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源氏物語 第37帖 横笛(16)

源氏と夕霧の語らい

登場人物:光源氏・夕霧・落葉の宮

源氏が紫の上の対へ移ったので、夕霧はのんびりと話などをしているうちに、日も暮れかかってきた。昨夜一条宮に参った時の様子などを話すと、源氏はほほえんで聞いている。哀れな昔のことに関わる話には、源氏も相づちを打ったりして、あの想夫恋の心遣いは、なるほど昔の例にも引き出すべき折ではあるが、女はやはり、人の心が移るほどの風情を、いい加減には漏らすべきではないと思い知らされることが多い、亡き人への志を忘れず、このように長く心を配っていると人に知られたのなら、同じことなら潔白なままで、あれこれ関わって見苦しい乱れがないようにするのが、誰のためにも奥ゆかしく感じのよいことだろうと思う、と言う。夕霧は、そうでしょうとも、人のこととなると、教えばかり心強そうにおっしゃるが、ご自身のこのような好き心はどうだったかと、源氏を見る。

夕暮れの六条院の対の屋で、源氏が穏やかにほほえみながら夕霧の話を聞き、それとなく戒めている場面(AI生成)
夕暮れの六条院の対の屋で、源氏が穏やかにほほえみながら夕霧の話を聞き、それとなく戒めている場面
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引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

源氏が対の屋(紫の上の方)へお移りになったので、夕霧はのんびりとお話などを申し上げていらっしゃるうちに、日も暮れかかってきた。昨夜、あの一条の宮に参った時に、宮がいらっしゃった様子などを申し上げ出しなさったのを、源氏はほほえんで聞いていらっしゃる。哀れな昔のことに関わっている話の節々には、源氏も相づちを打ったりなさって、「あの想夫恋の心遣いは、なるほど昔の例にも引き出してよいような折ではあるけれど、女は、やはり人の心が移るほどの風情も、いい加減な気持ちでは漏らすべきではないのだと、思い知らされることが多いね。亡き人への志を忘れずに、このように長く心配りをしていると人に知られたのなら、同じことなら潔白なままで、あれこれと関わり合って、見苦しい乱れがないようにするのがよいのではないか。それが誰のためにも奥ゆかしく、感じのよいことだろうと思う」とおっしゃると、夕霧は、そうでしょうとも、人のことについてのお教えばかりは心強そうにおっしゃるが、ご自身のこのような好き心はさあどうでしたか、と見申し上げなさる。

意訳

夕霧が一条宮での想夫恋の話をすると、源氏は、女は軽々しく風情を漏らすべきではない、潔白なままでいるのがよいと戒める。

語釈・文法注

文法

「あへしらふ」(ふしぶしはあへしらへなどし給ふに)
相手をする、応対する、相づちを打つ。
「心ぎよし」(おなじうは心ぎよくて)
心が潔白である。私心がない。
「さかし」(さかし、人のうへの御をしへばかり)
そうでしょうとも。皮肉を込めた同意。

解説

源氏は、落葉の宮が想夫恋を弾いたことを、女として軽々しいと批評し、夕霧に潔白な態度を求める。源氏は、夕霧の宮への関心を見抜いて、それとなく戒めているのである。

夕霧は、人には教えばかり心強いが、ご自身はどうだったかと心の中で思う。若い頃から恋多き人生を送ってきた源氏の言葉に、夕霧は素直に従えない。父と子の間の微妙な緊張が、ユーモラスに描かれている。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、754–755頁(コマ88)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日