源氏物語 第39帖 夕霧(5)
襖の隔て
まだ夕暮れの霧に閉ざされて、内は暗くなっている頃である。女房はあきれて振り返り、宮はひどく気味悪く思って、襖の外へいざって出ようとするのを、夕霧は手探りでよくたどって引き止める。宮の体は向こうに入ったが、衣の裾が残って、襖は向こうから鍵をかけようがないので、閉めかけたまま、水のように震えている。女房たちもあきれてどうしてよいか分からない。こちら側には掛け金などもあるが、たいそう困って、荒々しく引き離すこともできない身分の方なので、思いもよらないお心でと泣かんばかりに言うが、夕霧は、これくらいでおそばにいるのが、人よりひどく疎ましく思われるのだろうか、取るに足りない身でも、お耳に慣れた年月も重なったでしょうと言って、たいそう落ち着いて体裁よく心を静めて思いを打ち明ける。宮は聞き入れそうにもない。悔しく、こんなことにまでと思うばかりなので、言葉もまして思いつかない。夕霧は、たいそう情けなく子どもっぽいお振る舞いだ、人知れぬ思いがあふれた好き心の罪はあるだろうが、これ以上馴れ馴れしいことは決して許されないうちはいたしません、どれほど千々に砕ける思いに耐えられないことか、それでも自然にお気づきの節もあろうに、無理にとぼけて疎ましく扱われるので、申し上げようがなくてどうしようもないのだ、無作法で憎いと思われても、このまま朽ちてしまう嘆きをはっきりお知らせしようとばかり思っている、言いようもないご様子がつらいけれど、たいそう恐れ多いのでと言って、無理にも情け深く心遣いをする。宮が襖を押さえているのは、たいそう頼りない守りだが、夕霧は引き開けもしない。これほどの隔てを、無理に頼りにしていらっしゃるのが哀れだと笑って、乱暴な振る舞いもしない。宮の様子は、親しみやすく上品で優美なことが、やはり格別に見える。ずっと物思いをしているせいか、やせ細って弱々しい感じで、くつろいだままの袖の辺りも柔らかく、親しく染みた香りなど、すべてかわいらしく柔和な感じがする。

- 1まだまだまだ夕夕ゆう暮暮ぐれののの霧霧きりにににとぢとぢとじられられられててて內內うちははは暗暗くらくくくなりなりなりにににたるたるたる程程ほどなりなりなり。。。あさましうあさましうあさましゅうててて見見みかへりかへりかえりたるたるたるににに宮宮みやはははいといといとむくつけうむくつけうむくつきょうなりなりなり給給たまひひいててて此此こののの御御おんさうじさうじそうじのののとととにににゐざりゐざりいざりいでいでいでさせさせさせ給給たまふふうをををいといといとようようようたどりたどりたどりてててひきひきひきとゞめとゞめとどめ奉奉たてまつりりりつつつ。。。御御おん身身みははは入入いりりりはてはてはて給給たまへへえれれれどどど御御おんぞぞぞののの裾裾すそののの殘殘のこりりりてててさうじさうじそうじはははあなたあなたあなたよりよりよりさすさすさすべきべきべき方方かたなかりなかりなかりけれけれければばばひきひきひきたてたてたてさしさしさしててて水水みずのののやうやうようにににわなゝきわなゝきわななきおはすおはすおわす。。。人々人々ひとびともももあきれあきれあきれててていかにいかにいかにすすすべきべきべきことことことゝゝとももも思思おもひひいえええずずず。。。こなたこなたこなたよりよりよりこそこそこそさすさすさすがねがねがねなどなどなどもももあれあれあれ、、、いといといとわりなくわりなくわりなくててて荒荒あら々々あらしくしくしくはははえええひきひきひきかなぐるかなぐるかなぐるべくべくべくはははたたたものしものしものし給給たまははわねねねばばば、、、「「「いといといとあさましうあさましうあさましゅう思思おもひひい給給たまへへえよらよらよらざりざりざりけるけるける御心御心みこころののの程程ほどににになむなむなん」」」ととと泣泣なきききぬぬぬばかりばかりばかりににに聞聞きこゆれゆれゆれどどど「「「かばかりかばかりかばかりにてにてにてさぶらはさぶらはさぶらわむむんががが人人ひとよりよりよりけにけにけにうとましううとましううとましゅうめざましうめざましうめざましゅうおぼさおぼさおぼさるるるべきべきべきにににやややははは。。。數數かずならならならずずずともともとも御御おん耳耳みみなれなれなれぬるぬるぬる年年とし月月つきももも重重かさなりりりぬぬぬらむらむらん」」」とてとてとていといといとのどやかのどやかのどやかにににさまさまさまよくよくよくもてもてもてしづめしづめしずめててて思思おもふふう事事ことををを聞聞きこえええしらせしらせしらせ給給たまふふう。。。聞聞きききき入入いれれれ給給たまふふうべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。くやしうくやしうくやしゅうかくかくかくまでまでまでとととおぼすおぼすおぼす事事ことのみのみのみやるやるやるかたかたかたなけれなけれなければばばのたまはのたまはのたまわむむんことことことはははたたたましてましてまして覺覺おぼえええ給給たまははわずずず。。。
