源氏物語 第39帖 夕霧(26)
九月の小野
九月の十日過ぎ、野山の様子は、深く物の情趣を知らない人でさえ平気ではいられない。山風に耐えられない木々の梢も、峰の葛の葉も、慌ただしく争って散る中に、尊い読経の声がかすかに、念仏の声ばかりして、人の気配はたいそう少なく、木枯らしが吹き払った所に、鹿はただ垣根のそばにたたずんで、山田の鳴子にも驚かず、色濃い稲の中に交じって鳴くのも、悲しげな顔である。滝の音は、物思いをする人をいっそう驚かせるように、耳にやかましく轟き響く。草むらの虫だけが頼りなげに鳴き弱って、枯れた草の下から竜胆が自分一人だけ長々と這い出して露っぽく見えるなど、皆この頃のいつものことだが、折柄所柄か、たいそう耐えがたいほどの物悲しさである。夕霧はいつもの妻戸のもとに立ち寄って、そのまま外を眺めて立つ。柔らかな直衣に、色の濃い下の衣の打ち目がたいそう美しく透けて、弱まった夕日がさすがに何の気もなく差し込むのに、まぶしそうにさりげなく扇をかざす手つきは、女こそこうありたいものだ、女でさえこうはいかないのにと、女房たちが拝見して、物思いの慰めにもなりそうな、思わずほほえまれる美しい顔立ちで、少将の君を特に呼び寄せる。簀子もそれほど奥行きがないが、奥に人がいるのではと気がかりで、細やかには話せない。夕霧は、やはりもっと近くへ、突き放しなさるな、このように山深く分け入る志は、隔てが残ってよいものか、霧もたいそう深いと言って、わざと中を見ないように山の方を眺めて、さあさあとしきりに言うので、少将は鈍色の几帳を簾の端から少し押し出して、裾を引き寄せて座る。大和守の妹なので、御息所から離れずにいて、幼い頃から育てられたので、喪服の色がたいそう濃く、橡色の喪服一揃いに小袿を着ている。

- 1九九なが月月ずき十十じゅう餘餘よ日日か、、、野野の山山やまののの氣色氣色けしきはははふかくふかくふかく見見みしらしらしらぬぬぬ人人ひとだにだにだにたゞたゞただにににやややはははおぼゆるおぼゆるおぼゆる、、、山山やま風風かぜににに堪堪たへへえぬぬぬ木木き々々ぎののの木木こ末末ずえももも峯峯みねののの葛葛くず葉葉はももも心心こころあわたゞしうあわたゞしうあわただしゅう爭爭あらそひひい散散ちるるるまぎれまぎれまぎれににに、、、たふときたふときとうとき讀讀ど經經きょうののの聲聲こえかすかかすかかすかににに念念ねん佛佛ぶつなどなどなどののの聲聲こえばかりばかりばかりしししててて人人ひとのののけはひけはひけわいいといといと少少すくなうなうのう、、、木木こ枯枯がらしののの吹吹ふききき拂拂はらひひいたるたるたるににに鹿鹿しかははは唯唯ただ籬籬まがきのののもともともとにににたゝずみたゝずみたたずみつゝつゝつつ山山やま田田だのののひたひたひたにににももも驚驚おどろかかかずずず色色いろこきこきこき稻稻いねどもどもどもののの中中なかにににまじりまじりまじりてててうちうちうちなくなくなくもももうれへうれへうれえがほがほがおなりなりなり。。。瀧瀧たきののの聲聲こえはははいとゞいとゞいとど物思物思ものおもふふう人人ひとををを驚驚おどろかしかしかしがほがほがおににに耳耳みみかしがましうかしがましうかしがましゅうとゞろきとゞろきとどろきひゞくひゞくひびく。。。叢叢くさむらののの蟲蟲むしのみのみのみぞぞぞよりよりより所所ところなげなげなげににになきなきなきよわりよわりよわりててて枯枯かれれれたるたるたる草草くさののの下下したよりよりよりりんだうりんだうりんどうのののわれわれわれひとりひとりひとりのみのみのみ心心こころながうながうなごうはひはひはい出出いでででゝゝて露露つゆけくけくけく見見みゆるゆるゆるなどなどなど、、、皆皆みな例例れいのののこのこのこの比比ごろのののことことことななななれなれなれどどど折折おりからからから所所ところからからからにににやややいといといと堪堪たへへえ難難がたききき程程ほどののの物物もの悲悲がなしさしさしさなりなりなり。。。
- 2例例れいののの妻妻つま戶戶どのののもともともとににに立立たちちちよりよりより給給たまひひいてててやがてやがてやがて眺眺ながめめめ出出いだしししててて立立たちちち給給たまへへえりりり。。。なつかしきなつかしきなつかしき程程ほどのののなほしなほしのうしににに色色いろこまやかこまやかこまやかなるなるなる御御おんぞぞぞのののうちうちうちめめめいといといとけうらけうらきょうらにににすきすきすきてててかげかげかげよわりよわりよわりたるたるたる夕夕ゆう日日ひのののさすがさすがさすがににに何何なに心心ごころもももなうなうのうさしさしさしきたるきたるきたるにににまばゆげまばゆげまばゆげにににわざとわざとわざとなくなくなく扇扇おうぎをををさしさしさしかくしかくしかくし給給たまへへえるるる手手てつきつきつき、、、女女おんなこそこそこそかうかうこうはははあらまほしけれあらまほしけれあらまほしけれ、、、それそれそれだにだにだにかうかうこうはははあらあらあらぬぬぬをををととと見見み奉奉たてまつるるる物思物思ものおもひひいのののなぐさめなぐさめなぐさめにににしししつつつべくべくべくゑましきゑましきえましきかほかほかおのののにほひにほひにおいにてにてにて少少しょう將將しょうののの君君きみをををとりわきとりわきとりわきてててめしめしめしよすよすよす。。。