源氏物語 第37帖 横笛(7)
夕霧の一条宮訪問
夕霧は、柏木が臨終に言い残した一言を一人胸に思い出しては、どういうことだったのかと源氏に尋ねたく、様子も知りたいが、うすうす察して思い当たることもあるので、かえって口に出すのもきまりが悪く、どんな機会にこの事の詳しい事情を明らかにし、柏木の思い詰めていた様子を源氏に聞かせようかと思い続けている。物哀れな秋の夕べに、夕霧は一条宮を思いやって訪れる。宮はくつろいでしみじみと琴などを弾いていたところらしい。片づけきれずに、そのまま南の廂に夕霧を通す。端近くにいた女房たちが奥にいざり入る気配がはっきりして、衣ずれの音や香りもかぐわしく奥ゆかしい。いつものように御息所が対面して、昔話を交わす。夕霧の自邸は朝夕人が多く騒がしく、幼い子どもたちが大勢わいわい騒いでいるのに慣れているので、ここはたいそう静かで物哀れである。荒れた感じはするが、上品で気高く住みなして、前栽の花々や虫の音の多い野辺のように咲き乱れた夕映えを見渡す。和琴を引き寄せると、律の調べに調えられていて、よく弾き慣らしてあり、人の移り香がしみて懐かしく感じられる。このような所で、思うままに振る舞う好色な人は心を抑えられず、見苦しい様子も見せ、あってはならない浮名も立てるのだなどと思い続けながら、夕霧は和琴をかき鳴らす。

- 1大大だい將將しょうののの君君きみはははかのかのかの今今いまはははのののとぢめとぢめとじめにににとゞめとゞめとどめしししひとひとひとことことことををを心心こころひとつひとつひとつににに思思おもひひい出出いでででつゝつゝつつ、、、いかなりいかなりいかなりしししとととぞぞぞとととはははいといといときこえきこえきこえまほしうまほしうまほしゅう、、、御御おん氣色氣色けしきもももゆかしきゆかしきゆかしきををを、、、ほのほのほの心心こころえええててて思思おもひひいよらよらよらるゝるゝるることことこともももあれあれあればばば、、、なかなかなかなかなかなかうちうちうち出出いででで聞聞きこえええむむんもももかたはらかたはらかたわらいたくいたくいたくててて、、、いかならいかならいかならむむんついでついでついでにににこのこのこの事事ことののの委委くわしきしきしき有有あり樣樣さまもももあきらめあきらめあきらめ又又またかのかのかの人人ひとののの思思おもひひい入入いりりりたりたりたりしししさまさまさまをををももも聞聞きこしめさしめさしめさせせせむむんととと思思おもひひいわたりわたりわたり給給たまふふう。。。秋秋あきののの夕夕ゆうべののの物物もの哀哀あわれなるなるなるににに一一いち條條じょうののの宮宮みやををを思思おもひひいやりやりやり聞聞きこえええ給給たまひひいてててわたりわたりわたり給給たまへへえりりり。。。うちうちうちとけとけとけまめやかまめやかまめやかににに御御おん琴琴ことどもどもどもなどなどなどひきひきひき給給たまふふう程程ほどなるなるなるべしべしべし。。。深深ふかくくくもももえええとりとりとりやらやらやらででで、、、やがてやがてやがてそのそのそのみなみみなみみなみののの廂廂ひさしにににいれいれいれ奉奉たてまつりりりたまへたまへたまえりりり。。。端端はしつかたつかたつかたなりなりなりつるつるつる人人ひとのののゐざりゐざりいざり入入いりりりつるつるつるけはひけはひけわいどもどもどもしるくしるくしるく、、、きぬきぬきぬのののおとなひおとなひおとないももも大大おお方方かたのののにほひにほひにおいかうばしくかうばしくこうばしく心心こころにくきにくきにくきほどほどほどなりなりなり。。。
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現代語訳
大将の君(夕霧)は、あの柏木が今はの際に言い残した一言を、自分の心ひとつに思い出しては、どういうことだったのかと、たいそう源氏に申し上げたく、ご様子も知りたいけれど、うすうす察して思い当たることもあるので、かえって口に出して申し上げるのもきまりが悪くて、どのような機会に、この事の詳しい事情も明らかにし、また、あの人の思い詰めていた様子も源氏のお耳に入れようかと、思い続けていらっしゃる。秋の夕べが物哀れな頃に、一条の宮を思いやり申し上げなさって、お訪ねになった。宮はくつろいで、しみじみと御琴などをお弾きになっていたところなのだろう。奥深くまで片づけることもできずに、そのままその南の廂に夕霧をお入れ申し上げなさった。端の方にいた女房たちが、奥へいざり入った気配がはっきりして、衣ずれの音も、あたりの香りもかぐわしく、奥ゆかしい様子である。
いつものように御息所が対面なさって、昔のお話などを交わしなさる。夕霧のご自邸では、朝夕人が多く何となく騒がしく、幼い子どもたちなどが大勢集まってわいわい騒いでいらっしゃるのに慣れていらっしゃるので、ここはたいそう静かで物哀れである。少し荒れた感じはするけれど、上品で気高く住みなしていらっしゃって、前栽の花々が、虫の音の多い野辺のように咲き乱れている夕映えを見渡しなさる。和琴を引き寄せなさると、律の調子に調えられていて、たいそうよく弾き慣らしてあり、人の移り香がしみていて、懐かしく思われる。このような所で、思うままに振る舞う好色な心のある人は、心を静めることもできずに、見苦しい様子をも表し、あってはならない浮名をも立てるのだよ、などと思い続けながら、かき鳴らしなさる。
意訳
夕霧は柏木の遺言のことを源氏に尋ねたいと思い続けながら、秋の夕べに一条宮を訪れる。
静かな一条宮で、夕霧は宮の移り香のしみた和琴を手に取り、好色な人なら心を乱すだろうと思いながらかき鳴らす。
語釈・文法注
文法
- 「すだく」(幼き君達などすだきあわて給ふに)
- 大勢集まる。群がる。
- 「りち」(りちにしらべられて)
- 律。雅楽の調子の一つ。秋にふさわしいとされた。
- 「ひとが」(ひとがにしみてなつかしうおぼゆ)
- 人香。人の移り香。
解説
夕霧の自邸の騒がしさと、一条宮の静けさとが対比される。雲居の雁との間に多くの子をもうけた夕霧の家庭は賑やかだが、物哀れな一条宮の静けさは、夕霧の心を引きつける。
宮の移り香のしみた和琴を手に取った夕霧は、好色な人なら心を乱すだろうと思う。夕霧は自分を好色な人とは違うと思っているが、その思い自体が、宮への関心の高まりを示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、746–749頁(コマ84–85)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日