源氏物語 第39帖 夕霧(15)
雲居の雁が手紙を奪う
夕霧はこの日の昼ごろから三条殿(自邸)にいた。今夜また引き返して小野へ行けば、何かあったように早くも聞き苦しいだろうなどと我慢して、かえって長年の気がかりよりも、千倍も物思いを重ねて嘆いている。北の方(雲居の雁)は、夫の忍び歩きの様子をほのかに聞いて不愉快に思っていたが、知らないふりをして子どもたちと遊んで紛らわしながら、昼の御座に臥している。宵を過ぎた頃、御息所の返事が届いたが、いつもと違う鳥の足跡のような字なので、すぐには読み解けず、灯火を近くに引き寄せて見る。雲居の雁は物を隔てているようだったが、たいそう早く見つけて、そっと寄ってきて後ろから手紙を取ってしまう。夕霧は、あきれた、これはどうなさる、けしからぬ、六条院の東の上(花散里)のお手紙だ、今朝風邪をひいて気分が悪そうだったのを、源氏の御前にいて帰る時にまた伺わなかったので、気の毒に思って今どうかとお尋ねしたのだ、見てごらん、懸想文らしい手紙の様子か、それにしても下品なお振る舞いだ、年月がたつにつれてひどく私を侮りなさるのが悔しい、私がどう思うかもまったく恥じないのだなと嘆いて、惜しむ顔で取り返そうともしないので、雲居の雁はさすがにすぐには見ないで持っている。雲居の雁が、年月とともに侮るのは、あなたの癖でしょうとだけ、夫のかしこまった様子に遠慮して、若々しく愛らしい様子で言うので、夕霧は笑って、それはそうかもしれない、世の常のことだ、だがこんな男はほかにいまい、相当の身分になった男が、迷うことなく一つ所を守って、怖がる鷹のような有様では、どれほど人が笑うだろう、そんな頑固な者に守られているのは、あなたのためにも名誉ではない、大勢の中でやはり格別に扱われてこそ、世間の評判も奥ゆかしく、自分の気持ちも古びずに、趣あることも哀れなことも絶えないだろう、このように翁が何とかを守ったように腑抜けになっているのはたいそう残念だ、何の見栄えがあろうと、手紙の様子を気にしない顔でだまし取ろうとしてからかうが、雲居の雁はたいそうつややかに笑って、見栄えを作り出されるにつけて、古びた私は苦しい、たいそう当世風に変わってしまったお気持ちの冷たさにも慣れていないので、とてもつらい、以前から慣らしてくださらないでと恨むのも憎くない。夕霧は、急に変わったと思われるほど何が見えるのだろう、たいそう嫌な邪推だ、よくないことを告げる人がいるのだろう、どうももとから私を快く思わない人なのだよ、やはりあの六位の緑の袖の頃を侮って、何かたくらんで扱おうとするのだろうか、いろいろ聞き苦しい噂がほのめいているようだ、関係のない人のためにも気の毒だなどと言うが、いずれはそうなることと思っているので、強くは言い争わない。

- 1大大だい將將しょう殿殿どのはははこのこのこの晝晝ひるつつつ方方かたよりよりより三三さむ條條じょう殿殿どのにににおはしおはしおわしにににけるけるける。。。今今こ宵宵よい立立たちちちかへりかへりかえりまうでまうでもうで給給たまははわむむんにににことことことしもしもしもありありありがほがほがおにににまだきまだきまだきににに聞聞きききき苦苦くるしかるしかるしかるべしべしべしなどなどなど念念ねんじじじ給給たまひひいててて、、、いといといとなかなかなかなかなかなか年年とし比比ごろののの心心こころもとなさもとなさもとなさよりよりよりもももちへちへちえにににものものもの思思おもひひいかさねかさねかさねててて歎歎なげききき給給たまふふう。。。北北きたののの方方かたはははかゝるかゝるかかる御御おんありきありきありきののの氣色氣色けしきほのほのほのぎゝぎゝぎきててて心心こころやましやましやましととと聞聞きききき居居い給給たまへへえるるるにににしらしらしらぬぬぬやうやうようにてにてにて君君きん達達だちもてもてもて遊遊あそびびびまぎらはしまぎらはしまぎらわしつゝつゝつつ、、、我我わががが晝晝ひるのののおましおましおましにににふしふしふし給給たまへへえりりり。。。