源氏物語 第39帖 夕霧(11)
御息所の嘆き
律師が立ち去った後、御息所は小少将の君を呼んで、こういうことを聞いた、どういうことだったのか、どうして私にはこうこうと知らせてくれなかったのか、そんなことはあるまいとは思うがと言う。小少将は気の毒に思いながら、昨夜の様子を初めから詳しく話す。今朝の手紙の様子や、宮がほのかに言っていたことなども話して、長年忍んできた心の内を知らせようとしただけだったのでしょう、ありがたいほど心遣いがあって、夜も明けきらないうちにお帰りになったのに、人はどう申し上げたのでしょうと、律師とは思いも寄らず、誰かがこっそり告げたのだと思う。御息所は何も言わずに、ひどくつらく残念に思って、涙をほろほろとこぼす。小少将は、どうしてありのままに話してしまったのだろう、苦しいご病気なのにいっそう思い乱れるだろうと悔やむ。襖は閉めてありましたと、何かとよいように言いつくろうが、御息所は、どちらにしても、あれほど何の用心もなく軽々しく人に見られたのはひどいことだ、内々の心が潔白でも、あれほど言っていた法師たちや、よくない童などが、言い残すはずがあろうか、人にはどう言い争って、そうではないと言えばよいのか、すべて分別のない者ばかりがここに仕えていてとも、言い終えられない。たいそう苦しそうな病の身で驚いたので、たいそう気の毒である。宮を気高く扱おうと思っていたのに、世間並みの軽々しい浮名が立つことを、ひどく嘆く。少しでも正気がある間にこちらにおいでになるよう申し上げよ、そちらへ行くべきだが動けそうにない、会わないで長くなった気がすると、涙を浮かべて言う。小少将は宮のもとに参って、このように申しておられますとだけ伝える。

- 1律律りつ師師したちたちたちぬるぬるぬる後後のちににに小小こ少少しょう將將しょうののの君君きみをををめしめしめしててて「「「かゝるかゝるかかることことことなむなむなん聞聞ききききつるつるつる。。。いかなりいかなりいかなりしししことことことぞぞぞ。。。などなどなどかかかおのれおのれおのれにににはははさささなむなむなんかくかくかくなむなむなんとととははは聞聞きかかかせせせ給給たまははわざりざりざりけるけるける。。。さしもさしもさしもあらあらあらじじじとととははは思思おもひひいながらながらながら」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、いとほしけれいとほしけれいとおしけれどどどありありありしししやうやうようををを始始はじめよりよりより委委くわしうしうしゅう聞聞きこゆゆゆ。。。けさけさけさののの御御おん文文ふみのののけしきけしきけしき宮宮みやもももほのかほのかほのかにににのたまはせのたまはせのたまわせつるつるつるやうやうようなどなどなど聞聞きこえええ、、、「「「年年とし比比ごろ忍忍しのびびびわたりわたりわたり給給たまひひいけるけるける心心こころのののうちうちうちををを聞聞きこえええしらせしらせしらせむむんとととばかりばかりばかりにににややや侍侍はべりりりけむけむけん、、、ありがたうありがたうありがとう用用よう意意いありありありてててなむなむなん明明あかしししもももはてはてはてででで出出いででで給給たまひひいぬるぬるぬるををを、、、人人ひとはははいかにいかにいかに聞聞きこえええ侍侍はべるるるにににかかか」」」ととと律律りつ師師しとととははは思思おもひひいもももよらよらよらででで忍忍しのびびびててて人人ひとののの聞聞きこえええけるけるけるととと思思おもふふう。。。物物ものももものたまはのたまはのたまわでででいといといとうくうくうく口口くちをしをしおしとととおぼすおぼすおぼすににに淚淚なみだほろほろほろほろほろほろとととこぼれこぼれこぼれ給給たまひひいぬぬぬ。。。見見み奉奉たてまつるるるもももいといといといとほしういとほしういとおしゅう、、、何何なににににありありありのののまゝまゝままににに聞聞きこえええつつつらむらむらん、、、苦苦くるしきしきしき御御おん心心こころちちちをををいとゞいとゞいとどおぼしおぼしおぼし亂亂みだるるるらむらむらんととと悔悔くやしうしうしゅう思思おもひひいゐゐいたりたりたり。。。
- 2「「「さうじさうじそうじはははさしさしさしてててなむなむなん」」」ととと萬萬よろずににに宜宜よろしきしきしきやうやうようににに聞聞きこえええなせなせなせどどど「「「とてとてとてもももかくかくかくてててもももさばかりさばかりさばかりににに何何なにののの用用よう意意いもももなくなくなくかるらかかるらかかるらかににに人人ひとににに見見みえええ給給たまひひいけむけむけんこそこそこそいといといといみじけれいみじけれいみじけれ內內うち々々うちののの御心御心みこころぎようぎようぎようおはすおはすおわすともともともかくかくかくまでまでまでいひいひいいつるつるつる法法ほう師師しばらばらばらよからよからよからぬぬぬわらはべわらはべわらわべなどなどなどはははまさにまさにまさにいひいひいい殘殘のこしししてててむむんややや。。。