源氏物語 第39帖 夕霧(17)
手紙の発見
ひぐらしの声に驚いて、夕霧は、山陰はどんなに霧が立ちこめているだろう、あきれたことだ、今日せめて返事だけでもと気の毒に思い、ただ知らぬ顔で硯をすって、手紙をどうなくしたことにして言い繕おうかと物思いにふけっていると、御座の奥の少し高くなっている所を試しに引き上げてみると、ここに挟んでおかれたのだったと、嬉しくも馬鹿らしくも思われて、ほほえんで見ると、このように心苦しいことが書いてあった。胸がつぶれて、あの一夜のことを、御息所は何かあったと聞いたのだと思うと、気の毒で心苦しく、昨夜でさえどんな思いで明かされただろう、今日も今まで手紙さえ出さずにと、言いようもなく思われる。たいそう苦しそうに、どうしようもなく書き乱しておられる様子で、並々ならず思いあまってこのように書かれたのだろう、平然と今夜を明かしてしまったのかと、言い訳のしようもないので、北の方がたいそうつらく情けない、つまらないことにこのように隠して、いや、自分の甘やかした癖のせいだと、さまざまに我が身もつらく、すっかり泣き出しそうな気持ちになる。

- 1ひぐらしひぐらしひぐらしののの聲聲こえににに驚驚おどろきききててて、、、山山やまのののかげかげかげいかにいかにいかに霧霧きりふたがりふたがりふたがりぬぬぬらむらむらん、、、あさましあさましあさましややや、、、今今け日日きょうこのこのこの御御おん返返かえり事事ごとをををだにだにだにととといとほしういとほしういとおしゅうててて唯唯ただしらしらしらずずず顏顏がおににに硯硯すずりおしおしおしずりずりずりててていかにいかにいかになしなしなしてててしししにににかかかとりとりとりなさなさなさむむんとととながめながめながめおはするおはするおわするおましおましおましののの奧奧おくののの少少すこしししあがりあがりあがりたるたるたる所所ところををを試試こころみみみにににひきひきひきあげあげあげ給給たまへへえれれればばば、、、これこれこれにににさしさしさしはさみはさみはさみ給給たまへへえるるるなりなりなりけりけりけりととと嬉嬉うれしうしうしゅうもももをこがましうをこがましうおこがましゅうもももおぼゆるおぼゆるおぼゆるににに、、、うちうちうちゑみゑみえみててて見見み給給たまふふうにににかうかうこう心苦心苦こころぐるしきしきしきことことことなむなむなんありありありけるけるける。。。胸胸むねつぶれつぶれつぶれててて、、、一一ひと夜夜よのののことことことををを心心こころありありありててて聞聞きききき給給たまひひいけるけるけるとととおぼすおぼすおぼすににに、、、いとほしういとほしういとおしゅう心苦心苦こころぐるしうしうしゅうよべよべよべだにだにだにいかにいかにいかに思思おもひひい明明あかししし給給たまひひいけむけむけん、、、今今け日日きょうももも今今いままでまでまで文文ふみをををだにだにだにととといはいはいわむむん方方かたなくなくなくおぼゆおぼゆおぼゆ。。。いといといと苦苦くるしげしげしげにににいふかひいふかひいうかいなくなくなくかきかきかき紛紛まぎらはしはしわし給給たまへへえるるるさまさまさまにてにてにて、、、おぼろげおぼろげおぼろげににに思思おもひひいあまりあまりあまりてててやややはははかくかくかく書書かききき給給たまへへえつつつらむらむらん、、、つれなくつれなくつれなくててて今今こ宵宵よいのののあけあけあけつつつらむらむらんととといふいふいうべきべきべき方方かたのののなけれなけれなければばば女女おんな君君ぎみぞぞぞいといといとつらうつらうつろう心心こころうきうきうき、、、すゞろすゞろすずろにににかくかくかくあたへあたへあたえかくしかくしかくしててていでやいでやいでや我我わがががならはしならはしならわしぞぞぞやややとととさまざまさまざまさまざまににに身身みもももつらくつらくつらくすべてすべてすべて泣泣なきききぬぬぬべきべきべき心心こころちちちししし給給たまふふう。。。
現代語訳
ひぐらしの声に驚いて、夕霧は、山の陰はどんなに霧が立ちこめていることだろう、あきれたことだ、今日はせめてこのお返事だけでもと気の毒に思って、ただ知らぬ顔で硯をすって、手紙をどうなくしたことにして言い繕おうかと、物思いにふけっていらっしゃる御座の奥の、少し高くなっている所を試しに引き上げてごらんになると、ここに挟んでおかれたのだったと、嬉しくも馬鹿らしくも思われて、ほほえんでご覧になると、このように心苦しいことが書いてあった。胸がつぶれて、あの一夜のことを、御息所は何かあったようにお聞きになったのだとお思いになると、気の毒で心苦しく、昨夜でさえどんな思いで夜を明かしなさっただろう、今日も今まで手紙さえ差し上げずにと、言いようもなく思われる。たいそう苦しそうに、どうしようもなく書き乱していらっしゃる様子で、並々ならず思いあまって、このようにお書きになったのだろう、それなのに平然と今夜を明かしてしまったのだろうかと、言い訳のしようもないので、女君(雲居の雁)がたいそうつらく情けない、つまらないことにこのように手紙を隠して、いや、自分が甘やかしてきた癖のせいだと、さまざまに我が身もつらく、すっかり泣き出してしまいそうな気持ちがなさる。
意訳
夕霧は御座の奥に隠された手紙を見つけ、御息所の苦しい筆跡に胸をつぶし、手紙を隠した雲居の雁と自分を責める。
語釈・文法注
文法
- 「をこがまし」(嬉しうもをこがましうもおぼゆるに)
- 馬鹿らしい、愚かしい。
- 「心ありて聞く」(一夜のことを心ありて聞き給ひける)
- 何か意味のあることとして聞く。男女の関係があったと受け取る。
- 「ならはし」(いでや我がならはしぞや)
- 習慣、癖。雲居の雁をわがままに育ててしまった自分の甘さ。
解説
夕霧はついに手紙を見つけるが、すでに夕暮れである。御息所の苦しい筆跡を見て、夕霧は胸をつぶす。丸一日手紙を放置したことは、御息所にとって、夕霧が宮を軽んじている証拠と映ったはずである。
夕霧は雲居の雁を恨みながらも、それは自分が甘やかした癖だと自分を責める。妻への怒りと自責の念とが入り混じった夕霧の心が描かれている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、782–785頁(コマ102–103)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日