簀簀す子子のこののの程程ほどもももなけれなけれなけれどどど奧奧おくににに人人ひとやややあらあらあらむむんととと後後うしろめたくめたくめたくてててえええこまやかこまやかこまやかにににももも語語かたらひらひらい給給たまははわずずず。。。「「「猶猶なお近近ちかくくくてててををを、、、なななはなちはなちはなち給給たまひひいそそそ、、、かくかくかく山山やま深深ふかくくく分分わけけけいるいるいる志志こころざしははは隔隔へだててて殘殘のこるるるべくべくべくやややははは。。。霧霧きりもももいといといと深深ふかしししややや」」」とてとてとてわざとわざとわざとももも見見み入入いれれれぬぬぬさまさまさまににに山山やまののの方方かたをををながめながめながめてててなほなほなほなほなおなおととと切切せちにににのたまへのたまへのたまえばばば、、、鈍鈍にび色色いろののの几几き帳帳ちょうををを簾簾す垂垂だれのののつまつまつまよりよりより少少すこしししおしおしおし出出いでででゝゝて裾裾すそをををひきひきひきそばめそばめそばめつゝつゝつつ居居いたりたりたり。。。大大やま和和と守守のかみののの妹妹いもうとなれなれなればばば離離はなれれれ奉奉たてまつらららぬぬぬうちうちうちににに幼幼おさなくくくよりよりよりおほしおほしおおしたてたてたて給給たまひひいけれけれければばばきぬきぬきぬののの色色いろいといといとこくこくこくてててつるばみつるばみつるばみののの喪喪もぎぬぎぬぎぬ一一ひと襲襲かさね小小こ袿袿うちき着着きたりたりたり。。。
現代語訳
九月十日過ぎ、野山の様子は、深く物の情趣を知らない人でさえ、平気な気持ちでいられようか。山風に耐えられない木々の梢も、峰の葛の葉も、慌ただしく争って散る紛れに、尊い読経の声がかすかに、念仏などの声ばかりがして、人の気配はたいそう少なく、木枯らしが吹き払った所に、鹿はただ垣根のそばにたたずんで、山田の鳴子にも驚かず、色濃い稲の中に交じって鳴くのも、悲しげな顔つきである。滝の音は、いっそう物思いをする人を驚かせるかのように、耳にやかましく轟き響く。草むらの虫だけが、頼りなげに鳴き弱って、枯れた草の下から、竜胆が自分一人だけ長々と這い出して、露っぽく見えるなど、皆この頃のいつものことであるけれど、折柄、所柄だろうか、たいそう耐えがたいほどの物悲しさである。
夕霧はいつもの妻戸のもとに立ち寄りなさって、そのまま外を眺めて立っていらっしゃる。柔らかになった直衣に、色の濃い御衣の打ち目がたいそう美しく透けて、弱まった夕日が、さすがに何の気もなく差し込んでくるのに、まぶしそうにさりげなく扇をかざしていらっしゃる手つきは、女こそこうありたいものだ、女でさえこうはいかないのにと、女房たちが拝見して、物思いの慰めにもしてしまいそうな、思わずほほえまれる美しい顔立ちで、少将の君を特にお呼び寄せになる。簀子もそれほど奥行きがないけれど、奥に人がいるのではと気がかりで、細やかにお話もなさらない。「やはりもっと近くに。突き放しなさいますな。このように山深く分け入る志は、隔てが残ってよいものでしょうか。霧もたいそう深いことよ」と言って、わざと中を見ないようにして山の方を眺めて、さあさあとしきりにおっしゃるので、少将は鈍色の几帳を簾の端から少し押し出して、裾を引き寄せながら座っていた。大和守の妹なので、御息所のおそばを離れ申し上げずにいて、幼い頃から育てていただいたので、衣の色がたいそう濃く、橡色の喪服一揃いに小袿を着ていた。
意訳
九月中旬、小野の山里は木の葉が散り、鹿や虫が鳴き、耐えがたいほど物悲しい。
夕霧は妻戸のもとに立ち、その美しい姿に女房たちは見とれる。夕霧は濃い喪服の少将の君を近くに呼び寄せる。
語釈・文法注
文法
- 「ひた」(山田のひたにも驚かず)
- 引板。鳴子。田畑の鳥獣を追うための仕掛け。
- 「うちめ」(御ぞのうちめいとけうらに)
- 打ち目。砧で打った絹の光沢。
- 「つるばみの喪ぎぬ」(つるばみの喪ぎぬ一襲小袿着たり)
- 橡色の喪服。濃い鈍色で、近親者が着る。
解説
晩秋の小野の情景描写は、源氏物語の中でも屈指の名文とされる。散る木の葉、鳴く鹿、滝の音、枯れ草の下から這い出す竜胆が、喪に沈む山荘の物悲しさを伝える。自然の描写が、宮の悲しみと響き合っている。
その中に立つ夕霧の姿は、女房たちが見とれるほど美しい。悲しみの山荘に、夕霧の華やかな姿が映える。少将の君の濃い喪服は、御息所との深い縁を示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、790–793頁(コマ106–107)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日