宵宵よい過過すぐるぐるぐる程程ほどにににぞぞぞこのこのこの御御おん返返かえりりりもてもてもて參參まいれれれるるるををを、、、かくかくかく例例れいにににもももあらあらあらぬぬぬ鳥鳥とりののの跡跡あとのののやうやうようなれなれなればばば頓頓とみにににもももときときとき給給たまははわででで大大おおとなぶらとなぶらとなぶら近近ちこうううとりとりとりよせよせよせててて見見み給給たまふふう。。。女女おんな君君ぎみ物物もの隔隔へだてててたるたるたるやうやうようなれなれなれどどどいといといと疾疾とくくく見見みつけつけつけ給給たまひひいてててはひはひはいよりよりよりててて御御おん後後うしろよりよりよりとりとりとり給給たまひひいつつつ。。。「「「あさましうあさましうあさましゅうこここはははいかにいかにいかにししし給給たまふふうぞぞぞ。。。あなあなあなけしからけしからけしからずずず。。。六六ろく條條じょうののの東東ひんがしののの上上うえののの御御おん文文ふみなりなりなり。。。けさけさけさ風風かぜおこりおこりおこりてててなやましげなやましげなやましげにににししし給給たまへへえるるるををを、、、院院いんののの御御お前前まえににに侍侍はべりりりててて出出いづるづるずる程程ほど又又またもももまうでまうでもうでずずずなりなりなりぬれぬれぬればばばいとほしさいとほしさいとおしさににに今今いまのののまままいかにいかにいかにととと聞聞きこえええたりたりたりつるつるつるなりなりなり見見み給給たまへへえよよよ、、、けさうけさうけそうびびびたるたるたる文文ふみのののさまさまさまかかか。。。さてもさてもさてもなほなほしなほなほしなおなおしののの御御おんさまさまさまややや。。。年年とし月月つきにににそへそへそえててていたういたういとうあなづりあなづりあなずり給給たまふふうこそこそこそうれたけれうれたけれうれたけれ思思おもははわむむん所所ところをををむげむげむげにににはぢはぢはじ給給たまははわぬぬぬよよよ」」」ととと打打うちちちうめきうめきうめきてててをしみをしみおしみがほがほがおにににもももひこじろひひこじろひひこじろい給給たまははわねねねばばばさすがさすがさすがにににふとふとふとももも見見みでででももも給給たまへへえりりり。。。「「「年年とし月月つきにににそふるそふるそうるあなづらはしさあなづらはしさあなずらわしさははは御心御心みこころならひならひならいなななべかべかべかめりめりめり」」」とととばかりばかりばかり、、、かくかくかくうるはしうるはしうるわしだちだちだち給給たまへへえるるるににに憚憚はばかりりりててて若若わかやかやかやかにににをかしきをかしきおかしきさまさまさましししてててのたまへのたまへのたまえばばばうちうちうち笑笑わらひひいててて
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現代語訳
大将殿(夕霧)は、この日の昼ごろから三条殿(自邸)にいらっしゃった。今夜引き返して小野へお出かけになるのも、何かあったような顔で早くも聞き苦しいだろうなどと我慢なさって、かえって長年の気がかりよりも、千倍も物思いを重ねてお嘆きになる。北の方(雲居の雁)は、このような忍び歩きの様子をほのかに聞いて、不愉快だと聞いていらっしゃったが、知らないふりをして、子どもたちと遊んで紛らわしながら、ご自分の昼の御座に臥していらっしゃった。宵を過ぎた頃に、あの御息所のお返事を持って参ったが、このようにいつもと違う鳥の足跡のような字なので、すぐには読み解きなさることもできず、大殿油を近くに引き寄せてご覧になる。女君は物を隔てているようだったけれど、たいそう早く見つけなさって、這い寄って、夕霧の後ろから手紙を取っておしまいになった。夕霧は「あきれた、これはどうなさるのです。ああ、けしからぬ。