源氏物語 第39帖 夕霧(9)
宮の嘆き
夕霧が小野に手紙を送るが、宮は見ようともしない。思いがけずあきれた昨夜の有様が心外で恥ずかしく、不愉快で、母の御息所が漏れ聞くことも恥ずかしく、まさかこんなことがとまったく知らないでいて、何かの折に気づき、人の噂は隠れない世なので、自然と聞き合わせて、隠し隔てをしたと思われるのがたいそうつらいので、女房たちがありのままに母に漏らしてくれればよい、つらいと思われても仕方がないと思う。親子の仲と言われる中でも、少しも隔てなく思い合っている間柄なので、よその人は漏れ聞いても親には隠すという例は昔物語にもあるようだが、宮はそうは思わない。女房たちは、どうして母君がほのかにお聞きになっても、何かあったように思い乱れられることがあろう、まだ早いうちから気の毒だなどと言い合い、どうなるのだろうと思う者同士、この手紙の中身を知りたくて、宮が開けもしないので気がかりで、まったくお返事なさらないのも心もとなく、子どもっぽいようでしょうなどと言って広げると、宮は、不思議にうっかりした様子で人にこれだけでも見られた軽はずみさは、自分の過ちと思うけれど、思いやりのなかったあきれたことも慰めがたい、見られないと言いなさいと、ひどく不機嫌に寄り臥してしまう。実は夕霧の手紙は憎らしくもなく、たいそう心深く書いて、魂をつれないあなたの袖にとどめ置いて、自分の心から惑っていることだ、魂は外にあるものとか、昔も例があったと思うが、まったく行く方も分からないばかりでと、たいそう多く書いてあるが、女房たちもまともには見られない。いつもの後朝の手紙のようでもないが、やはり疑いを晴らせない。女房たちは宮の様子もいたわしく、嘆かわしく見ながら、どういうことなのだろう、何事につけてもありがたく心深い夕霧のお心ざまは年を経ているけれど、このような方面で頼りにしては、見劣りがするのではないかと思うのも危うくて、親しく仕える者たちは皆思い乱れる。

- 1かしこかしこかしこににに御御おん文文ふみ奉奉たてまつりりり給給たまへへえれれればばば御覽御覽ごらんじじじもももいれいれいれずずず、、、俄俄にわかにににあさましかりあさましかりあさましかりししし有有あり樣樣さまめざましうめざましうめざましゅうもももはづかしうはづかしうはずかしゅうもももおぼすおぼすおぼすににに心心こころづきづきずきなくなくなくててて、、、御御み息息やす所所どころののの漏漏もりりりきゝきゝきき給給たまははわむむんことことこともももいといといとはづかしうはづかしうはずかしゅう又又またかゝるかゝるかかることことことやややとととかけかけかけてててしりしりしり給給たまははわざらざらざらむむんににに、、、たゞたゞただならならならぬぬぬふしふしふしにてにてにてももも見見みつけつけつけ給給たまひひい、、、人人ひとののの物物ものいひいひいいかくれかくれかくれなきなきなき世世よなれなれなればばばおのづからおのづからおのずから聞聞ききききあはせあはせあわせててて隔隔へだてててけるけるけるとととおぼさおぼさおぼさむむんがががいといといと苦苦くるしけれしけれしければばば、、、人々人々ひとびとありありありしししまゝまゝままににに聞聞きこえええもらさもらさもらさなむなむなん、、、うしうしうしとととおぼすおぼすおぼすともともともいかゞいかゞいかがはははせせせむむんとととおぼすおぼすおぼす。。。親親おや子子こののの御御おん中中なかととと聞聞きこゆるゆるゆる中中なかにににももも露露つゆへだてへだてへだてずずずぞぞぞ思思おもひひいかはしかはしかわし給給たまへへえるるるよそよそよそののの人人ひとはははもりもりもり聞聞きけけけどもどもども親親おやにににかくすかくすかくすたぐひたぐひたぐいこそこそこそははは昔昔むかし物語物語ものがたりにににもももあああめれめれめれどどど、、、さささはははたたたおぼさおぼさおぼされれれずずず。。。