源氏物語 第39帖 夕霧(49)
致仕の大臣の文
致仕の大臣はこのことを聞いて、人笑いになるようなことだと嘆く。しばらくはそのまま様子を見ていないで、夕霧にも自然と思うところがあるだろうに、女がこのようにせっかちなのも、かえって軽く思われることだ、まあこう言い出してしまったのなら、どうして折れて急に帰ることがあろう、自然と夕霧の様子や気持ちは見えるだろうと言って、一条宮に蔵人少将を使いに出す。大臣の手紙には、前世の縁があるのか、あなたのことを心にとどめて、哀れとも恨めしいとも聞いています、やはりお見捨てにはなれないでしょうとあり、少将はそれを持ってずかずかと入っていく。南面の簀子に円座を差し出して、女房たちは応対しにくい。宮はまして困ったことだと思う。この少将は、兄弟の中でたいそう容貌がよく感じのよい様子で、ゆったりと見回して、昔を思い出している様子である。参り慣れた気がしてうぶな気持ちもしないが、そのようにはお許しくださらないだろうかなどとだけ、ほのめかす。宮は、返事はたいそう申し上げにくくて、私はとても書けないと言うが、女房たちは、お気持ちも嫌に子どもっぽいようで、代筆を差し上げるべきでもないと集まって勧めるので、宮はまず泣いて、亡き母上がおられたら、どんなに不愉快に思いながらも罪を隠してくださっただろうと思い出すと、涙が筆に先立つ気がして書き進められない。何ゆえ、世に数にも入らない我が身一つを、つらいとも思い、悲しいともお聞きになるのでしょうとだけ思ったままに、書き終えないようにして包んで出す。

- 1おとゞおとゞおとどかゝるかゝるかかる事事ことををを聞聞きききき給給たまひひいててて人人ひとわらはれわらはれわらわれなるなるなるやうやうようにににおぼしおぼしおぼし歎歎なげくくく。。。「「「しばししばししばしはははさてさてさてももも見見み給給たまははわでででおのづからおのづからおのずから思思おもふふうところところところ物物ものせせせらるらるらるらむらむらんものものものををを女女おんなのののかくかくかくひききりひききりひききりなるなるなるもももかへりてかへりてかえりてははは輕輕かるくくく覺覺おぼゆるゆるゆるわざわざわざなりなりなり。。。よしよしよしかくかくかくいひいひいいそめそめそめつつつとととならならならばばば何何なにかかかはははをれをれおれてててふとふとふとしもしもしも歸歸かえりりり給給たまふふう。。。おのづからおのづからおのずから人人ひとののの氣色氣色けしき心心こころばへばへばえははは見見みえええなななむむん」」」とととのたまはせのたまはせのたまわせてててこのこのこの宮宮みやににに藏藏くら人人うどののの少少しょう將將しょうののの君君きみををを御御おん使使つかいにてにてにて奉奉たてまつりりり給給たまふふう「「「契契ちぎりあれあれあれややや君君きみををを心心こころにににとゞめとゞめとどめおきおきおきてててあはれあはれあわれととと思思おもひひいうらめしうらめしうらめしととときくきくきく。。。猶猶なおえええおぼしおぼしおぼしはなたはなたはなたじじじ」」」とととあるあるある御御おん文文ふみををを少少しょう將將しょうもてもてもておはしおはしおわしてててたゞたゞただいりいりいりににに入入いりりり給給たまふふう。。。南南みなみ面面おもてののの簀簀す子子のこにににわらうだわらうだわろうださしさしさし出出いでででゝゝて人々人々ひとびとものものもの聞聞きこえええにくしにくしにくし。。。宮宮みやはははましてましてましてわびしわびしわびしとととおぼすおぼすおぼす。。。このこのこの君君きみははは、、、中中なかにににいといといとかたちかたちかたちよくよくよくめやすきめやすきめやすきさまさまさまにてにてにてのどやかのどやかのどやかににに見見みまはしまはしまわしててていにしへいにしへいにしえををを思思おもひひい出出いでででたるたるたる氣色氣色けしきなりなりなり。。。「「「參參まいりりりなれなれなれにににたるたるたる心心こころちちちしししてててうひうひしからうひうひしからういういしからぬぬぬにににさささももも御覽御覽ごらんじじじゆるさゆるさゆるさずずずもももやややあらあらあらむむん」」」などなどなどばかりばかりばかりぞぞぞかすめかすめかすめ給給たまふふう。。。
