源氏物語 第39帖 夕霧(20)
御息所の死
このように騒いでいるうちに、大将殿から手紙を受け取ったのを、御息所はほのかに聞いて、今夜も来ないようだと聞き取る。情けなく、世の悪い例にも引かれることになるのだろう、どうして自分まであんな言葉を残してしまったのかと、さまざまに思い出すうちに、そのまま息が絶えてしまう。言いようもなく悲しいと言うのでは足りない。昔から物の怪に時々患っていて、最期と見える折々もあったので、いつものように取り憑いたのだろうと加持を騒ぎ立てるが、臨終の様子ははっきりしていた。宮は後れまいと思い込んで、ぴったりと寄り添って臥している。女房たちが来て、今はもう仕方がない、どれほどお思いになっても、限りある死出の道からは帰ってこられるはずもない、お慕いしても、どうしてお心のままになりましょうと、言うまでもない道理を申し上げて、たいそう不吉で、亡き方のためにも罪深いことだ、今はお離れくださいと引き動かすが、宮は体が硬くなったようで、何も分からない。修法の壇を壊して僧たちがぱらぱらと出ていくが、然るべき人々の一部だけが残って、今はもう最後という様子がたいそう悲しく心細い。

- 1かくかくかく騷騷さわぐぐぐ程程ほどににに大大だい將將しょう殿殿どのよりよりより御御おん文文ふみとりとりとりいれいれいれたるたるたるほのかほのかほのかににに聞聞きききき給給たまひひいててて、、、今今こ宵宵よいもももおはすおはすおわすまじきまじきまじきなななめりめりめりとととうちうちうち聞聞きききき給給たまふふう。。。心心こころうくうくうく世世よのののためしためしためしにににもももひかひかひかれれれ給給たまふふうべきべきべきなななめりめりめり、、、何何なにににに我我わさへさへさへさるさるさる言言ことののの葉葉はををを殘殘のこしししけむけむけんとととさまざまさまざまさまざまおぼしおぼしおぼし出出いづるづるずるにににやがてやがてやがて絕絕たえええいりいりいり給給たまひひいぬぬぬあいなくあいなくあいなくいみじいみじいみじととといへいへいえばばばおろかおろかおろかなりなりなり。。。昔昔むかしよりよりより物物ものののの氣氣けにににははは時々時々ときどき煩煩わずらひひい給給たまふふう。。。限限かぎりととと見見みゆるゆるゆる折折おり々々おりもももあれあれあればばば例例れいのののごとごとごととりとりとりいれいれいれたるたるたるなななめりめりめりとてとてとて加加か持持じ參參まいりりりさわげさわげさわげどどどいまはいまはいまわののの樣樣さまはははしるかりしるかりしるかりけりけりけり。。。宮宮みやはははおくれおくれおくれじじじとととおぼしおぼしおぼしいりいりいりてててつとつとつとそひそひそいふしふしふし給給たまへへえりりり。。。人々人々ひとびとまゐりまゐりまいりててて「「「今今いまはははいふかひいふかひいうかいなしなしなし。。。いといといとかうかうこうおぼすおぼすおぼすともともともかぎりかぎりかぎりあるあるある道道みちにににははは歸歸かえりりりおはすおはすおわすべきべきべき事事ことにににもももあらあらあらずずず。。。慕慕したひひいきこえきこえきこえ給給たまふふうともともともいかでいかでいかでかかか御心御心みこころにににはははかなふかなふかなうべきべきべき」」」とととさらさらさらなるなるなることわりことわりことわりををを聞聞きこえええててて「「「いといといとゆゝしうゆゝしうゆゆしゅうなきなきなき御御おん爲爲ためにににももも罪罪つみ深深ふかきききわざわざわざなりなりなり。。。今今いまはははさらさらさらせせせ給給たまへへえ」」」とととひきひきひきうごかいうごかいうごかい奉奉たてまつれれれどどどすくみすくみすくみたるたるたるやうやうようにてにてにて物物ものももも覺覺おぼえええ給給たまははわずずず。。。修修す法法ほうののの壇壇だん毀毀こぼちちちてててほろほろほろほろほろほろととといづるいづるいずるにににさるさるさるべきべきべきかぎりかぎりかぎりかたへかたへかたえこそこそこそ立立たちちちとまれとまれとまれ、、、今今いまはははかぎりかぎりかぎりのののさまさまさまいといといと悲悲かなしうしうしゅう心心こころぼそしぼそしぼそし。。。
現代語訳
このように騒いでいるうちに、大将殿からお手紙を受け取ったのを、御息所はほのかにお聞きになって、今夜もおいでにならないようだとお聞き取りになる。情けなく、世の悪い例にも引き合いに出されることになるのだろう、どうして自分までそのような言葉を書き残してしまったのだろうと、さまざまにお思い出しになるうちに、そのまま息が絶えておしまいになった。どうしようもなく悲しいと言うのでは、言い足りない。昔から物の怪には時々お患いになっていた。最期と見える折々もあったので、いつものように取り憑いたのだろうと、加持をして騒ぐけれど、今わの際の様子ははっきりしていた。宮は後れまいと思い込みなさって、ぴったりと寄り添って臥していらっしゃった。女房たちが参って、「今はもう仕方がございません。たいそうこのようにお思いになっても、限りある死出の道からは、お帰りになることでもありません。お慕い申し上げなさっても、どうしてお心のままになりましょう」と、言うまでもない道理を申し上げて、「たいそう不吉で、亡き方の御ためにも罪深いことでございます。今はお離れくださいませ」と引き動かし申し上げるが、宮は体が硬くなったようで、何もお分かりにならない。修法の壇を壊して、僧たちがぱらぱらと出ていくと、然るべき人々の一部こそ残っているが、今はもう最後という様子が、たいそう悲しく心細い。
意訳
夕霧が今夜も来ないと知った御息所は、恨みの手紙を書いたことを悔やみながら息絶え、宮は母の亡骸に寄り添って離れない。
語釈・文法注
文法
- 「世のためしにもひかれ給ふ」(世のためしにもひかれ給ふべきなめり)
- 世間の悪い例として引き合いに出されることになる。宮が男に捨てられた女の例になることをいう。
- 「とりいる」(例のごととりいれたるなめり)
- 物の怪が取り憑く。
- 「すくむ」(すくみたるやうにて)
- 体がこわばって動かなくなる。
解説
御息所の死は、誤解の上に重なった誤解の結果である。夕霧の手紙が届いたと聞いて、今夜も来ないと悟った御息所は、娘が捨てられた女として世の笑いものになると思い、絶望の中で息絶える。あの恨みの手紙を書いたことさえ悔やみながら。
母に後れまいと寄り添う宮の姿は痛ましい。宮にとって母は唯一の頼りであった。夫を失い、今また母を失った宮の孤独は、この上なく深い。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、786–787頁(コマ104)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日