源氏物語 第37帖 横笛(14)
匂宮と夕霧
源氏は明石の女御の方にいる時であった。三の宮(匂宮)は三歳ほどで、皇子たちの中でもかわいらしいので、紫の上がこちらに特別に引き取って住まわせていた。三の宮が走り出てきて、大将よ、宮をお抱き申し上げてあちらへ連れていけと、自分で敬語を使って、たいそうたどたどしく言うので、夕霧は笑って、いらっしゃいませ、どうして御簾の前を通れましょう、たいそう無作法でしょうと言って抱いて座ると、三の宮は、人も見ていない、私が顔を隠そう、さあさあと言って、袖で夕霧の顔を隠すので、たいそうかわいらしく思って連れていく。こちらでも二の宮が若君(薫)と一緒に遊んでいるのを、源氏がかわいらしく見ていたのであった。隅の間のあたりに三の宮を降ろすと、二の宮が見つけて、私も大将に抱かれたいと言うのを、三の宮は、私の大将だよと言って引き止める。源氏はそれを見て、たいそう行儀の悪いことだ、朝廷の近衛の大将を自分の随身にしようと争うとは、三の宮はたいそう意地悪だ、いつも兄宮に張り合うと諫めてなだめる。夕霧も笑って、二の宮はたいそう兄らしく弟に譲るお心が清らかでいらっしゃる、お年のわりには恐ろしいほど大人びて見えると言う。源氏はほほえんで、どちらもたいそうかわいいと思う。源氏は、見苦しく軽々しい公卿の御座だ、あちらへと言って移ろうとするが、宮たちがまとわりついて離れない。女三の宮の若君は宮たちと同列であってはならないと心の内で思うが、かえってその分け隔てを、母宮が心の鬼で気にするだろうと、これも源氏の気を回す癖で気の毒に思って、若君をたいそうかわいいものとして大切にしている。

- 1女女にょうご御御ごののの御御おん方方かたにににおはしますおはしますおわしますほどほどほどなりなりなりけりけりけり、、、三三さむののの宮宮みや三三みつつつばかりばかりばかりにてにてにて中中なかにににうつくしくうつくしくうつくしくおはするおはするおわするををを、、、こなたこなたこなたにににぞぞぞ又又またとりわきとりわきとりわきててておはしまさおはしまさおわしまさせせせ給給たまひひいけるけるける。。。走走はしりりり出出いででで給給たまひひいててて「「「大大だい將將しょうこそこそこそ宮宮みやいだきいだきいだき奉奉たてまつりりりてててあなたあなたあなたへへへゐゐいててて坐坐おわせせせ」」」とととみづからみづからみずからかしこまりかしこまりかしこまりててていといといとしどけなげしどけなげしどけなげにににのたまへのたまへのたまえばばばうちうちうち笑笑わらひひいててて「「「おはしませおはしませおわしませ。。。いかでいかでいかでかかか御御み簾簾すののの前前まえをををばばば渡渡わたりりり侍侍はべらららむむん、、、いといといときやうぎやうきやうぎやうきょうぎょうならならならむむん」」」とてとてとて抱抱いだききき奉奉たてまつりりりててて居居い給給たまへへえれれればばば「「「人人ひとももも見見みずずず。。。まろまろまろががが顏顏かおはははかくさかくさかくさむむん。。。なほなほなほなほなおなお」」」とてとてとて御御おん袖袖そでしししてててさしさしさしかくしかくしかくし給給たまへへえばばば、、、いといといとうつくしううつくしううつくしゅうてててゐゐいててて奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。こなたこなたこなたにににももも二二に宮宮のみやののの若若わか君君ぎみとととひとつひとつひとつにににまじりまじりまじりててて遊遊あそびびび給給たまふふうををを、、、うつくしううつくしううつくしゅう見見みててておはしますおはしますおわしますなりなりなりけりけりけり。。。すみすみすみののの間間まのののほどほどほどにににおろしおろしおろし奉奉たてまつりりり給給たまふふうををを、、、二二に宮宮のみや見見みつけつけつけ給給たまひひいててて「「「まろまろまろももも大大だい將將しょうににに抱抱いだかかかれれれむむん」」」とととののの給給のたまふふうををを、、、三三さむ宮宮のみや「「「あああががが大大だい將將しょうをををややや」」」とてとてとてひかへひかへひかえ給給たまへへえりりり。。。
