源氏物語 第39帖 夕霧(29)
一条宮の月
夕霧は帰る道すがらも哀れな空を眺め、十三夜の月がたいそう明るく昇ったので、小倉山もたどれそうなほどで、一条宮は帰り道にあった。宮邸はいっそう荒れて、西南の方の崩れた築地から中を見ると、はるばると格子を下ろし込めて人影も見えない。月だけが遣水の面をくっきりと照らしているので、柏木がここで管弦の遊びなどをした折々を思い出す。かつて見た人の影も住み果てぬこの池水に、ひとり宿を守っている秋の夜の月よと独り言を言いながら、自邸に帰っても月を眺めて心は上の空である。女房たちも、あんなに見苦しく、なかったお癖だと憎み合う。北の方(雲居の雁)は、本当に情けなく、心が浮わついてしまったのだろう、もともとそういう方面に慣れている六条院の夫人たちを、何かとすばらしい例に引き出して、私を不愉快で愛想のない者と思っておられるのはひどい、私も昔からそのように慣れていたら、人目も慣れてかえって過ごせただろうに、世の手本にしたいお心だと、親兄弟をはじめ皆が羨むほどにしてくれていたのに、長年連れ添って最後に恥をかくことになるのだろうかなどと、ひどく嘆いている。夜も明け方近くまで、互いに打ち解けることもなく、背を向け合って嘆き明かして、朝霧の晴れ間も待たずに、夕霧はいつものように手紙を急いで書く。雲居の雁はたいそう不愉快に思うが、以前のように奪い取りはしない。夕霧はたいそう細やかに書いて、置いて独り口ずさむ。忍んでいるが漏れて聞こえてくる。いつになったら目を覚ましてくださるのか、明けない夜の夢が覚めたらと言った一言を、上から落ちるとでも書いておられるだろうか、と包んで、どうしたらよいだろうなどと口ずさむ。人を呼んで手紙を渡す。雲居の雁は、せめて返事だけでも見つけたい、やはりどういうことなのか様子が知りたいと思う。

- 1道道みちすがらすがらすがらももも哀哀あわれなるなるなる空空そらををを眺眺ながめめめててて十十じゅう三三さむ日日にちののの月月つきいといといと花花はなやかやかやかにににさしさしさし出出いでででぬれぬれぬればばばををおぐらぐらぐら山山やまもももたどるたどるたどるまじうまじうまじゅうおはするおはするおわするににに一一いち條條じょうののの宮宮みやはははみちみちみちなりなりなりけりけりけり。。。いとゞいとゞいとどうちうちうちあばれあばれあばれててて未未ひつじ申申さるののの方方かたのののくづれくづれくずれたるたるたるををを見見みいるれいるれいるればばばはるばるはるばるはるばるとととおろしおろしおろしこめこめこめててて人人ひとかげかげかげももも見見みえええずずず。。。月月つきのみのみのみ遣遣やり水水みずのののおもておもておもてをををあらはあらはあらわにににすみすみすみなしなしなしたるたるたるににに大大だい納納な言言ごんこゝこゝここにてにてにてあそびあそびあそびなどなどなどししし給給たまひひいししし折折おり々々おりををを思思おもひひい出出いででで給給たまふふう。。。「「「見見みししし人人ひとのののかげかげかげすみすみすみはてはてはてぬぬぬ池池いけ水水みずにににひとりひとりひとりやどやどやどもるもるもる秋秋あきののの夜夜よののの月月つき」」」とととひとりひとりひとりごちごちごちつゝつゝつつ殿殿とのにににおはしおはしおわしてててももも月月つきををを見見みつゝつゝつつ心心こころははは空空そらにににあくがれあくがれあくがれ給給たまへへえりりり。。。「「「さささももも見見み苦苦ぐるしうしうしゅう、、、あらあらあらざりざりざりししし御御おんくせくせくせかなかなかな」」」ととと御御ご達達たちもももにくみにくみにくみあへあへあえりりり。。。上上うえはははまめやかまめやかまめやかににに心心こころうくうくうくあくがれあくがれあくがれたちたちたちぬるぬるぬる御心御心みこころなななめりめりめり、、、もともともとよりよりよりさるさるさる方方かたにににならひならひならい給給たまへへえるるる六六ろく條條じょう院院いんののの人々人々ひとびとをををともともともすれすれすればばばめでたきめでたきめでたきためしためしためしにににひきひきひき出出いでででつゝつゝつつ心心こころよからよからよからずずずあひだちあひだちあいだちなきなきなきものものものににに思思おもひひい給給たまへへえるるるわりなしわりなしわりなしややや、、、われわれわれももも昔昔むかしよりよりよりしかしかしかならひならひならいなななましかましかましかばばば人人ひとめめめもももなれなれなれてててなかなかなかなかなかなかすぐしすぐしすぐしてててましましまし、、、世世よのののためしためしためしにににしししつつつべきべきべき御心御心みこころばへばへばえととと親親おやはらからはらからはらからよりよりよりはじめはじめはじめ奉奉たてまつりりりめやすきめやすきめやすきあえあえあえものものものにににししし給給たまへへえるるるををを、、、ありありありありありありてててすゑすゑすえにににはぢがましきはぢがましきはじがましきことことことやややあらあらあらむむんなどなどなど、、、いといといといたういたういとう歎歎なげいいい給給たまへへえりりり。。。
