源氏物語 第37帖 横笛(18)
笛を預かる源氏
夕霧は、よい機会を作り出して、少し近くに寄り、あの夢の話をすると、源氏はすぐには何も言わずに聞いて、思い当たることがある。源氏は、その笛は私が預かるべき理由があるものだ、あれは陽成院の御笛だ、それを故式部卿宮がたいそう大切にしていたが、柏木が子どもの頃から格別に見事な音を吹き出したのに感心して、宮が萩の宴を催した日に贈り物として与えたのだ、女の心は深い事情もたどり知らずに、そのように君に贈ったのだろうと言い、柏木の言う末の世の伝えは、ほかの誰と思い違えようか、そう思ったのだろうと思い、夕霧も思慮深い人なので思い当たることがあるだろうと思う。夕霧はその様子を見ていっそう遠慮して、すぐには言い出せないが、何としても聞かせたい気持ちがあるので、今ちょうど話のついでに思い出したようにぼかして、柏木の臨終の頃に見舞いに参ったところ、死後のことを言い置いた中に、これこれのことで、源氏に深くお詫び申し上げる旨を繰り返し言っていたが、どういうことだったのか、今でもその理由が分からず気がかりだと、たいそうたどたどしく申し上げる。源氏は、やはりそうかと思うが、どうしてその事情を明かして言えようかと、しばらくとぼけて、そのように人の恨みが残るほどの様子を、何のついでに漏らしてしまったのか、自分でも思い出せない、さて、その夢は静かに考え合わせて話そう、夜は夢を語らないと女房たちも言い伝えていると言って、ろくに返事もしないので、夕霧は、言い出してしまったことを、どう思っているのかと気がひけて思ったという。

- 1いといといとよきよきよきついでついでついでつくりつくりつくり出出いでででゝゝて少少すこししし近近ちかくくく參參まいりりりよりよりより給給たまひひいてててかのかのかの夢夢ゆめがたりがたりがたりををを聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、頓頓とみににに物物ものももものたまはのたまはのたまわででで聞聞きこしめししめししめしててておぼしおぼしおぼしあはするあはするあわすることことことゞゞどもももありありあり。。。「「「そのそのその笛笛ふえはははこゝこゝここににに見見みるるるべきべきべきゆゑゆゑゆえあるあるあるものものものなりなりなりかれかれかれははは陽陽よう成成ぜい院院いんののの御御おん笛笛ふえなりなりなり。。。それそれそれををを故故こ式式しき部部ぶ卿卿きょう宮宮のみやのののいみじきいみじきいみじきものものものにににししし給給たまひひいけるけるけるをををかのかのかの衛衛え門門もん督督かみははは童童わらわよりよりよりいといといとことことことなるなるなるねねねををを吹吹ふききき出出いでででしししにににかんじかんじかんじてててかのかのかの宮宮みやののの萩萩はぎののの宴宴えんせせせられられられけるけるける日日ひ贈贈おくり物物ものにににとらとらとらせせせ給給たまへへえるるるなりなりなり。。。女女おんなののの心心こころははは深深ふかくくくもももたどりたどりたどりしらしらしらずずずしかしかしか物物ものしししたるたるたるなななゝゝなりりり」」」などなどなどのたまひのたまひのたまいててて、、、末末すえののの世世よのののつたへつたへつたえははは又又またいづかたいづかたいずかたにににとととかかかははは思思おもひひいまがへまがへまがえむむん、、、さやうさやうさようににに思思おもひひいなりなりなりけむけむけんかしかしかしなどなどなどおぼしおぼしおぼしててて、、、このこのこの君君きみもももいといといといたりいたりいたり深深ふかききき人人ひとなれなれなればばば思思おもひひいよるよるよることことことあらあらあらむむんかしかしかしとととおぼすおぼすおぼす。。。
- 2そのそのその御御おん氣色氣色けしきををを見見みるるるにににいとゞいとゞいとどはゞかりはゞかりはばかりててて頓頓とみにににももも打打うちちち出出いででできこえきこえきこえ給給たまははわねねねどどど、、、せめてせめてせめて聞聞きかかかせせせ奉奉たてまつらららむむんののの心心こころあれあれあればばば、、、今今いましもしもしもことことことのののついでついでついでににに思思おもひひい出出いでででたるたるたるやうやうようにににおぼめかしうおぼめかしうおぼめかしゅうもてもてもてなしなしなしててて「「「今今いまはははとととせせせししし程程ほどにににとぶらひとぶらひとぶらいにににまかりまかりまかりててて侍侍はべりりりしししににに、、、なからなからなからむむん後後のちのののことことことゞゞどもももいひいひいい置置おききき侍侍はべりりりししし中中なかにににしかじかしかじかしかじかなむなむなん深深ふかくくくかしこまりかしこまりかしこまり申申もうすすすよしよしよしををを返返かえすすす返返がえすすすものしものしものし侍侍はべりりりしかしかしかばばば、、、いかなるいかなるいかなることことことにににかかか侍侍はべりりりけむけむけん、、、今今いまにににそのそのその故故ゆえをををなむなむなんえええ思思おもひひい給給たまへへえよりよりより