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現代語訳
源氏は女御(明石の女御)の御方にいらっしゃる時であった。三の宮(匂宮)は三歳ほどで、皇子たちの中でもかわいらしくいらっしゃるのを、こちら(紫の上)で、また特別にお住まわせになっていた。三の宮が走り出ていらっしゃって、「大将よ、宮をお抱き申し上げて、あちらへお連れ申し上げよ」と、自分で自分に敬語を使って、たいそうたどたどしくおっしゃるので、夕霧はにっこり笑って、「いらっしゃいませ。どうして御簾の前を通れましょうか。たいそう無作法でしょう」と言って、お抱き申し上げて座っていらっしゃると、三の宮は「人も見ていない。私が顔を隠してあげよう。さあさあ」と言って、御袖で夕霧の顔をお隠しになるので、たいそうかわいらしくて、お連れ申し上げなさる。こちらでも、二の宮が若君(薫)と一緒になって遊んでいらっしゃるのを、源氏がかわいらしくご覧になっていらっしゃるのであった。夕霧が隅の間のあたりに三の宮をお降ろし申し上げなさるのを、二の宮が見つけなさって、「私も大将に抱かれたい」とおっしゃるのを、三の宮は「私の大将だよ」と言って引き止めていらっしゃる。
院(源氏)もご覧になって、「たいそう行儀の悪いご様子だね。朝廷の近衛の大将を、自分の随身にしようと争いなさるとは。三の宮こそ、たいそう意地悪でいらっしゃる。いつも兄宮に張り合い申し上げなさる」と諫めて、なだめなさる。大将(夕霧)も笑って、「二の宮は、たいそう兄らしく弟にお譲り申し上げなさるお心が清らかでいらっしゃるようです。お年のわりには、恐ろしいほど大人びてお見えになります」などと申し上げなさる。源氏はほほえんで、どちらもたいそうかわいいとお思い申し上げていらっしゃった。源氏は「見苦しく軽々しい公卿の御座所だ。あちらへ」と言って、お移りになろうとするが、宮たちがまとわりついて、まったく離れなさらない。女三の宮の若君は、宮たちと同列であってはならないのだと、お心の内ではお思いになるが、かえってそのお気持ちを、母宮が心の鬼(後ろめたさ)から、気にかけなさるだろうと、これもご自分の気を回す癖で、気の毒にお思いになるので、若君をたいそうかわいいものとして大切にお世話申し上げなさる。
意訳
三の宮(匂宮)は夕霧に抱かれたがり、二の宮と夕霧を取り合い、源氏が笑いながら諫める。
源氏は若君(薫)を宮たちと同列にすべきでないと思うが、女三の宮の気持ちを思いやって、若君を大切に扱う。
語釈・文法注
文法
- 「きやうぎやう」(いときやうぎやうならむ)
- 軽々しく無作法なこと。
- 「りやうず」(わたくしの隨身にりやうぜむと爭ひ給ふよ)
- 領ず。自分のものにする。
- 「所さる」(このかみ心に所さり聞え給ふ)
- 場所を譲る、遠慮する。
- 「心の鬼」(母宮の御心の鬼にや思ひよせ給ふらむ)
- 良心のとがめ、後ろめたさから生じる疑心。
解説
幼い三の宮(後の匂宮)が夕霧を取り合う場面は、微笑ましく生き生きと描かれている。三の宮は、後に宇治十帖で薫と並ぶ主人公となる。ここで、匂宮と薫が初めて同じ場面に登場している。
源氏は、若君(薫)を皇子たちと同列に扱うべきではないと思うが、女三の宮の心を思いやって、かえって大切に扱う。源氏の配慮は、若君の出生の秘密を守るためのものでもある。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、752–753頁(コマ87)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日