を現し、その輝く美しさに老僧は涙する。源氏は、年も我が世も今日で尽きるのかと詠み、元日の準備を格別に整えさせる。
語釈・文法注
文法
- 「御佛名」(御佛名も今年ばかりにこそは)
- 十二月に三日間、諸仏の名号を唱えて一年の罪を懺悔する法会。
- 「さくぢやう」(さくぢやうの聲々)
- 錫杖。僧が持つ杖。法会で錫杖を振りながら経文を唱える。
- 「いるづく」(雪のうちにいるづく梅を)
- 底本の表記のまま。「いろづく」(色づく)の意。
- 「なやらはむ」(若宮のなやらはむに)
- 追儺。大晦日の夜に鬼を追い払う行事。
- 「年も我が世もけふやつきぬる」(年も我が世もけふやつきぬる)
- 一年の終わりと、自分の俗世での生涯の終わりとを重ねる。
解説
一年にわたる源氏の悲しみは、御仏名の日に区切りを迎える。源氏は久しぶりに人前に姿を現し、その美しさは昔の光にもまさって見えた。光源氏が物語の表舞台に姿を見せるのは、これが最後である。
「年も我が世もけふやつきぬる」と詠んで、源氏の物語は幕を閉じる。この後、源氏は出家し、やがて世を去ったと次の帖で語られる。元日の準備を格別に整えさせる源氏の姿には、この世への最後の心遣いが感じられる。
幻の帖は、紫の上を失った源氏の一年を、四季の移ろいとともに描いた。春の花、夏の蛍、秋の雁、冬の雪と、季節が巡るたびに源氏の悲しみは新たになる。物語は、光源氏の退場をもって第二部を終える。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、836–838頁(コマ129–130)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日