人々人々ひとびとははは何何なにかかかはははほのかほのかほのかににに聞聞きききき給給たまひひいてててもももことことことしもしもしもありありありがほがほがおにににとかくとかくとかくおぼしおぼしおぼし亂亂みだれれれむむん、、、まだきまだきまだきににに心苦心苦こころぐるしししなどなどなどいひいひいい合合あわせせせててていかならいかならいかならむむんととと思思おもふふうどちどちどちこのこのこの御御おんせうそこせうそこしょうそこのののゆかしきゆかしきゆかしきをををひきひきひきもももあけあけあけさせさせさせ給給たまははわねねねばばば心心こころもとなくもとなくもとなくててて「「「猶猶なおむげむげむげににに聞聞きこえええさせさせさせ給給たまははわざらざらざらむむんももも覺覺おぼ束束つかなくなくなくわかわかしきわかわかしきわかわかしきやうやうようにににぞぞぞ侍侍はべらららむむん」」」などなどなど聞聞きこえええててて、、、ひろげひろげひろげたれたれたればばば「「「あやしうあやしうあやしゅう何何なに心心ごころもももなきなきなきさまさまさまにてにてにて人人ひとにににかばかりかばかりかばかりにてにてにてももも見見みゆるゆるゆるあはつけさあはつけさあわつけさののの、、、みづからみづからみずからのののあやまちあやまちあやまちににに思思おもひひいなせなせなせどどど、、、思思おもひひいやりやりやりなかりなかりなかりしししあさましさあさましさあさましさももも慰慰なぐさめめめがたくがたくがたくなむなむなん。。。えええ見見みずずずとととをををいへいへいえ」」」ととと殊殊ことののの外外ほかにてにてにてよりよりよりふさふさふさせせせ給給たまひひいぬぬぬ
- 2さるはさるはさるはにくげにくげにくげもももなくなくなくいといといと心心こころぶかうぶかうぶこうかいかいかい給給たまひひいててて、、、「「「たましひたましひたましいをををつれなきつれなきつれなき袖袖そでにににとゞめとゞめとどめおきおきおきててて我我わががが心心こころからからから惑惑まどははわるゝるゝるるかなかなかな。。。ほかほかほかなるなるなるものものものはははとととかかか昔昔むかしもももたくひたくひたくいありありありけりけりけりととと思思おもひひい給給たまへへえなすなすなすにににももも、、、更更さらににに行行ゆきききがたがたがたしらしらしらずずずのみのみのみなむなむなん」」」などなどなどいといといと多多おおかかかめれめれめれどどど人人ひとはははえええまほまほまほにににももも見見みずずず。。。例例れいののの氣色氣色けしきなるなるなるけさけさけさののの御御おん文文ふみにににもももあらあらあらざざざめれめれめれどどど猶猶なおえええ思思おもひひいはるけはるけはるけずずず。。。人々人々ひとびとははは氣色氣色けしきもももいとほしきいとほしきいとおしきををを歎歎なげかしうしうしゅう見見み奉奉たてまつりりりつゝつゝつついかなるいかなるいかなる御御おんことことことにににかかかはははあらあらあらむむん、、、何何なに事事ごとにににつけつけつけてててもももありがたうありがたうありがとう哀哀あわれなるなるなる御心御心みこころざまざまざまはははほどほどほどへへへぬれぬれぬれどどど、、、かゝるかゝるかかるかたかたかたににに賴賴たのみみみ聞聞きこえええてててははは見見みおとりおとりおとりやややししし給給たまははわむむんととと思思おもふふうもももあやうくあやうくあようくなどなどなどむつましうむつましうむつましゅうさぶらふさぶらふさぶらうかぎりかぎりかぎりはははおのおのおのがががどちどちどち思思おもひひいみだるみだるみだる。。。
現代語訳