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現代語訳
まだ夕暮れの霧に閉ざされて、内は暗くなっている頃である。女房はあきれて振り返ったが、宮はたいそう気味悪くお思いになって、こちらの襖の外へいざってお出になろうとなさるのを、夕霧はたいそうよく手探りでたどって、お引き止め申し上げた。宮のお体は向こうへすっかりお入りになったけれど、御衣の裾が残って、襖は向こう側から鍵をかけられる手立てもなかったので、閉めかけたままで、水のように震えていらっしゃる。女房たちもあきれて、どうしたらよいかとも思いつかない。こちら側にこそ掛け金などもあるが、たいそう困って、荒々しく引き離すこともできるようなお方でもいらっしゃらないので、「たいそうあきれて、思いも寄らなかったお心のほどで」と泣かんばかりに申し上げるが、夕霧は「これくらいでおそばにお仕えするのが、人よりもひどく疎ましく、心外にお思いになるべきことでしょうか。取るに足りない身ではあっても、お耳に慣れた年月も重なったことでしょう」と言って、たいそう落ち着いて体裁よく心を静めて、思うことをお知らせ申し上げなさる。宮はお聞き入れになりそうにもない。悔しく、こんなことにまでとお思いになることばかりで、晴らしようもないので、おっしゃる言葉は、まして思いつきなさらない。
夕霧は「たいそう情けなく、子どもっぽいご様子ですね。人知れぬ心にあふれてしまった好き心の罪ばかりはございましょうが、これ以上馴れ馴れしいことは、決してお心のお許しがないうちはいたしません。どれほど千々に砕けております思いに耐えられないことか。それでも自然とお気づきになる節もございましょうに、無理にとぼけて疎ましくお扱いになるようなので、申し上げようもないので、どうしようもありません。無作法で憎いとお思いになっても、このまま朽ちてしまいそうな嘆きを、はっきりとお知らせ申し上げようとばかり思っているのです。言いようもないご様子がつらいけれど、たいそう恐れ多いので」と言って、無理にも情け深く心遣いをなさった。宮が襖を押さえていらっしゃるのは、たいそう頼りない守りだけれど、夕霧は引き開けもしない。「これほどの隔てを、無理に頼りにお思いになっているのが哀れです」と笑って、ひどく思うままに振る舞う様子でもない。宮のご様子が、親しみやすく、上品で優美でいらっしゃることは、何といってもやはり格別に見える。ずっと物思いをしていらっしゃるせいか、やせ細って弱々しい感じがして、くつろいでいらっしゃるままの御袖の辺りも柔らかで、親しく染みている香りなど、すべてを合わせて、かわいらしく柔和な感じがなさる。
意訳
宮は襖の向こうへ逃れようとするが、衣の裾を夕霧に押さえられて震える。夕霧は落ち着いて思いを打ち明ける。
夕霧は、許しがないうちは決して無理はしないと誓い、襖も開けずに思いを訴える。やせ細った宮の姿はかわいらしく柔和である。
語釈・文法注
文法
- 「さすがね」(こなたよりこそさすがねなどもあれ)
- 掛け金。戸を閉めるための金具。
- 「ひきかなぐる」(荒々しくはえひきかなぐるべく)
- 乱暴に引き離す。
- 「けうとし」(しひておぼめかしうけうとうもてなさせ給ふ)
- 疎ましい、よそよそしい。
解説
夕霧の大胆な行動に、宮は恐れおののく。衣の裾を押さえられ、襖を閉めることもできずに震える宮の姿は、宮の無力さを示している。しかし夕霧は、許しがないうちは決して無理はしないと誓う。夕霧の生真面目さは、恋の場面でも失われない。
襖という頼りない隔てを宮が頼りにしていることを、夕霧は哀れと笑う。夕霧はその隔てを越えない。この夜、二人の間には何もなかったが、世間はそうは見なかった。この誤解が、後の悲劇を招くことになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、770–773頁(コマ96–97)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日