源氏物語 第41帖 幻(2)
雪の暁の回想
その頃の事情も知っていて、今も近く仕える女房たちは、ほのかに話し出す者もいる。入道の宮(女三の宮)が六条院に嫁いできた頃、紫の上はその折は少しも顔色には出さなかったが、何かにつけて、つまらないことだと思っていた様子が哀れだった中でも、雪の降った暁に源氏が戸口でためらって、自分の身も冷え入るように思われ、空の様子も激しかった時に、紫の上はたいそう親しみやすくおっとりとしていながら、袖をひどく泣き濡らしていたのを隠して、懸命に紛らわしていた心遣いなどを、源氏は夜通し、夢にでもまたいつの世に会えるだろうかと思い続ける。明け方に、局に下がる女房なのだろう、ひどく積もった雪だこと、と言うのを聞くと、ちょうどあの時の心地がして、傍らの寂しさも言いようもなく悲しい。つらい世から雪のように消えてしまおうと思いながら、思いのほかになお日を過ごしていることだと詠む。

- 1そのそのその折折おりのののことことことののの心心こころをををもももしりしりしり、、、今今いまももも近近ちこううう仕仕つかうまつるうまつるうまつる人々人々ひとびとはははほのぼのほのぼのほのぼの聞聞きこえええ出出いづるづるずるもももありありあり。。。入入にゅう道道どうののの宮宮みやののの渡渡わたりりり始始はじめめめ給給たまへへえりりりししし程程ほどそのそのその折折おりはははしもしもしも色色いろにににははは更更さらににに出出いだしだしだし給給たまははわざりざりざりしかしかしかどどど、、、事事ことにににふれふれふれつゝつゝつつあぢきなあぢきなあじきなのののわざわざわざやややととと思思おもひひい給給たまへへえりりりししし氣色氣色けしきののの哀哀あわれなりなりなりししし中中なかにににももも、、、雪雪ゆき降降ふりりりたりたりたりししし曉曉あかつきににに立立たちちちやすらひやすらひやすらいててて我我わががが身身みもももひえひえひえ入入いるるるやうやうようににに覺覺おぼえええててて、、、空空そらののの氣色氣色けしきはげしかりはげしかりはげしかりしししにににいといといとなつかしうなつかしうなつかしゅうおいらかおいらかおいらかなるなるなるものからものからものから、、、袖袖そでのののいたういたういとう泣泣なきききぬらしぬらしぬらし給給たまへへえりりりけるけるけるをををひきひきひきかくしかくしかくしてててせめてせめてせめてまぎらはしまぎらはしまぎらわし給給たまへへえりりりししし程程ほどののの用用よう意意いなどなどなどををを、、、夜夜よもすがらもすがらもすがら夢夢ゆめにににももも又又またはははいかならいかならいかならむむん世世よにににかかかとととおぼしおぼしおぼし續續つづけけけらるらるらる。。。曙曙あけぼのにににしもしもしも曹曹ぞう司司しにににおるゝおるゝおるる女房女房にょうぼうなるなるなるべしべしべし、、、「「「いみじういみじういみじゅうももも積積つもりりりにににけるけるける雪雪ゆきかなかなかな」」」ととといふいふいうををを聞聞ききききつけつけつけ給給たまへへえるるる、、、唯唯ただそのそのその折折おりののの心地心地ここちするするするににに御御おん傍傍かたわらのののさびしきさびしきさびしきもももいふいふいう方方かたなくなくなくかなしかなしかなし。。。「「「うきうきうき世世よにににはははゆきゆきゆき消消きえええなななむむんととと思思おもひひいつゝつゝつつおもひおもひおもいののの外外ほかににに猶猶なおぞぞぞほどほどほどふるふるふる」」」。。。
現代語訳
その頃の事情も知っていて、今も近くにお仕えしている女房たちは、ほのかに話し出す者もある。入道の宮(女三の宮)が六条院に初めてお移りになった頃、紫の上はその折はまったく顔色にはお出しにならなかったが、何かにつけて、つまらないことだとお思いになっていた様子が哀れだった中でも、雪の降った暁に、源氏が戸口でためらって立っていて、自分の身も冷え入るように思われて、空の様子も激しかった時に、紫の上はたいそう親しみやすく、おっとりとしていらっしゃりながら、袖をひどく泣き濡らしていらっしゃったのを引き隠して、懸命に紛らわしていらっしゃった心遣いなどを、源氏は夜通し、夢にでもまた、いつの世に会えるだろうかとお思い続けになる。明け方に、局に下がる女房なのだろう、「ひどく積もった雪ですこと」と言うのをお聞きつけになると、ちょうどあの時の心地がするので、お傍らの寂しさも言いようもなく悲しい。「つらい世から、雪のように消えてしまおうと思いながら、思いのほかに、なお日を過ごしていることだ」。
意訳
源氏は、女三の宮の降嫁の頃、雪の暁に紫の上が涙を隠して迎えてくれたことを思い出し、雪の歌を詠む。
語釈・文法注
文法
- 「渡り始め給へりし程」(入道の宮の渡り始め給へりし程)
- 女三の宮が六条院に降嫁した頃。若菜上の巻。
- 「立ちやすらふ」(雪降りたりし曉に立ちやすらひて)
- ためらって立ち止まる。源氏が紫の上の部屋の戸口で待たされたこと。
- 「ゆき消えなむ」(うき世にはゆき消えなむと思ひつゝ)
- 「行き」と「雪」をかけ、雪が消えるように世を去ることをいう。
解説
若菜上の巻で、女三の宮のもとから明け方に帰った源氏を、紫の上は涙を隠して迎えた。その雪の暁の記憶が、紫の上を失った源氏の心によみがえる。女房の何気ない一言が、源氏を過去へ引き戻す。
雪の歌は、この世から消えたいと思いながら生き続ける源氏の苦しみを詠む。紫の上の忍耐と思いやりを、源氏は失って初めて深く理解する。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、824–827頁(コマ123–124)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日