夕霧があちら(小野)にお手紙を差し上げなさると、宮はご覧にもならない。急にあきれたことになった昨夜の有様が、心外にも恥ずかしくもお思いになるにつけて不愉快で、母の御息所が漏れ聞きなさるだろうこともたいそう恥ずかしく、また、まさかこのようなことがあろうとは少しもご存じないでいて、何かただならぬ節で見つけなさり、人の噂は隠れない世の中なので、自然と聞き合わせて、隠し隔てをしていたとお思いになるのがたいそうつらいので、女房たちがありのままに母に申し上げて漏らしてほしい、つらいとお思いになっても仕方がないとお思いになる。親子のお仲と申し上げる中でも、少しも隔てなく思い合っていらっしゃるので、よその人は漏れ聞いても親には隠すという類いこそ昔物語にもあるようだが、宮はそのようにはお思いにならない。女房たちは、「どうして母君がほのかにお聞きになっても、何か事があったようにあれこれとお思い乱れになることがあろうか。まだ早いうちから気の毒なことだ」などと言い合って、どうなるのだろうと思う者同士、このお手紙の中身が知りたいのに、宮が引き開けもさせなさらないので心もとなくて、「やはり、まったくお返事申し上げなさらないのも気がかりで、子どもっぽいようでございましょう」などと申し上げて広げたところ、宮は「不思議にうっかりした様子で、人にこれほどでも見られた軽はずみさは、自分の過ちと思いなすけれど、思いやりのなかったあきれた仕打ちも慰めがたいのです。見られないと言いなさい」と、ひどく不機嫌に寄り臥しておしまいになった。
実のところ、夕霧の手紙は憎らしくもなく、たいそう心深くお書きになって、「魂をつれないあなたの袖にとどめ置いて、自分の心から惑っていることです。魂は外にあるものとか、昔も例があったと思いなしてみますけれど、まったく行く方も分からないばかりで」などと、たいそう多く書いてあるようだけれど、女房たちもまともには見ることができない。いつもの様子の後朝の御文でもないようだけれど、やはり疑いを晴らしきれない。女房たちは宮のご様子もいたわしいのを、嘆かわしく拝見しながら、「どういうことなのだろう。何事につけても、ありがたく心深い夕霧のお心ざまは、年を経てきたけれど、このような方面でお頼み申し上げては、見劣りがなさるのではないか」と思うのも危うく、などと、親しくお仕えしている者たちは皆、仲間同士で思い乱れる。
意訳
宮は夕霧の手紙を見ようともせず、母に隠し事をしたと思われるのを恐れ、女房たちがありのままに伝えてくれればと思う。
夕霧の手紙は心深いものだったが、女房たちは宮と夕霧の間に何があったのかと思い乱れる。
語釈・文法注
文法
- 「あはつけさ」(人にかばかりにても見ゆるあはつけさ)
- 軽はずみなこと、軽率さ。
- 「ほかなるもの」(ほかなるものはとか昔もたくひありけり)
- 「身を捨てて行きやしにけむ思ふより外なるものは心なりけり」(古今集)による。魂が体を離れることをいう。
- 「けさの御文」(例の氣色なるけさの御文にもあらざめれど)
- 後朝の文。共寝をした翌朝に男から女に送る手紙。
解説
宮は、母に隠し事をしたと思われることを何よりも恐れる。宮と御息所は、隔てなく思い合う親子である。その絆が、後に御息所の死を招く悲劇の伏線となる。宮は女房たちが母に伝えてくれることを望むが、事態は思わぬ方向に進む。
夕霧の手紙は、後朝の文のようでありながら、そうでもない。女房たちは、二人の間に何があったのか分からずに思い乱れる。この曖昧さが、誤解を生む原因となる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、774–777頁(コマ98–99)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日