源氏物語 第39帖 夕霧(37)
塗籠に籠る宮
宮を迎える用意などは、様子が変わっていて、物事の始めとして不吉な感じだが、食事を差し上げるなど皆静まった頃に、夕霧が渡ってきて、少将の君をひどく責める。少将は、お志が本当に長いものとお思いなら、今日明日を過ごしてから申し上げなさいませ、かえって元に戻って物思いに沈み、亡き人のように臥してしまわれた、なだめ申し上げるのもつらいとばかり思っておられるので、何事も身のためでございます、たいそう煩わしく申し上げにくいと言う。夕霧は、たいそう不思議に、推し量っていたのとは違って、幼く分かりにくいお心だったと言って、自分の考えている様子を、宮のためにも自分のためにも世の非難はあるまいと言い続けるので、少将は、いやもう、今はまた宮を亡き人にしてしまうのかと、慌ただしく乱れた心で何も分別がつかない、我が君、そのように押して無理なお心をお使いくださいますなと、手をすり合わせて頼む。夕霧は、まったくまだ知らない仲だ、憎く心外だと人よりひどく見下されている我が身こそひどい、何とか人に判断してもらおうと、言いようもないと思って言うので、さすがに気の毒でもある。少将は、まだ知らないとは、本当に世慣れないお心構えのせいでしょう、理屈は本当にどちらに付く人がいましょうかと、少し笑う。このように強情だが、今はせき止められるはずもないので、夕霧はそのまま少将を引き立てて、見当をつけて中へ入る。宮はたいそう情けなく思いやりのない軽薄な人の心だったと、悔しくつらいので、子どもっぽいと言い騒がれてもと思って、塗籠に御座を一つ敷かせて、内側から鍵をかけて寝てしまう。これもいつまでのことか、これほど乱れ立った女房たちの心はたいそう悲しく残念だと思う。夕霧は心外につらいと思うが、これくらいのことで何の突き放されることがあろうと、のんびり構えて、いろいろ思いながら夜を明かす。山鳥のような心地がする。ようやく明け方になった。このままでは事が表立ってしまうので、帰るとて、ほんの少しの隙だけでもと、しきりに言うが、宮はたいそうつれない。恨み侘びて胸の晴れない冬の夜に、さらに閉ざしまさる関の岩戸よ、申し上げようもないお心だと、泣く泣く帰る。

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現代語訳
宮をお迎えする用意などは、様子が変わっていて、物事の始めとして不吉な感じだが、お食事を差し上げるなど皆が静まった頃に、夕霧がお渡りになって、少将の君をひどくお責めになる。少将は「お志が本当に長いものとお思いでしたら、今日明日を過ごしてから申し上げなさいませ。かえって元に戻って物思いに沈みなさって、亡き人のように臥しておしまいになりました。おなだめ申し上げるのも、つらいとばかりお思いになっていますので、何事も身のためでございます。たいそう煩わしく、申し上げにくうございます」と申し上げる。夕霧は「たいそう不思議に、推し量り申し上げていたのとは違って、幼く分かりにくいお心だったのだね」と言って、ご自分の考えている様子を、宮の御ためにも、自分のためにも、世の非難はあるまいと言い続けなさるので、少将は「いやもう、今はまた、宮をむなしい人(亡き人)にしてしまうのかと、慌ただしく乱れた心で、何も分別がつきません。我が君、そのように押して無理なお心をお使いくださいますな」と手をすり合わせる。夕霧は「まったくまだ知らない仲だよ。憎く心外だと、人よりひどく見下していらっしゃるだろう我が身こそひどいものだ。何とかして人に判断してもらおう」と、言いようもないとお思いになっておっしゃるので、さすがに気の毒でもある。少将は「まだ知らないとは、本当に世慣れないお心構えのせいでしょう。理屈は、本当にどちらに付く人がございましょうか」と、少し笑った。
このように強情だけれど、今はせき止められるはずもないので、夕霧はそのままこの人を引き立てて、見当をつけて中へお入りになる。宮はたいそう情けなく、思いやりのない軽薄な人の心だったと、悔しくつらいので、子どもっぽいと言い騒がれてもとお思いになって、塗籠に御座を一つ敷かせなさって、内側から鍵をかけて寝ておしまいになった。これもいつまでのことか、これほど乱れ立ってしまった女房たちの心はたいそう悲しく、残念にお思いになる。男君(夕霧)は心外でつらいとお思い申し上げなさるが、これくらいのことで、何の突き放されることがあろうかと、のんびりとお思いになって、いろいろと思いながら夜をお明かしになる。山鳥のような心地がなさった。ようやく明け方になった。このままでは、事が表立ってしまうので、お帰りになるとて、ただほんの少しの隙だけでもと、しきりに申し上げなさるが、宮はたいそうつれない。「恨み侘びて、胸の晴れない冬の夜に、さらに閉ざしまさる関の岩戸よ。申し上げようもないお心だったのですね」と、泣く泣くお帰りになる。
意訳
夕霧は少将を責め、少将は宮がまた沈み込んでしまったと手をすって止めるが、夕霧は聞かない。
宮は塗籠に入って内側から鍵をかけ、夕霧は山鳥のように一人で夜を明かし、泣く泣く帰る。
語釈・文法注
文法
- 「いたづら人」(又いたづら人に見なし奉るべきにや)
- 役に立たない人、死んだ人。
- 「山鳥の心ち」(山鳥の心ちぞし給ひける)
- 山鳥は雌雄が谷を隔てて別々に寝るとされた。妻と隔てられて一人寝をすることをいう。
- 「關のいはかど」(またさしまさる關のいはかど)
- 関所の岩の門。塗籠の閉ざされた戸をたとえる。
解説
宮は塗籠に閉じこもって、夕霧を拒む。宮にできる抵抗は、これだけであった。女房たちまでが夕霧の側についた今、宮は孤立無援である。
夕霧は塗籠の前で一夜を明かし、泣く泣く帰る。「山鳥の心ち」という表現には、ユーモアと哀れとが混じっている。まめ人夕霧の恋は、滑稽さと痛ましさを帯びて進んでいく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、800–801頁(コマ111)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日