源氏物語 第41帖 幻(8)
夏の衣更え
それからまたいつもの勤行に夜中になって、昼の御座にたいそう仮そめに寄り臥す。翌朝、明石に手紙を送って、泣く泣く帰ってきたことだ、仮の世はどこも永遠の住処ではないのにと詠む。明石は、昨夜の源氏の様子は恨めしげだったが、このように別人のように呆然としている様子が心苦しいので、我が身のことはさておいて涙ぐむ。雁がいた苗代の水が絶えてからは、映っていた花の影さえ見ませんと返す。いつまでも変わらず趣ある筆跡にも、紫の上は明石を何となく気に障る者と思っていたが、晩年には互いに心ばえを知り合う仲として、安心できる方面では頼り合うように思い交わしながら、それでもひたすら打ち解けるわけではなく、たしなみを持って振る舞っていた心構えを、人はそれほどにも見知らなかったのだなどと源氏は思い出す。せめてひどく寂しい時は、このようにただ一通り顔を出す折々もある。昔の源氏の様子とは名残もなく変わってしまったのだろう。夏の御方(花散里)から衣更えの装束を贈るとて、夏衣に裁ち替えた今日だけは、深い思いもいっそう募るのではないでしょうかと詠むと、源氏は、蝉の羽のように薄い衣に替わる今日からは、空蝉のようにはかないこの世がいっそう悲しいと返す。

- 1さてもさてもさても又又また例例れいののの御御おん行行おこなひひいににに夜夜よ中中なかににになりなりなりてててぞぞぞ晝晝ひるのののおましおましおましいといといとかりそめかりそめかりそめににによりよりより臥臥ふししし給給たまふふう。。。つとめてつとめてつとめて御御おん文文ふみ奉奉たてまつりりり給給たまふふうににに、、、「「「なくなくなくなくなくなくももも歸歸かえりりりにににしかしかしかななな假假かりののの世世よはははいづくいづくいずくもももつひつひついのののとこよとこよとこよならならならぬぬぬににに」」」。。。よべよべよべののの御御おん有有あり樣樣さまはははうらめしげうらめしげうらめしげなりなりなりしかしかしかどどどいといといとかくかくかくあらあらあらぬぬぬさまさまさまにににおぼしおぼしおぼしほれほれほれたるたるたる御御おん氣色氣色けしきののの心苦心苦こころぐるしさしさしさににに、、、身身みののの上上うえはははさしさしさしおかおかおかれれれててて淚淚なみだぐまぐまぐまれれれ給給たまふふう。。。「「「雁雁かりがががゐゐいししし苗苗なわ代代しろ水水みずののの絕絕たえええしししよりよりよりうつりうつりうつりししし花花はなのののかげかげかげをををだにだにだに見見みずずず」」」。。。ふりふりふりがたうがたうがとうよしよしよしあるあるある書書かきききざまざまざまにににもももなまなまなまめざましきめざましきめざましきものものものにににおぼしおぼしおぼしたりたりたりしししををを、、、末末すえののの世世よにににはははかたみかたみかたみににに心心こころばせばせばせををを見見みしるしるしるどちどちどちにてにてにてうしろやすきうしろやすきうしろやすき方方かたにににはははうちうちうちたのむたのむたのむべくべくべく思思おもひひいかはしかはしかわし給給たまひひいながらながらながら、、、またまたまたさりとてさりとてさりとてひたぶるひたぶるひたぶるにににはははたたたうちうちうちとけとけとけずずず、、、ゆゑゆゑゆえありありありてててもてもてもてなしなしなし給給たまへへえりりりししし心心こころおきておきておきてををを、、、人人ひとはははさしもさしもさしも見見み知知しらららざりざりざりきききかしかしかしなどなどなどおぼしおぼしおぼし出出いづづず。。。せめてせめてせめてさうざうしきさうざうしきそうぞうしき時時ときはははかやうかやうかようににに唯唯ただ大大おお方方かたにににうちうちうちほのめきほのめきほのめき給給たまふふう折折おり々々おりもももありありあり。。。昔昔むかしののの御御おんありさまありさまありさまにににははは名名な殘殘ごりなくなくなくなりなりなりにににたるたるたるべしべしべし。。。夏夏なつののの御御おん方方かたよりよりより御御おんころもころもころもがへがへがえののの御御おん裝裝そう束束ぞく奉奉たてまつりりり給給たまふふうとてとてとて、、、「「「夏夏なつ衣衣ごろもたちたちたちかへかへかえてててけるけるけるけふけふきょうばかりばかりばかりふかきふかきふかき思思おもひひいもももすゝみすゝみすすみやややはははせせせぬぬぬ」」」。。。御御おんかへしかへしかへし、、、「「「羽羽は衣衣ごろものののうすきうすきうすきにににかはるかはるかわる今今け日日きょうよりよりよりはははうつせみうつせみうつせみののの世世よぞぞぞいとゞいとゞいとど悲悲かなしきしきしき」」」。。。
現代語訳
それからまた、いつもの勤行に夜中になって、昼の御座にたいそう仮そめに寄り臥しなさる。翌朝、明石にお手紙を差し上げなさるのに、「泣く泣く帰ってきたことです。仮の世は、どこも永遠の住処ではないのに」。明石は、昨夜のご様子は恨めしげだったけれど、このようにたいそう別人のように呆然としていらっしゃるご様子の心苦しさに、我が身のことはさておかれて、涙ぐまれなさる。「雁がいた苗代の水が絶えてからは、映っていた花の影さえ見ません」。いつまでも変わらず趣のある書きぶりにも、紫の上は明石を何となく気に障る者とお思いになっていたが、晩年には互いに心ばえを見知り合う仲として、安心できる方面では頼り合うように思い交わしなさりながら、またそうはいっても、ひたすら打ち解けることもなく、たしなみを持って振る舞っていらっしゃった心構えを、人はそれほどにも見知らなかったのだよなどと、源氏はお思い出しになる。せめてひどく寂しい時は、このように、ただ一通り顔をお出しになる折々もある。昔のご様子とは、名残もなく変わってしまったのだろう。夏の御方(花散里)から、御衣更えの御装束を差し上げなさるということで、「夏衣に裁ち替えた今日だけは、深い思いも、いっそう募るのではないでしょうか」。お返事、「蝉の羽のように薄い衣に替わる今日からは、空蝉のようにはかないこの世が、いっそう悲しく思われます」。
意訳
源氏は明石と歌を交わし、紫の上と明石が晩年には互いに認め合いながら、たしなみを保っていたことを思い出す。花散里から夏の衣が届き、源氏は空蝉の世の悲しさを詠む。
語釈・文法注
文法
- 「とこよ」(いづくもつひのとこよならぬに)
- 常世。永遠の住処。
- 「苗代水」(雁がゐし苗代水の絕えしより)
- 雁がいた苗代の水。紫の上をたとえる。「うつりし花」は源氏の姿をいう。
- 「うつせみの世」(うつせみの世ぞいとゞ悲しき)
- 蝉の抜け殻のようにはかない世。夏衣の薄さと重ねる。
解説
源氏は、紫の上と明石の御方の関係を振り返る。かつては気に障る相手と思っていた紫の上も、晩年には明石と互いの心ばえを認め合っていた。しかし完全に打ち解けることはなく、たしなみを保っていた。源氏は、紫の上の心の奥深さを改めて思う。
花散里から届いた夏の衣は、季節の移ろいを告げる。衣更えの日に、源氏はうつせみの世のはかなさを詠む。四季が巡るたびに、紫の上の不在が新たな悲しみとなる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、830–833頁(コマ126–127)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日