古典ライブラリー

源氏物語 第37帖 横笛(9)

想夫恋

登場人物:夕霧・落葉の宮・柏木

月が昇って曇りのない空に、羽を交わす雁も列を離れずに鳴いて渡るのを、宮はうらやましく聞いているだろう。風が肌寒く物哀れなのに誘われて、宮は箏の琴をほのかにかき鳴らす。その奥深い音色に夕霧はいっそう心が引かれ、かえって物足りなく思われるので、琵琶を取り寄せて、たいそう懐かしい音色で想夫恋を弾く。心を見透かしたようできまり悪いが、これにはお答えくださるでしょうかと、しきりに御簾の内を促すが、宮はまして気がひける返事なので、ただ物哀れに思い続けている。夕霧が、言葉に出して言わないのは言うにまさると、人に恥じらう様子を見ます、と詠むと、宮は想夫恋の終わりの方を少しだけ弾く。宮は、深い夜の哀れだけは聞き分けますが、琴の音よりほかに何を申せましょう、と返す。もっと聞いていたい趣のところで、おっとりとした和琴の音色に、深い人(柏木)が心を込めて弾き伝えた、同じ調べの曲だが、哀れでぞっとするような曲の一端をかき鳴らしてやめたので、恨めしいほどに思うが、夕霧は、好き心をさまざまに弾き出してご覧に入れてしまった、秋の夜を更かすのも亡き人の咎めがあろうかとはばかって退出しよう、また改めて心して参上するので、この御琴の調子を変えずに待っていてほしい、弾き違えることもある世なので気がかりだと、あからさまではないがほのめかして帰る。

月の明るい秋の夜の一条宮で、夕霧が琵琶で想夫恋を弾き、御簾の内で落葉の宮がほのかに箏の琴を弾いている場面(AI生成)
月の明るい秋の夜の一条宮で、夕霧が琵琶で想夫恋を弾き、御簾の内で落葉の宮がほのかに箏の琴を弾いている場面
  1. 1月つき月つきつきさしさしさし出い出いいでででゝゝて曇くも曇くもくもりりりなきなきなき空そら空そらそらににに羽は羽はは根ね根ねねうちうちうちかはすかはすかわす雁かり雁かりかりがねがねがねもももつらつらつらをををはなれはなれはなれぬぬぬ、、、うらやましくうらやましくうらやましく聞き聞ききききき給たま給たまたまふふうらむらむらんかしかしかし。。。風かぜ風かぜかぜのののはだはだはだ寒さむ寒さむさむくくく物もの物ものもの哀あはれ哀あはれあわれなるなるなるにににさそはさそはさそわれれれててて箏さう箏さうそうののの琴こと琴ことことをををいといといとほのかほのかほのかににに搔か搔かかききき鳴なら鳴ならならししし給たま給たまたまへへえるるるもももおくおくおくふかきふかきふかき聲こゑ聲こゑこえなるなるなるにににいとゞいとゞいとど心こころ心こころこころとまりとまりとまりはてはてはてゝゝてなかなかなかなかなかなかにににもももおもほゆれおもほゆれおもおゆればばば、、、琵び琵びび琶は琶はわをををとりとりとりよせよせよせててていといといとなつかしきなつかしきなつかしきねねねににに想さう想さうそう夫ふ夫ふふ戀れん戀れんれんをををひきひきひき給たま給たまたまふふう。。。「「「思おも思おもおもひひいおよびおよびおよびがほがほがおなるなるなるはははかたはらかたはらかたわらいたけれいたけれいたけれどどど、、、これこれこれはははことことことゝゝとはははせせせ給たま給たまたまふふうべくべくべくややや」」」とてとてとてせちせちせちにににすすすのののうちうちうちをををそゝのかしそゝのかしそそのかし聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえどどどましてましてましてつゝましきつゝましきつつましきさしさしさしいらへいらへいらえなれなれなればばば、、、宮みや宮みやみやははは唯ただ唯ただただ物もの物ものもののみのみのみあはれあはれあわれとととおぼしおぼしおぼしつゞけつゞけつづけたるたるたるににに、、、「「「ことことことににに出い出いいでででゝゝていはいはいわぬぬぬをををいふいふいうにににまさるまさるまさるとととははは人ひと人ひとひとにににはぢはぢはじたるたるたる氣色けしき氣色けしきけしきをををぞぞぞみるみるみる」」」ととと聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうにににたゞたゞただすゑすゑすえつかたつかたつかたをををいさゝかいさゝかいささかひきひきひき給たま給たまたまふふう。。。「「「ふかきふかきふかき夜よ夜よよののの哀あはれ哀あはれあわればかりばかりばかりはははきゝきゝききわけわけわけどどどことことことよりよりよりほかほかほかにににえええやややはははいひいひいいけるけるける」」」。。。
  2. 2飽あ飽ああかかかずずずをかしきをかしきおかしきほどほどほどににに、、、さるさるさるおほどかおほどかおおどかなるなるなる物もの物ものもののののねねねがらがらがらににに深ふか深ふかふかききき人ひと人ひとひとののの心こころ心こころこころしめしめしめてててひきひきひき傳つた傳つたつたへへえたるたるたる、、、おなじおなじおなじしらべしらべしらべののの物もの物ものものととといへいへいえどどど哀あはれ哀あはれあわれににに心こころ心こころこころすごきすごきすごきものものものゝゝのかたかたかたはしはしはしをををかきかきかきならしならしならしててて止や止ややみみみ給たま給たまたまひひいぬれぬれぬればばばうらめしきうらめしきうらめしきまでまでまでおぼゆれおぼゆれおぼゆれどどど「「「すきずきしさすきずきしさすきずきしさをををさまざまさまざまさまざまにににひきひきひき出い出いいでででゝゝてももも御覽ごらん御覽ごらんごらんぜぜぜられられられぬるぬるぬるかなかなかな。。。秋あき秋あきあきののの夜よ夜よよふかしふかしふかし侍はべ侍はべはべらららむむんももも昔むかし昔むかしむかしのののとがめとがめとがめやややとととはゞかりはゞかりはばかりてててなむなむなん罷まか罷まかまかででで侍はべ侍はべはべりりりぬぬぬべかべかべかめるめるめる。。。又また又またまた殊こと殊ことこと更さら更さらさらににに心こころ心こころこころしししてててなむなむなんさぶらふさぶらふさぶらうべきべきべきをををこのこのこの御おん御おんおん琴こと琴ことことどもどもどものののしらべしらべしらべかへかへかへずずずまたまたまたせせせ給たま給たまたまははわむむんややや、、、引ひ引ひひききき違たが違たがたがふるふるうることことことももも侍はべ侍はべはべりりりぬぬぬべきべきべき世よ世よよなれなれなればばば後うしろ後うしろうしろめたくめたくめたくこそこそこそ」」」などなどなどまほまほまほにににはははあらあらあらねねねどどど打う打ううちちちにほはしにほはしにおわしおきおきおきててて出い出いいででで給たま給たまたまふふう。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

