源氏物語 第39帖 夕霧(6)
明け方の月
風がたいそう心細く吹き、更けていく夜の気配に、虫の音も鹿の鳴く声も滝の音も一つに乱れて艶な頃なので、ありふれた軽薄な人でさえ寝つけないような空の様子で、格子も上げたまま、沈みかけた月が山の端に近づく頃は、こらえがたく物哀れである。夕霧は、やはりこれほど分かってくださらないご様子は、かえって浅いお心のほどが知られる、このように世慣れないまで愚かしく安心な者は他にいないと思うが、何事にも身軽な身分の人こそ、こんな者を愚か者と笑って冷淡な心を使うものだ、あまりにひどく見下されるので、もう心を静めきれない気持ちがする、世の中をまったく知らないわけでもないでしょうにと、あれこれ責め立てる。宮はどう言えばよいかとつらく思い巡らす。夫を持ったことのある身だから気安いだろうと、折々ほのめかすのも心外で、本当に類のない身のつらさだと思い続けて、死にそうな気持ちになり、つらい我が身の罪を思い知るとしても、こんなにあきれた仕打ちを、どう思えばよいのでしょうと、ほのかに哀れげに泣いて、私だけが憂き世を知った例として、涙に濡れる袖の名を汚すのでしょうか、と言うともなく口ずさむ。夕霧はそれを自分の心の中で続けて、ひそかに口ずさむので、宮はきまり悪く、どうしてあんなことを言ってしまったのかと思う。夕霧は、本当に悪いことを申し上げたなどとほほえむ様子で、だいたい、私が濡れ衣を着せなくても、朽ちてしまった袖の名は隠れようか、いっそ思い切ってくださいと言って、月の明るい方へ誘うのも、宮はあきれる。宮は気強く振る舞うが、夕霧はたやすく引き寄せて、これほど類のない志をお分かりになって、気を楽にしてください、お許しがなければ決してと、はっきり言ううちに、明け方近くになった。

- 1風風かぜいといといと心心こころぼそうぼそうぼそう更更ふけけけ行行ゆくくく夜夜よののの氣色氣色けしき蟲蟲むしののの音音ねももも鹿鹿しかのののなくなくなくおとおとおとももも瀧瀧たきののの音音おともももひとつひとつひとつににに亂亂みだれれれててて艶艶えんなるなるなる程程ほどなれなれなればばば、、、唯唯ただありありありのののあはつけあはつけあわつけ人人びとだにだにだにねざめねざめねざめしししぬぬぬべきべきべき空空そらののの氣色氣色けしきををを格格こう子子しもももさながらさながらさながら入入いりりりがたがたがたののの月月つきののの山山やまののの端端は近近ちかきききほどほどほどとめとめとめがたうがたうがとう物物もの哀哀あわれなりなりなり。。。「「「猶猶なおかうかうこうおぼしおぼしおぼししらしらしらぬぬぬ御御おん有有あり樣樣さまこそこそこそかへりてかへりてかえりてははは淺淺あそううう御心御心みこころののの程程ほどしらしらしらるれるれるれかうかうこう世世よづかづかずかぬぬぬまでまでまでしれじれしきしれじれしきしれじれしき後後うしろやすきやすきやすきなどなどなどもももたぐひたぐひたぐいあらあらあらじじじととと覺覺おぼえええ侍侍はべるるるををを、、、何何なに事事ごとにににもももかやすきかやすきかやすきほどほどほどののの人人ひとこそこそこそかゝるかゝるかかるをををばばばしれしれしれものものものなどなどなど打打うちちち笑笑わらひひいてててつれなきつれなきつれなき心心こころつかふつかふつかうなれなれなれ。。。あまりあまりあまりこよなくこよなくこよなくおぼしおぼしおぼしおとしおとしおとしたるたるたるににに、、、えええなむなむなんしづめしづめしずめはつはつはつまじきまじきまじき心心こころちちちししし侍侍はべるるる。。。世世よののの中中なかをををむげむげむげにににおぼしおぼしおぼししらしらしらぬぬぬにににしもしもしもあらあらあらじじじををを」」」ととと萬萬よろずににに聞聞きこえええせめせめせめられられられ給給たまひひいててていかゞいかゞいかがいふいふいうべきべきべきととと侘侘わびしうしうしゅうおぼしおぼしおぼしめぐらすめぐらすめぐらす。。。
- 2世世よをををしりしりしりたるたるたる方方かたののの心心こころ安安やすきききやうやうようににに折折おり々々おりほのめかすほのめかすほのめかすもももめざましうめざましうめざましゅう、、、げにげにげにたぐひたぐひたぐいなきなきなき身身みのののうさうさうさなりなりなりやややとととおぼしおぼしおぼしつゞけつゞけつづけ給給たまふふうににに、、、しぬしぬしぬべくべくべくおぼえおぼえおぼえ給給たもうううててて、、、「「「うきうきうきみづからみづからみずからののの罪罪つみををを思思おもひひいしるしるしるとてとてとてももも、、、いといといとかうかうこうあさましきあさましきあさましきををを、、、いかやういかやういかようににに思思おもひひいなすなすなすべきべきべきにににかかかはははあらあらあらむむん」」」ととといといといとほのかほのかほのかににに哀哀あわれげげげにににないないない給給たまひひいててて、、、「「「われわれわれのみのみのみやややうきうきうき世世よをををしれしれしれるるるためしためしためしにてにてにてぬれぬれぬれそふそふそう袖袖そでののの名名なをををくたすくたすくたすべきべきべき」」」ととと、、、のたまふのたまふのたまうともともともなきなきなきををを我我わががが心心こころにににつゞけつゞけつづけててて忍忍しのびやかびやかびやかににに打打うちちちずじずじずじ給給たまへへえるるるもももかたはらかたはらかたわらいたくいたくいたく、、、いかにいかにいかにいひいひいいつるつるつることことことぞぞぞとととおぼさおぼさおぼさるゝるゝるるににに「「「げにげにげにあしうあしうあしゅう聞聞きこえええつつつかしかしかし」」」などなどなどほゝゑみほゝゑみほほえみ給給たまへへえるるる氣色氣色けしきにてにてにて、、、「「「大大おおかたかたかたはははわわわがががぬれぬれぬれぎぬぎぬぎぬをををきせきせきせずずずともともともくちくちくちにににししし袖袖そでののの名名なやややはははかくるゝかくるゝかくるる。。。