源氏物語 第39帖 夕霧(40)
鬼になった雲居の雁
日が高くなってから夕霧は三条殿に帰る。入るなり、若君たちが次々とかわいらしくまとわりついて遊ぶ。雲居の雁は御帳台の中に臥している。夕霧が入っても目も合わせない。恨んでいるのだろうと見るのももっともだが、遠慮する顔もせずに、衣を引きのけると、雲居の雁は、どこだと思っておいでになったのです、私はとっくに死にました、いつも鬼とおっしゃるので、同じことなら鬼になりきってしまおうと思ってと言う。夕霧は、お心こそ鬼より恐ろしいが、姿は憎らしくもないので、すっかり疎むこともできないと、何気なく言いなすのも腹立たしくて、雲居の雁は、すばらしい様子で優美になさっている所に、一緒に暮らせる身でもないので、どこへなりとも消え失せようと思う、やはりこんな私のことなど思い出してくださいますな、つまらなく長年連れ添ってきたことさえ悔しいのにと言って起き上がった様子は、たいそう愛嬌があって、つややかに赤らめた顔はたいそう美しい。夕霧は、このように子どもっぽく腹を立てなさるからか、見慣れてこの鬼も今は恐ろしくもなくなった、神々しい気配を添えたいものだと冗談を言うので、雲居の雁は、何を言うのです、いっそおとなしく死んでしまいなさい、私も死にましょう、見れば憎らしい、聞けば愛想もない、見捨てて死ぬのは気がかりだと言うのが、ますますおかしいので、夕霧は細やかに笑って、近くでご覧にならなくても、遠くで噂を聞かないはずはないでしょう、それにしても契りの深い仲を知らせようというお心なのでしょう、急に続いて行くはずの黄泉路の急ぎは、そう約束しましたねと、たいそう平然と言って、あれこれとなだめ慰めるので、雲居の雁はたいそう若々しく素直でかわいらしい心もある人なので、いい加減な言葉と見ながらも、自然と和んでいくのを、夕霧はたいそう哀れと思うが、心は上の空で、あちらの宮もたいそう我を張って強く重々しい人の気配には見えないが、もしやはり本意でないことで尼にでもなろうと思い立たれたら、間抜けなことになるだろうと思うと、しばらくは間を置くまいと慌ただしい気持ちがして、暮れていくにつれて、今日も返事さえないと思って、気にかかってひどく物思いにふける。

- 1日日ひたけたけたけててて殿殿とのにににははは渡渡わたりりり給給たまへへえりりり。。。入入いりりり給給たまふふうよりよりより若若わか君君ぎみたちたちたちすぎすぎすぎすぎすぎすぎうつくしげうつくしげうつくしげにてにてにてまつはれまつはれまつわれ遊遊あそびびび給給たまふふう。。。女女おんな君君ぎみははは帳帳ちょうののの內內うちにににふしふしふし給給たまへへえりりり。。。入入いりりり給給たまへへえれれれどどど目目めももも見見みあはせあはせあわせ給給たまははわずずず。。。つらきつらきつらきにににこそこそこそはははあああめれめれめれととと見見み給給たまふふうもももことわりことわりことわりなれなれなれどどど、、、はゞかりはゞかりはばかり顏顏がおにににももももてもてもてなしなしなし給給たまははわずずず。。。御御おんぞぞぞをををひきひきひきやりやりやり給給たまへへえれれればばば「「「いづこいづこいずことてとてとておはしおはしおわしつるつるつるぞぞぞ。。。まろまろまろははは早早はようううしにしにしにききき、、、常常つねににに鬼鬼おにとととのたまへのたまへのたまえばばば同同おなじくじくじくはははなりなりなりはてはてはてなななむむんとてとてとて」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。「「「御心御心みこころこそこそこそ鬼鬼おによりよりよりけにけにけにもももおはすれおはすれおわすれ。。。さまさまさまはははにくげにくげにくげもももなけれなけれなければばば得得えうとみうとみうとみはつはつはつまじまじまじ」」」ととと何何なに心心ごころもももなうなうのういひいひいいなしなしなし給給たまふふうももも心心こころやましうやましうやましゅうててて「「「めでたきめでたきめでたきさまさまさまににになまめいなまめいなまめい給給たまへへえらむらむらんあたりあたりあたりにににありありありふふふべきべきべき身身みにににもももあらあらあらねねねばばばいづちいづちいずちもももいづちいづちいずちもももうせうせうせなななむむんとととすすす猶猶なおかくかくかくだにだにだになななおぼしおぼしおぼし出出いでででそそそ。。。あいなくあいなくあいなく年年とし比比ごろををを經經へけるけるけるだにだにだに悔悔くやしきしきしきものものものををを」」」とてとてとて起起おきききあがりあがりあがり給給たまへへえるるるさまさまさまはははいみじういみじういみじゅうあいぎやうあいぎやうあいぎょうづきづきずきてててにほひやかにほひやかにおいやかにににうちうちうち赤赤あかめめめ給給たまへへえるるる顏顏かおいといといとをかしげをかしげおかしげなりなりなり。。。