源氏物語 第36帖 柏木(15)
夕霧の見舞い
柏木のいる対の辺りや門前は、祝いの馬や車が立ち込めて騒がしい。柏木は今年になってからほとんど起き上がれず、身分の重い夕霧に、乱れた姿のままでは対面できないと思うが、会えずに弱っていくのは残念なので、どうぞこちらへ、見苦しい様子の罪はお許しくださいと言って、枕元の僧たちをしばらく退かせて夕霧を入れる。二人は幼い頃から少しの隔てもなく親しくしてきた仲なので、別れの悲しみは親兄弟にも劣らない。今日は昇進の祝いで晴れやかであるはずなのにと思うと、夕霧はたいそう残念でかいがない。夕霧が、どうしてこんなに頼りなくなったのか、今日の祝いに少しはしっかりなさったかと思っていたと言って几帳の端を引き開けると、柏木は、残念ながらすっかり別人のようになってしまったと言って、烏帽子だけを押し入れて少し起き上がろうとするが、ひどく苦しそうである。白い柔らかな衣を何枚も重ねて衾を掛けて臥している。御座の辺りは清らかで、香りも奥ゆかしく、くつろいでいながらたしなみがある。重病人は髪や髭も乱れてむさくるしくなるものだが、やせ衰えた姿がかえって白く上品で、枕を立てて話す様子は弱々しく、息も絶え絶えで哀れである。夕霧は、長患いのわりには面やつれもせず、かえって美しく見えると言いながら涙をぬぐい、後れ先立つ隔てはないと約束したのにひどいことだ、何の病気で重くなったのかさえ分からず、親しい仲なのに気がかりなばかりだったと言う。

- 1このこのこのおはするおはするおわする對對たいのののほとりほとりほとりこなたこなたこなたのののみかどみかどみかどははは馬馬うま車車ぐるまたちたちたちこみこみこみ人人ひとさわがしうさわがしうさわがしゅうさわぎさわぎさわぎみちみちみちたりたりたり。。。ことしことしことしとととなりなりなりてててははは起起おきききあがるあがるあがる事事こともももをさをさをさをさおさおさししし給給たまははわねねねばばば重重おも々々おもしきしきしき御御おんさまさまさまににに亂亂みだれれれながらながらながらはははえええ對對たい面面めんししし給給たまははわででで思思おもひひいつゝつゝつつ弱弱よわりりりぬるぬるぬる事事ことととと思思おもふふうににに口口くちをしけれをしけれおしければばば「「「猶猶なおこなたこなたこなたににに入入いらららせせせ給給たまへへえ。。。いといといとらうがはしきらうがはしきろうがわしきさまさまさまににに侍侍はべるるる罪罪つみはははおのづからおのづからおのずからおぼしおぼしおぼし許許ゆるささされれれなななむむん」」」とてとてとて臥臥ふししし給給たまへへえるるる枕枕まくらがみがみがみのののかたかたかたににに僧僧そうなどなどなどしばししばししばし出出いだししし給給たまひひいててて入入いれれれ奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。早早はようううよりよりよりいさゝかいさゝかいささか隔隔へだててて給給たまふふうことことことなくなくなくむつびむつびむつびかはしかはしかわし給給たまふふう御御おん中中なかなれなれなればばば別別わかれれれむむんことことことののの悲悲かなしくしくしく戀戀こいしかるしかるしかるべきべきべきなげきなげきなげき、、、おやおやおやはらからはらからはらからののの御御おん思思おもひひいにににももも劣劣おとらららずずず今今け日日きょうはははよろこびよろこびよろこびとてとてとて心心こころちちちよげよげよげならならならましましましをををととと思思おもふふうにににいといといと口惜口惜くちおしうしうしゅうかひかひかいなしなしなし。。。「「「などなどなどかかかくくくたのもしげたのもしげたのもしげなくなくなくはははなりなりなり給給たまひひいにににけるけるける。。。今今け日日きょうはははかゝるかゝるかかる御御おんよろこびよろこびよろこびににに聊聊いささかすくよかすくよかすくよかにににもももやややとととこそこそこそ思思おもひひい侍侍はべりりりつれつれつれ」」」とてとてとて、、、几几き帳帳ちょうのののつまつまつまをををひきひきひきあけあけあけ給給たまへへえれれればばば「「「いといといと口惜口惜くちおしうしうしゅうそのそのその人人ひとにににもももあらあらあらずずずなりなりなりにににててて侍侍はべりりりややや」」」とてとてとて、、、えばうしえばうしえぼうしばかりばかりばかりおしおしおし入入いれれれててて、、、少少すこししし起起おきききあがらあがらあがらむむんとととししし給給たまへへえどどどいといといと苦苦くるしげしげしげなりなりなり。。。
