源氏物語 第39帖 夕霧(45)
一条宮の朝
塗籠も特に細かな調度が多いわけでもなく、香の唐櫃や御厨子などばかりを、あちこちに寄せて、身近に設えて宮はいる。内は暗い感じがするが、朝日が差し出した気配が漏れてくるので、夕霧は宮が埋もれていた衣を引きのけ、ひどく乱れた髪をかき分けたりして、ほのかに顔を見る。宮はたいそう上品で女らしく優美な気配である。夕霧の姿は、きちんとしている時よりも、くつろいでいる方がこの上なく清らかである。宮は、亡き柏木が格別すぐれた所もなかったのに、心の限り思い上がって、私の容貌が十分でないと、事の折に思っていた様子を思い出すと、まして、このようにひどく衰えた姿を、しばらくでも見て我慢してくれるだろうかと思うのもひどく恥ずかしい。あれこれと思い巡らして、自分の心をなだめる。ただきまり悪く、あちらこちらの人が聞いてどう思うかという罪は逃れようもないうえに、折まで喪中でたいそうつらいので、慰めがたいのであった。手水や粥などは、いつもの御座の方に差し上げる。色の違う喪の設えも不吉なようなので、東面は屏風を立てて、母屋の際には香染の几帳など、仰々しく見えないもので、沈の二階棚などを立てて、心遣いをして設えてある。大和守の仕業であった。女房たちも、あざやかでない色の山吹、掻練、濃い衣、青鈍などに着替えさせ、薄色の物や青朽葉などをあれこれ紛らわして、お膳を差し上げる。女所帯でだらしなく何事も慣れていた宮の内で、様子に気を配って、わずかな下人をも指図して整え、大和守一人が取り仕切っている。このように思いがけない高貴な客がいると聞いて、もと勤めていなかった家司なども急に参って、政所などという所に控えて営んでいる。

- 1塗塗ぬり籠籠ごめももも殊殊ことにににこまかこまかこまかなるなるなる物物もの多多おおうううもももあらあらあらでででかうかうこうののの唐唐から櫃櫃びつ御御み厨厨ず子子しなどなどなどばかりばかりばかり、、、あるあるあるはははこなたこなたこなたかなたかなたかなたにににかきかきかきよせよせよせてててけけけぢかうぢかうじこうしつらひしつらひしつらいてててぞぞぞおはしおはしおわしけるけるける。。。內內うちはははくらきくらきくらきこゝちこゝちここちすれすれすれどどど、、、朝朝あさ日日ひさしさしさし出出いでででたるたるたるけはひけはひけわいもりもりもり來來きたるたるたるににに、、、うづもれうづもれうずもれたるたるたる御御おんぞぞぞひきひきひきやりやりやり、、、いといといとうたてうたてうたて亂亂みだれれれたるたるたるみぐしみぐしみぐしかきかきかきやりやりやりなどなどなどしししてててほのほのほの見見み奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。いといといとあてあてあてににに女女おんなしうしうしゅうなまめいなまめいなまめいたるたるたるけはひけはひけわいししし給給たまへへえりりり。。。男男おとこののの御御おんさまさまさまはははうるはしうるはしうるわしだちだちだち給給たまへへえるるる時時ときよりよりよりももも打打うちちち解解とけけけててて物物ものししし給給たまふふうははは限限かぎりもももなうなうのうきよげきよげきよげなりなりなり。。。故故こ君君ぎみののの殊殊ことなるなるなることことことなかりなかりなかりしししだにだにだに心心こころのののかぎりかぎりかぎり思思おもひひいあがりあがりあがり御御おんかたちかたちかたちまほまほまほにににおはせおはせおわせずずずととと、、、事事ことののの折折おりににに思思おもへへえりりりししし氣色氣色けしきをををおぼしおぼしおぼしいづれいづれいずれははは、、、ましてましてましてかうかうこういみじういみじういみじゅう衰衰おとろへへえにににたるたるたる有有あり樣樣さまをををしばししばししばしにてにてにてももも見見み忍忍しのびびびなななむむんやややととと思思おもふふうもももいみじういみじういみじゅうはづかしはづかしはずかし。。。