古典ライブラリー

源氏物語 第39帖 夕霧(12)

母と娘

登場人物:落葉の宮・小少将の君・一条御息所

宮は母のもとへ行こうとして、涙に濡れて固まった額髪を整え、ほころびた単衣を着替えたりするが、すぐには動けない。女房たちもどう思っているだろう、母はまだ知らずにいて、後で少しでも聞くことがあったら、知らぬ顔をしていたと思われるのもひどく恥ずかしいので、また臥してしまう。気分がひどく悪い、このまま治らなくなったら、かえって見苦しくなくてよいだろう、脚気が上ってくる気がすると、脚をさすらせる。さまざまに苦しく思い悩むので、気がのぼったのだった。宮が小少将に、母上にこのことをほのめかした人がいるらしい、どうだったのかと尋ねるので、小少将はありのままに話して、襖の守りのことだけ少し言い添えて、はっきり申し上げました、もしそのようにお尋ねがあれば同じようにおっしゃってくださいと言う。御息所が嘆いていた様子は言わない。宮は、やはりそうかとたいそうつらく、何も言わずに、枕から涙のしずくが落ちる。このことだけでなく、思いがけない結婚をした時から、母にひどく物思いばかりさせてきたことよと、生きるかいもなく思い続け、あの人はこれでやめずにあれこれ言い寄ってくるのも煩わしく、聞き苦しいだろうと思う。まして、言いようもなく人の言うままになっていたら、どんな浮名を流したことかと、少しは心を慰める面もあるが、これほどの高い身分の者が、こうまでうかつに人に見られることはあるまいと、宿縁を憂く思い沈んでいると、夕方、やはりおいでくださいと母から言ってくるので、中の塗籠の戸を開けて母の方へ渡る。御息所は苦しい病の身でも、並々ならず恐縮して大切に迎える。いつもの作法を違えず起き上がって、ひどく取り乱しているので、おいでいただくのも心苦しくて、この二、三日会わなかったのが年月のような気がするのも、一方ではたいそうはかない、来世では必ずしもお会いできるとも限らないようだ、またこの世に生まれ変わってもかいがあろうか、思えば、ほんの束の間で隔たってしまう世の中を、無理に慣れ親しんできたのも悔しいほどだと泣く。宮も何もかも悲しく思われて、何も言わずに母を見ている。宮は遠慮深い性分で、はきはきと言い開きをすることもできないので、恥ずかしいとばかり思っているのが、御息所はたいそう気の毒で、どうだったのかとも尋ねず、灯火を急いで灯させ、膳もこちらで差し上げる。何も食べないと聞いて、自ら世話をして手直しなどするが、宮は手もつけない。ただ母の具合がよさそうに見えるので、少し胸が晴れる。