「「「かくかくかく心心こころ幼幼おさなげげげににに腹腹はら立立たちちちなしなしなし給給たまへへえれれればばばにににややや、、、めめめなれなれなれてててこのこのこの鬼鬼おにこそこそこそ今今いまははは恐恐おそろしくしくしくもももあらあらあらずずずなりなりなりにににたれたれたれ。。。かうがうしきかうがうしきこうごうしきけけけをををそへそへそえばやばやばや」」」ととと戯戯たわぶれにににいひいひいいなしなしなし給給たまへへえばばば「「「何何なに事事ごといふいふいうぞぞぞとととよよよ。。。おいらかおいらかおいらかにににしにしにしに給給たまひひいねねね。。。まろまろまろももも死死しなななむむん。。。見見みれれればばばにくしにくしにくし、、、聞聞きけけけばばば愛愛あいぎやうぎやうぎょうなしなしなし、、、見見み捨捨すてててゝゝて死死しなななむむんははは後後うしろめたしめたしめたし」」」とととのたまふのたまふのたまうにににいといといとをかしきをかしきおかしきさまさまさまのみのみのみまされまされまさればばばこまやかこまやかこまやかににに笑笑わらひひいててて
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現代語訳
日が高くなってから、夕霧は殿(三条殿)にお帰りになった。お入りになるなり、若君たちが次々とかわいらしい様子でまとわりついて遊びなさる。女君(雲居の雁)は御帳台の中に臥していらっしゃった。夕霧がお入りになっても、目も合わせなさらない。恨んでいるのだろうとご覧になるのももっともだけれど、遠慮する顔もなさらずに、御衣を引きのけなさると、雲居の雁は「どこだと思っておいでになったのですか。私はとっくに死にました。いつも鬼とおっしゃるので、同じことなら鬼になりきってしまおうと思って」とおっしゃる。夕霧が「お心こそ鬼よりもひどくていらっしゃる。お姿は憎らしくもないので、すっかり疎むこともできまい」と、何気なく言いなしなさるのも腹立たしくて、「すばらしい様子で優美にしていらっしゃる所に、一緒に暮らしていける身でもありませんので、どこへなりとも消え失せてしまおうと思います。やはり、こんな私のことなど思い出しもなさいますな。つまらなく長年連れ添ってきたことさえ悔しいのに」と言って起き上がりなさった様子は、たいそう愛嬌があって、つややかに赤らめなさった顔は、たいそう美しい。夕霧は「このように子どもっぽく腹を立てなさるからでしょうか、見慣れて、この鬼こそ今は恐ろしくもなくなってしまいました。神々しい気配を添えたいものですね」と冗談に言いなしなさると、雲居の雁は「何をおっしゃるのですか。いっそおとなしく死んでおしまいなさい。私も死にましょう。見れば憎らしい、聞けば愛想もない、見捨てて死ぬのは気がかりですし」とおっしゃるのが、ますますおかしい様子なので、夕霧は細やかに笑って、
「近くではご覧にならなくても、遠くで私の噂をお聞きにならないことがあるでしょうか。それにしても契りの深い仲を知らせようというお心なのでしょう。急に続いて行くはずの黄泉路の急ぎは、そう約束申し上げましたね」と、たいそう平然と申し上げて、あれこれとなだめ申し上げ、慰めなさるので、雲居の雁はたいそう若々しく素直で、かわいらしい心もまたおありになる人なので、いい加減なお言葉と見ながらも、自然と和んでいらっしゃるのを、夕霧はたいそう哀れとお思いになるものの、心は上の空で、あちらの宮も、たいそう我を張って強く重々しい人の気配にはお見えにならないが、もしやはり本意でないことで、尼にでもとお思いになったら、間抜けなことになるだろうと思うと、しばらくは間を置くまいと慌ただしい気持ちがして、暮れていくにつれて、今日もお返事さえないことよとお思いになって、気にかかって、ひどく物思いにふけっていらっしゃる。
意訳
夕霧が帰ると、雲居の雁は鬼になって死んでやると拗ね、夕霧は冗談でなだめ、二人の言い合いは微笑ましい。
雲居の雁は和んでいくが、夕霧の心は宮に向かったまま、宮が尼になるのではと気がかりで物思いにふける。
語釈・文法注
文法
- 「鬼」(常に鬼とのたまへば)
- 夕霧が雲居の雁を「鬼」と呼んでいたことを受ける。
- 「かうがうし」(かうがうしきけをそへばや)
- 神々しい。鬼に神々しさを添えたいとからかう。
- 「よみぢのいそぎ」(よみぢのいそぎはさこそは契り聞えしか)
- 黄泉路への急ぎ。共に死ぬと約束したことをいう。
解説
夕霧と雲居の雁の夫婦喧嘩は、源氏物語の中でも最も生き生きとした場面の一つである。鬼になって死ぬと拗ねる雲居の雁と、冗談でなだめる夕霧。幼なじみの夫婦ならではの率直なやりとりには、深い親しさがある。
雲居の雁は夫の言葉に和んでいくが、夕霧の心は宮に向かっている。妻を哀れと思いながらも心は上の空という夕霧の姿は、二人の女性の間で揺れる男の心を描いている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、802–805頁(コマ112–113)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日