源氏物語 第37帖 横笛(11)
雲居の雁のすね心
夕霧が自邸に帰ると、格子なども下ろさせて皆寝ていた。夕霧がこの一条宮に心をかけて、熱心に通っているなどと人が雲居の雁に告げ知らせたので、このように夜更かしするのも何となく憎らしくて、夕霧が入ってくるのを聞きながら、寝たふりをしているのだろう。夕霧は、妹と我といるさの山の、と声はたいそう美しく独り謡い、どうしてこんなに閉め切っているのか、ああ陰気だ、今夜の月を見ない里もあるのだなあと嘆く。格子を上げさせ、御簾を巻き上げなどして、端近くに臥す。こんな夜の月に、のんきに夢を見る人があるものか、少し出ていらっしゃい、ああ情けないと言うが、雲居の雁は不愉快に思って、聞き流している。子どもたちがあどけなく寝ぼけている気配があちこちにして、女房たちも大勢入り込んで寝ていて、人の気配も賑やかなのを、さっきの一条宮の有様と思い比べると、ずいぶん違う。夕霧はこの笛を吹きながら、宮はどんなに名残を惜しんで物思いにふけっているだろう、琴の調子も変えずに弾いているだろう、御息所も和琴の名手だったなどと思いやって臥している。どうして柏木は、宮をひととおりは大切に扱いながら、深く愛する様子がなかったのだろうと、それにつけても不審に思う。実際に見て劣っていたらお気の毒だろう、世間でもこの上なく評判の高いものは必ずそうなのだなどと思うにつけ、自分たち夫婦の、恋の駆け引きもなく睦み始めた年月を数えると、雲居の雁がこのように我を張って思い上がるのも、もっともだと思われる。

- 1殿殿とのにににかへりかへりかえりたまへたまへたまえれれればばば格格こう子子しなどなどなどおろさおろさおろさせせせててて皆皆みな寢寢ね給給たまひひいにににけりけりけり。。。このこのこの宮宮みやににに心心こころかけかけかけ聞聞きこえええ給給たまひひいてててかくかくかくねんごろねんごろねんごろがりがりがり聞聞きこえええ給給たまふふうぞぞぞなどなどなど人人ひとののの聞聞きこえええしらせしらせしらせけれけれければばば、、、かやうかやうかようににに夜夜よふかしふかしふかし給給たまふふうもももなまなまなまにくゝにくゝにくくててて入入いりりり給給たまふふうをををもももきくきくきくきくきくきく寢寢ねたるたるたるやうやうようにてにてにて物物ものししし給給たまふふうなるなるなるべしべしべし。。。「「「いもいもいもととと我我わととといるさいるさいるさののの山山やまののの」」」ととと聲聲こえはははいといといとをかしうをかしうおかしゅうてててひとりひとりひとりごちごちごち謠謠うたひひいててて「「「こここはははなぞなぞなぞかくかくかくさしさしさしかためかためかためたるたるたる。。。あなあなあなうもれうもれうもれややや、、、今今こ夜夜よいののの月月つきををを見見みぬぬぬ里里さともももありありありけりけりけり」」」とととうめきうめきうめき給給たまふふう。。。格格こう子子しあげあげあげさせさせさせ給給たもうううててて御御み簾簾すまきまきまきあげあげあげなどなどなどししし給給たまひひいててて端端はし近近ちかくくく臥臥ふししし給給たまへへえりりり。。。「「「かゝるかゝるかかる夜夜よののの月月つきににに心心こころやすくやすくやすく夢夢ゆめみるみるみる人人ひとはははあるあるあるものものものかかか。。。少少すこししし出出いででで給給たまへへえ。。。あなあなあな心心こころううう」」」などなどなど聞聞きこえええ給給たまへへえどどど心心こころやましうやましうやましゅう打打うちちち思思おもひひいててて聞聞きききき忍忍しのびびび給給たまふふう。。。君君きん達達だちのののいはけなくいはけなくいわけなくねねねをびれをびれおびれたるたるたるけはひけはひけわいなどなどなどこゝかしここゝかしこここかしこにににうちうちうちしししててて女房女房にょうぼうもももさしさしさしこみこみこみててて臥臥ふしししたるたるたる、、、ひとげひとげひとげもももにぎはゝしきにぎはゝしきにぎわわしきにににありありありつるつるつる所所ところののの有有あり樣樣さま思思おもひひいあはするあはするあわするにににおほくおほくおおくかはりかはりかわりたりたりたり。。。