夕暮れの小野の山荘で、塗籠の戸を開けて母のもとへ渡った落葉の宮が黙ってうつむき、病床から起き上がった一条御息所が涙ながらに語りかけている場面(AI生成)
夕暮れの小野の山荘で、塗籠の戸を開けて母のもとへ渡った落葉の宮が黙ってうつむき、病床から起き上がった一条御息所が涙ながらに語りかけている場面
  1. 1渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまははわむむんもももとてとてとて御おん御おんおん額ひたひ額ひたひひたい髮がみ髮がみがみのののぬれぬれぬれまろかれまろかれまろかれたるたるたるひきひきひきつくろひつくろひつくろい、、、單衣ひとへ單衣ひとへひとえののの御おん御おんおんぞぞぞほころびほころびほころびたるたるたる着き着ききかへかへかえなどなどなどししし給たま給たまたまひひいてててももも頓とみ頓とみとみにににもももえええうごいうごいうごい給たま給たまたまははわずずず。。。このこのこの人々ひとびと人々ひとびとひとびともももいかにいかにいかに思おも思おもおもふふうらむらむらん、、、まだまだまだえええしりしりしり給たま給たまたまははわででで後のち後のちのちにににいさゝかいさゝかいささかももも聞き聞ききききき給たま給たまたまふふうことことことあらあらあらむむんにににつれなくつれなくつれなくてててありありありしししよよよとととおぼしおぼしおぼし合あは合あはあわせせせむむんももも、、、いみじういみじういみじゅうはづかしけれはづかしけれはずかしければばば又また又またまたふしふしふし給たま給たまたまひひいぬぬぬ「「「心こころ心こころこころちちちのののいみじういみじういみじゅうなやましきなやましきなやましきかなかなかな。。。やがてやがてやがてなほらなほらなおらぬぬぬさまさまさまにににもももなりなりなりなななばばばいといといとめやすかりめやすかりめやすかりぬぬぬべくべくべくあしあしあしのののけけけののののぼりのぼりのぼりたるたるたる心こころ心こころこころちちちすすす」」」とととおしおしおしくださくださくださせせせ給たま給たまたまふふう。。。物もの物ものものをををいといといと苦くる苦くるくるしうしうしゅうさまざまさまざまさまざまににに覺おぼ覺おぼおぼすすすにににはははけけけぞぞぞあがりあがりあがりけるけるける。。。少せう少せうしょう將しやう將しやうしょう「「「うへうへうえにににこのこのこの御おん御おんおん事こと事ことことほのめかしほのめかしほのめかし聞きこ聞きこきこえええけるけるける人ひと人ひとひとこそこそこそはべはべはべけれけれけれ。。。いかなりいかなりいかなりしししことことことぞぞぞ」」」ととと問と問ととはははせせせ給たま給たまたまへへえれれればばばありありありのののまゝまゝままににに聞きこ聞きこきこえええさせさせさせててて「「「御おん御おんおんさうじさうじそうじのののかためかためかためばかりばかりばかりをををなむなむなん少すこ少すこすこしししことことことそへそへそえてててけざやかけざやかけざやかににに聞きこ聞きこきこえええさせさせさせつるつるつる。。。もしもしもしさやうさやうさようにににかすめかすめかすめ聞きこ聞きこきこえええさせさせさせ給たま給たまたまははわゞゞば同おな同おなおなじじじさまさまさまににに聞きこ聞きこきこえええさせさせさせ給たま給たまたまへへえ」」」ととと申まう申まうもうすすす。。。歎なげ歎なげなげいいい給たま給たまたまへへえるるる氣色けしき氣色けしきけしきははは聞きこ聞きこきこえええ出い出いいでででずずず。。。さればさればさればよよよととといといといとわびしくわびしくわびしくててて物もの物ものものももものたまはのたまはのたまわぬぬぬ、、、御おん御おんおん枕まくら枕まくらまくらよりよりよりしづくしづくしずくぞぞぞおつるおつるおつる。。。このこのこの事こと事ことことにににのみのみのみもももあらあらあらずずず身み身みみののの思おも思おもおもははわずずずににになりなりなりそめそめそめしししよりよりよりいみじういみじういみじゅう物もの物ものものをををのみのみのみ思おも思おもおもははわせせせ奉たてまつ奉たてまつたてまつるるることことことゝゝと、、、生い生いいけけけるるるかひかひかいなくなくなく思おも思おもおもひひいつゞけつゞけつづけたまひたまひたまいててて、、、このこのこの人ひと人ひとひとはははかうかうこうてててもももやまやまやまでででとかくとかくとかくいひいひいいかゝづらひかゝづらひかかずらい出い出いいでででむむんももも、、、煩わづらは煩わづらはわずらわしうしうしゅう聞き聞ききききき苦くる苦くるくるしかるしかるしかるべうべうびょうよろづよろづよろずににに覺おぼ覺おぼおぼすすす。。。まいてまいてまいていふかひいふかひいうかいなくなくなく人ひと人ひとひとのののことことことににによりよりよりててていかなるいかなるいかなる名な名ななをををくださくださくださましましましなどなどなど、、、少すこ少すこすこしししおぼしおぼしおぼしなぐさむるなぐさむるなぐさむる方かた方かたかたはははあれあれあれどどど、、、かばかりかばかりかばかりににになりなりなりぬるぬるぬるたかきたかきたかき人ひと人ひとひとのののかくかくかくまでまでまでもももすゞろすゞろすずろににに人ひと人ひとひとににに見み見みみゆるゆるゆるやうやうようはははあらあらあらじじじかしかしかしととと、、、すくせすくせすくせうくうくうくおぼしおぼしおぼしくしくしくしててて
  2. 2夕ゆふ夕ゆふゆうつつつ方かた方かたかたぞぞぞ「「「猶なほ猶なほなおわたらわたらわたらせせせ給たま給たまたまへへえ」」」とととあれあれあればばば、、、中なか中なかなかののの塗ぬり塗ぬりぬり籠ごめ籠ごめごめののの戶と戶ととあけあけあけあはせあはせあわせててて渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまへへえるるる。。。苦くる苦くるくるしきしきしき御おん御おんおん心こころ心こころこころちちちにににもももなのめなのめなのめならならならずずずかしこまりかしこまりかしこまりかしづきかしづきかしずき聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふう。。。常つね常つねつねののの御おん御おんおんさはふさはふさほうあやまたあやまたあやまたずずず、、、おきおきおきあがりあがりあがり給たま給たまたもうううててて「「「いといといと亂みだ亂みだみだりがはしくりがはしくりがわしく侍はべ侍はべはべれれればばば渡わた渡わたわたらららせせせ給たま給たまたまふふうももも心こころ心こころこころぐるしうぐるしうぐるしゅうてててなむなむなん。。。このこのこの二ふつ二ふつふつ日か日かか三みつ三みつみつ日か日かかばかりばかりばかり見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららざりざりざりけるけるけるほどほどほどののの年とし年としとし月つき月つきつきののの心地ここち心地ここちここちするするするももも、、、かつはかつはかつはいといといとはかなくはかなくはかなくなむなむなん。。。後のち後のちのち必かなら必かならかならずしもずしもずしも對たい對たいたい面めん面めんめんののの侍はべ侍はべはべるるるべきべきべきにににももも侍はべ侍はべはべらららざざざめりめりめり。。。又また又またまためぐりめぐりめぐり參まゐ參まゐまいるるるともともともかひかひかいやややははは侍はべ侍はべはべるるるべきべきべき。。。思おも思おもおもへへえばばば唯ただ唯ただただ時とき時ときときのののまままににに隔へだ隔へだへだたりたりたりぬぬぬべきべきべき世よ世よよののの中なか中なかなかをををあながちあながちあながちにににならひならひならい侍はべ侍はべはべりりりけるけるけるももも悔くや悔くやくやしきしきしきまでまでまでなむなむなん」」」などなどなどなきなきなき給たま給たまたまふふう。。。宮みや宮みやみやももも物もの物ものもののみのみのみ悲かな悲かなかなしうしうしゅうとりとりとりあつめあつめあつめおぼさおぼさおぼさるれるれるればばば、、、聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうことことこともももなくなくなくててて見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまふふう。。。物もの物ものものつゝみつゝみつつみをををいたういたういとうししし給たま給たまたまふふう本ほん本ほんほん性じやう性じやうじょうにににきはきはしうきはきはしうきわきわしゅうのたまひのたまひのたまいさはやぐさはやぐさわやぐべきべきべきにににもももあらあらあらねねねばばば耻はづか耻はづかはずかしししとととのみのみのみ覺おぼ覺おぼおぼすすすににに、、、いといといといとほしういとほしういとおしゅうててて、、、いかなりいかなりいかなりしししなどなどなどももも問と問ととひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまははわずずず、、、大おほ大おほおおとなぶらとなぶらとなぶらなどなどなど急いそ急いそいそぎぎぎ參まゐ參まゐまいらららせせせててて御おん御おんおん臺だい臺だいだいなどなどなどこなたこなたこなたにてにてにて參まゐ參まゐまいらららせせせ給たま給たまたまふふう。。。物もの物ものもの聞きこ聞きこきこしめさしめさしめさずずずととときゝきゝきき給たま給たまたまひひいててて、、、とかうとかうとこう手て手ててづからづからずからまかなひまかなひまかないなほしなほしなおしなどなどなどししし給たま給たまたまへへえどどど觸ふ觸ふふれれれ給たま給たまたまふふうべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。唯ただ唯ただただ御おん御おんおん心こころ心こころこころちちちのののよろしうよろしうよろしゅう見み見みみえええ給たま給たまたまふふうぞぞぞ胸むね胸むねむねすこしすこしすこしあきあきあき給たま給たまたまふふう。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