侍侍はべらららねねねばばばおぼつかなくおぼつかなくおぼつかなく侍侍はべるるる」」」ととといといといとたどたどしげたどたどしげたどたどしげににに聞聞きこえええ給給たまふふうににに、、、さればさればさればよよよとととおぼせおぼせおぼせどどど何何なにかかかはははそのそのそのほどほどほどのののことことこと顯顯あらはしはしわしのたまふのたまふのたまうべきべきべきならならならねねねばばば、、、しばししばししばしおぼめかしくおぼめかしくおぼめかしくててて「「「しかしかしか人人ひとのののうらみうらみうらみとまるとまるとまるばかりばかりばかりののの氣色氣色けしきははは何何なにのののついでついでついでにににかかかもりもりもり出出いでででけむけむけんととと、、、みづからみづからみずからもももえええ思思おもひひい出出いでででずずずなむなむなん。。。さてさてさて今今いましづかしづかしずかにににかのかのかの夢夢ゆめははは思思おもひひい合合あわせせせてててなむなむなん聞聞きこゆゆゆべきべきべき。。。よるよるよるかたらかたらかたらずずずとととかかか、、、女房女房にょうぼうのののつたへつたへつたえにににいふいふいうことことことなりなりなり」」」とととのたまひのたまひのたまいててて、、、をさをさをさをさおさおさ御御おんいらへいらへいらえもももなけれなけれなければばば、、、うちうちうちいでいでいできこえきこえきこえてててけるけるけるををを、、、いかにいかにいかにおぼすおぼすおぼすにににかかかとととつゝましくつゝましくつつましくおぼしおぼしおぼしけるけるけるとととぞぞぞ、、、
現代語訳
夕霧は、たいそうよい機会を作り出して、少し近くに寄りなさって、あの夢の話を申し上げなさると、源氏はすぐには何もおっしゃらずにお聞きになって、思い当たることもある。源氏は、「その笛は、私が預かるべき理由があるものだ。あれは陽成院の御笛なのだ。それを故式部卿宮がたいそう大切なものにしていらっしゃったのを、あの衛門督(柏木)が子どもの頃から、たいそう格別な音を吹き出したのに感心して、あの宮が萩の宴を催された日に、贈り物としてお与えになったのだ。女の心は、深い事情もたどり知らずに、そのように君に贈ったのだろう」などとおっしゃって、柏木の言う末の世の伝えは、ほかのどちらの方にと思い違えようか、そのように思うようになったのだろう、などとお思いになって、この君(夕霧)もたいそう思慮深い人なので、思い当たることがあるだろうとお思いになる。
夕霧はそのご様子を見ると、いっそう遠慮されて、すぐには言い出し申し上げなさらないけれど、何としても源氏にお聞かせ申し上げたいという心があるので、今ちょうど話のついでに思い出したように、ぼかした様子で、「柏木が今はという時に、見舞いに参りましたところ、死後のことなどを言い置きました中に、これこれのことで、深くお詫び申し上げる旨を、繰り返し申しておりましたので、どういうことでございましたのでしょうか、今でもその理由を思い当たることができませんので、気がかりでございます」と、たいそうたどたどしげに申し上げなさると、源氏は、やはりそうかとお思いになるけれど、どうしてその時のことを明かしておっしゃってよいものかと、しばらくとぼけて、「そのように人の恨みが残るほどの様子は、何のついでに漏れ出たのだろうかと、自分でも思い出せないのだ。さて、今静かに、あの夢は考え合わせてから話そう。夜は夢を語らないとかいうのは、女房たちの言い伝えに言うことだ」とおっしゃって、ろくにお返事もないので、夕霧は、言い出してしまったことを、どのようにお思いなのかと、気がひけてお思いになったということだ。
意訳
夕霧が夢の話をすると、源氏は、笛は陽成院から伝わった名笛で、自分が預かるべきものだと言い、柏木の思いを悟る。
夕霧は柏木の遺言をぼかして伝えるが、源氏はとぼけて答えず、夕霧は言い出したことを気にかける。
語釈・文法注
文法
- 「陽成院」(かれは陽成院の御笛なり)
- 第五十七代の天皇。笛の由緒の古さを示す。
- 「萩の宴」(かの宮の萩の宴せられける日)
- 萩の花を賞する宴。
- 「よるかたらず」(よるかたらずとか)
- 夜には夢の話をしないという俗信。
- 「とぞ」(つゝましくおぼしけるとぞ、)
- 「…ということだ」と伝聞の形で結ぶ語り手の言葉。
解説
源氏は、夕霧の夢の話を聞いて、柏木が笛を若君(薫)に伝えたいと願ったことを悟る。源氏が笛を預かるのは、いずれ若君に伝えるためである。横笛は、柏木から薫へと受け継がれるべき形見となった。
夕霧は柏木の遺言をぼかして伝え、源氏の反応を探るが、源氏はとぼけて答えない。夕霧の疑いは晴れないまま、巻は「とぞ」という伝聞の形で閉じられる。真相を知る源氏と、真相に近づく夕霧との間の沈黙が、余韻を残している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、754–756頁(コマ88–89)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日