- 2白白しろききききぬきぬきぬどもどもどもののの、、、懷懷なつかしうしうしゅうなよゝかなよゝかなよよかなるなるなるををを數數あま多多たかさねかさねかさねてててふすまふすまふすまひきひきひきかけかけかけててて臥臥ふししし給給たまへへえりりり。。。おましおましおましのののあたりあたりあたり物物もの淸淸きよげげげにににけはひけはひけわいかうばしうかうばしうこうばしゅう心心こころにくゝにくゝにくくぞぞぞすみすみすみなしなしなし給給たまへへえるるる。。。うちうちうちとけとけとけながらながらながら用用よう意意いありありありととと見見みゆゆゆ。。。重重おもくくく煩煩わずらひひいたるたるたる人人ひとはははおのづからおのづからおのずから髮髮かみひげひげひげももも亂亂みだれれれ物物ものむづがしきむづがしきむずがしきけはひけはひけわいもももそふそふそう業業わざなるなるなるををを瘠瘠やせせせさらぼひさらぼひさらぼいたるたるたるしもしもしもいよいよいよいよいよいよしろうしろうしろうあてあてあてはかはかはかなるなるなるけけけしししててて、、、枕枕まくらをををそばだてそばだてそばだてゝゝて物物ものなどなどなど聞聞きこえええ給給たまふふうけはひけはひけわいいといといとよわげよわげよわげににに息息いきももも絕絕たえええつゝつゝつつあはれげあはれげあわれげなりなりなり。。。「「「久久ひさしうしうしゅう煩煩わずらひひい給給たまふふう程程ほどよりよりよりははは殊殊ことにににいたういたういとうもももそこなはそこなはそこなわれれれ給給たまははわざりざりざりけりけりけり。。。常常つねののの御御おんかたちかたちかたちよりよりよりもももなかなかなかなかなかなかまさりまさりまさりてててなむなむなん見見みえええ給給たまふふう」」」とととのたまふのたまふのたまうものからものからものから淚淚なみだおしおしおしのこひのこひのこいててて「「「後後おくれれれ先先さきだつだつだつ隔隔へだてなくなくなくとととこそこそこそ契契ちぎりりり聞聞きこえええしししがががいみじういみじういみじゅうもももあるあるあるかなかなかな。。。このこのこの御御おん心心こころちちちのののさまさまさまををを何何なに事事ごとにてにてにておもりおもりおもり給給たまふふうとととだにだにだにえええ聞聞ききききわきわきわき侍侍はべらららずずず。。。かくかくかく親親したしきしきしきほどほどほどながらながらながら覺覺おぼ束束つかなくなくなくのみのみのみ」」」などなどなどのたまふのたまふのたまうににに
現代語訳
柏木のいらっしゃる対の屋の辺りや、こちらの御門は、馬や車が立て込んで、人々が騒がしく騒ぎ満ちていた。柏木は今年になってからは、起き上がることもほとんどなさらないので、重々しいご身分の夕霧に、取り乱した姿のままではお会いになれず、会いたいと思いながら弱っていってしまうことだと思うと残念なので、「やはりこちらにお入りください。たいそう見苦しい様子でおります罪は、自然とお許しくださるでしょう」と言って、臥していらっしゃる枕元の方に、僧などをしばらく退出させなさって、夕霧をお入れ申し上げなさる。幼い頃から、少しも隔てを置きなさることなく親しくし合っていらっしゃるお間柄なので、別れることの悲しく恋しいだろう嘆きは、親兄弟のお思いにも劣らない。今日は昇進の喜びということで、心地よさそうであるはずなのにと思うと、夕霧はたいそう残念で、かいがない。夕霧が「どうしてこのように頼りなくおなりになったのですか。今日はこのようなお喜びに、少しはしっかりなさったかと思っておりましたのに」と言って、几帳の端を引き開けなさると、柏木は「たいそう残念ながら、すっかり別人のようになってしまいましたよ」と言って、烏帽子だけを押し入れるようにかぶって、少し起き上がろうとなさるけれど、たいそう苦しそうである。
白い衣で、柔らかくしなやかなのを何枚も重ねて、衾を引き掛けて臥していらっしゃった。御座所の辺りは何となく清らかで、香りも芳しく、奥ゆかしく住みなしていらっしゃる。くつろいでいながらも、たしなみがあると見える。重く患っている人は、自然と髪や髭も乱れ、何となくむさくるしい様子も加わるものだが、やせ衰えているのが、かえっていよいよ白く上品な様子で、枕を立てて話などを申し上げなさる様子は、たいそう弱々しく、息も絶え絶えで哀れである。夕霧は「長く患っていらっしゃるわりには、格別ひどくも面やつれなさらなかったのですね。いつものお顔立ちよりも、かえってまさってお見えになります」とおっしゃりながらも、涙をぬぐって、「後れたり先立ったりする隔てはないようにと、お約束申し上げたのに、ひどいことですね。このご病気の様子を、何が原因で重くおなりになったのかとさえ、聞き分けることもできません。このように親しい間柄でありながら、気がかりなばかりで」などとおっしゃると、
意訳
夕霧が権大納言昇進の祝いに訪れ、柏木は烏帽子をかぶって起き上がろうとするが、ひどく苦しそうである。
やせ衰えてもかえって上品な柏木の姿に、夕霧は涙をぬぐい、病の原因さえ分からないことを嘆く。
語釈・文法注
文法
- 「その人にもあらず」(その人にもあらずなりにて侍りや)
- 以前の自分ではなくなってしまった、別人のようになってしまった。
- 「えばうし」(えばうしばかりおし入れて)
- 烏帽子。成人男子のかぶり物。人と会う時のたしなみとしてかぶる。
- 「さらぼふ」(瘠せさらぼひたるしも)
- やせ衰えて骨ばる。
解説
昇進の祝いの騒がしさの中で、柏木は病床に伏している。烏帽子だけでもかぶろうとする柏木の姿には、親友の前でもたしなみを失わない柏木の人柄が表れている。やせ衰えてもかえって白く上品に見えるという描写は、柏木の美しさと死の近さとを同時に伝えている。
夕霧は、後れ先立つ隔てはないと約束した親友の衰えを嘆く。何が原因で病が重くなったのかも分からないという夕霧の言葉が、次の柏木の告白を導き出す。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、729–731頁(コマ75–76)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日