源氏物語 第41帖 幻(9)
葵祭の日
賀茂祭の日、源氏はたいそう所在なくて、今日は祭見物だと人々は心地よさそうだろうと、賀茂の社の様子などを思いやる。女房たちはどんなに物足りないだろう、里にこっそり出て見物しなさいなどと言う。中将の君が東面でうたた寝しているのを、源氏が歩いて行って見ると、たいそう小柄で美しい様子で起き上がる。頬のあたりが華やかに匂う顔を隠して、少しふくらんだ髪のかかり具合などもたいそう美しい。紅の黄ばんだ色を帯びた袴、萱草色の単衣、たいそう濃い鈍色に黒い衣などをきちんとではなく重ねて、裳や唐衣も脱ぎ滑らせていたのを、あれこれ引き掛けたりするうちに、源氏は傍らに置いてあった葵を取って、何と言ったかな、この名も忘れてしまったと言うと、中将の君は、なるほど、寄るべの水に水草が生えるほど古びてしまったのですね、今日の挿頭の名(逢う日)さえお忘れになるとはと、恥じらって申し上げる。源氏はもっともだと気の毒に思って、だいたいは思い捨ててしまった世だが、葵はやはり罪を犯して摘んでしまいそうだと詠むなど、この人一人だけは思い放さない様子である。

- 1祭祭まつりののの日日ひいといといとつれづれつれづれつれずれにてにてにて今今け日日きょうははは物物もの見見みるるるとてとてとて人々人々ひとびと心地心地ここちよげよげよげならならならむむんかしかしかしとてとてとてみみみ社社やしろのののありさまありさまありさまなどなどなどおぼしおぼしおぼしやるやるやる。。。「「「女房女房にょうぼうなどなどなどいかにいかにいかにさうざうしからさうざうしからそうぞうしからむむん。。。里里さとににに忍忍しのびびびててて出出いでででゝゝて見見みよよよかしかしかし」」」などなどなどのたまふのたまふのたまう。。。中中ちゅう將將じょうののの君君きみひんがしひんがしひんがしおもておもておもてにににうたゝうたゝうたたねねねしししたるたるたるををを步步あゆみみみおはしおはしおわしててて見見み給給たまへへえれれればばばいといといとさゝやかさゝやかささやかにににをかしきをかしきおかしきさまさまさましししててて起起おききき上上あがりりりたりたりたり。。。つらつきつらつきつらつき花花はなやかやかやかににに匂匂におひひいたるたるたる顏顏かおもてもてもてかくしかくしかくしててて少少すこしししふくだみふくだみふくだみたるたるたる髮髮かみのののかゝりかゝりかかりなどなどなどいといといとをかしげをかしげおかしげなりなりなり。。。紅紅くれないのののきばみきばみきばみたるたるたるけけけそひそひそいたるたるたる袴袴はかま、、、くわんざうくわんざうかんぞう色色いろのののひとへひとへひとえいといといと濃濃こききき鈍鈍にび色色いろににに黑黑くろきききなどなどなどうるはしからうるはしからうるわしからずずず重重かさなりなりなりててて、、、裳裳も、、、唐唐から衣衣ぎぬもももぬぎぬぎぬぎすべしすべしすべしたりたりたりけるけるけるをををとかくとかくとかくひきひきひきかけかけかけなどなどなどするするするににに、、、葵葵あおいををを傍傍かたわらににに置置おきききたりたりたりけるけるけるをををとりとりとり給給たまひひいててて「「「いかにいかにいかにとととかかかややや、、、このこのこの名名なこそこそこそ忘忘わすれれれにににけれけれけれ」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「さささもももこそこそこそはははよるべよるべよるべののの水水みずにににみみみ草草くさゐゐいめめめけふけふきょうのののかざしかざしかざしよよよ名名なさへさへさへわするゝわするゝわするる」」」とととはぢらひはぢらひはじらいててて聞聞きこゆゆゆ。。。げにげにげにととといとほしくいとほしくいとおしくててて、、、「「「大大おおかたかたかたははは思思おもひひい捨捨すてててゝゝてししし世世よなれなれなれどもどもども葵葵あおいはははなほなほなおやややつみつみつみをををかすかすかすべきべきべき」」」などなどなど一一ひと人人りばかりばかりばかりはははおぼしおぼしおぼしはなたはなたはなたぬぬぬけしきけしきけしきなりなりなり。。。
現代語訳
賀茂祭の日、源氏はたいそう所在なくて、今日は祭見物をするということで、人々は心地よさそうにしているだろうよと言って、賀茂の社の様子などを思いやりなさる。「女房たちは、どんなに物足りないことだろう。里にこっそり出て見物しなさい」などとおっしゃる。中将の君が東面でうたた寝しているのを、源氏が歩いていらっしゃってご覧になると、たいそう小柄で美しい様子をして起き上がった。頬のあたりが華やかに匂っている顔を隠して、少しふくらんでいる髪のかかり具合などが、たいそう美しい。紅の黄ばんだ色を帯びた袴、萱草色の単衣、たいそう濃い鈍色に黒い衣などを、きちんとではなく重ねて、裳や唐衣も脱ぎ滑らせていたのを、あれこれ引き掛けたりなどするうちに、源氏は葵を傍らに置いてあったのをお取りになって、「何と言ったかな。この名こそ忘れてしまったよ」とおっしゃると、中将の君は「なるほど、寄るべの水に水草が生えるほど、私はお見捨てられて古びてしまったのですね。今日の挿頭の葵、逢う日という名さえお忘れになるとは」と、恥じらって申し上げる。源氏はもっともだと気の毒に思って、「だいたいは思い捨ててしまった世だけれど、葵(逢う日)はやはり、罪を犯して摘んでしまいそうだ」などと、この人一人だけは思い放さない様子である。
意訳
賀茂祭の日、源氏はうたた寝から起きた中将の君と葵をめぐって歌を詠み交わし、この人だけは思い放さない様子を見せる。
語釈・文法注
文法
- 「くわんざう色」(くわんざう色のひとへ)
- 萱草色。黄みがかった赤色。喪に服する時の色。
- 「よるべの水」(さもこそはよるべの水にみ草ゐめ)
- 神前に供える水。水草が生えるほど古びたと、源氏の訪れのないことを嘆く。
- 「葵」(葵はなほやつみをかすべき)
- 賀茂祭の挿頭。「逢ふ日」をかける。「つみ」に「摘み」と「罪」をかける。
解説
賀茂祭の日、源氏は中将の君と歌を交わす。中将の君は紫の上に仕えた女房で、源氏にとって紫の上の形見のような存在である。うたた寝から起きた中将の君の美しい姿の描写は、喪の中にもほのかな華やぎを添えている。
「葵」は「逢ふ日」に通じる。源氏は、世を思い捨てたが、葵はなお摘んでしまいそうだと詠む。紫の上の形見としての中将の君への情愛が、源氏をこの世につなぎとめている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、832–833頁(コマ127)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日