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源氏物語 第37帖 横笛(10)

形見の横笛

登場人物:一条御息所・夕霧・柏木

御息所は、今夜の風流には誰もがお許しするでしょう、とりとめのない昔話にばかり紛らわして、玉の緒にするほど長生きする気持ちもしない私には、聞き残りが多いと言って、贈り物に笛を添えて差し上げる。この笛には本当に古い由緒も伝わっていると聞いているが、このような蓬生の宿に埋もれているのも哀れに思うので、あなたの前駆の声と競うような音色を、よそながらでも聞きたいと言う。夕霧は、不似合いな随身でしょうと言って見ると、これも柏木がいつも身につけて吹いていた笛で、自分でもこの笛の音を吹き尽くすことはできない、思う人に何とか伝えたいと、折々こぼしていたのを思い出して、いっそう哀れが募って、試しに吹き鳴らす。盤渉調の半ばほどを吹きさして、昔を偲ぶ独り言の演奏は許されたが、この笛はまばゆいと言って帰ろうとすると、御息所が、露の多い葎の宿に、昔の秋と変わらない虫の声(笛の音)であることよと詠みかける。夕霧は、横笛の調べは特に変わらないが、亡くなった人の音は尽きることなく悲しい、と返し、出かねてためらっているうちに、夜もすっかり更けた。

夜更けの一条宮で、一条御息所から贈られた柏木愛用の横笛を、夕霧が廂の端で試しに吹き鳴らしている場面(AI生成)
夜更けの一条宮で、一条御息所から贈られた柏木愛用の横笛を、夕霧が廂の端で試しに吹き鳴らしている場面
  1. 1「「「今こ今ここ宵よひ宵よひよいののの御おん御おんおんすきすきすきにににははは人ひと人ひとひとゆるしゆるしゆるし聞きこ聞きこきこえええつつつべくべくべくなむなむなんありありありけるけるける。。。そこはかとそこはかとそこはかとなきなきなきいにしへいにしへいにしえがたりがたりがたりにににのみのみのみまぎらはさまぎらはさまぎらわさせせせ給たま給たまたまひひいててて、、、玉たま玉たまたまのののをををにににせせせむむん心こころ心こころこころちちちもももししし侍はべ侍はべはべらららぬぬぬ、、、殘のこ殘のこのこりりりおほくおほくおおくなむなむなん」」」とてとてとて、、、御おん御おんおん贈おくり贈おくりおくり物もの物ものものににに笛ふえ笛ふえふえをををそへそへそえててて奉たてまつ奉たてまつたてまつれれれ給たま給たまたまふふう。。。「「「これこれこれににになむなむなん誠まこと誠まことまことにににふるきふるきふるきことことことももも傳つた傳つたつたはるはるわるべくべくべく聞き聞きききききおきおきおき侍はべ侍はべはべりりりしししををを、、、かゝるかゝるかかる蓬よもぎ蓬よもぎよもぎ生ふ生ふふにににうづもるゝうづもるゝうずもるるももも哀あはれ哀あはれあわれににに見み見みみ給たま給たまたまふるふるうるををを、、、御おん御おんおんさきさきさきにににきほはきほはきおわむむん聲こゑ聲こゑこえなむなむなんよそよそよそながらながらながらもももいぶかしくいぶかしくいぶかしく侍はべ侍はべはべるるる」」」ととと聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえばばば「「「似に似ににつかはしからつかはしからつかわしからぬぬぬ隨ずゐ隨ずゐずい身じん身じんじんにににこそこそこそ侍はべ侍はべはべるるるべけれべけれべけれ」」」とてとてとて見み見みみ給たま給たまたまふふうににに、、、これこれこれもももげにげにげに世よ世よよととと共とも共ともともににに身み身みみにににそへそへそえてててもももあそびあそびあそびつゝつゝつつ、、、みづからみづからみずからももも、、、更さら更さらさらにににこれこれこれががが音ね音ねねのののかぎりかぎりかぎりはははえええ吹ふ吹ふふきききとほさとほさとおさずずず、、、思おも思おもおもははわむむん人ひと人ひとひとにににいかでいかでいかで傳つた傳つたつたへへえてててしがしがしがなななととと折をり折をりおり々をり々をりおり聞きこ聞きこきこえええごちごちごち給たま給たまたまひひいしししををを思おも思おもおもひひい出い出いいででで給たま給たまたまふふうににに今いま今いまいま少すこ少すこすこしししあはれあはれあわれおほくおほくおおくそひそひそいててて試こゝろみ試こゝろみこころみににに吹ふ吹ふふきききならすならすならす。。。
  2. 2はんまきでうはんまきでうはんまきぢょうのののなからなからなからばかりばかりばかり吹ふ吹ふふきききさしさしさしててて「「「昔むかし昔むかしむかしををを忍しの忍しのしのぶぶぶひとりひとりひとりごとごとごとはははさてもさてもさても罪つみ罪つみつみゆるさゆるさゆるされれれ侍はべ侍はべはべりりりけりけりけり。。。これこれこれはははまばゆくまばゆくまばゆくなむなむなん」」」とてとてとて出い出いいででで給たま給たまたまふふうににに、、、「「「露つゆ露つゆつゆしげきしげきしげきむぐらむぐらむぐらののの宿やど宿やどやどにににいにしへいにしへいにしえののの秋あき秋あきあきにににかはらかはらかわらぬぬぬ蟲むし蟲むしむしのののこゑこゑこえかなかなかな」」」ととときこえきこえきこえいだしいだしいだし給たま給たまたまへへえりりり。。。「「「横よこ横よこよこ笛ぶえ笛ぶえぶえのののしらべしらべしらべはははことことことにににかはらかはらかわらぬぬぬををを空むな空むなむなしくしくしくなりなりなりしししねねねこそこそこそつきせつきせつきせねねね」」」。。。いでいでいでがてがてがてにににやすらひやすらひやすらい給たま給たまたまふふうににに夜よ夜よよもももいたくいたくいたく更ふ更ふふけけけにににけりけりけり