宮は母のもとへお渡りになろうとして、涙に濡れて固まった額髪を整え、ほころびた単衣の御衣を着替えなどなさっても、すぐには動くこともおできにならない。この女房たちもどう思っているだろう、母上がまだご存じなくて、後で少しでもお聞きになることがあったら、知らぬ顔をしていたことよとお思い合わせになるのも、ひどく恥ずかしいので、また臥しておしまいになった。「気分がひどく悪いことよ。このまま治らない様子にでもなったら、かえってたいそう見苦しくなくてよいだろうに。脚気が上ってきた気がする」と、脚をさすり下ろさせなさる。何かとたいそう苦しく、さまざまに思い悩みなさるので、気がのぼったのだった。宮が小少将に「母上にこのことをほのめかし申し上げた人がいるようです。どういうことだったのですか」とお尋ねになるので、小少将はありのままに申し上げて、「御襖の守りのことだけを、少し言葉を添えて、はっきりと申し上げました。もしそのようにほのめかしてお尋ねになりましたら、同じようにおっしゃってください」と申し上げる。御息所がお嘆きになっていた様子は申し上げない。宮は、やはりそうだったかとたいそうつらくて、何もおっしゃらず、御枕から涙のしずくが落ちる。このことばかりでなく、身が思いがけない結婚をしてから、ひどく母上に物思いばかりおさせ申し上げることだと、生きるかいもなく思い続けなさって、あの人はこれでやめずに、あれこれと言い寄って関わってくるのも、煩わしく聞き苦しいことだろうと、何かとお思いになる。まして、言いようもなく、あの人の言うままになっていたら、どのような浮名を流したことだろうなどと、少しはお心を慰める面もあるけれど、これほどの身分になった高貴な者が、こうまでうかつに人に見られることはあるまいと、宿縁を憂くお思い沈んでいらっしゃると、

