源氏物語 第37帖 横笛(4)
筍をかじる若君
若君は乳母のもとで寝ていたが、起きて這い出してきて、源氏の袖にまつわりつく様子がたいそうかわいらしい。白い薄物に唐の小紋の紅梅色の衣の裾をたいそう長くだらしなく引きずり、体はたいそうあらわで、後ろだけに着ている様子は、幼子にはよくあることだが、たいそうかわいらしく、色白でふっくらとすらりとして、柳を削って作ったようである。頭は露草で特に色づけたような心地がして、口もとはかわいらしく艶やかで、目もとはのびやかで、こちらが気恥ずかしくなるほど匂やかなのは、やはりたいそうよく柏木を思い出させるが、柏木はこれほど際立った美しさはなかったのに、どうしてこうなのだろう。母宮にも似ず、今から気高く堂々として格別に見える様子などは、源氏自身の鏡に映る姿にも似ていなくはないと見られる。ようやく歩き出す頃で、この筍の籠に、何とも分からず寄っていって、たいそう慌ただしく取り散らかして、かじり散らしたりするので、源氏は、ああ行儀の悪いこと、困ったことだ、あれを片づけよ、食べ物に目をつけたと口の悪い女房が言いふらすかもしれないと言って笑う。

- 1若若わか君君ぎみははは乳乳め母母のとののの許許もとにににねねねたまへたまへたまえりりりけるけるける、、、起起おきききてててはひはひはい出出いででで給給たまひひいててて御御おん袖袖そでをををひきひきひきまつはれまつはれまつわれ奉奉たてまつりりり給給たまふふうさまさまさまいといといとうつくしうつくしうつくし。。。白白しろきききうすものうすものうすものにににからからからののの小小こ紋紋もんののの紅紅こう梅梅ばいののの御御おんぞぞぞののの裾裾すそ、、、いといといと長長ながくくくしどけなげしどけなげしどけなげにににひきひきひきやらやらやられれれててて御御おん身身みはははいといといとあらはあらはあらわにてにてにてうしろうしろうしろのののかぎりかぎりかぎりににに着着きなしなしなし給給たまへへえるるるさまさまさまははは、、、例例れいのののことことことなれなれなれどどどいといといとらうたげらうたげろうたげにににまろくまろくまろくそびやかそびやかそびやかににに柳柳やなぎをををけづりけづりけずりてててつくりつくりつくりたらたらたらむむんやうやうようなりなりなり。。。かしらかしらかしらははは露露つゆ草草くさしししててて殊殊こと更更さらににに色色いろどりどりどりたらたらたらむむん心心こころちちちしししててて口口くちつきつきつきうつくしううつくしううつくしゅうにほひにほひにおいまみまみまみのびらかのびらかのびらかににに耻耻はずかしうしうしゅうかをりかをりかおりたるたるたるなどなどなどははは猶猶なおいといといとよくよくよく思思おもひひい出出いでででらるれらるれらるれどどど、、、かれかれかれはははいといといとかやうかやうかようにににきはきはきわはなれはなれはなれたるたるたる淸淸きよらららはははなかりなかりなかりしししものものものをををいかでいかでいかでかゝかゝかからむらむらん。。。宮宮みやにににももも似似に奉奉たてまつらららずずず今今いまよりよりより氣氣け高高だかくくくものものしうものものしうものものしゅうさまさまさまことことことににに見見みえええ給給たまへへえるるる氣色氣色けしきなどなどなどははは、、、我我わががが御御おんかゞみかゞみかがみのののかげかげかげにににももも似似にげなからげなからげなからずずず見見みなさなさなされれれ給給たまふふう。。。僅僅わずかににに步步あゆみみみなどなどなどししし給給たまふふう程程ほどなりなりなり、、、このこのこのたかうなたかうなたこうなのののらいしらいしらいしににになになになにととともももしらしらしらずずず立立たちちちよりよりよりててていといといとあわたゞしうあわたゞしうあわただしゅうとりとりとりちらしちらしちらしてててくひくひくいかなぐりかなぐりかなぐりなどなどなどしししたまへたまへたまえばばば「「「あなあなあならうがはしらうがはしろうがわしややや。。。いといといとふびんふびんふびんなりなりなり。。。かれかれかれとりとりとりかくせかくせかくせ。。。くひくひくいものものものににに目目めとゞめとゞめとどめ給給たまふふうととと物物ものいひいひいいさがなきさがなきさがなき女房女房にょうぼうもももこそこそこそいひいひいいなせなせなせ」」」とてとてとて笑笑わらひひい給給たまふふう。。。
現代語訳
若君は乳母のもとで寝ていらっしゃったが、起きて這い出しなさって、源氏の御袖を引っ張ってまつわりつき申し上げなさる様子が、たいそうかわいらしい。白い薄物に、唐の小紋の紅梅色のお召し物の裾を、たいそう長くだらしなく引きずって、お体はたいそうあらわで、後ろの方にだけ着ていらっしゃる様子は、幼子にはいつものことだけれど、たいそうかわいらしく、色白でふっくらとして、すらりとしていて、柳を削って作ったような姿である。頭は露草で特に色づけたような感じがして、口もとはかわいらしく艶やかで、目もとはのびやかで、こちらが気恥ずかしくなるほど匂やかなところなどは、やはりたいそうよく柏木を思い出させるけれど、あの人は、これほど格別に際立った美しさはなかったのに、どうしてこうなのだろう。母宮にも似申し上げず、今から気高く堂々として、様子が格別にお見えになる気配などは、源氏ご自身の鏡に映る姿にも似ていなくはないと、つい見なされなさる。ようやく歩きなどなさる頃で、この筍の籠に、何とも分からずに寄っていって、たいそう慌ただしく取り散らかして、かじっては放り出したりなどなさるので、源氏は「ああ、行儀の悪いことよ。たいそう困ったことだ。あれを片づけよ。食べ物に目をおつけになると、口の悪い女房が言いふらすかもしれない」と言ってお笑いになる。
意訳
若君は柏木を思わせる美しさで、源氏自身にも似て見える。若君は朱雀院から贈られた筍をかじり散らし、源氏は笑う。
語釈・文法注
文法
- 「くひかなぐる」(くひかなぐりなどしたまへば)
- かじっては放り出す。
- 「らうがはし」(あならうがはしや)
- 乱雑だ、行儀が悪い。
- 「我が御かゞみのかげにも似げなからず」(我が御かゞみのかげにも似げなからず見なされ給ふ)
- 源氏自身の鏡に映る姿にも似ていなくはない。実の子ではない若君に、源氏が自分の面影を見ようとしている。
解説
這い這いを始めた若君が筍をかじる場面は、横笛の巻の中でも最も生き生きとした場面である。若君は柏木に似ているが、柏木よりもさらに美しく、源氏自身にも似ていると描かれる。源氏は、実の子ではない若君に自分の面影を見出そうとしている。
若君の無邪気な姿に、源氏は思わず笑う。罪の子として生まれた若君は、何も知らずに源氏にまつわりつく。この無邪気さが、源氏の心を少しずつ和らげていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、746–747頁(コマ84)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日