源氏物語 第39帖 夕霧(41)
松島の海人の衣
雲居の雁は昨日今日まったく食事をとらなかったが、少し食べたりしている。夕霧は、昔からあなたのために志が並々でなかった有様は、父の大臣がつらく扱われた時に、世間の愚か者という評判を取ったが、耐えがたさを我慢して、あちこちから縁談を持ちかけられたのを数多く聞き過ごしたのは、女でさえそうはできまいと人も非難したほどだ、今思うにも、どうしてそうだったのか、自分ながら昔でさえ重々しかったと思い知られるのに、今はこのように憎まれても、見捨てられない子どもたちがたいそう所狭いほど数が増えたので、あなたの心一つで離れることもできまい、またよく見ていてください、命こそ定めない世だと言って泣くこともある。雲居の雁も昔のことを思い出すと、哀れにも珍しい仲で、さすがに契りが深かったのだと思い出す。夕霧は柔らかくなった衣を脱いで、格別な衣を重ねて香を焚きしめ、立派に身繕いし化粧をして出かけるのを、雲居の雁は灯影に見送って、こらえきれずに涙が出るので、夫が脱ぎ置いた単衣の袖を引き寄せて、馴れ親しんだ身が飽きられるのを恨むより、松島の海人の衣(尼衣)に着替えようか、やはり普通の人としては過ごせないことだったと独り言を言うのを、夕霧は立ち止まって、なんと情けないお心だ、松島の海人の濡れ衣が馴れて古びたからといって、脱ぎ替えたという評判を立ててよいものかと返す。急いでいて、たいそう平凡な歌である。

- 1昨日昨日きのう今今け日日きょうつゆつゆつゆももも參參まいらららざりざりざりけるけるける、、、物物もの聊聊いささか參參まいりりりなどなどなどしししててておはすおはすおわす。。。「「「昔昔むかしよりよりより御御おんためためためににに志志こころざしのののおろかおろかおろかならならならざりざりざりしししさまさまさま、、、おとゞおとゞおとどのののつらくつらくつらくもてもてもてなしなしなし給給たまひひいしししににに、、、世世よののの中中なかのののしれがましきしれがましきしれがましき名名なをををとりとりとりしかしかしかどどど堪堪たへへえ難難がたさささをををねんじねんじねんじてててこゝかしここゝかしこここかしこすくみすくみすくみ氣色氣色けしきばみばみばみしししあたりあたりあたりををを數數あま多多た聞聞きききき過過すぐしぐしぐしゝゝし有有あり樣樣さまははは女女おんなだにだにだにさしもさしもさしもあらあらあらじじじとととなむなむなん、、、人人ひとももももどきもどきもどきししし。。。今今いま思思おもふふうにににもももいかでいかでいかでかかかはははさささありありありけむけむけんととと、、、我我わががが心心こころながらながらながらいにしへいにしへいにしえだにだにだに重重おもかりかりかりけりけりけりととと思思おもひひいしらしらしらるゝるゝるるををを、、、今今いまはははかくかくかくにくみにくみにくみ給給たまふふうともともともおぼしおぼしおぼしすつすつすつまじきまじきまじき人々人々ひとびといといといと所所ところせきせきせきまでまでまで數數かずそふそふそうめれめれめればばば御心御心みこころひとつひとつひとつにににもてもてもてはなれはなれはなれ給給たまふふうべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。又又またよしよしよしみみみ給給たまへへえややや、、、命命いのちこそこそこそさだめさだめさだめなきなきなき世世よなれなれなれ」」」とてとてとてうちうちうち泣泣なききき給給たまふふうことことこともももありありあり。。。女女おんなももも昔昔むかしののの事事ことををを思思おもひひい出出いででで給給たまふふうににに哀哀あわれにににもももありがたかりありがたかりありがたかりししし御御おん中中なかのののさすがさすがさすがににに契契ちぎり深深ふかかりかりかりけるけるけるかなかなかななどなどなど思思おもひひい出出いでででたまふたまふたまう。。。