夕方、「やはりおいでください」と母から言ってきたので、中の塗籠の戸を開けて、母のもとへお渡りになった。御息所は苦しいご病気の身でも、並々ならず恐縮して、大切にお迎え申し上げなさる。いつもの作法を違えず、起き上がりなさって、「たいそう取り乱しておりますので、おいでいただくのも心苦しくて。この二日三日ほどお会いしなかった間が、年月のような気がいたしますのも、一方ではたいそうはかないことです。来世では、必ずしもお会いできるとも限らないようです。またこの世に生まれ変わって参りましても、かいがありましょうか。思えば、ほんの束の間で隔たってしまうはずの世の中を、無理に親しみ慣れてまいりましたのも、悔しいほどです」などとお泣きになる。宮も何もかも悲しく、とりまとめてお思いになるので、申し上げなさることもなく、母を見申し上げていらっしゃる。宮はたいそう遠慮深くしていらっしゃる性分で、はきはきとおっしゃって晴らすこともおできにならないので、恥ずかしいとばかりお思いになっているのが、御息所はたいそう気の毒で、どうだったのかなどともお尋ね申し上げなさらず、大殿油などを急いで灯させて、お膳などもこちらで差し上げさせなさる。宮が何も召し上がらないとお聞きになって、あれこれとご自身で世話をして手直しなどなさるけれど、宮はお手を触れなさりそうにもない。ただ母のご気分がよさそうにお見えになるので、胸が少し晴れなさる。

意訳

宮は母のもとへ行こうとするが動けず、小少将から母に話が伝わったと聞いて涙を流し、我が身の宿縁を嘆く。

夕方、宮は母のもとへ渡り、御息所は涙ながらに世のはかなさを語るが、何も尋ねず、細やかに宮を世話する。

語釈・文法注

文法

「あしのけ」(あしのけののぼりたる心ちす)
脚気。脚の病。気がのぼると考えられた。
「塗籠」(中の塗籠の戶あけあはせて)
寝殿造で、周囲を壁で塗り込めた部屋。納戸や寝所として使われた。
「さはふ」(常の御さはふあやまたず)
作法。礼儀作法。
「めぐり參る」(又めぐり參るともかひやは侍るべき)
生まれ変わってまた会うこと。

解説

宮と御息所は、互いに相手を思いやるあまり、本当のことを語り合えない。宮は母に心配をかけたことを恥じ、御息所は宮を気遣って何も尋ねない。親子の深い愛情が、かえって二人の間に沈黙を生んでいる。

御息所の「時のまに隔たりぬべき世の中」という言葉は、死の予感に満ちている。御息所は病の身で、宮を大切に迎え、自ら膳の世話をする。母の最後の慈しみが、静かに描かれている。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、778–781頁(コマ100–101)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日