ひたぶるひたぶるひたぶるにににおぼしおぼしおぼしなりなりなりねねねかしかしかし」」」とてとてとて月月つきあかきあかきあかき方方かたにににいざなひいざなひいざない聞聞きこゆるゆるゆるもももあさましあさましあさましとととおぼすおぼすおぼす。。。心心こころづようづようずようもてもてもてなしなしなし給給たまへへえどどどはかなうはかなうはかのうひきひきひきよせよせよせ奉奉たてまつりりりててて「「「かばかりかばかりかばかりたぐひたぐひたぐいなきなきなき志志こころざしををを御覽御覽ごらんじじじしりしりしりててて心心こころやすうやすうやすうもてもてもてなしなしなし給給たまへへえ。。。御御おんゆるしゆるしゆるしあらあらあらでででははは更更さらににに更更さらににに」」」ととといといといとけざやかけざやかけざやかににに聞聞きこえええ給給たまふふう程程ほど明明あけけけがたがたがた近近ちこうううなりなりなりにににけりけりけり。。。
現代語訳
風がたいそう心細く吹いて、更けていく夜の気配に、虫の音も、鹿の鳴く声も、滝の音も、一つに入り乱れて艶な頃なので、ありふれた軽薄な人でさえ寝覚めしてしまいそうな空の様子で、格子も上げたまま、沈みかけの月が山の端に近い頃は、こらえがたく物哀れである。夕霧は「やはり、このようにお分かりにならないご様子こそ、かえって浅いお心のほどが知られます。このように世慣れないほどまでに愚かしく安心な者なども、ほかにいないと思いますのに、何事にも身軽な身分の人こそ、このような者を愚か者などと笑って、冷淡な心を使うものです。あまりにひどく見下しなさるので、もう心を静めきることができそうもない気持ちがいたします。世の中をまったくご存じないわけでもないでしょうに」と、あれこれと責め申し上げなさるので、宮はどう言えばよいのかと、つらくお思い巡らしになる。
夫を持って世を知った身だから気安いだろうというように、折々ほのめかすのも心外で、本当に類のない身のつらさであることよと、思い続けなさるうちに、死んでしまいそうな気持ちにおなりになって、「つらい我が身の罪を思い知るとしても、たいそうこのようにあきれたお仕打ちを、どのように思えばよいのでしょう」と、たいそうほのかに哀れげにお泣きになって、「私だけが、憂き世を知った例として、涙に濡れ添う袖の名を汚さなければならないのでしょうか」と、おっしゃるともなく口にされたのを、夕霧は自分の心の中で続けて、ひそかに口ずさみなさるのも、宮はきまり悪く、どうしてあんなことを言ってしまったのかとお思いになると、夕霧は「本当に悪いことを申し上げてしまいましたね」などとほほえんでいらっしゃる様子で、「だいたい、私が濡れ衣を着せなくても、朽ちてしまった袖の名は隠れるでしょうか。いっそ思い切っておしまいなさい」と言って、月の明るい方へお誘い申し上げるのも、宮はあきれたこととお思いになる。気強く振る舞っていらっしゃるけれど、夕霧はたやすく引き寄せ申し上げて、「これほど類のない志をお分かりになって、気を楽にしてお扱いください。お許しがなくては、決して決して」と、たいそうはっきりと申し上げなさるうちに、明け方近くになってしまった。
意訳
虫や鹿や滝の音が響く夜更け、夕霧は宮が自分の思いを分かってくれないことを責める。
宮は涙ながらに我が身の不運を詠み、夕霧はそれを受けて歌を返し、許しがなければ決して無理はしないと誓ううちに明け方が近づく。
語釈・文法注
文法
- 「しれじれし」(かう世づかぬまでしれじれしき)
- 愚かしい、間が抜けている。夕霧が自分の誠実さを自嘲していう。
- 「世をしりたる方」(世をしりたる方の心安きやうに)
- 男女の仲を知った身。一度結婚した宮を指し、気安いだろうとほのめかす。
- 「名をくたす」(ぬれそふ袖の名をくたすべき)
- 評判を汚す。涙で濡れる袖に、浮名の「濡れ衣」をかける。
解説
夜更けの山荘の情景は、艶な情趣に満ちている。夕霧は、宮が夫を持った身であることをほのめかし、気安く振る舞うよう求める。この言葉は、宮の心を深く傷つける。皇女でありながら臣下に嫁ぎ、夫に先立たれた宮にとって、それは最も触れられたくないことであった。
宮の歌は、自分だけが浮名を立てられる身の不運を嘆く。夕霧はその歌を受けて、どうせ名は朽ちているのだから思い切れと迫る。夕霧の言葉には、宮の心への配慮が欠けている。生真面目な夕霧の恋は、相手の心を思いやる繊細さに欠けていた。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、772–773頁(コマ97)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日