源氏物語 第39帖 夕霧(32)
源氏と夕霧
夕霧が六条院に参った折があって、源氏は夕霧の考えている様子も知りたいので、御息所の忌みは終わったろうな、昨日今日と思ううちに三十年も昔のことになる世の中だ、哀れでつまらないことよ、夕べの露がかかる間ほどの命をむさぼることよ、何とかこの髪を剃って万事を捨てようと思うのに、こんなにのんびりと過ごしていることだ、たいそう悪いことだと言う。夕霧は、本当に惜しくもない者でさえ、それぞれ離れがたく思う世の中でございますなどと言って、御息所の四十九日の法事なども、大和守の誰それの朝臣一人が世話をしております、たいそう哀れなことです、しっかりした身寄りのない人は、生きている間だけのことで、このような世の果てこそ悲しいものですと言う。源氏は、朱雀院からも見舞いがあるだろう、あの皇女(落葉の宮)はどんなに嘆いておられるだろう、昔聞いたよりも、この近年何かにつけて見聞きすると、あの更衣(御息所)は捨てたものでなく感じのよい人の一人だった、世間一般にとっても惜しいことだ、生きていてよい人がこのように亡くなっていくのを、院もひどく驚いておられた、あの皇女は、ここにおられる入道の宮(女三の宮)に次いでかわいがっておられた、人柄もよいのだろうと言う。夕霧は、宮のお心はどうでしょうか、御息所は申し分のない人柄と心ばえでした、親しく打ち解けてはくださらなかったが、ちょっとした折に自然と人の心遣いは表れるものですと言って、宮のことはまったく触れず、たいそう平然としている。源氏は、これほどの堅物の心で思い始めたことは、諫めてもかなうまい、聞き入れないだろうに、自分が賢しらに口を出すのもつまらないと思ってやめた。こうして夕霧は御息所の法事を万事取り仕切って行わせる。

- 1大大だい將將しょうののの君君きみ參參まいりりり給給たまへへえるるるついでついでついでありありありててて思思おもひひい給給たまへへえらむらむらん氣色氣色けしきもももゆかしけれゆかしけれゆかしければばば「「「御御み息息やす所所どころののの忌忌いみはてはてはてぬぬぬらむらむらんななな。。。昨日昨日きのう今今け日日きょうととと思思おもふふうほどほどほどににに三三みそそそ年年とせよりよりよりあなたあなたあなたのののことことことににになるなるなる世世よにににこそこそこそあれあれあれ。。。哀哀あわれにににあぢきなしあぢきなしあじきなしややや。。。夕夕ゆうべののの露露つゆのののかゝるかゝるかかる程程ほどのののむさぼりむさぼりむさぼりよよよ。。。いかでいかでいかでこのこのこのかみかみかみそりそりそりててて萬萬よろずそむきそむきそむきすてすてすてむむんととと思思おもふふうををを、、、さささももものどやかのどやかのどやかなるなるなるやうやうようにてにてにてももも過過すぐすぐすぐすかなかなかな。。。いといといとわろきわろきわろきわざわざわざなりなりなりややや」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。「「「誠誠まことにににをしげをしげおしげなきなきなき人人ひとだにだにだにおのおのおのがががじゝじゝじしははは離離はなれれれ難難がたくくく思思おもふふう世世よにににこそこそこそ侍侍はべるるるめれめれめれ」」」などなどなど聞聞きこえええててて「「「御御み息息やす所所どころののの四四しじゅう十十く九九にち日日ちのののわざわざわざなどなどなど大大やま和和と守守のかみ某某なにがしのののあさんあさんあさん一一ひと人人りあつかひあつかひあつかい侍侍はべるるる、、、いといといと哀哀あわれなるなるなるわざわざわざなりなりなりややや。。。はかばかしきはかばかしきはかばかしきよすがよすがよすがなきなきなき人人ひとははは生生いけけけるるる世世よのののかぎりかぎりかぎりにてにてにてかゝるかゝるかかる世世よののの果果はてこそこそこそ悲悲かなしうしうしゅう侍侍はべりりりけれけれけれ」」」ととと聞聞きこえええ給給たまふふう。。。「「「院院いんよりよりよりもももとぶらはとぶらはとぶらわせせせ給給たまふふうらむらむらん。。。かのかのかのみこみこみこいかにいかにいかに思思おもひひい歎歎なげききき給給たまふふうらむらむらん。。。はやうはやうはよう聞聞ききききしししよりよりよりはははこのこのこの近近ちかききき年年とし頃頃ごろ事事ことにににふれふれふれてててきゝきゝきき見見みるるるににに、、、このこのこの更更こう衣衣いこそこそこそ口惜口惜くちおしからしからしからずずずめやすきめやすきめやすき人人ひとのののうちうちうちなりなりなりけれけれけれ。。。