- 2なよびなよびなよびたるたるたる御御おんぞぞぞどもどもどもぬぎぬぎぬぎ給給たもうううててて心心こころことことことなるなるなるをををとりとりとりかさねかさねかさねてててたきたきたきしめしめしめ給給たまひひい、、、めでたうめでたうめでとうつくろひつくろひつくろいけさうけさうけそうしししててて出出いででで給給たまふふうををを、、、ほほほかげかげかげににに見見みいだしいだしいだしててて忍忍しのびびび難難がたくくく淚淚なみだののの出出いでででくれくれくればばば脫脫ぬぎぎぎとめとめとめ給給たまへへえるるるひとへひとへひとえののの袖袖そでをををひきひきひきよせよせよせててて、、、「「「なるゝなるゝなるる身身みをををうらみうらみうらみむむんよりよりよりははは松松まつ島島しまのののあまあまあまののの衣衣ころもにににたちたちたちやややかへかへかへましましまし。。。猶猶なおうつしうつしうつし人人びとにてにてにてはははえええすぐすすぐすすぐすまじかりまじかりまじかりけりけりけり」」」とととひとりひとりひとりごとごとごとにににのたまふのたまふのたまうををを、、、立立たちちちとまりとまりとまりててて「「「さささももも心心こころうきうきうき御心御心みこころかなかなかな。。。松松まつ島島しまのののあまあまあまのののぬれぬれぬれぎぬぎぬぎぬなれなれなれぬぬぬとてとてとてぬぎぬぎぬぎかへかへかえつつつてててふふふ名名なをををたゝたゝたためめめやややははは」」」。。。うちうちうちいそぎいそぎいそぎててていといといとなほなほしなほなほしなおなおしややや。。。
現代語訳
雲居の雁は昨日今日まったく召し上がらなかったが、少し召し上がったりしていらっしゃる。夕霧は「昔から、あなたのために志がおろそかでなかった有様は、父の大臣がつらくお扱いになった時に、世の中の愚か者という評判を取ったけれど、耐えがたさを我慢して、あちこちから縁談を持ちかけられたのを、数多く聞き過ごした有様は、女でさえそうはできまいと、人も非難したほどです。今思っても、どうしてそうだったのだろうと、自分の心ながら、昔でさえ重々しかったことよと思い知られますのに、今はこのようにお憎みになっても、見捨てなさるはずのない子どもたちが、たいそう所狭いほど数が増えたようですので、あなたのお心一つで離れなさることもできますまい。またよくご覧になっていてください。命こそ定めない世の中ですが」と言ってお泣きになることもある。女君も昔のことをお思い出しになると、哀れにも珍しかったお二人の仲で、さすがに契りが深かったことよなどと思い出しなさる。
夕霧は柔らかくなった御衣を脱ぎなさって、格別な衣を取り重ねて香を焚きしめなさり、立派に身繕いし、化粧をしてお出かけになるのを、雲居の雁は灯影に見送って、こらえきれずに涙が出てくるので、夕霧が脱ぎ置きなさった単衣の袖を引き寄せて、「馴れ親しんだ身が飽きられるのを恨むよりは、松島の海人の衣、尼衣に着替えてしまおうかしら。やはり普通の人としては、過ごしていけそうにもないことだった」と独り言におっしゃるのを、夕霧は立ち止まって、「なんと情けないお心ですね。松島の海人の濡れ衣が、馴れて古びたからといって、脱ぎ替えたという評判を立ててよいものでしょうか」。急いでいて、たいそう平凡な歌であることよ。
意訳
夕霧は、昔の雲居の雁への一途な思いと、多くの子どもたちのことを語り、雲居の雁も二人の深い縁を思い出す。
夕霧が身繕いして出かけると、雲居の雁は尼になろうかと詠み、夕霧は急いで返歌して出ていく。
語釈・文法注
文法
- 「すくみ氣色ばむ」(こゝかしこすくみ氣色ばみしあたり)
- 堅苦しく縁談を持ちかける。
- 「松島のあまの衣」(松島のあまの衣にたちやかへまし)
- 「海人」に「尼」をかけ、尼になろうかということ。「なるゝ」は衣が馴れて古びることと夫婦の馴れをかける。
- 「なほなほし」(うちいそぎていとなほなほしや)
- 平凡である、ありふれている。語り手の評。
解説
夕霧は、若い頃に雲居の雁を待ち続けた一途さを語る。雲居の雁も、二人の縁の深さを思い出す。幼なじみの恋を貫いた二人の歴史が、この場面に重みを与えている。
しかし夕霧は、香を焚きしめて宮のもとへ出かけていく。夫の脱いだ単衣の袖を引き寄せて泣く雲居の雁の姿は哀れである。語り手は夕霧の返歌を「なほなほし」と評し、心がそこにない夕霧を皮肉っている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、804–805頁(コマ113)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日