源氏物語 第39帖 夕霧(28)
鹿の音の歌
鹿がたいそうひどく鳴くのを聞いて、夕霧は、私も劣ろうかと言って、里が遠いので小野の篠原を分けてきて、私も鹿のように声を惜しまず泣いている、と詠む。少将は、藤衣(喪服)の露に濡れる秋の山里の人は、鹿の鳴く声に、声を添えて泣いております、と返す。上手な歌ではないが、折が折なので、ひそやかな声遣いなどを夕霧はよいと聞く。宮へのお言葉をあれこれ申し上げるが、宮は、今はこのようにあきれた夢のような世の中を、少しでも覚ます折があったら、絶えないお見舞いにもお礼を申し上げましょうとだけ、そっけなく女房に言わせる。夕霧は、ひどく言いようもないお心だと嘆きながら帰っていく。

- 1鹿鹿しかのののいといといといたくいたくいたく鳴鳴なくくくををを「「「われわれわれおとらおとらおとらめめめややや」」」とてとてとて、、、「「「里里さととほみとほみとおみ小小お野野のののの篠篠しの原原はらわけわけわけてててきききてててわれわれわれもももしかしかしかこそこそこそ聲聲こえもももをしまをしまおしまねねね」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「ふぢふぢふじごろもごろもごろも露露つゆけきけきけき秋秋あきののの山山やま人人びとはははしかしかしかのののなくなくなく音音ねにににねねねをををぞぞぞそへそへそえつるつるつる」」」。。。よからよからよからねねねどどど折折おりからからからににに忍忍しのびやかびやかびやかなるなるなるこわこわこわづかひづかひずかいなどなどなどをををよろしうよろしうよろしゅう聞聞ききききなしなしなし給給たまへへえりりり。。。御御おんせうそこせうそこしょうそことかうとかうとこう聞聞きこえええ給給たまへへえどどど「「「今今いまはははかくかくかくあさましきあさましきあさましき夢夢ゆめののの世世よををを少少すこしししももも思思おもひひいさますさますさます折折おりあらあらあらばばばなむなむなん、、、絕絕たえええぬぬぬ御御おんとぶらひとぶらひとぶらいももも聞聞きこえええやるやるやるべきべきべき」」」とととのみのみのみすくよかすくよかすくよかにににいはいはいわせせせ給給たまふふう。。。「「「いみじういみじういみじゅういふかひいふかひいうかいなきなきなき御心御心みこころなりなりなりけりけりけり」」」ととと歎歎なげきききつゝつゝつつ歸歸かえりりり給給たまふふう。。。
現代語訳
鹿がたいそうひどく鳴くのを、夕霧は「私も劣るものか」と言って、「里が遠いので、小野の篠原を分けてやってきて、私も鹿のように、声も惜しまず泣いていることです」とおっしゃると、少将は「藤衣の喪服が露に濡れる秋の山里の人は、鹿の鳴く声に、泣く声を添えております」。上手な歌ではないけれど、折が折なので、ひそやかな声遣いなどを、夕霧はよいとお聞きになった。宮へのお言葉をあれこれと申し上げなさるけれど、宮は「今は、このようにあきれた夢のような世の中を、少しでも思い覚ます折がありましたら、絶えないお見舞いにもお礼を申し上げましょう」とだけ、そっけなく女房に言わせなさる。夕霧は「ひどく言いようもないお心であったことよ」と嘆きながらお帰りになる。
意訳
夕霧と少将は鹿の声に寄せて泣く思いを詠み交わすが、宮はそっけない返事しかせず、夕霧は嘆いて帰る。
語釈・文法注
文法
- 「われもしかこそ」(われもしかこそ聲もをしまね)
- 「しか」に「鹿」と「然(そのように)」をかける。
- 「ふぢごろも」(ふぢごろも露けき秋の山人は)
- 藤衣。喪服。
- 「ねをそふ」(しかのなく音にねをぞそへつる)
- 泣く声を添える。「音」に鹿の声と人の泣き声をかける。
解説
鹿の声に寄せて、夕霧と少将が歌を詠み交わす。晩秋の小野の情景に、二人の悲しみが重ねられる。少将の歌は上手ではないが、折にかなった哀れがある。
宮の返事はそっけない。夢のような世を覚ます時が来たらという言葉は、拒絶であると同時に、母を失った宮の深い悲しみを伝えている。夕霧の思いは、宮の心に届かないまま、季節だけが移っていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、792–793頁(コマ107)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日