大大おお方方かたののの世世よにににつけつけつけててて惜惜おしきしきしきわざわざわざなりなりなりややや。。。さてさてさてもももありありありぬぬぬべきべきべき人人ひとのののかうかうこううせうせうせゆくゆくゆくををを院院いんもももいみじういみじういみじゅう驚驚おどろきききおぼしおぼしおぼしたりたりたりけりけりけり。。。かのかのかのみこみこみここそこそこそはははこゝこゝここににに物物ものししし給給たまふふう入入にゅう道道どうののの宮宮みやよりよりよりさしさしさしつぎつぎつぎにににはははらうたうらうたうろうとうししし給給たまひひいけれけれけれ。。。人人ひとざまざまざまもももよくよくよくおはすおはすおわすべしべしべし」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。
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現代語訳
大将の君(夕霧)が六条院に参上なさった折があって、源氏は、夕霧が思っていらっしゃるだろう様子も知りたいので、「御息所の忌みは終わったことだろうね。昨日今日と思ううちに、三十年も前のことになってしまう世の中だよ。哀れでつまらないことよ。夕べの露がかかっている間ほどのはかない命をむさぼることよ。何とかしてこの髪を剃って、万事を捨ててしまおうと思うのに、そうものんびりとした様子でも過ごしていることよ。たいそう悪いことだね」とおっしゃる。夕霧は「本当に、惜しくもない者でさえ、それぞれ離れがたく思う世の中でございますようです」などと申し上げて、「御息所の四十九日の法事なども、大和守の誰それの朝臣一人がお世話しております。たいそう哀れなことでございます。しっかりした身寄りのない人は、生きている間だけのことで、このような世の果てこそ悲しいものでございました」と申し上げなさる。源氏は「院(朱雀院)からもお見舞いがあるだろう。あの皇女(落葉の宮)はどんなに思い嘆いていらっしゃるだろう。昔聞いたよりも、この近年、何かにつけて聞いたり見たりすると、あの更衣(御息所)は捨てたものでなく、感じのよい人の一人だったのだね。世間一般にとっても惜しいことだよ。生きていてもよさそうな人が、このように亡くなってゆくのを、院もひどく驚いていらっしゃった。あの皇女こそは、ここにいらっしゃる入道の宮(女三の宮)に次いで、かわいがっていらっしゃったのだ。人柄もよくていらっしゃるのだろう」とおっしゃる。
夕霧は「宮のお心はどのようでいらっしゃるでしょうか。御息所は申し分のない人柄と心ばえでございました。親しく打ち解けてはくださいませんでしたが、ちょっとした折のついでにも、自然と人の心遣いは表れるものでございます」と申し上げなさって、宮のことにはまったく触れず、たいそう平然としている。源氏は、これほどの堅物の心で思い始めたようなことは、諫めてもかなうまい、聞き入れないだろうから、自分が賢しらに口を出すのもつまらないとお思いになって、やめておしまいになった。こうして夕霧は、御息所の御法事を、万事取り仕切っておさせになる。
意訳
源氏は世のはかなさを語りつつ、夕霧の様子を探る。夕霧は御息所の法事のことを話し、源氏は落葉の宮の人柄をほめる。
夕霧は宮のことに触れず平然としており、源氏は諫めても無駄だと口出しをやめる。夕霧は法事を取り仕切る。
語釈・文法注
文法
- 「夕の露のかゝる程のむさぼり」(夕の露のかゝる程のむさぼりよ)
- 夕べの露がかかっている間ほどの短い命をむさぼること。
- 「あさん」(大和守某のあさん一人あつかひ侍る)
- 朝臣。五位以上の人の名に付ける敬称。
- 「すくよけ心」(かばかりのすくよけ心に)
- きまじめで頑固な心。
解説
源氏と夕霧の会話は、互いに相手の心を探り合う緊張に満ちている。源氏は落葉の宮をほめて夕霧の反応を見るが、夕霧は宮のことに触れず平然としている。源氏は、夕霧の生真面目な頑固さを知っているので、諫めても無駄だと口出しをやめる。
夕霧が御息所の法事を取り仕切ることは、すでに宮の後見人としての立場を固めることでもある。世間の噂は、ますます既成事実となっていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、794–797頁(コマ108–109)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日