人人ひとにににはははいかにいかにいかにいひいひいいあらがひあらがひあらがい、、、さささもももあらあらあらぬぬぬことことことゝゝといふいふいうべきべきべきにににかかかあらあらあらむむん。。。すべてすべてすべて心心こころをさなきをさなきおさなきかぎりかぎりかぎりしもしもしもこゝこゝここににに侍侍さぶらひひいててて」」」ととともももえええのたまひのたまひのたまいやらやらやらずずず、、、いといといと苦苦くるしげしげしげなるなるなる御御おん心心こころちちちににに物物ものをををおぼしおぼしおぼし驚驚おどろきききたれたれたればばばいといといといとほしげいとほしげいとおしげなりなりなりけけけ高高だこうううもてもてもてなしなしなし聞聞きこえええむむんとととおぼいおぼいおぼいたるたるたるににに、、、よづかはしうよづかはしうよずかわしゅうかるがるしきかるがるしきかるがるしき御御おん名名なののの立立たちちち給給たまふふうべきべきべきををを疎疎おろそかならならならずずず覺覺おぼししし歎歎なげかかかるるる。。。「「「かうかうこう少少すこししし物物もの覺覺おぼゆるゆるゆるひまひまひまににに渡渡わたらららせせせ給給たまふふうべうべうびょう聞聞きこえええよよよ。。。そなたそなたそなたへへへ參參まいりりりくくくべけれべけれべけれどどど動動うごくくくべうべうびょうもももあらあらあらでででなむなむなん。。。見見み奉奉たてまつらららででで久久ひさしうしうしゅうなりなりなりぬるぬるぬる心心こころちちちすすすややや」」」ととと淚淚なみだをををうけうけうけてててのたまふのたまふのたまう。。。「「「參參まいりりりてててしかしかしかなむなむなん聞聞きこえええさせさせさせ給給たまふふう」」」とととばかりばかりばかりきこゆきこゆきこゆ。。。
現代語訳
律師が立ち去った後に、御息所は小少将の君を呼んで、「このようなことを聞いたのです。どういうことだったのですか。どうして私には、こうこうと聞かせてくださらなかったのですか。そんなことはあるまいとは思いながらも」とおっしゃると、小少将は気の毒だけれど、昨夜の様子を初めから詳しく申し上げる。今朝のお手紙の様子や、宮もほのかにおっしゃっていたことなどを申し上げて、「長年忍んでこられたお心の内を、お知らせしようとばかり思われたのでございましょうか。ありがたいほどお心遣いがあって、夜も明けきらないうちにお帰りになりましたのに、人はどのように申し上げたのでしょうか」と、律師とは思いも寄らずに、誰かがこっそり申し上げたのだと思う。御息所は何もおっしゃらずに、たいそうつらく残念だとお思いになって、涙がほろほろとこぼれなさった。小少将は拝見するのもたいそうお気の毒で、どうしてありのままに申し上げてしまったのだろう、苦しいご病気なのに、いっそうお思い乱れになるだろうと、悔しく思っていた。
「襖は閉めてございました」と、何かとよいように申し上げつくろうけれど、御息所は「どちらにしても、あれほど何の用心もなく、軽々しく人に見られなさったことこそ、たいそうひどいことです。内々のお心が潔白でいらっしゃっても、あれほどまで言っていた法師たちや、よくない童などは、言い残すはずがありましょうか。人にはどう言い争って、そうではないことと言えばよいのでしょう。すべて分別のない者ばかりが、ここにお仕えしていて」とも、言い終えることもおできにならない。たいそう苦しそうなご病気の身で、ひどく驚きなさったので、たいそう気の毒である。宮を気高くお扱い申し上げようとお思いになっていたのに、世間並みの軽々しい浮名がお立ちになるにちがいないのを、並々ならずお嘆きになる。「このように少し正気がある間に、こちらにおいでになるよう申し上げなさい。そちらへ参るべきですが、動けそうにもないので。お会いしないで久しくなった気がします」と、涙を浮かべておっしゃる。小少将は宮のもとに参って「このように申し上げておいでです」とだけ申し上げる。
意訳
御息所は小少将から昨夜の様子を聞き、何もなかったと聞いても、宮に浮名が立つことを嘆いて涙を流す。
御息所は、軽々しく人に見られたことを嘆き、宮をそばに呼ぶよう言いつける。
語釈・文法注
文法
- 「心ぎよう」(內々の御心ぎようおはすとも)
- 心が潔白であること。
- 「よづかはし」(よづかはしうかるがるしき御名)
- 世間並みの、俗っぽい。
- 「淚をうけて」(淚をうけてのたまふ)
- 涙を目に浮かべて。
解説
小少将は、夕霧が何もせずに帰ったことを正直に話すが、御息所にとって問題は事実ではなく、世間の噂である。法師たちや童が言いふらせば、宮の名は汚れる。皇女である宮を気高く守ろうとしてきた母の嘆きは深い。
病の身で驚いた御息所の姿は痛ましい。この心労が、御息所の病を重くしていく。何もなかった一夜が、取り返しのつかない結果を招いていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、776–779頁(コマ99–100)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日