とざまとざまとざまかうざまかうざまこうざまににに思思おもひひいめぐらしめぐらしめぐらしつゝつゝつつ我我わががが御心御心みこころをををこしらへこしらへこしらえ給給たまふふう。。。唯唯ただ傍傍かたわら痛痛いとうううこゝこゝここもももかしこかしこかしこももも人人ひとのののきゝきゝききおぼさおぼさおぼさむむんことことことののの罪罪つみさらさらさらむむんかたかたかたなきなきなきににに、、、をりをりおりさへさへさへいといといと心心こころうけれうけれうければばば慰慰なぐさめめめがたきがたきがたきなりなりなりけりけりけり。。。
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現代語訳
塗籠も、特に細かな調度が多いわけでもなく、香の唐櫃や御厨子などばかりを、あちこちに寄せて、身近に設えていらっしゃった。中は暗い感じがするが、朝日が差し出した気配が漏れてくるので、夕霧は、宮が埋もれていらっしゃる御衣を引きのけ、たいそうひどく乱れた御髪をかき分けたりして、ほのかに拝見なさる。宮はたいそう上品で女らしく、優美な気配でいらっしゃる。男君(夕霧)のご様子は、きちんとしていらっしゃる時よりも、くつろいでいらっしゃる方が、この上なく清らかである。宮は、亡き君(柏木)が格別すぐれた所もなかったのでさえ、心の限り思い上がって、私の容貌が十分でないと、事の折に思っていた様子をお思い出しになると、まして、このようにひどく衰えてしまった姿を、しばらくでも見て我慢してくれるだろうかと思うのも、ひどく恥ずかしい。あれこれと思い巡らしながら、ご自分のお心をなだめなさる。ただきまり悪く、あちらもこちらも、人が聞いてお思いになるだろうことの罪は、逃れようもないうえに、折まで喪中でたいそうつらいので、慰めがたいのであった。
御手水やお粥などは、いつもの御座所の方に差し上げた。色の異なる喪の御設えも不吉なようなので、東面は屏風を立てて、母屋の際には香染の御几帳など、仰々しいようには見えない物や、沈の二階棚などのような物を立てて、心遣いをして設えてあった。大和守の仕業であった。女房たちも、あざやかでない色の山吹、掻練、濃い色の衣、青鈍などに着替えさせ、薄色の物や青朽葉などをあれこれ紛らわして、お膳を差し上げる。女所帯で、だらしなく何事も慣れていた宮邸の中で、様子に気を配って、わずかな下人をも指図して整え、この人(大和守)一人だけが取り仕切っている。このように思いがけない高貴な客人がいらっしゃると聞いて、もとは勤めていなかった家司なども、急に参上して、政所などという所に控えて仕事をしていた。
意訳
朝日の差す塗籠の中で、夕霧は宮の顔を見る。宮は、柏木にさえ容貌を軽んじられたのに、衰えた姿を見られるのが恥ずかしい。
大和守が喪の設えを目立たないように整え、夕霧を迎える宮邸には、家司たちも急に参って仕えるようになる。
語釈・文法注
文法
- 「二階」(沈の二階などやうのをたてゝ)
- 二階棚。二段の棚。沈香の木で作った高級品。
- 「けい司」(もと勤めざりけるけい司など)
- 家司。親王家や貴族の家の事務を司る職員。
- 「まどころ」(まどころなどいふ方に侍ひて)
- 政所。家の事務を執る所。
解説
夕霧は朝日の中で初めて宮の顔を見る。宮は、柏木が自分の容貌を軽んじていたことを思い出し、衰えた姿を見られるのを恥じる。宮の心の傷は、柏木との結婚生活から続いていた。
夕霧の滞在とともに、一条宮の様子は一変する。大和守が設えを整え、家司たちが集まってくる。高貴な客を迎えて、寂れた宮邸が再び活気づく。世間的には、宮は夕霧の妻となったのである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、806–809頁(コマ114–115)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日