- 2「「「御御おん返返かへしししいといといと聞聞きこえええにくゝにくゝにくくてててわれわれわれははは更更さらにににえええかくかくかくまじまじまじ」」」とととののの給給のたまへへえばばば「「「御御おん志志こころざしもももうたてうたてうたてわかわかしきわかわかしきわかわかしきやうやうようににに、、、せじせじせじがきがきがきはたはたはた聞聞きにににさすさすさすべきべきべきにににやややははは」」」ととと集集あつまりまりまりててて聞聞きにににさすれさすれさすればばばまづまづまず打打うちちち泣泣なきききててて、、、故故こ上上うえおはせおはせおわせましかましかましかばばばいかにいかにいかに心心こころづきづきずきなしなしなしとととおぼしおぼしおぼしながらながらながらももも罪罪つみをををかくいかくいかくい給給たまははわましましましととと思思おもひひい出出いででで給給たまふふうににに、、、淚淚なみだののの水水みず莖莖くきにににさきだつさきだつさきだつ心心こころちちちしししてててかきかきかきやりやりやり給給たまははわずずず。。。「「「何何なにゆゑゆゑゆえかかか世世よににに數數かずならならならぬぬぬ身身みひとつひとつひとつをををうしうしうしともともとも思思おもひひいかなしかなしかなしともともともきくきくきく」」」とととのみのみのみおぼしおぼしおぼしけるけるけるまゝまゝままににに、、、かきかきかきもももとぢめとぢめとじめ給給たまははわぬぬぬやうやうようにてにてにておしおしおしつゝみつゝみつつみててて出出いだししし給給たまひひいつつつ。。。
現代語訳
致仕の大臣はこのようなことをお聞きになって、人に笑われるようなことだとお嘆きになる。「しばらくはそのままで様子を見ないで。自然と夕霧にも思うところがおありだろうに。女がこのようにせっかちなのも、かえって軽く思われることだ。まあ、このように言い出してしまったのなら、どうして折れて、急に帰りなさることがあろう。自然と、あの人の様子や気持ちは見えるだろう」とおっしゃって、この宮に、蔵人少将の君を使いとしてお遣わしになる。「前世の縁があるからでしょうか、あなたのことを心にとどめて、哀れとも思い、恨めしいとも聞いています。やはりお見捨てにはなれないでしょう」とあるお手紙を、少将は持っていらっしゃって、ずかずかとお入りになる。南面の簀子に円座を差し出して、女房たちは応対申し上げにくい。宮はまして、困ったことだとお思いになる。この君(蔵人少将)は、兄弟の中でたいそう容貌がよく、感じのよい様子で、ゆったりと見回して、昔を思い出している様子である。「参り慣れた気がして、うぶな気持ちもいたしませんのに、そのようにはお許しくださらないのでしょうか」などとだけ、ほのめかしなさる。
宮は「お返事はたいそう申し上げにくくて、私はとても書けないでしょう」とおっしゃると、女房たちが「お気持ちも、嫌に子どもっぽいようで。代筆をまた差し上げるべきでもないでしょう」と集まって申し上げ、勧めるので、宮はまずお泣きになって、亡き母上がいらっしゃったなら、どんなに不愉快にお思いになりながらも、私の罪を隠してくださっただろうと思い出しなさると、涙が筆跡に先立つ心地がして、書き進めることがおできにならない。「何ゆえ、世に数にも入らない我が身一つを、つらいとも思い、悲しいともお聞きになるのでしょう」とだけお思いになったままに、書き終えないようにして包んでお出しになった。
意訳
致仕の大臣は雲居の雁を急いで帰らせず、宮に恨みと哀れを込めた歌を送り、蔵人少将が使いとして一条宮に来る。
宮は母がいればと涙を流し、数にも入らぬ我が身をなぜ恨むのかと短い返歌を書いて出す。
語釈・文法注
文法
- 「わらうだ」(南面の簀子にわらうださし出でゝ)
- 円座。わらなどで丸く編んだ敷物。
- 「せじがき」(せじがきはた聞にさすべきにやは)
- 宣旨書き。代筆。
- 「水莖」(淚の水莖にさきだつ心ちして)
- 筆、筆跡。
解説
致仕の大臣は、娘の雲居の雁の行動を軽率と見ながらも、宮に恨みの歌を送る。大臣にとって、宮は亡き息子柏木の妻であり、今は娘の夫を奪った女である。複雑な立場の大臣の歌は、宮をさらに追いつめる。
宮は、母がいれば罪を隠してくれただろうと涙を流す。宮の返歌は、数にも入らぬ我が身をなぜ恨むのかという、悲しい問いかけである。宮の孤独と屈辱が、短い歌に凝縮されている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、810–811頁(コマ116)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日