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

御息所は、「今宵の風流なお振る舞いには、誰もがお許し申し上げるにちがいないことでした。とりとめのない昔話にばかり紛らわしなさって、玉の緒にするほど長生きする気持ちもいたしません私には、聞き残したことが多くございます」と言って、贈り物に笛を添えて差し上げなさる。「この笛には、本当に古い由緒も伝わっているはずだと聞いておりましたが、このような蓬生の宿に埋もれておりますのも哀れに存じますので、あなたの前駆の声と競い合うような音色を、よそながらもお聞きしたく存じます」と申し上げなさると、夕霧は「不似合いな随身でございましょう」と言ってご覧になると、これも本当に、柏木が生涯身につけて吹いていた笛で、自分でも、まったくこの笛の音の限りは吹き尽くすことができない、思う人に何とかして伝えたいものだと、折々こぼしていらっしゃったのを思い出しなさると、今少し哀れが多く加わって、試しに吹き鳴らす。

盤渉調の半ばほどまで吹きさして、「昔を偲ぶ独り言(和琴の演奏)は、それでも罪を許されました。この笛は、まばゆくて吹けません」と言ってお帰りになろうとすると、御息所は「露の多い葎の宿に、昔の秋と変わらない虫の声(笛の音)を聞くことよ」と、御簾の内から詠みかけなさった。夕霧は、「横笛の調べは特に昔と変わらないけれど、亡くなった人を悲しむ音は尽きることがありません」。出かねてためらっていらっしゃるうちに、夜もすっかり更けてしまった。

意訳

御息所は柏木愛用の笛を夕霧に贈り、夕霧は思う人に伝えたいと言っていた柏木の言葉を思い出して吹く。

御息所と夕霧は、変わらぬ笛の音と亡き人への悲しみとを歌に詠み交わし、夜が更ける。

語釈・文法注

文法

「玉のをにせむ心ち」(玉のをにせむ心ちもし侍らぬ)
命を長らえる心地。「玉の緒」は命。
「御さきにきほはむ聲」(御さきにきほはむ聲なむ)
夕霧の前駆の声と競い合うような笛の音。夕霧が道中に笛を吹くことを想定していう。
「はんまきでう」(はんまきでうのなからばかり)
盤渉調。雅楽の調子の一つ。冬の調子とされる。
「横笛」(横笛のしらべはことにかはらぬを)
横に構えて吹く笛。この歌によって巻名が付けられた。

解説

御息所は、柏木愛用の笛を夕霧に贈る。柏木は生前、この笛を思う人に伝えたいと言っていた。御息所にとって、夕霧こそがその人にふさわしいと思われたのである。この笛が、横笛の巻の題名の由来となり、物語の重要な小道具となる。

夕霧の「横笛の」の歌は、亡き人を悲しむ思いを詠む。しかし、笛を受け取った夕霧の心には、柏木の遺志を継ぐ者としての自覚と、宮への思いとが交錯している。夜更けまで出かねる夕霧の姿は、その心の揺れを表している。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、748–751頁(コマ85–86)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日