源氏物語 第39帖 夕霧(24)
返事のない宮
夕霧は毎日見舞う。寂しげな念仏の僧たちが慰められるほど、いろいろな物を遣わして見舞わせ、宮には哀れに心深い言葉を尽くして恨み、また尽きない見舞いを申し上げるが、宮は手に取って見ようともしない。わけもなくあきれたことを、母は弱った心で疑いなく信じ込んで亡くなったことを思い出すと、来世の罪にまでなるのではないかと胸がいっぱいになって、この人のことを少しでも口にすると、いっそうつらく情けない涙が誘われる。女房たちも申し上げあぐねている。一行の返事さえないのを、夕霧は、しばらくは心が惑っているのだろうと思っていたが、あまりに日がたったので、悲しいことにも限りがあるのに、どうしてこうまで分かってくださらないのか、言っても仕方がなく子どもっぽいことだと恨めしく、違う方面のことで花や蝶やと書くのならともかく、自分の心に哀れと思い、物嘆かわしい方面のことを、どうかと尋ねる人は、親しく哀れに思われるものなのに、祖母の大宮が亡くなった時、たいそう悲しく思ったのに、致仕の大臣はそれほどにも思わず、当然の別れとして、公式の作法ばかりを重んじたのがつらく不愉快だったが、六条院(源氏)がかえって丁重に法事なども営まれたのが、自分の父だからというのとは別に嬉しく見えた、その折に亡き衛門督(柏木)を特に好きになったのだ、人柄がたいそう落ち着いて、物事を深く心にとどめる心で、哀れも人より深かったのが懐かしく思われたなどと、つれづれに物思いばかりして明かし暮らす。

- 1大大だい將將しょう殿殿どのははは日日ひ々々びにににとぶらひとぶらひとぶらい聞聞きこえええ給給たまふふう。。。寂寂さびしげしげしげなるなるなる念念ねん佛佛ぶつののの僧僧そうなどなどなど慰慰なぐさむむむばかりばかりばかり萬萬よろずののの物物ものををを遣遣つかはしはしわしとぶらはとぶらはとぶらわせせせ給給たまひひい、、、宮宮みやのののおおお前前まえにににははは哀哀あわれににに心心こころ深深ふかききき言言ことののの葉葉はををを盡盡つくしししててて恨恨うらみみみ聞聞きこえええ、、、かつはかつはかつはつきつきつきもももせせせぬぬぬ御御おんとぶらひとぶらひとぶらいををを聞聞きこえええ給給たまへへえどどど取取とりりりてててだにだにだに御覽御覽ごらんぜぜぜずずず、、、すゞろすゞろすずろにににあさましきあさましきあさましきことことことをををよわれよわれよわれるるる御御おん心心こころちちちににに疑疑うたがひひいなくなくなくおぼしおぼしおぼししみしみしみててて、、、消消きええよ失失うせせせ給給たまひひいにににししし事事ことをををおぼしおぼしおぼし出出いづるづるずるににに、、、後後のちののの世世よののの御御おん罪罪つみにににさへさへさへやややなるなるなるらむらむらんととと胸胸むねにににみつみつみつ心地心地ここちしししててて、、、このこのこの人人ひとののの御御おん事事ことをををだにだにだにかけかけかけててていへいへいえばばばいとゞいとゞいとどつらくつらくつらく心心こころうきうきうき淚淚なみだのののもよほしもよほしもよおしにににおぼさおぼさおぼさるるる。。。人々人々ひとびとももも聞聞きこえええ煩煩わずらひひいぬぬぬ。。。
- 2ひとひとひとくだりくだりくだりののの御御おん返返かえりりりだにだにだになきなきなきををを、、、しばししばししばしははは心心こころ惑惑まどひひいのののししし給給たまへへえるるるなどなどなどおぼしおぼしおぼしけるけるけるににに、、、あまりあまりあまりににに程程ほど經經へぬれぬれぬればばば悲悲かなしきしきしき事事こともももかぎりかぎりかぎりあるあるあるををを、、、などなどなどかかかかくかくかくあまりあまりあまり見見みしりしりしり給給たまははわずずずはははあるあるあるべきべきべき、、、いふかひいふかひいうかいなくなくなく若若わか々々わかしきしきしきやうやうようにににとととうらめしううらめしううらめしゅうことことことごとごとごとのののすぢすぢすじににに花花はなややや蝶蝶ちょうやややとととかけかけかけばばばこそこそこそあらあらあらめめめ、、、我我わががが心心こころににに哀哀あわれととと思思おもひひい物物もの歎歎なげかしきかしきかしきかたかたかたざまざまざまのののことことことをををいかにいかにいかにととと問問とふふう人人ひとははは睦睦むつましうしうしゅう哀哀あわれにににこそこそこそおぼゆれおぼゆれおぼゆれ、、、大大おお宮宮みやのののうせうせうせ給給たまへへえりりりしししをををいといといと悲悲かなしししとととせちせちせちににに思思おもひひいしししににに、、、致致ち仕仕じのののおとゞおとゞおとどのののさしもさしもさしも思思おもふふう給給たまへへえらららずずず、、、ことわりことわりことわりののの世世よののの別別わかれれれにににおほやけおほやけおおやけおほやけしきおほやけしきおおやけしきさはふさはふさほうばかりばかりばかりののの事事ことをををけうじけうじきょうじ給給たまひひいしししにににつらくつらくつらく心心こころづきづきずきなかりなかりなかりしししににに、、、六六ろく條條じょう院院いんのののなかなかなかなかなかなかねんごろねんごろねんごろににに後後のちののの御御おん事事ことをををももも營營いとなみみみ給給たまひひいにににしししががが、、、我我わがががかたかたかたざまざまざまととといふいふいう中中なかにににももも嬉嬉うれしうしうしゅう見見み奉奉たてまつりりりししし、、、そのそのその折折おりににに故故こ衛衛え門門もん督督かみをををばばば取取とりりりわきわきわきててて思思おもひひいつきつきつきにににしししぞぞぞかしかしかし、、、人人ひとがらがらがらのののいたういたういとうしづまりしづまりしずまりててて物物ものをををいたういたういとう思思おもひひいとゞめとゞめとどめたりたりたりししし心心こころににに哀哀あわれもももまさりまさりまさりててて人人ひとよりよりより深深ふかかりかりかりしししがががなつかしうなつかしうなつかしゅう覺覺おぼえええしししなどなどなど、、、つれづれつれづれつれずれととと物物ものをををのみのみのみおぼしおぼしおぼしつゞけつゞけつづけててて明明あかししし暮暮くらししし給給たまふふう。。。
現代語訳
大将殿(夕霧)は、毎日お見舞い申し上げなさる。寂しげな念仏の僧たちなどが慰められるほど、いろいろな物を遣わしてお見舞いさせなさり、宮の御前には、しみじみと心深い言葉を尽くしてお恨み申し上げ、また一方では尽きることのないお見舞いを申し上げなさるけれど、宮は手に取ってさえご覧にならない。わけもなくあきれたことを、母が弱ったお心で疑いもなく思い込みなさって、お亡くなりになったことをお思い出しになると、来世の御罪にまでなるのではないかと胸がいっぱいになる心地がして、この人のことを少しでも口にすると、いっそうつらく情けない涙が誘われるようにお思いになる。女房たちも申し上げあぐねてしまった。
一行のお返事さえないのを、夕霧は、しばらくは心が惑っていらっしゃるのだろうなどとお思いになっていたが、あまりに日がたったので、悲しいことにも限りがあるのに、どうしてこのようにあまりにも分かってくださらないのだろう、言っても仕方がなく子どもっぽいことだと恨めしく、違う方面のことで花や蝶やと書くのならともかく、自分の心に哀れと思い、物嘆かわしい方面のことを、どうかと尋ねてくれる人は、親しく哀れに思われるものなのに、祖母の大宮がお亡くなりになったのをたいそう悲しいと切に思ったのに、致仕の大臣はそれほどにもお思いにならず、当然の世の別れとして、公式の作法ばかりのことを重んじなさったのがつらく不愉快だったが、六条院(源氏)がかえって丁重に、後の法事なども営みなさったのが、自分の父の側だからというのとは別にも、嬉しく拝見した、その折に亡き衛門督(柏木)を特に好きになったのだったよ、人柄がたいそう落ち着いていて、物事を深く心にとどめていた心に、哀れも人よりまさって深かったのが懐かしく思われたことなどと、所在なく物思いばかりをし続けて、明かし暮らしていらっしゃる。
意訳
夕霧は毎日見舞うが、宮は母の死の原因である夕霧の手紙を見ようともしない。
夕霧は返事のないのを恨みつつ、大宮の死の折に柏木の深い情に心引かれたことを思い出す。
語釈・文法注
文法
- 「花や蝶や」(ことごとのすぢに花や蝶やとかけばこそあらめ)
- 花や蝶のような華やかな恋の言葉。
- 「けうず」(さはふばかりの事をけうじ給ひし)
- 興ず。重んじる、もてはやす。
- 「思ひつく」(故衛門督をば取りわきて思ひつきにしぞかし)
- 好きになる、心が引かれる。
解説
宮は、夕霧の手紙が母を死に追いやったと思い、夕霧を拒み続ける。夕霧は、悲しみの時に寄り添う人こそ親しく思われるはずだと恨む。夕霧の論理は正しいが、宮の心の傷の深さを理解していない。
夕霧が大宮の死の折を思い出す場面は、夕霧の人柄を伝える。悲しみを共にしてくれた柏木を好きになったという回想は、悲しみに寄り添うことを大切にする夕霧の価値観を示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、788–791頁(コマ105–106)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日