六条院の東の上(花散里)のお手紙です。今朝、風邪をひいて気分が悪そうにしていらっしゃったのを、院(源氏)の御前に伺っていて退出する時に、またお伺いしなかったので、気の毒に思って、今はどうかとお尋ね申し上げたのです。ご覧なさい、懸想文めいた手紙の様子ですか。それにしても下品なお振る舞いだ。年月がたつにつれて、ひどく私を侮りなさるのが悔しい。私がどう思うかも、まったく恥じなさらないのだね」と嘆いて、惜しむ顔をして取り返そうともなさらないので、雲居の雁もさすがに、すぐには見ないで持っていらっしゃった。「年月とともに侮るのは、あなたのお心の癖なのでしょう」とだけ、夫がこのように改まった様子でいらっしゃるのに遠慮して、若々しく愛らしい様子でおっしゃるので、夕霧は笑って、
「それはどうでもよいでしょう。世の常のことです。でも、またとないでしょうよ。相当の身分になった男が、このように迷うこともなく一つ所を守って、怖がっている鷹のような有様でいるのは、どれほど人が笑っているでしょう。そのような頑固な者に守られていらっしゃるのは、あなたのためにも名誉ではないでしょう。大勢の中で、やはり格別に扱われて違いが見えてこそ、世間の評判も奥ゆかしく、自分の気持ちもやはり古びずに、趣あることも、哀れな方面のことも絶えないでしょう。このように翁の誰それが守ったように、腑抜けになっているので、たいそう残念だ。何の見栄えがありましょう」と、さすがにこの手紙を気にしない様子で、だまし取ろうという心で、からかい申し上げなさると、雲居の雁はたいそうつややかに笑って、「見栄えを作り出しなさるにつけて、古びた私はつらいことです。たいそう当世風に変わってしまったお気持ちの冷たさにも、慣れていないことですので、とてもつらいのです。以前から慣らしてくださらないで」と恨みなさるのも、憎らしくない。夕霧は「急に変わったとお思いになるほど、何が見えるのでしょう。たいそういやな邪推ですね。よくないことを申し上げる人がいるのでしょう。どうももとから私を快く思わない人なのですよ。やはりあの六位の緑の袖の頃の名残を侮って、何とか扱い申し上げようと思うことがあるのでしょうか。いろいろと聞き苦しいことがほのめいているようです。関係のない人のためにも気の毒で」などとおっしゃるが、結局はそうなるはずのこととお思いになるので、特に言い争いもなさらない。
意訳
夕霧が御息所の返事を読もうとすると、雲居の雁が後ろから手紙を取り上げる。夕霧は花散里の手紙だとごまかし、取り返そうとしない。
夕霧は冗談めかして雲居の雁をからかい、雲居の雁は夫の心変わりを恨むが、夕霧は強く言い争わない。
語釈・文法注
文法
- 「ひこじろふ」(をしみがほにもひこじろひ給はねば)
- 引っ張り合う、奪い合う。
- 「せうよう」(物おぢしたる鳥のせうようのもの)
- 鷹狩の鷹の一種とされる。おじけづいた鷹のように一つ所を守ることをいう。
- 「緑の袖」(かの綠の袖のなごり)
- 六位の緑色の袍。夕霧が六位であった若い頃、雲居の雁の乳母に侮られたことを指す。
- 「をこづりとる」(をこづりとらむの心にて)
- だまし取る。
解説
雲居の雁が夫の手紙を後ろから奪い取る場面は、源氏物語の中でも珍しい、生活感あふれる夫婦喧嘩の場面である。夕霧は花散里の手紙だとごまかし、雲居の雁は夫の心変わりを恨む。二人のやりとりには、長年連れ添った夫婦の親しさとユーモアがある。
しかし、この手紙は御息所が命をかけて書いたものであった。雲居の雁が手紙を隠したことで、夕霧は返事を出せず、御息所の誤解はいっそう深まる。家庭の小さな喧嘩が、小野の悲劇を招くことになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、780–783頁(コマ101–102)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日