- 2このこのこの笛笛ふえをををうちうちうち吹吹ふききき給給たまひひいつゝつゝつついかにいかにいかに名名な殘殘ごりもももながめながめながめ給給たまふふうらむらむらん、、、御御おん琴琴ことどもどもどもはははしらべしらべしらべ變變かわらららずずず遊遊あそびびび給給たまふふうらむらむらんかしかしかし、、、御御み息息やす所所どころももも和和わ琴琴ごんののの上上じょう手手ずぞぞぞかしかしかしなどなどなど思思おもひひいやりやりやりてててふしふしふし給給たまへへえりりり。。。いかなれいかなれいかなればばば故故こ君君ぎみののの唯唯ただ大大おお方方かたののの心心こころばへばへばえはははやんごとなくやんごとなくやんごとなくもてもてもてなしなしなし聞聞きこえええながらながらながらいといといと深深ふかききき氣色氣色けしきなかりなかりなかりけむけむけんととと、、、それそれそれにににつけつけつけてててもももいといといといぶかしういぶかしういぶかしゅう覺覺おぼゆゆゆ。。。見見みおとりおとりおとりせせせむむんことことことこそこそこそいとほしかるいとほしかるいとおしかるべけれべけれべけれ、、、大大おお方方かたののの世世よにににつけつけつけてててもももかぎりなくかぎりなくかぎりなく聞聞きくくくことことことははは必必かならずずずさささぞぞぞあるあるあるかしかしかしなどなどなど思思おもふふうににに、、、我我わががが御御おん中中なかのののうちうちうちけしきばみけしきばみけしきばみたるたるたる思思おもひひいやりやりやりもももなくなくなくてててむつびむつびむつびそめそめそめたるたるたる年年とし月月つきののの程程ほどをををかぞふるかぞふるかぞうるににに、、、哀哀あわれにににいといといとかうかうこうおしおしおしたちたちたちててておごりおごりおごりならひならひならい給給たまへへえるるる、、、ことわりことわりことわりににに覺覺おぼえええ給給たまひひいけりけりけり。。。
現代語訳
夕霧が自邸にお帰りになると、格子なども下ろさせて、皆お休みになっていた。夕霧がこの宮に心をおかけ申し上げなさって、このように熱心にお見舞い申し上げなさるのだなどと、人が雲居の雁に告げ知らせたので、このように夜更かしなさるのも何となく憎らしくて、夕霧が入っていらっしゃるのも聞きながら、寝ているふりをしていらっしゃるのだろう。夕霧は「妹と我といるさの山の」と、声はたいそう美しく独り謡って、「これはどうしてこのように閉め切っているのか。ああ陰気なことよ。今夜の月を見ない里もあったのだな」と嘆きなさる。格子を上げさせなさって、御簾を巻き上げなどなさって、端近くに臥していらっしゃる。「このような夜の月に、気楽に夢を見ている人があるものか。少し出ていらっしゃい。ああ情けない」などと申し上げなさるが、雲居の雁は不愉快に思って、聞き流していらっしゃる。子どもたちがあどけなく寝ぼけている気配などが、あちこちにして、女房たちも大勢入り込んで寝ていて、人の気配も賑やかなのに、さっきの一条宮の様子を思い比べると、たいそう違っている。
夕霧はこの笛を吹きながら、宮はどんなに名残惜しく物思いにふけっていらっしゃるだろう、御琴の調子も変えずに弾いていらっしゃるだろうよ、御息所も和琴の名手であったな、などと思いやって臥していらっしゃった。どうして亡き君(柏木)は、ひととおりの心遣いでは宮を大切にお扱い申し上げながら、たいそう深く愛する様子がなかったのだろうと、それにつけてもたいそう不審に思われる。実際に見て期待外れだったら、それこそお気の毒なことだろう、世間一般でも、この上なく評判の高いものは必ずそういうものだなどと思うにつけ、自分たち夫婦の、恋の駆け引きめいた気遣いもなく睦み始めた年月のほどを数えると、しみじみと、雲居の雁がこのように我を張って思い上がり慣れていらっしゃるのも、もっともだとお思いになった。
意訳
夕霧が帰ると、一条宮通いを聞いた雲居の雁は寝たふりをし、夕霧は月も見ないのかと嘆く。賑やかな自邸は一条宮とは大違いである。
夕霧は笛を吹きながら宮を思いやり、柏木が宮を深く愛さなかった理由をいぶかり、雲居の雁の我の強さももっともだと思う。
語釈・文法注
文法
- 「いもと我といるさの山の」(いもと我といるさの山の)
- 催馬楽「妹と我」の一節。「妹と我といるさの山の山蘭手な取り触れそや」。夫婦の仲を歌う。
- 「ねをびる」(いはけなくねをびれたるけはひ)
- 寝ぼける。寝ぼけておびえる。
- 「けしきばむ」(我が御中のうちけしきばみたる思ひやりもなくて)
- 恋のそぶりを見せる。ここでは、恋の駆け引きめいた気遣いのこと。
解説
夕霧と雲居の雁は、幼なじみの恋を貫いて結ばれた夫婦である。しかし、今では多くの子に恵まれ、家庭は賑やかで、恋の情緒は薄れている。一条宮の静けさと自邸の賑やかさの対比は、夕霧の心が宮へと傾いていく理由を示している。
夕霧は、柏木が宮を深く愛さなかったのは、宮の容貌が期待外れだったからかと考える。夕霧の関心は、宮その人へと向かっている。雲居の雁の嫉妬は、夕霧の心の変化を敏感に感じ取ったものである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、750–751頁(コマ86)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日