- 2夜夜よももも明明あけけけがたがたがた近近ちかくくくかたみかたみかたみにににうちうちうち解解とけけけ給給たまふふうことことことなくなくなくてててそむきそむきそむきそむきそむきそむきににに歎歎なげきききあかしあかしあかしててて朝朝あさ霧霧ぎりののの晴晴はれ間間まもももまたまたまたずずず例例れいののの文文ふみをををぞぞぞ急急いそぎぎぎ書書かきききたまふたまふたまう。。。いといといと心心こころづきづきずきなしなしなしとととおぼせおぼせおぼせどどどありありありしししやうやうようにににもももばひばひばい給給たまははわずずず。。。いといといとこまやかこまやかこまやかにににかきかきかきてててうちうちうち置置おきききててて嘯嘯うそぶきききたまふたまふたまう。。。忍忍しのびびび給給たまへへえどどどもりもりもりててて聞聞ききききつけつけつけらるらるらる。。。「「「いついついつとととかかかはははおどろかすおどろかすおどろかすべきべきべき明明あけけけぬぬぬ夜夜よののの夢夢ゆめさめさめさめてててとととかかかいひいひいいしししひとひとひとことことこと。。。うへうへうえよりよりより落落おつるつるつるとととやややかいかいかいたまへたまへたまえらむらむらん。。。おしおしおしつゝみつゝみつつみててて名名な殘殘ごりもももいかでいかでいかでよからよからよからむむん」」」などなどなど口口くちずさびずさびずさび給給たまへへえりりり。。。人人ひとめしめしめしててて給給たまひひいつつつ。。。御御おん返返かえり事事ごとをををだにだにだに見見みつけつけつけてててしがしがしがななな、、、猶猶なおいかなるいかなるいかなることことことぞぞぞとととけしきけしきけしき見見みまほしうまほしうまほしゅうおぼすおぼすおぼす。。。
現代語訳
夕霧は帰る道すがらも、哀れな空を眺めて、十三日の月がたいそう明るく昇ったので、小倉山もたどれそうなほどでお帰りになると、一条宮は道筋にあったのだった。いっそう荒れて、西南の方の崩れた所から中を見入れると、はるばると格子を下ろし込めて、人影も見えない。月だけが遣水の面をくっきりと照らして澄んでいるので、大納言(柏木)がここで管弦の遊びなどをなさった折々を思い出しなさる。「かつて見た人の影も、もう住み果てずにいなくなったこの池水に、ひとり宿を守っている秋の夜の月よ」と独り言を言いながら、自邸にお帰りになっても、月を見ながら心は上の空でいらっしゃった。「あんなに見苦しく、以前はなかったお癖ですこと」と、女房たちも憎み合っている。上(雲居の雁)は、本当に情けなく、心が浮わついてしまったお心のようだ、もともとそのような方面に慣れていらっしゃる六条院の夫人たちを、何かというとすばらしい例に引き出しては、私を不愉快で愛想のない者と思っていらっしゃるのはひどいことよ、私も昔からそのように慣れていたなら、人目も慣れて、かえって過ごしていけただろうに、世の手本にしてもよいお心ざまだと、親兄弟をはじめ皆様が、あやかりたいものにしてくださったのに、長年連れ添ったあげく、最後に恥をかくようなことがあるのだろうかなどと、たいそうひどく嘆いていらっしゃった。
夜も明け方近くまで、互いに打ち解けなさることもなく、背を向け合って嘆き明かして、朝霧の晴れ間も待たずに、夕霧はいつものように手紙を急いでお書きになる。雲居の雁はたいそう不愉快だとお思いになるが、以前のように奪い取りはなさらない。夕霧はたいそう細やかに書いて、置いて、独り口ずさみなさる。忍んでいらっしゃるけれど、漏れて聞こえてくる。「いつになったら目を覚ましてくださるのでしょう。明けない夜の夢が覚めたらと言った一言を頼りに。上から落ちる(音無の滝)とでもお書きになっているだろうか」と包んで、「どうしたらよいだろう」などと口ずさみなさった。人を呼んでお渡しになった。雲居の雁は、せめてお返事だけでも見つけたいものだ、やはりどういうことなのかと、様子が知りたくお思いになる。
意訳
夕霧は帰り道に荒れた一条宮を見て柏木を偲び、心は宮に向かったまま自邸に帰る。雲居の雁は夫の心変わりを嘆く。
夫婦は背を向け合って夜を明かし、夕霧はまた宮に手紙を書き、雲居の雁は返事を見たいと思う。
語釈・文法注
文法
- 「をぐら山」(をぐら山もたどるまじう)
- 小倉山。「小暗い」をかけ、月が明るくて暗い山道もたどれそうなことをいう。
- 「あえもの」(めやすきあえものにし給へるを)
- あやかりもの。そうありたいと手本にされるもの。
- 「うへより落つる」(うへより落つるとやかいたまへらむ)
- 「音無の滝」の歌語を意識した表現とされる。宮が返事をしないことをいう。
解説
荒れた一条宮と月の映る池水は、柏木の不在を象徴している。夕霧の歌は、亡き友への哀悼と、宮への思いとを重ねている。
雲居の雁の嘆きは切実である。夫の誠実さを周囲から羨まれてきたのに、今になって恥をかくのかという思いは、長年連れ添った妻の悲しみを伝えている。夕霧と雲居の雁が背を向け合って夜を明かす姿に、夫婦の危機が描かれている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、792–795頁(コマ107–108)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日