月が昇って曇りのない空に、羽を交わして飛ぶ雁も列を離れずに鳴いて渡るのを、宮はうらやましくお聞きになっていることだろう。風が肌寒く物哀れなのに誘われて、宮が箏の琴をたいそうほのかにかき鳴らしなさったのも、奥深い音色なので、夕霧はいっそうすっかり心が引かれて、かえって物足りなく思われるので、琵琶を取り寄せて、たいそう懐かしい音色で想夫恋をお弾きになる。「お心を推し量ったような顔をするのはきまりが悪いけれど、この曲にはお答えくださるでしょうか」と言って、しきりに御簾の内をお促し申し上げなさるが、まして気がひけるお返事なので、宮はただ物哀れにばかり思い続けていらっしゃると、夕霧が「言葉に出して言わないのは、言うよりもまさると、人に恥じらっていらっしゃるご様子を拝見します」と申し上げなさると、宮はただ想夫恋の終わりの方を少しだけお弾きになる。「深い夜の哀れだけは聞き分けますけれど、琴の音よりほかに、何を申し上げられましょうか」。

もっと聞いていたいほど趣のあるところで、そのようなおっとりとした和琴の音色に、深い人(柏木)が心を込めて弾き伝えた、同じ調べの曲といっても、哀れで、ぞっとするほど心にしみる曲の一端をかき鳴らしておやめになったので、夕霧は恨めしいほどに思われるけれど、「好き心をさまざまに弾き出して、ご覧に入れてしまいましたね。秋の夜を更かしてしまいますのも、亡き人の咎めがあろうかとはばかって、退出いたしましょう。また改めて心して参上いたしますので、この御琴の調子を変えずにお待ちくださるでしょうか。弾き違えることもございそうな世の中ですので、気がかりで」などと、あからさまではないけれど、ほのめかし置いてお帰りになる。

意訳

夕霧は琵琶で想夫恋を弾いて宮の応答を促し、宮は終わりの方を少しだけ弾いて、琴の音のほかに言葉はないと返す。

夕霧は名残惜しく思いながら、琴の調子を変えずに待っていてほしいと、意中をほのめかして帰る。

語釈・文法注

文法

「想夫戀」(いとなつかしきねに想夫戀をひき給ふ)
雅楽の曲名。もとは「相府蓮」で、後に夫を想う恋の曲と解された。夫を亡くした宮の前で弾くことで、夕霧の思いを暗示する。
「ことに出でゝいはぬをいふにまさる」(ことに出でゝいはぬをいふにまさるとは)
「心には下行く水のわきかへり言はで思ふぞ言ふにまされる」(古今六帖)による。「こと」に「言」と「琴」をかける。
「しらべかへずまたせ給はむや」(この御琴どものしらべかへずまたせ給はむや)
琴の調子を変えずに待っていてくれるか。宮の心を変えずに待っていてほしいという意をほのめかす。

解説

想夫恋の場面は、横笛の巻の中心となる場面である。夕霧は、夫を想う曲を弾くことで、宮の心を探る。宮は終わりの方を少しだけ弾いて応える。言葉ではなく琴の音でのやりとりが、二人の間に微妙な心の通い合いを生んでいる。

夕霧の「しらべかへずまたせ給はむや」という言葉は、宮への思いのほのめかしである。柏木の遺言を果たすための見舞いが、明らかに恋へと変わりつつある。生真面目な夕霧の恋が、静かに始まっている。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、748–749頁(コマ85)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日